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変化とギルド

 こ、これはいったいどう言うことなのか。

 もしやこれが噂に聞くキマシタワーと言うやとなのか? 建築するべきなのか?


 と、そうではなくってどうして二人がキスをしているのかと言うことを考えなくてはならない。確か先程まで二人は喧嘩をして居たように思えたのだが……。

 ま、まさか気のせいだったとか!? それともすべては演技で僕は妹と想い人に弄ばれていただけだったとか!?

 それは……。うん、無いな。


「あー、えっと……。さ、先行ってるから御ゆっくり?」


 言うとリーフさんとキスをした状態の花音が何やら騒ぎ始めた。

 手や足を必死に動かそうとし、しかし全然離れる気配はない。


 うーん。なにか様子がおかしいぞ?


 顎に手を当て思案下のポーズを取り二人の百合を眺めていると花音が今度は涙を流しながら……って、え!? 涙!?


「おにいひゃん……見ないれぇ……」


 そう、声を絞り出した。

 震えていて、本当にいやがっているであろうその声に自分があまりにも最低なことを考えていたとムカついた。


 おい! 桜庭咲夜! お前は大事な妹の言うことすら信じられない大馬鹿者だったのか!? 違うだろ! 兄なら受け止められなくても妹を信じてやらなくてどうするってんだ!


「花音! 今から質問するからイエスなら一回ノーなら二回首を縦に振れ! いいか?」


 言うと花音が一回首を降る。

 よし。


「花音は望んでその状況に陥っているわけではないんだな?」


 首が一度振られる。


「それはリーフさんに突然襲われた的なそう言うことなのか?」


 首が二度振られる。


「じゃあ、望んでいないのにキスをしているのか?」


 首が一度降られた。


「よし。――――まったくわからないな」


「「――――ッ!!??」」


 僕のセリフに二人が非難の声を上げようとして、しかし口がふさがれているのでそれは叶わない。


「いや、だってそんなこと言われても僕にはまったくわかんないしさぁ……あ、もしかしてアニメとかでよくある『か、体が勝手に!?』的な感じだったり? なんてね、さすがにそれは……」


 二人が思いっきり一度首を振った。


「おう……。ってことは……」


 こういう体が勝手にって言う物は大体第三者が操っていると言うのがテンプレだ。

 先ほどの戦闘で魔法の存在は確認しているし、そう言った魔法を使う人が近くにいるのだろうか?


 きょろきょろと見渡してみるがそんな影見える気配すらない。


 おやおや? どこにいらっしゃられるのですかね?


 疑問を抱きつつも二人を信じ辺りを見回すがやはりおかしな点はない。夕焼けに草原が赤く照らされ四人分の大きな影が生み出されている。


 そう、おかしな点など……見つから……。


「影が四つとか絶対そこにいるだろ!!」


 己の能天気ぷりに腹が立つ。

 四つ目の影の足元――――そこの草むらには何かが立っているように潰れた草がある。


 よくも僕の妹に変な術を掛けてくれたなこの野郎。――――いや、やろうかはわからないけどさ。それでも怒りがふつふつと心の奥底から溢れ出てくる。

 身を低くすると足に力を入れて思いっきり跳ぶ――――ッ!


 数メートルあった影との距離は刹那の間にゼロへとなり、怒り任せに己の拳を振るった。

 妹とリーフさんに変な術を掛けた輩かもしれないのだ。手加減の必要などない。それに透明な奴なんだ。人じゃなくってこの程度じゃ痛くも痒くもないかもしれない。


 そう、だから手加減の必要なんかいらない。怒りに任せて殴ってもいいんだ。――――そう言えばこんなに憤慨したのは久方ぶりだな。ま、それも仕方のないことと言えば仕方のないことなんだが……。なぜならこの影は――――ッ。


「僕の妹を泣かしてんじゃねぇよッ!」


 大事な大事な妹を泣かせたのだから……。


 拳が確かな感触を捉える。が、それはあまりにも柔らかい物でズプリと腕を生暖かい物が包み込んだ。と、同時に真っ赤な物が視界を染める。

 そのまっかな物を被ったのは僕だけでなく僕の拳を食らった影も同じで、透明な体に赤いものがかかりその形がくっきりとわかる。


 人のようで、しかし腕の関節が二つあり背には羽、腰には尻尾と人でない部分がしっかりと現れた影。人でなかったことに少しだけ安堵しつつふと自分の腕へと目をやると……腕はその生き物の胴を易々と貫いていた。

 そう、僕と影を染め上げたのは影の体内から溢れでた鮮血だったのだ。


「うっ……」


 気持ちが悪くなり慌てて腕を引き抜いて距離を取る。

 未だに腕には肉を引き裂いた生々しい感触とドクドクと体内を流れていた血液が付着している。それを見た瞬間僕の頭がすうー……と冷めていき怒りの感情から生き物を殺してしまったことに対しての罪悪感が溢れだした。


 僕は、僕は殺したのか? わかっていただろ? 影の大きさは人ほどはきちんとあったのに、そして僕のステータスがすでに人外の域に達しているという事もわかっていたはずなのに……。

 怒り任せにこぶしを振るえば必ず殺してしまうと分かったはずなのに……。


 だと言うのに僕は何をしているんだッ!


 確かにこの透明になれる野郎はどう見ても人間じゃあない。

 でも、二足歩行で腕もきちんとあって、人間じゃなくても人型であることに違いは無いんだ。

 もしかすれば意思の疎通すらできたかもしれない。


 でも僕は……。


「――――咲夜君!」


 激しい自己嫌悪の荒波にのまれそうになっていた僕に凛とした美しい声音が駆けられる。

 振り向いてみるとそこには必死に口元を拭っている花音と僕のことを心配そうに見つめるリーフさんの姿。どうやら僕のパンチが敵を倒したことによって彼女たちを解放させることに成功したようだ。


 嬉しい、嬉しいはずなのに僕の表情は苦虫をかみつぶしたようなままだ。


「り、リーフさぁん……」


 好きな人の前で僕は格好を付けたい。なのにどうしても右腕に着いた血液を目にすると罪悪感で心が押し潰されそうになり量の目から涙が止まらない。


 大粒の涙が僕の頬を伝って大地に零れ落ちる。


 しゃくりを上げて後悔の念と共に泣いていると、ふと頭が柔らかな物に包まれた。


 なんだろうか。

 それは今までに触れたことのない感触で、それでいて心地よく、荒んだ心を静めてくれた。


 ――――いま、男の僕(自分)女のリーフさん(思い人)に抱きしめられて涙を流していることに気が付いて、さらに零れ落ちる滴の量は増えた。


「咲夜君は、悪くありません」


「でも、でもっ! ぼ、僕は……ッ!」


 頭上から投げかけられる優しげな声音に、僕は顔を上げて反論する。


「僕は、殺したくなんてなかったッ! 殺すつもりもなかったッ!」


「わかっています。咲夜君は優しい子ですから」


 優しくなんかない。

 僕はあなたに恋をしていると言うのにさっきはあなたのことが微塵も脳裏をよぎらなかった。


 僕が憤慨して奴に殴りかかったのは花音が、大切な妹が泣いたからだ。


 それに、頭のどこかではわかっていた。殴りかかる寸前一瞬だけ葛藤した。

 このまま殴りかかれば殺してしまうかもしれない。って。


 だから――――そんな僕は優しくなんかない。


「優しくなんかない。優しくなんか……ない……」


「そんなことないっ!」


 無様にリーフさんに泣きつく僕に強い口調の声がかかる。

 それは何を隠そう僕が怒った理由である花音の声だった。

 屈んで僕を抱きとめていたリーフさんの後ろに立って、見上げる見上げる僕と視線を交わらす。


 花音なら「お兄ちゃんに触れていいのは私だけなんだから!」とかなんとか言ってリーフさんを引きはがしに来ると思ったのだがそんなこともせず、いつにもまして真剣な表情で僕の瞳を見つめると、


「そんなことないよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんは花音を助けてくれたじゃない。――――なのに、そんなこと言わないでよ……。優しい花音の英雄になってよ……」


 真剣な表情から一遍。相好を崩し泣きそうな表情で懇願するように呟く花音の姿は部屋で花音に告白された時のことを思い出される。


 あの時僕は確か……そうだ、花音に花音の英雄だった時(あの時)のお兄ちゃんはどこへ行ったの? と聞かれて僕は「あの時の僕はもう居ない」て、言っちゃったんだ。


 ――――酷い話だ。

 子供にヒーローがいきなり「もう戦うの怠い」と言うのと同じじゃないか。

 なんて夢が無くて、残酷なんだ。


 そして正義の味方が居なくなった世界に子供は絶望する。

 だって助けてくれる人が居なくなったのだから。


 ――――花音も、そうだったのかもしれない。

 花音は僕に言われて少なからずショックを受けただろう。悲しかっただろう。

 特に、花音は「小学校のころからこの気持ちに気づいた」とも言っていた。――――ちょうど僕が花音を助けていた時代だ。

 つまるところ花音は自分を助けてくれた、自分の味方であった『英雄』の僕に恋をしたのがきっかけだったんだ。


 もし、好きになった人格を全否定されたら――――それはとても悲しいことだ。


 そして悲しみを与えれば花音の今の泣きそうな顔に涙が現れることは確定的。


 ――――花音の涙何て、見たくない。


 子供のころからずっと、ずっと、ずっと思って来た感情だ。

 大事な妹を泣かせるようなやつは片っ端からぶん殴った。殴って殴って先生に怒られても花音を泣かすようなやつは許さなかった。


 その大事な、大切な、妹を……僕が泣かしていいのか?

 一度僕は花音を泣かした。彼女のキスを断ったとき、花音は泣いた。でも、あれは仕方が無かった。

 酷いと思うかもしれないが兄妹でそんなことはイケないと僕は思っている。


 だから、そう言うの(、、、、、)で傷つけてしまうのは仕方がない。


 ――――でも、今は違うだろ。

 花音は心のよりどころを失いかけて――――いや、僕が否定した瞬間確かに失ったんだ。

 けれど、失いかけたよりどころの端を捉えることが出来た。


 ゆっくりと更生させていけばいい。


 だから今は、この一瞬だけ僕は――――彼女の『英雄』に返り咲く。


「花音――――怪我は無いか?」


 優しい声音で話しかけようとしても口から出るのは甘ったるいロリータボイス。

 締まらないなと思う。が、しかし、僕の質問に花音は、


「大丈夫だよ、お兄ちゃん」


 歓喜の頬を染め、花のような満面の笑みを見せてくれた。


+ + +


 すっかり辺りは闇が支配しており、そんな真っ暗な草原をただひたすらに街の光に向かって進んでいく中、僕の心中は穏やかでなかった。

 その原因は……。


「おにぃちゃ~ん! えへへ、お兄ちゃんお兄ちゃん」


 ずっと僕に抱きついてくるヤンデレな妹だ。

 頭に頬ずりして来たり手で撫でまわして来たりと歩きにくいことこの上ない。

 先ほど『英雄になる』と決めた手前、そっけなくあしらうわけにもいかず一歩後ろを歩くリーフさんは先ほどからずっとむくれっぱなしだ。


 って、頬膨らましてるその姿めっちゃ可愛いっすね。


「か、花音。ちょっと離れてくれ歩きにくい」


「ああ、ごめんね? お兄ちゃん」


「謝ったんだったら離れようか」


「――――花音、もうお兄ちゃんから一秒も離れないよ?」


 注意してもずっとくっついたまま。それどころかとんでもないことを言い出した花音。

 ま、マジですか?


「一秒もって、そんな……」


「本気だよ? トイレもお風呂もいついかなる時でも一秒もお兄ちゃんから離れないよ?」


 ――――。

 おっと、あまりのドン引き発言に思わず脳がフリーズしかけたぞ?

 いや、いやいや。この馬鹿な妹はいきなり何を言いだすんだ。


「さすがにそれは……」


「お兄ちゃんの傍にいないと……どっかの誰かが花音の座を奪おうとして来るかもしれないもん」


 後半声を低くさせ後ろへ視線を向ける花音。

 つられて振り返ると寂しそうにとぼとぼと歩くリーフさんの姿が……。


 さすがにあれだけの異常な兄妹愛の後でその隙間に割って入ることは気まずすぎてできなかったようだ。

 だからってそんなにさびしそうにしなくても……。


「奪おうなんてそんなッ! ……そんなの、無理ですよ」


 言い返そうとし、しかし急速に元気が無くなっていくリーフさん。

 どうしたのだろうと小首をかしげると彼女は苦笑を浮かべた。


「今回の件で嫌ってほど思い知らされました。最初は花音さんからの一方的な感情で、まだ私が入る余地あるかなぁ……なんて考えていましたが……。まったく無理ですよ。こんなの見せられたら……」


 言いながらリーフさんの顔はだんだんと下へ向いて行く。

 そして、


「こんなの……こんなの見せられて……。勝ち目があるなんて、そんな希望も砕かれたにきまっているじゃないですか……」


 地に向かってキラキラと街の光が反射して光る物が一つ、また一つと零れ落ちていく。


 嗚咽に肩を震わせて、女神リーフは泣いていた。

 その姿は普通の女の子と変わりない。

 どこかでこの人は大人っぽく、それでいて何でもできてだから大丈夫だ。と思っていた想像が崩れ落ちる。瓦解する。崩壊する。


 彼女も一人の女だったのだ。

 好きな相手なのにわからなかった。

 好きな相手だからこそ分からなかった。


 彼女とはすでに両想いであることを確認し合っていたが故に僕は花音の思いを受け入れる『ふり』をしていた。だが、それは確かなストレスとしてリーフさんの心の中に募っていたのだ。


 僕だって「仕方がない」と言ってリーフさんが別の男とキスなどをしているところなんて見たくない。


 つくづく僕は考えが浅はかだなぁ……。


 自己嫌悪の念と共に深く溜息をつくと、リーフさんに向かって優しく微笑みかけ、


「僕は嘘は言いませんよ」


 花音の手前リーフさんに好きだ、と言えないことがもどかしい。

 でも、仕方がない。こうしないと死者が出る。

 それは比喩表現ではなく本当の意味で死者が出る。

 実際に僕は花音の手によって殺害されているし、花音自身、自分の命を大事に扱っていない節がある。


 だから、こいつの前でだけは絶対に言えない。


 その確固たる意志を受け取ったのか、ただ単に呆れてしまったのか、それは定かではなかったがリーフさんの表情にわずかに笑みが浮かぶ。

 ただ、それだけで僕の心は跳ねあがり心拍数が格段に増えていく。


 眼前にいる美しい一人の女性。

 手の届くところに居て、そして手を伸ばせばすぐに手に入れることが出来る。そんな女性。


 だが、もし手を差し出そうものなら僕の隣にくっついている少女がそれを切り落とすことだろう。


 ――――僕はどうすればいいのだろうか?


「咲夜君。ありがとうございます」


 微笑みを浮かべるリーフさんに安堵し、胸をなでおろすと今度は花音が唇を尖らせ僕の荷の柄での肉をつまんできた。


「痛いよ、花音」


「――――馬鹿」


 そう呟くとそそくさと僕の腕に自分の腕をからませながら引っ張るように街明りの見える場所へと歩みを進めはじめる。

 僕も仕方なく着いて行くと、開いてあった反対の腕にリーフさんがくっついてきた。


 ドキドキと心臓が跳ね上がる。

 柔らかな肌と緊張からか若干汗ばんだ首筋。ロリの体とは言え高校生の僕にそれは毒でしかない。

 さらに言うと僕も緊張のあまり手汗が……。


「――――ドキドキしますね」


 耳元に口を近づけられ囁かれると背筋をゾクリと駆ける甘美な感覚が沸き起こった。


 思い人にそんなことを言われた僕はもちろん顔をゆでだこのように真っ赤にさせる。

 こ、これは卑怯だ! 不意打ちだし、表情に出すなと言う方が無理だ!


「お兄ちゃんどうしたの? 顔を真っ赤に――――あっ、もしかして花音に対して興奮してるの? えへへ~もうしょうがないんだからぁ~。あ、でもお兄ちゃん女の子になっちゃったから子供作れないじゃん! どうしよう!?」


 ――――。

 お前の頭の方がどうしよう。

 え、嘘でしょ? この子僕が男の体のままだったらマジでそんなことさせようとしてたの?


 お、女の子に転生して心底よかったぁ……。


 でも、確かに男じゃないってことはリーフさんとも……って、僕は何を考えているんだ!


 頭を振ってから僕は一度大きく溜息をついて雑念を完全に追い払うと明かりに向かって一歩踏み出した。


+++


 街に到着したのはそれから一時間後。夜はすっかり深くなっていたが酒場や店の明かりでそこまで暗いとは思わなかった。

 もともと、昼に召喚されていたので夜でも特に睡魔に襲われることは無い。と言うか襲われてもどうしようもない。なぜなら僕たちはただいま一文無しであるからだ。


「と、言うわけでリーフさん。できればお金をすぐに稼げるところとかってありますかね?」


 僕の突然の無茶ぶりに対して文句の一つ言うこともなく思案してくれるあたり本当にリーフさんは優しい。

 微笑ましげにその姿を眺めていると、ぽんっと手を叩いて、


「あ……ありますよ! えっとですね……この町はココだから、ココがこうで、あれがああで……。はい、着いてきてください」


 頭を抱えて何か考える素振りを始めたかと思うとすぐに明るい微笑みを浮かべて僕と花音の一歩前に出ると迷いなき足取りで進んでゆく。


「リーフさん今のって?」


「あれはただ単に思い出していただけですよ。これでも女神ですからね。下界のことは出来るだけ頭に入れておこうと努力を怠ったことはありませんよ!」


 今この人下界って言った?

 街とか国とかじゃなくって世界中の事を覚えようとしてたってこと!?


「す、すごいっすね」


「ほ、褒められると、恥ずかしいですが咲夜君に褒められるのでしたら覚えた甲斐がありました」


 ――――。

 花音も大概かと思っていたがこの女神様も少々ずれている気がするぞ? あれ? 僕の気のせいじゃないよね?


 リーフさんの後ろをついて歩いて数分後。

 目の前に大きな建物が現れた。


 大きな看板を持つその建物は、しかし文字がラクガキのようにぐちゃぐちゃで何が書いてあるのか全く分からない。


「ここは?」


 わからないので連れてきてくれたリーフさんに尋ねると、彼女はゆっくりと振り返り僕の方を向いて嬉しそうな目で僕に語りかける。


「咲夜君。――――冒険者ギルドとかって……心躍りませんか?」


 めっちゃ踊ります。

 踊りすぎます。

 もう、ブレイクダンスはじめてますよ?


「え……マジですか?」


「マジです。そもそも、あんなモンスターが多く生息する地域でそれを狩ることを職としない仕事が無い方がおかしいってものですよ」


 そう告げてくるリーフさんの瞳はキラキラと輝いている。おそらく僕も同じだ。

 リーフさんは女神でありながら結構ネットスラングを知っていることからそう言った方の知識も結構あるのだろう。

 おそらく日本におけるRPG――――ロールプレイングゲームに存在する冒険者ギルドの事も知っている。


 彼女自身はこの世界の女神だが、女神故に地に足を付けたことが無いのだろう。

 つまり彼女は知識のチートを持った召喚者みたいなものだ。

 僕と同じようにギルドを前に興奮しても何らおかしいことは無い。


「冒険者ギルド……ごくりっ……」


 緊張のあまり生唾を飲み込む。


「さあ、咲夜君が一番にどうぞ」


 入り口までの道を示しリーフさんは横にそれる。


 促されるように歩みを進めた僕は、高鳴る鼓動を抑えゆっくりと近付いて行く。夜も遅いと言うのに中からは賑やかな男たちの野太い笑い声が聞こえてくる。

 深夜も営業しているようだ。


 ま、それもそうか。夜行性のモンスターだっているだろうしな。


 スイングドアに手を伸ばし、押し開こうとした。次の瞬間。


「お兄ちゃん入らないの?」


 ギィー……。と音を立てて僕よりも先に戸をあけて花音が中へと入っていく。


 ――――――。

 いや、いいんだけどね?

 そこまで一番乗りにこだわってたわけじゃないしさ。

 でも、なんかちょっとやるせない感じだなぁ。


 花音に続いて肩を落としながら僕とリーフさんが中に入るとそこは……まさにRPGの冒険者ギルドであった!


 中央、真っ直ぐ進んだところにはカウンターがいくつか存在し綺麗な女性や屈強な男が立っている。

 向かって右側ではいかにも荒くれ者、と言う格好をした男たちが俗世な話題で盛り上がっている。酒を片手に喋っていることから酒場か何かなのだろう。モンスターを倒すようなのは成人男性がほとんどだろうからちょうどいい稼ぎ場と見える。

 向かって左側では、中央同様にカウンターが存在し見た感じ特に違いなどは無いように思われた。


「まずは何をするの?」


 花音が振り返って僕――――ではなく僕の後ろにいたリーフさんへと問いかける。

 少々驚きつつも最初よりは険悪な雰囲気が無くなったことに少し心が温かくなった。


「そうですね。魔石を換金させてお金を手に入れたいですが……確か換金には冒険者カードが必須だったはずです。冒険者カードを作るのは……中央のカウンターのようですね。左は換金する場所のようです」


 近くにあった案内板を眺めながらリーフさんが口にする。


 というか、魔石ってなんだ?


「すいません。魔石ってなんすか? そんなもの持ってませんよ?」


 僕の疑問に、しかしリーフさんは己の懐をガサゴソと弄ると、そこから一つの緑色に輝く宝石を取り出して見せる。大きさはビー玉ほどだが綺麗な物だ。

 ――――ん? いや待て。その宝石何処かで……。


「あー! 私がお兄ちゃんからもらった宝石じゃん! いつスッたの!?」


 そう、その輝きは僕が花音に渡した宝石そっくりだ。と言うか同じものだろう。大きさこそ違えど、しかしこれほど美しい宝石がそういくつもあるのはおかしい。


「す、すってませんよ!? なに言っているんですか!」


 花音の言葉に、慌てた様子でリーフさんが反論の言葉を述べる。


 それを聞いて花音は慌てて己のポケットを弄り――――って、探してなかったのかよ……。

 案の定と言うかなんというか、僕が上げたものが取り出された。


 と言うかその大きさの物がポケットに入ってたら普通わかるだろうに……。はぁ……。


「花音……。僕は悲しいよ」


「お、お兄ちゃん! だ、だってぇ……」


 泣きそうになる花音。

 慌ててフォローを入れる。


「で、でも人は一度や、二度のミスはばねにして前に進める。だから次からは気を付けような?」


 諭すような優しい口調で話を占めると、視線をリーフさんの持つ緑の宝石へと向ける。

 それを見つめつつ僕は感嘆の息を吐いて尋ねた。


「これどこで……」


 すると視線を泳がせるリーフさん。だが、すぐに決心したような表情に戻ると、僕の瞳をまっすぐに見つめて……って、なんだか恥ずかしいなこれ。好きな人と見つめあうとか……心臓が五月蠅いくらいに早鐘を打っている。


「これは先ほど咲夜君が殺した透明になって人を操るモンスターが消えた後に残ったものです」


「消えた……。そう言えばスライムの時も消えたなぁ……。――――ん? どうしました?」


 昼間のことを思い出していたらリーフさんが驚きに目を見開いていた。

 どうしたんだろう。僕なにかおかしなことを言ったかな?


「い、いいえ。――――何も感じていない?」


 後半は小声で聞こえなかったがまあ仕方がない。


「で、魔石と言うのはなんですか?」


「あ、ああはいはい。魔石は簡単に言えばモンスター電池のようなものですね。ただし人や動物を襲うことで充電が可能です」


 その言葉だけで大体予想は出来た。

 電池――――つまりは放っておくと切れて死んでしまうという事だ。それを避けるためにモンスターは生き物を襲い、人が多い町周辺によく住みつくと……。

 んでもってそのモンスターから人を守るのがここの冒険者の仕事という事だ。


「その電池って売れるんですか?」


「これ、綺麗ですから宝石にしたりできますし。人工的に充電もできますから魔力分子の少ない地域においては非常に重宝されたりしますね。日本で言うところの電気なんかもこれを使っていますねこの世界では」


 ほう。そりゃ電池とたとえるのが一番わかりやすいわけだ。


「大きさは……モンスターの強さに依存とかそんな感じですか?」


 花音に渡した者はリーフさんが取り出した者に比べると何倍も大きい。

 スライムがこの世界ではかなりの強敵と言っていたので問いかけてみたのだが……。


「そうですね。これでも十分に大きいのですが花音ちゃんのはかなりの値が付くと思いますよ?」


 なんとビックリ。かなりの値と言うのがどれくらいかはわからないがそれでもリーフさんの口ぶりからおそらく今夜宿に泊まる位の値段はあるのだと予測できる。

 自然と目が花音の持つ魔石に向いてしまった。


 敏感に花音はそれを察知すると僕から石を守るような体制を取って、


「う、売らないから!」


「そ、それが合ったらお金がいっぱい手に入るから大人しくお兄ちゃんに渡しなさい。いいね?」


「いや! お兄ちゃんにもらったこの綺麗な石は加工してもらって結婚指輪にするってもう決めたの!」


 ――――。

 かたくなに僕から隠す花音の姿にこれ以上の無理強いはよくないと判断。

 仕方がない。今日はリーフさんが持っているこれを売ったお金で何とかやり過ごすとしよう。


 これからもお金を稼がないといけないのかぁ。


 このロリ姿(見た目)だし仕事に付けるとは思わないんだよなぁ。だとしたら町の外に出てまたスライムでも倒さないといけないのか。


 はぁ、面倒(、、)だ。


「まあまあ。売る売らないはひとまず置いといて、今は冒険者登録を先に済ましてしまいましょうか」


 リーフさんは苦笑を浮かべ僕たちを見ると中央のカウンターへと向かった。


 カウンターは合計で五つあり、その内三つは大柄の男。残りの二つは綺麗な女性だった。

 並びとしては左から男・女・男・女・男となっている。


 どこにしようかなぁ……。

 ――――うん、男の人めっちゃ目つき悪いし顔に十字の傷跡とかあるしそこは止めておこう。怖い。

 そう考え二人の女性へ目を向けると右側の女性の方にたくさんの冒険者が並んでおり、左側の方は見事なまでに閑散としていた。


 どうしてなのだろうか?

 そう思ったがよく見ると右の女性の方が少しばかり綺麗なお姿をしていらっしゃる。


 ――――容姿で選んでんのか。

 男か女かで並ぶ場所を変えるくらいならまだ大丈夫だと思うが、さすがにこれは酷い。並ばれていない方の女性職員も十二分に綺麗だと言うのに、その上を行く人がいるだけでこうまで明確な差が生まれる物なのか。


 僕は左の閑散としている女性職員の方へと向かった。


「あの、お姉さん」


 僕の声に女性職員の瞳が見開かれる。

 頬も高揚させ嬉しさを堪えきれないような、そんな表情だ。


 いやいや、僕はロリ姿だし花音もリーフさんも女だと言うのに……。どれだけこの人、人気ないんだよ。


「う……えぐっ……。は、はい……」


 目に溜まった涙を袖で拭きながらお姉さんは言葉を紡いだ。


 その彼女へ向かって僕は舌ったらずなロリータボイスでもって告げた上げた。


「冒険者登録をお願いしたいんですが」

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