ギルドの職員さんと異世界テンプレを踏み抜いて行く幼女
「う、うぅ……えぐっ……。そ、それでぇ……冒険者っ、登録の……て、手続き……う、うぅ……。ず、ずみまぜんっ……。ひ、久しぶりの……対応何でぇ……嬉しくってぇー……」
僕はカウンターに突っ伏しながら溢れ出ている涙をグシグシとギルド職員の服の袖で拭うお姉さんを見ていた。
うん、なんか……うん……。何とも言えないよね。
「お、落ち着いてからでいいですから。ね?」
できるだけ朗らかな笑みを浮かべて告げると、それを見たお姉さんが……。
「――――ッ!! うわぁぁぁん! ありがどうございまずぅっ! 本当に、本当にぃ……」
一層涙の勢いを強めたお姉さんはなかなか泣き止まなかった。
+++
それから数分間僕たちはお姉さんが泣きやむのを待ち続けると、目を赤くはらしたお姉さんが鼻をすすりながら顔を上げて僕たちの姿を捉える。
「た、大変……すんっ、御見苦しいところを……。す、すみませんでした」
「い、いえいえ、気にしていませんから大丈夫ですよ」
「う、うぅ……。私、こんな小さな子供に気を遣われてる……。情けないなぁ」
苦笑を浮かべてそんなことを漏らしたお姉さん。
そうだった、僕はロリっ子の姿なんだった。
いけないいけない。もっと子供っぽいふりをしなくては……ん? って別に正体って隠す必要なくね? 「実は僕、見た目は幼女! 中身は大人の男!」って伝えてもいい気がするぞ?
アニメとかラノベではよく正体隠してるけど、僕は特に隠す理由は無い気がするなぁ。別に黒の組織から狙われてるわけでもないし……。
よし、言おう。
「僕これでも十八の男ですよ。訳あって体は幼い女の子ですが」
伝えるとお姉さんは一瞬驚いたように目を見開き僕の体を見てくる。
上から下へ、下から上へと視線を滑らせて行き……一つ大きく溜息をついた。
「キミは変わっているね。って、もしかして彼氏が人生で一度もできたことのない私を気遣ったのかな?ははっ。……ははは」
ふうむ、どうやら信じてもらえなかったみたいだ。確かにそうだ。いきなり幼女が「僕男なんだ!」って言ってきても僕ならば信じられない。
信じてもらえなかったのは少し残念だが、それは置いておくとしてお姉さん結構な美人さんだと言うのに彼氏が出来たことないらしい。世の中見る目のない男どもばっかりだなぁ。美人な人にこんな荒んだ笑みを浮かばせるなよ……。可哀想だろ……。
「お兄ちゃんを馬鹿にして……お兄ちゃんの言うことを信じないなんて、万死に値する……。殺すか?」
と、そんなことを考えていたら花音がいきなり不吉なことをぼそぼそと呟き始めた。
えー……。お兄ちゃんそろそろ妹のサイコパスっぷりに恐怖しか抱けなくなってきたんだけど……?
「殺さないでね。大人しくしててね?」
少しだけ振り向いて後ろに立っていた花音に忠告すると花音は唇を尖らせて不満をあらわにする。
嘘でしょ!? 僕の発言を信じなかっただけで殺したいとか、ほんとにホラーだよ!!
「リーフさん。花音が暴れないように見ててもらえますか?」
反対に立つリーフさんに言うと、彼女は僕の耳元に口を近づけ……。
「貸し一つです。あとでキスしてくださいね?」
甘い女神のささやきに心臓が跳ね上がり血の流れが加速する。脳が沸騰しそうなくらい熱くなって嬉しさと緊張で体が強張った。
好きな人から求められることに心が躍る。
だが、それを咎めるように花音をだましていると言う罪悪感が心を締め付ける。
僕の心情はそうして平穏を保っていた。正直超疲れる。
リーフさんがいつでも花音を確保できる位置に移動したのを横目に、僕はきょとんとした表情を浮かべているお姉さんに話しかけた。
「すみません。それで、冒険者登録をしたいのですが……」
「は、はい! って、キミがするの?」
「ええ、あ、もしかして年齢とか関係ありました?」
僕をロリっ子だと思っているお姉さんならそう思うだろう。
聞く限り冒険者はゲームとかと同じであのモンスターと戦うことを生業とする職業のようだし……。うん、年齢制限があってもおかしくないな。というか、ないとおかしいくらいだ。
「い、いえ。身分証にお持ちいただく方も多いので本当に生後一か月の赤ちゃんでも冒険者のことは多いんのですが……」
ちょっと待てい! 生後一か月!? 生後一か月の赤ん坊が冒険者!?
――――シュールだ。
「多いのですが?」
「大人の方がいるなら、その、そちらの方の方が……」
お姉さんは僕の後ろでいつでも花音を捕まえれるようにスタンバイしているリーフさんへと視線を向けて言いずらそうに呟く。
まあ、確かにそれもそうだ。見た目子供の僕が登録の手続きがなんたらかんたら~なんて理解できるとは思わないだろう。
「リーフさん。お願いできる?」
「あー、別に変わることは良いんですけど……。正直あまり下界に興味が無くって……というか咲夜君しか目に入っていなくって……一応の知識はあるんですが、常識が、ね?」
ね? じゃないっすよリーフさん。
まあ確かに女神だもんな。知識があってもわからないことの方が多いのだろう。
僕だってあんまり人と話すのは得意じゃないんだけどなぁ。
すると、必然的に残りの一人――――花音へと視線が向いた。
「え? なに? 殺って言いの?」
「お姉さんやっぱり僕がやっちゃダメかな?」
僕は花音の声を無視すると踵を返しお姉さんに向き直る。
あれは駄目なんですわぁ……。花音さんマジぱねえっすよ……。だって、花のような笑顔を浮かべてたよ? 怖いよ! いったいどこでそんなに狂ったの!?
「わ、わかりました。じゃあ手順をお話ししていきますね?」
お姉さんは苦笑を浮かべてそう言った。
+++
冒険者登録は滞りなく終わった。
そう、まったくもって苦戦しなかった。特に話すこともないくらいに何もなかった。
僕は名前を言って、リーフさんに字を教えてもらいながら己の名前を書類に書いただけだ。
冒険者カードなる物ももらったけど保険証とほとんど変わらない。
ただの板に僕の名前が彫られているだけだ。
ステータスで見ると文字は日本語になっているがこの冒険者カードにはこの異世界の文字が刻まれている。これからは文字も勉強して行かないといけないなぁ……なんて思いながら一番早く登録の終わった僕はギルド内に目を向けてその装飾品を眺めながら二人を待った。
そうして呆けて待っていると……。
「おっと、あんたこんな時間に何してんだ? ガキはかえってママのおっぱいでも吸ってな」
低い声と共に僕の頭に誰かが手を乗せる。
振り返ってみるとそこには使い込まれたように見える鎧を身に付け、腰には泥だらけの鞘に剣を収めた金髪のおっさんが立っていた。
なんだ? こいつ。
いきなり僕の頭に手を乗せてきやがって……って、僕は今幼女なんだった。顔の造形はまったくもってわからないがそれでも小さな女の子って言うのはどの子も可愛く見えるだろう。
ふむ、大方この男は僕の美しさに目を奪われた人ってところか。
まったく僕は罪な幼女だ……。
「と、まぁ、そんな妄言は置いといて……。すみません、あそこに連れが居るので大丈夫ですよ」
出来うる限りの笑顔を浮かべて僕はおっさんに花音とリーフさんの存在を伝えてやった。
「――――」
しかし、その瞬間におっさんは電源が落ちたかのように動かなくなる。
え? なに? どうしたの? だ、大丈夫かな?
「どうしたんですか? 大丈夫ですか?」
僕はおっさんの手を頭から退けようと、その手を握り――――次の瞬間。
「て、天使が舞い降りた……」
おっさんのそんな突拍子もない言葉に今度は僕が硬直する。
て、天使……? そ、それは言わずもがなリーフさんの事だよね? リーフさんは女神だけど天使って言われても認めるくらい綺麗だもんね? あ、それとも花音の事かな? 花音はどちらかと言うと可愛い系だけど活発な天使と言う風にも見れるもんね?
――――僕に視線が向いてるけどきっと気のせいだよね? 気のせいだって言ってくれよ!?
「おーい! お前らぁ! 天使がここに居るぞぉ!!」
酒場の方へ向かっておっさんが叫ぶとそこで飲んだくれていた他の冒険者たちが一斉にこちらへ視線を向ける。
それに合わせておっさんが僕のわき下に手を滑り込ませると一気に持ち上げて僕の存在を主張した。
「……ぉおおお!!」
それは誰の声だったのだろうか。
酒場の方から一人が感嘆の息を漏らすと、一斉に数十人の冒険者が僕の方へ向かってどっと押し寄せてくる。
するとおっさんが僕のことを床に下ろす。と同時に僕の頭を撫でまわすように冒険者たちが腕を伸ばしてきた。
僕は状況に着いて行けずされるがまま頭を撫でられた。
「なんだこの子! めっちゃかわええ!!」「ちょ、早くどけよ!」「見ろよ、この歳でなんかすっげえエロい鎧着てるぞ! もしかしてそう言う……」「おい馬鹿! 女冒険者の真似でもしてるだけだろ! 俺の天使になんてこと言うんだ」「お前のじゃねえ! 俺のだ!」「違う俺の!」「俺の」「俺……」
――――――。
さて、どうしようか。
うん、まずは落ち着いてから考えるべきだな。
よし、今すっごく冷静。すごいぞ僕。
まずこの人たちをどうするか。
実力行使に移ればそりゃぁ難なく追っ払えるだろうけど、この人たちは別に悪意があって僕に不快な思いを与えているわけじゃない。つまりそんな真似は出来ない。と言うか、すれば透明なやつのときのように少なからず死人が出てしまうかもしれない。
ならば実力行使はダメだな。それなら声を上げて正直に言ってみるとしよう。
「あ、あのぅ……連れが居るので、道を開けてもらえますか?」
舌ったらずな声が僕の口から発せられる。
しかし、それにしても慣れないものだ。自分の口からこんなロリボイスが出ると言うのは……。
ん? ロリボイス? って、ヤバいんじゃね?
「…………」
僕の声の後、一瞬の静寂がきゃっきゃと騒いでいた男たちを襲った。
そして……。
「天使の一声……」
僕の目の前にいた男が両の目から涙を流し、膝から崩れ落ちた。
――――さすがに引くなぁ……。
辛辣な感想を抱いたのもつかの間、あたりから先ほどとは比べ物にならない歓声が飛び交う。
ヤバいっすねぇ、僕ギルドでヤバい奴らに絡まれちゃったよぉ……。
ん? ヤバい奴に絡まれるって異世界のテンプレじゃね?
でもなぁ……なんか違う気がするんだよなぁ……。
こう、普通は荒くれ者に難癖付けられて「舐めてんじゃねぇ!!」みたいな感じで戦いを挑まれて、それで「はぁ、面倒だ」的な事を言いながら返り討ちにして、ギルドやそこの冒険者に認められるって、そんな感じじゃなかったっけ?
こんなアイドルみたいなことになってたっけ?
どこかがおかしい……。と言うか目の前の冒険者たちがおかしい。特に頭が……。
「おいおい、テメエらさっきから見てればガキ一人をもてはやしすぎなんだよ」
と、歓声を割って一人の男の声がギルドの中に響く。
その声は酒場の方から聞こえ、みんながそちらへと視線を投げた。
「んだよガイル! お前この中で一番強いからって調子に乗ってんじゃねえぞ!?」「そうだそうだ! この子はもう僕のお嫁さんにするって決めてるんだお」「文句があるならこっち来て言えよ! ――――ん? なんか俺の前の奴ヤバくなかったか?」「気のせいだお」
――――気のせいじゃねぇ!!
ヤバい! ヤバいよ! 何このギルド!? 怖いよ! キモいよ!!
よく耳を澄ませれば今もどこかでハァハァ聞こえてくるし……こわっ! 怖いよ!
皆がガイルと言う男に向かって何か愚痴を溢しているが、僕からすればむしろガイルさん側に着きたいのでくらいだ。助けてガイルさん!
ガイルさんが近づいてきたのだろう。僕は身長が足りていなくて見えないが、冒険者が酒場の方角だけ開き道を作っていく。
そしてそこには赤い髪の青年が立っていた。
凛々しい顔つきに、しかし刻まれた傷が痛々しい。
そんな彼が僕を見て一言。
「ったくよぉ。何ガキ一人相手に……って、こりゃあ偉く別嬪さんだなぁ」
そんな感想を漏らした。
ふむ、うすうす気が付いてはいたがどうやら僕の顔はかなりの別嬪さんなようだ。不細工よりはましだけど天使と言われるまでとなるとさすがに……。
ガイルさんの反応に他の冒険者との既視感を覚えてしまうが、しかし彼の瞳は他の冒険者とは違い、力強さが残っている。つまりはただ単に僕の容姿を褒めてくれただけのようだ。
褒められ、正直微妙な感じだが、一応例は言っておこう。
「あ、ありがとうございます」
すると他の冒険者がガイルさんに嫉妬の視線を送った。
そ、そんなぁ……止めた下てよぉ……。
「いや、俺は嘘をつきたくないだけだ。まあ、お前もあまり調子に乗っていると飽きられたときに傷を負うからあまり調子に乗るなよ」
それだけ言うとガイルさんは踵を返し酒場の席へ戻ろうと僕に背を向けた。
すると興味を無くしたかのように周りの冒険者の視線が再度僕へと注がれる。
――――まずい、ここで彼に助けを求めなければ……ッ!
「ま、待ってください!」
僕の声に動き出そうとしていたガイルさんがその動きを制止させる。
彼の服の裾を大慌てでつかみ、引っ張るとゆっくりとガイルさんが僕の方へ顔を向けて……。
「あの、助けてください……」
顔を向けたガイルさんに僕は必死に助けを求めた。
周りの冒険者がさすがに気持ち悪すぎて思わず涙目になりながら、誠心誠意、思いを込めて僕はガイルさんに縋り付く。
途端、ガイルさんの凛々しい相好が崩れ去った。
「お兄さんが、いつでも助けてあげるからねぇ~!!」
ガイルさん――――いや、もう敬称もいいや。ガイルは先ほどとはまるで別人かと思うくらいに良い笑顔を浮かべてそのまま僕を抱きしめた。
うわぁ……男に抱きしめられるとか最悪だなぁ……。
でも拒否すればそれだけでガイルさんは即死することだろう。
諦め半分で僕が思考を停止させ現実逃避をしながら最後に思ったのはこうだ。
――――ギルドテンプレなんておとぎ話だったんだね。
+++
「お兄ちゃーん! お兄ちゃんどこ!? どこ!? ねえ、どこにいるの!? お兄ちゃーん!」
冒険者の壁の向こうから癒しの声が僕を呼ぶ。
いつもはヤンデレ怖いとか言ってごめんな? もうお前は僕の天使だよ。 早くこの地獄みたいな冒険者の輪の中から引きずり出してくれぇ……。
「ダメです花音ちゃん。こっちにも居ません。ごめんなさい、私が目を離した隙に……」
「ほんとだよ! お兄ちゃんが居なくなったらあんたのせいだからね!? うぅ……お兄ちゃん。お兄ちゃんどこぉ……」
あの二人、また喧嘩してるなぁ。
まぁ、無視したりするよりはましだとは思うけどね。
「花音! ここだよ!」
叫びの声を上げるも僕の周りの冒険者のせいで聞こえたとは思えない。
どうしよう……。助けて欲しいのにそのSOS信号を雑音が掻き乱していく……ッ!
悔しさに歯を噛み締める――――が、まさにその時だった。
「……お兄ちゃんの気配がする」
え? なんて?
け、気配?
花音ってばそんなスキル持ってたっけ?
僕は森のなかで教えてもらった花音のステータスを思い出すが……そんなものカノンは持っていなかったはずだ。
となると、花音は本能的に感じ取ったってことなのか?
なにそれすごい!
「な、なんだよあんた!」「うおっ、いってぇ! 順番は守れよ!」「ぼ、僕のお嫁たんに近付くなぁ!」
花音の本能に驚いていると僕を囲う人混みの一方からそんな声が上がる。
と言うか最後のやつはマジでキモいんだが……。
「お兄ちゃんっ――ッ! やっと見付けたぁ!」
おお、凄い! すごいぞ花音!
僕の瞳に花音の姿が映るとともにどうしようもない安心感が全身を包み込んだ。
と言うか、本当に花音に抱擁されてるし……。でも、まあいい。今はこの大切な妹の体温が心地いい……。
「わおっ、麗しきかな姉妹愛! お二人さんまとめてどうだい? ……へぶっ」
馬鹿みたいなことを言って僕に手を伸ばした冒険者の鼻っ柱を容赦なく殴ってへし折る花音。
その瞳には今までにないくらいのれっきとした殺意がにじみ出ており、彼女にとって今のこの状況はどうしても看過できないものだという事が感じ取れた。
ぴりぴりと放電するかのように怒りで胸中を埋め尽くした花音の姿は妙な迫力を放っており、それまで舐めた口をきいていた冒険者たちが次々と渋い顔になっていく。
「な、なんだよ。冗談じゃねーかよ」
「冗談で花音のお兄ちゃんに触れたんだ。ふぅん。死ねよ」
冒険者に向かって一喝すると花音は言葉を発した冒険者の股間を容赦なく蹴りあげる。
おっと、見てはいけないものを見てしまったぞぉー! ヤバいっすよ、無くなってもあれは痛いってわかりますよ!
なに? 死ねってもしかして『男として』ってことで生殖器を破壊しに行ったとか、そう言う事?
そうだとしてもさすがにやりすぎな気が……だって蹴られた人泡吹いて白目向いてぶっ倒れてますもん。
「子供作りたくない奴からかかってこい」
やだ、何そのセリフ! カッコいい!
じゃなくってアウトだろ、そのセリフアウトだろぅ? 言ってることつまりは精巣蹴りつぶすってことだよ?
男にとってはこの言葉はある意味『殺し文句』だ。
冷や汗を流した冒険者たちが次々に解散していき、やがて僕を囲む人だかりは無くなっていた。
「はぁ、疲れたなぁ……」
「ごめんね? 目を離したばっかりに……」
申し訳なさそうに首を垂れる花音。
僕はその彼女の頭にそっと手を置くと、
「なに、花音が謝ることなんて何もないじゃないか。むしろ僕の責任で花音は助けてくれたんだ。ありがとうな、花音」
「うぅ……お兄ちゃん!」
感極まったのかj僕に飛びついてくる妹にやれやれと肩をすくめていると、眼前に一人の女性――――リーフさんが立っていることに気が付いた。
「花音ちゃんばっかりずるいっ!」
――――。
あぁ……リーフさん。本当に欲望剥き出しになって来てますよね……。
可愛いからいいけど……。
+++
解放された僕は溜息をつきつつ、しかし頭の中で本来しなければならないことを整理していった。
えーっと、なんだっけ? あ、そうそう。魔石とか言うやつを換金してお金にしなくちゃいけないんだった。
換金所はどこかなぁーっとあったあった!
換金できる場所へと向かうとそこに居た一人の職員さんに話しかける。
「換金したいんですけど」
僕の声に反応しこちらへ振り向いたのはひょろっとした男性だ。四角いふちの黒いメガネをかけており、いかにもできる男と言う感じがする。
「へいっ、では、こちらに換金したい魔石をよろしゅう頼んます」
『できる男』から『できる商人』と言うイメージに早変わりしたぞこの男。
まったく……がり勉みたいな見た目しているくせに中身は商人みたいな下町風な印象を覚える。
変わった男だ。
そう思いつつも僕は花音へと視線を向ける。
花音は僕の視線から逃げるように慌ててリーフさんの背後に隠れた。
って、あんたら仲悪かったんじゃないのかよ……。
「花音。お願いだ」
「嫌、いくらお兄ちゃんでも嫌だ! これは花音がお兄ちゃんから始めてもらったものなんだもん!」
「そんなこと……あるな」
よくよく思い出すが僕が花音に何かを上げたことなんて一度もなかった気がする。
なんだろう。一気にダメな兄貴になった気分だ。
いや、もともといい兄貴の自覚は無いんだがな?
「また今度何かあげるからさ……」
そう言うとリーフさんの陰からひょこっと顔を覗かせジト目で花音は僕を見てくる。
「……なんでもくれる?」
「お、お金が足りる物なら……」
「何でもしてくれる?」
「僕にできることなら。……ん? はっ!?」
思わず花音の言葉にうなずいてしまったが、不味かったのではないか!?
なんでもしてあげるなんて約束して良かったのか!?
いや、もしかしたら一回デートしてくれとか、そんなことで済むかもしれない。――――兄妹でデートってのもかなりアウトだが……。
もしかしたら何も考えずに言っただけかもしれないしな!
ちらっと花音に目を向けると……不敵な笑みを浮かべてこちらを見ていた。
――――あ、やっちゃった。
「言質、取ったから」
花音のその呟きが悪魔の声に聞こえる僕は正常のはずだ。
「な、なんでもって言っても、その……」
「はい! コレ! あ、あともう取消とか聞かないからね、お兄ちゃん!」
満面の笑みで僕に魔石を渡してくる花音。
可愛いはずのその笑顔が怖い。
「あ、はい」
その恐怖から、もう僕に逃げ道は残されていないのだと察する。
やってしまったぁー!
その気持ちだけが僕の胸中を反響した……。
っと、こんなことに打ちひしがれている場合じゃなかった!
「あのこれ……」
そう言って僕は花音から渡された綺麗な石。魔石をメガネの男に手渡す。
「おとと、危ないから注意しぃや」
実は魔石は結構重い。
カウンターが僕の背くらいあるので必然的に持ち上げる形になる。正直言ってステータス的には余裕で持ち上がったのだが男には危なっかしく見えたようだ。
男は僕から石をもらうとすぐさま鑑定に移る。
そして鑑定していた男の目がその四角いメガネの奥でゆっくりと見開かれていくのを僕は目視した。
そして慌てた様子で男は顔を上げると……。
「こ、こいつは……いったいどこで……」
「スライム倒したら手に入った」
男の質問に短く答えると男はさらに目を見開いて僕のことを見つめる。
「その鎧……伝説級の鎧か……。なるほど、確かにその鎧ならスライムとも渡り合えるか……」
どうやら男は僕の身に付けている鎧を見てそう判断したようだ。
確かにこの鎧はものすごく性能が良いし、ゲームではLV1の冒険者でも中級のボスまでだったらノーダメージで倒せるといわれていたほどに最強だったわけだが……。この世界でも圧倒的性能らしい。
と言うかどうしてわかったのだろうか? この鎧がすごく強いってことが。
「何でわかったんですか?」
「なにがや?」
「この鎧がすごいってことですよ」
「なぁんやそないなことか。全部『鑑定』ってスキルのおかげや」
男の言葉に僕は驚きつつも、しかし納得した。
鑑定と言えばゲームでこそなかったが俺がよく使っていたネット小説サイト『小説家になろう』ではたびたび登場するメジャーなスキルだ。
この世界にもあるとは……ぼ、僕もどうにかして習得できないかなぁ。
「そうなんですか」
今すぐに欲しいと言うわけではないので話は終わらせておく。
最悪リーフさんが知っていると思うので彼女に尋ねるとしよう。
「まぁ、それよりこの魔石やったら二十万セリやな」
男の言葉にリーフさんは首肯する。
どうやら誤魔化していたりと言うことは無いようだ。相場という事なのだろう。
まぁ、その値段が高いのか少ないのかは全く分からないが……。と言うかこの世界の通貨はセリと言うのか。ふむふむ覚えておこう。
男は麻袋にいくつか硬貨を詰めるとそれを渡してくる。
僕が確認してもわからないのでリーフさんに見てもらう。
「きちんとあります」
――――まぁ、ギルド内にあると事で換金しているわけだし、アニメとかラノベとか見たいにサバ読みされることは無いと思うが一応である。念のためだ。
僕は硬化のは言った麻袋を花音に手渡しポケットに直してもらっておく。
僕の服にもリーフさんの服にもポケットが無いからだ。
「これで三人宿に泊まれますか?」
「これだけあればしばらくは大丈夫ですよ。――――これは無くなったときの為にお金には変えず置いておきましょうか」
リーフさんがあの透明になる奴の魔石を取り出してそう呟く。
確かにお金として手元にあればすぐに使ってしまうかもしれないしな。お金にするためにはわざわざギルドまでこなければならないし……うん、その方針で行くとしよう。
方針が決まったところで今日はもうそろそろ宿を探して適当に寝るとしよう。
そう二人に話して僕たちがギルドを後にしようとしたまさにその時だ。
視線を感じそちらへ目を向けてみるとそこには見るからに寂しそうな顔で僕たちのことを見つめる冒険者登録を担当してくれた職員のお姉さん。
僕と目が合うとすぐに笑顔に切り替え手を振ってくる。が、それでも無理して笑っているのがわかる。
どうしてあの人はこんなにもさけられているのだろうか?
いや、避けられてると言うよりは相手にされてないって感じかな?
冒険者の人たちはもう一人のお姉さんの方ばっかり並んでいるし……。
まったく……最低だな男ってやつは……。あ、僕も男だった。
それは置いといて、僕は二人にちょっと待っててと伝えると寂しそうに笑うお姉さんのところへ駆け寄る。
僕の行動にお姉さんは驚いた表情になった。
「あっ、えっと、その……ど、どうされましたか?」
驚きつつもお姉さんが声を絞り出す。
そんな彼女に僕は……。
「お姉さん。そう言えば名前を聞いてなかったなぁって思いましてね。僕の名前は知ってますよね? お姉さんの名前も教えてくださいよ!」
その言葉にお姉さんは感極まったように口元を両手で抑え、先ほど泣きはらしたばかりの目にさらに涙をためている。
おい、何でこんなに可愛い人がこんなにないがしろにされてるんだよ。
いい加減にしろよココの冒険者!
冒険者たちに憤りは感じるも、そんなものは後だ後。
「い、良いんですか?」
「何がですよ。名前を聞いて友達になりたいなぁってそれだけじゃないですか」
苦笑を浮かべつつこんなことを話せるのもおそらくお姉さんが可哀想だからだ。
素の本心から僕はこの人のことを可愛い人だなぁって思う。
「う、うぅー……。わ、私はネル・ロマノフって、言います。よろしくお願いします。咲夜ちゃん」
ちゃん付けで呼ばれるのは……もうこの際仕方のないことか。
「こちらこそよろしくお願いします。ネルさん」
僕は笑顔で右手をだし、異世界に来て初めての友達であるネルさんと握手した。




