プロローグ
初投稿です。よろしくお願いします。感想の返事はしないと思います。
「私たちを救ってください勇者様!」
少年の前で妙に貫禄のある老人が頭を垂れた。
「は?」
少年は狼狽えた。 なぜこんなことになってしまったのか。 ほんの少し前までは高校で退屈な国語の授業を受けていたはずだ。
授業中に居眠りしていて、起きたら謎の部屋。地面には幾何学的な紋様が描かれた、おぞましい雰囲気を感じる部屋だった。 今はその部屋にいるのではなく、部屋に入ってきた何人かの人たちによって別の場所に連れてこられた。 ドッキリにしてはタチが悪い。
ふと、周りを見渡してみる。
――赤を基調とした煌びやかな壁紙、細かい模様が編み込まれた赤い絨毯、精巧な造り……のように見えるシャンデリア、かしずく人々、頭を垂れる老人、その傍に佇みジッとこちらを見てくる不気味な男性、みんな時代錯誤な民族衣装のようなものを着ている。 なんなんだ一体……
頭を垂れる老人はそんな少年の混乱をよそに続ける。
「この国は、いえ……この、世界は今非常に深刻な問題に直面しております。それが……」
「あ、あの、すいません、ちょっと待ってください!」
少年が叫んだ。と同時に『あれ?おれってこんな叫ぶ性格だったっけ?』そんな疑問も浮かんでくる。
老人は少し顔を曇らせるとすぐに笑顔になり、
「申し訳ありません。自己紹介がまだでしたね。僭越ながら、私はグリガール国王、ゲルグ・グリガールでございます」
「国王!?」
少年はまたも叫んだ。 国王ってなんだよ!やっぱりここは日本じゃないのか! だとしたらなんでこの人は日本語で話しているんだよ!
少年は非常に困惑していた。 さらに老人――国王らしい、が言うには世界の危機がどうとかで少年に救ってほしいという。 勇者様と呼んできた。 意味がわからない。 この現実はゆめかまぼろしか。 だがこんなに臨場感の伴う夢なんてありえるのだろうか。 ほっぺたの内側を気持ち強めに噛んでみるとしっかりと痛みのシグナルが帰ってくる。 ……。
「国王に名乗らせておいて自分は名乗らないとはいい度胸だな小僧……」
少年が現実逃避をしていると国王の傍に佇む男性が睨んできた。
前髪に隠れて殆ど見えないが少年には一瞬だけ見えた。
「……っ」
怖い。 あんな目をした人をいままで見たことが無い。 人を殺せそうな眼、なんて表現はよくあるがアレはそんなんじゃない。 人を、殺している眼だ。 直感だが、少年はそう思った。
「勇者様に無礼だ。やめろ、カーム中将」
「……失礼」
国王が止めるもあまり意に介していないように見える。なにせまだ、見ている。
「あ、お、僕の名前は……ショウです、たぶん」
少年は視線にせかされるまま名乗った。 本当に鋭い目つきだ、見られるほどに寿命が縮まると言われても少年は信じてしまいそうだった。
「ショウさま、良い名前でございますな」
「たぶん、とは?」
それをすかさず王が持ち上げ、殺人眼が訊く。
聞かれるならおれはこう答えるほかない。
「僕は名前以外覚えていないんです。住んでいた場所も、家族も、自分のことも、何一つ」