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スライムとチートの領域

 休憩と言う名の話し合いを終え僕たちはリーフさんの案内の下ここから一番近い街へと向かうことにした。

 レベル上げは一定の生活水準を得てから出もおかしくは無いと判断したからだ。

 このまま草原で立ち往生をしていては腹も減り餓死してしまうかもしれない。

 そこでリーフさんが提案してくれたものがこの案だ。


 幸いにも一番近い町はここから歩いて一日もかからないところにあるらしい。

 それまでにお腹は減ってしまうが、まあそこは我慢する方向で行こう。


 時たま優しくそれでいて涼しい風が僕の長い白髪を撫でていく。

 それを受けて心地よいと感じたことからこの世界において現在の季節は春から夏になり始めていると言ったところだろう。


 雲一つなく、陽光がさんさんと僕たちを照らしているにもかかわらず蒸し暑さは感じられない。

 コンクリートジャングルだと地面に熱気がこもり陽炎が立ち込めるようになるから僕は夏にはあまり外に出なかったが、こんな大自然な草原を歩くのだったら、まあ気持ちがいいし毎日とまではいかないが週に三日ぐらいは散歩をしていたかもしれない。


 再度優しく吹き抜ける風。

 しかし、それと同時に僕の耳には二人の女性の声が入ってくる。


「街に付いたらあなたはお役御免。私とお兄ちゃんのラブラブ新婚生活の邪魔はしないでよ?」


「花音ちゃん、一歩遅かったようですね」


「――――なっ! まさか!」


「そのまさか! もうすでに咲夜君には一緒に暮らす許可を得ているのです!」


 僕の一歩後ろを並んで歩く二人の女性。

 青髪美人と黒髪美少女。

 うん、一見するとハーレムだよなぁ……コレ。でも、さらっと妹がそこに入るのはダメでしょうよ……。

 別にハーレムを求めているわけでもないからなぁ。

 ――――いや、まったく求めてないって言ったら嘘になるな。うん、女の子好きだよ? 僕。でも妹は恋愛対象にはなりえないし、なったらだめだし、絶対にありないことなんだよ。


 だから後方で思い人と妹が僕と一緒に暮らすことで喧嘩を行っているのは異常な光景だと思うのですよ……。


「ねえ、二人とも」


 さすがに聞いていられないと思いいったん立ち止まって振り返る。


「何、お兄ちゃん! 何でも言って!」


 僕の呼びかけに先ほどまでのリーフさんとの言い争いの様子など欠片も見せることなくただ狂った純粋な愛情を向けてくる花音。


「はい、なんですか?」


 穏やかな、そして優しく微笑むリーフさん。彼女もまた花音との言い争いの様子は感じられない豹変っぷりだ。


「あのさ、もうちょっと仲良くは……」


「無理!」「不可能ですね」


 言いかけると僕の言葉に被せるように二人は答えた。と言うか二人の言葉自体も被った。

 それが気に食わなかったのか互いに睨み合い視線が交わるところでは火花が見えそうな勢いだ。


 迫力に負け思わず押し黙る。


 僕から目をそらしにらみ会う二人は先程の焼き直しとばかりにどちらからともなく言い争いを初めた。


 溜め息をつきつつとにかく進めば着いてきてくれるので僕は町へ向かう足を止めない。

 と、そのとき前方に何やら青い水の玉のような物体の影が見えた。


「リーフさ……ッ!?」


 背後に居るリーフさんにあの影はなんなのか聞いてみようとした瞬間影が勢いよく跳ね開いていた僕との距離を一気に詰める。

 うおっ! なんだこいつ!?


「カハッ」


 その奇襲を予期できなかった僕は影の体当たりをまともに食らってしまう。鳩尾に突き刺さった影は小さいながらもしっかりとした質量を持っており、昔喧嘩した際に食らったモノとは比べ物にならなかった。


「お兄ちゃん!」「咲夜君!」


 言い争いをしていた二人の声が僕を心配しているものに変わった。

 腹を突き刺す鈍痛は胃の中の物をすべて吐き出させよるとする。幸い何も入っていなかったので幼女の嘔吐というマズイ絵図らだけは回避できたが……。


 僕はすぐさま影を掴んで遠くへ放り投げる。

 それなりの質量があったと思われるが僕の攻撃力の前では小石も同然だ。

 すぐに体勢を立て直し、きしむ体にムチ打って背後に居る二人だけは傷つけまいと手を横に伸ばし僕の前に出ない様にと無言の圧力をかけた。


 横目に二人が頷いたのを見てきちんと意図を察してくれたと理解。

 その上で僕はリーフさんへと言葉を投げる。


「リーフさん。あの生き物はなんですか?」


 放り投げた生き物の影は未だ蠢き、再度その姿が視界に映った。


 青くぶにぶにした直径一メートルほどの物体だ。ひとりでに動く故生き物ととらえたが、一見とても生き物には見えない。


「あれはスライムです」


 その言葉に僕は驚きと同時に少しの高揚感を覚えた。

 スライムと言えば剣と魔法のゲームでのモンスターである。それを生で見て心躍らないゲーマーはおそらくいないことだろう。

 そして高揚感と共に安堵の息を吐いた。

 スライムとは定番キャラクターであるが雑魚キャラである。

 故に先ほど対峙した怪鳥と比べるとモンスターにもかかわらず恐怖を覚えることもなかった。それに見た目が完全に動く無機物なのであれを殺しても、殺した、と言う感覚はあまりないだろう。

 よしっ! アレを狩ってみよう!


「では、僕はあのモンスターを狩ってみようと思います。弱点のようなものを教えていただけますか?」


「――――え? スライムですよ!?」


 素っ頓狂な声を上げるリーフさんに思わず驚きその表情を確認する――――前にリーフさんは僕の肩を掴んでがくがくと揺すり、


「正気ですか!? いくら咲夜君でもスライム相手ではどこまでいけるか……っ!」


 焦りとしっかりとした恐怖がリーフさんの顔にはあった。女神とは思えないその言動に僕はその後方にいる花音と目を見合わせる。

 花音も基本的にオタク知識は持っていないが、それでもスライムと言えば有名な雑魚キャラだ。それ位は知っていたのだろう。


「ちょ、ちょっとどうしたんですか!? スライムですよ!?」


「わかっていますよ! だから……ッ! 来ます!」


 と、リーフさんが最悪だと言わんばかりに唇を噛みしめ僕の背後に居るであろうスライムを見た。

 つられて僕も目を向ける。


 そして僕たちの見守る中、それは起きた。


 ボゴッ! バゴッ! と音を立てて巨大な筋骨隆々な腕が小さなスライムから生え出てきたのだ。

 どこにそんなもの直してたんだよ……。じゃなくってッ! はぁ!? なんだよあれ!?


 スライムは嬉しそうに? 跳ねて腕を振り回し地面を抉る。

 ドンドンと大地を揺るがした後、腕に力をためると一気にこちらへ飛んできた。


 物凄い速さ。圧倒的な恐怖が高速で飛んでくる。避けないといけない。僕なら避けることが出来る。

 ――――だが、避ければ二人が危ないッ!


 巨木ほどもある腕を上から僕目がけて一直線に振り下ろしてきたのを、僕はステータスを信じ腕に精いっぱいの力を込めて受け止める。

 轟音と共に砂埃が舞い僕のいた地面がちょっとしたクレーターを生み出した。

 だが、受け止めることはできた。


「……うそ」


 それはリーフさんの驚嘆の声。

 それを聞きながら力をさらに強めて一気に吹き飛ばす。


 数度地面にバウンドしたのちやがて止まると、刹那、青かったスライムのからだが赤黒く変色し、その場で暴れ出し、しかしその動きの切れは先ほどの数倍は上昇していた。


「ダメです! 『激昂』です!」


 その言葉に僕は納得と首肯。

 確かに今のスライムの状態は激昂状態だ。


 でも、あの色が変わるのカッコいいなぁ。


 なんて思いつつ僕は頭の中であることを考えていた。

 それは、


「『フロスト』」


 口にした瞬間、大気の温度がぐんぐんと低下しているのがわかる。いや、このあたり一帯の大気の温度が下がっているのではない。スライムが凍りつくほどスライムの周囲の温度が下がったのだ。その余波がここまで漂っているのだ。

 何故いきなりこんなことになったのか。

 それは僕がゲーム時代に使っていたこのロリキャラの(スキル)を使用したことからだ。


 状態異常・氷


 これは僕が覚えていたうちの一つ『フロスト』を使用したことによって相手が陥る状態異常だ。僕のキャラクターは魔法系統を伸ばしていたのだが、覚えさせている攻撃魔法は二、三個しかない。その他はすべて相手を常態異常に陥らせると言う魔法ばかり。

 相手の動きを止めれれば攻撃が少なくても特に困る必要はない。

 ゆっくり時間をかけて倒すと言うのが僕のゲームでの戦い方だ。


 どうやらこの体は攻撃力などもかなり高いようで、あの巨木のような腕から繰り出されたパンチを受け止めてしまうようだが、今まで繰り返してきた戦い方を変えるのはよそう。


 氷状態になり動かなくなったスライム目がけて今度は攻撃系の魔法の実験を行ってみる。


「『アイシクルスパイク』」


 手をスライムへ向けて開くとそう口にする。

 すると手の平に何か冷気のようなものが渦巻きはじめあっという間に氷槍が出現した。驚きつつも成功したことに喜びを覚える。

 出現した槍は宙に浮いて落ちる様子を見せない。

 ゲームだとこの槍は敵目がけて真っ直ぐに飛んで行っていたはずだが……。


 考え、僕は腕を振り上げ、そして、


「行け」


 スライム目がけて振り下ろす。


 すると槍が超速度で手元から射出され、綺麗な軌跡を描きながら赤黒く変色した『激昂』状態のスライムの胴を貫く。『フロスト』によって動くことが出来なくそれでいて無駄に大きな腕が特にいい的になった。

 一度貫くとそのまま槍は空気中に四散して消える。スライムも同様に消えさる。

 どういう物質でできているのかは不明だが、おかしなものだと感じた。


 予想した通り殺したと言うのにあまり実感も罪悪感も沸いてこない。


「凄い……」


 背後で息を飲む音が聞こえる。リーフさんのものだ。

 彼女が言うのだから今僕が行った行為は本当に凄いものなのだろう。スライムを倒しただけだが。


「す、凄いよ! お兄ちゃん! 今のって何!? とってもかっこよかった!」


 花音は絶讚してくれているし僕も答えてあげたいが正直なところ僕は、ゲームキャラの設定ならもしや? と考えて(スキル)の名前を口にしただけだ。

 アレがなんなのか、それは僕が一番聞きたい。


 考え、リーフさんへと視線を向けると意図を汲み取ったと一度うなずきそして話し始めてくれる。


「今のはスキルによる『魔法』の発動ですね。二人の居た地球には存在しない『魔力分子』と言われる物質に作用して行われるモノですね」


 おっと、高校生の僕にいきなりそんな難しそうな話をしてわかるわけ無いでしょうに。


『魔力分子』? 分子って何だっけ? 学校にもほとんどいってなかったから訳がわからないなぁ。


 ちらりと花音を横目で見てみると……。


「つまりさっきの相手を氷漬けにしたやつや槍は『魔力分子』が作用して顕現した、と考えて良いのか?」


「はい。咲夜君が先程口にした『フロスト』や『アイシクルスパイク』は『魔力分子』に、言うなれば命令する言葉のようなものです。『フロスト』と口にすれば『魔力分子』が対象を氷漬けにして動きを封じ込めてしまいます」


「それだと誰でも使えるように聞こえるけど、あんたが凄いって言ったってことは……」


「はい、『魔力分子』に作用させて魔法を使うには『命令する』と私は表現しました。つまりは命令する価値が無い人間には魔法を使うことができません。――――あ、価値と言うのはステータスにある特殊攻撃に依存していまして、つまりは花音ちゃんには使えないってことです」


「さらっとディスるな! でも、いいもん! お兄ちゃんはその価値があってしかもそれに秀でてるすごい人だってわかったから」


 僕の方を見ながら告げてくる花音。言葉を聞いて同じように微笑みを向けてくるリーフさん。

 うん、話は全くついていけなかったけどとにかく褒められたのだから喜んでおこう。


「あ、ありがとう。花音」


 そう口にした瞬間二人の視線が鋭い物へと変化した。


 そして……。


「お兄ちゃん。もしかして話わかってなかった?」


「咲夜君……」


 疑問を投げかける花音と憐れむような声を漏らすリーフさん。

 そんなこと言われてもわからないものは仕方がない。馬鹿にされるかもしれないがここは正直に告げてもっと噛み砕いての説明を要求するとしよう。


「ごめん。実はさっぱり……。ははっ、恥ずかしい話だよね」


 自嘲気味に笑い捨てる。

 ああ、情けない。

 好きな人と妹の二人にこんな姿をさらしてしまうとは。


「まぁ、お兄ちゃんのそう言うところは可愛くて花音大っ好きだから、気にしないで!」


「咲夜君、可愛い……」


「――――」


 もういっそ笑い飛ばしてくれた方が嬉しかった。


+++


 そう言えばモンスターを倒したのだからレベルが上がっているのではないか?


 ふと思いついたのはスライムを倒して街への移動を再開させて数分後だった。まったく自分の間抜けっぷりには呆れてしまう。

 空中で手を振るうとステータス画面が表示され……って、あれ?


名前・サクヤ。年齢10。

LV13


 装備、魔王妃の王角

    聖女のローブ

    魔王妃のガントレット

    聖女のブーツ


 攻撃力・2881

 防御力・2212

 素早さ・3492

 特殊攻撃・4657

 特殊防御・2474


「――――」


 自分のステータスを見て思わず絶句してしまう。

 なんなんですかねぇ? この高さ。おかしくね? いや、高いに越したことは無いけどさ、でも、うーん。


「どうしたの? お兄ちゃん」


 腕を組んで思案顔をしていると花音が僕の顔を覗き込んで尋ねてきた。


「いや、よくよく考えればさっき僕が倒したのってスライム、つまりモンスターなわけじゃん? だからレベルアップしてるかなぁーって今ステータス見てたんだけどさ……」


「どうしたんですか咲夜君」


「いえ、ちょっとステータスが……バグりました」


 言いよどむもしかしこれは場合によっては今後を左右しかねない重要な案件だ。隠すのは得策ではない。特にこの二人には。

 これから生活していくうえでおそらく数多くの異世界の住民と接することになるだろう。

 その場合は伝えるか伝えないかは良く考えて、それでおそらく僕は伝えないだろう。

 モンスターなんて面倒な生き物がいる世界で力があるなんて知られては異世界テンプレまっしぐらである。

 故に伝えない。


 でもふたりには伝えておかないともしもの時が怖い。黙っていたせいで二人が傷つくところは見たくない。


 他の人の事はどうでもいい(、、、、、、)けど、二人は駄目だ。絶対に駄目だ。

 だって二人とも僕の大切な人なのだから。

 つまり二人にこの事を打ち明けないのは得策ではない。


「バグ?」


 そう疑問で返してきたのは花音。


 小首を傾げて聞いてくる姿がとても愛らしく、兄妹ではなく幼馴染とかだったらやはり僕は何の躊躇いもなく彼女を受け入れていただろうと思える。


 ヤンデレモードのときはちょっとあれだが、何時もはツンケンしつつでもずっと慕ってくれている女性……。花音は血の繋がっていることを何よりも嫌がっていた。が、僕は思う。

 血の繋がりが無ければ、昔の僕は花音を助けはしなかったし優しくもしなかった。あくまで大切な、大好きな妹として僕は接してきた。そして花音はそこに惹かれていた。

 血の繋がりがあるからこそ出会い、だが、それがある故、決して報われない。

 花音が僕に抱いた感情はそう言う悲しいものだ。


 閑話休題。


「ああ、実はステータスが……」


 僕は口頭で簡単に説明する。

 レベルが一気に13まで上昇しているという事。それに伴い全ステータスが大幅に上昇しているという事。明らかに異常だという事。

 ステータスを伝えた時点でリーフさんの顔が驚愕に染まり唖然と口を開いていたので彼女も今まで聞いたことのないのだろうと分かる。


「い、一気に13!? ステータスが二千~三千!?」


 そう叫喚すると頭に手を当てふらふらとその場に崩れ落ちる。

 大げさなリアクションだ。


「ちなみにですがこの世界において平均レベルってどれくらいなんですか?」


「へ、平均ですか? うーん、一生を普通に暮らして大体25前後。冒険者や修行をされた方なら最高で40程でしたかね? ――――レベルでは劣っていますが、その……」


 途中まで口にし最後で口ごもるリーフさん。

 いや、それは僕のことを思ってなのだろう。おそらく僕のステータスは化け物の領域に足を踏み入れてしまっている。直感でしかないがそれでもリーフさんの様子を見ていれば容易に想像できる。

 平和に生きて行こうと考えている僕に対しそれを言うのは躊躇われるのだろう。


 そして優しいリーフさんはそっと伝えてくれた。

「レベル1の状態で咲夜君のステータスはこの世界の最強戦士と同レベルでした」と……。


 目頭が熱くなった。


「と言うかどうしてスライム一匹倒しただけで十三もレベルが上がったんですか?」


 スライムと言えば言った通りRPGの雑魚キャラで有名だ。

 最近でこそスライムが最強だ! という作品が多くなってきているが、それでも僕の中では雑魚キャラである。と言うか最強のスライムとかだったら僕勝てないしね。


「いえ、あのスライムと言うモンスターこそ街を襲う巨悪なモンスターの代表格なんですよ……。日本のゲームと言われるものではよく最弱モンスターで描かれていますが、この世界でのスライムはあのように丸太のような太い腕を生やして城塞都市の城壁をも破壊するんです……」


 わおっ、スライムすっげぇー!!

 と言うかそんなのと僕は戦ったのか……。急に寒気が……。


「スライム単体でしたらレベル1の時の咲夜君と同等の力を持つ人間で対処できます。が、スライムは何か大きなものを襲うときに合体するのです!」


「が、合体?」


「はい、咲夜君も見たでしょう? あのブヨブヨとした質感を!」


 なんだか熱弁し始めたリーフさん。


「み、見ましたよ?」


「スライムはあのブヨブヨの体を生かして互いにくっつきそして巨大化して、その状態でパンチを繰り出すのです!」


 それを聞き先ほどのパンチの威力を思い出す。

 巨大化したスライムであれば腕もさらに巨大化しているはず。そしてパワーも桁違いになっているはずだ。

 ――――。うん、そりゃ城塞が墜ちるのも納得だわ。


「とにかく強いモンスターだった、ってことですね?」


「はい!」


 そうなのか。スライムは強いモンスターだったのか。驚きだ。


「つまり、お兄ちゃんはその強いモンスターに初見で勝利したってことだよね?」


 ふと花音がそんなことを漏らす。

 いやいや。あの時はどうしても引き下がれないから覚悟を決めただけで、つまるところやけくそだったのだ。そんな大層な事ではない。


 ――――でも、そんなこと言っても目にハートマークを浮かべて甘い息を漏らす花音の態度は変わらないんだろうなぁ。


「そうなりますねっ。ああ、やっぱり咲夜君はかっこいい……。あ、でも咲夜君は争いを望んでいない! かっこいい咲夜君を見たいけど、でもっ! ああ!! 私はどうすれば……ッ!」


 おっと? リーフさんもおかしくなりだしたぞ?

 正直なところここまで好意を持たれると言うのは恥ずかしすぎる。嬉しいが恥ずかしい。

 いや、花音からの好意に対しては複雑なところだ。妹とは言え可愛い女の子から好きだとかかっこいいとか言われるのは嬉しい。だが、その好意を受け取ってはいけないのだ。


 はぁ……。


 溜息をついてから僕は草原を歩きはじめる。と、ふと足元に、もといスライムの消えた場所に何やら綺麗な石が落ちていたことに気が付き拾い上げる。蒼に白のラインが稲妻のように走っていた。格好良かったのでポケットにしまっておくとしよう。と、ポケットが無い! そうだった、僕は今鎧姿の幼女だったんだ! すっかり忘れていた。


 仕方ないので服装が変わら無い花音に渡しておいた。

 渡す際に「これで結婚指輪を作るんだね! わぁ……綺麗だなぁ……。はぁ、お兄ちゃんとの結婚……か……。『咲夜』『なんだい花音』なんて……ふへっ、ふへへっ」となんだか話がひとりでに明後日の方向に流れ出したのがかなり狂気を感じた。が、漏らす笑みが本当に幸せそうで、それに答えてあげられないのが本当につらかった。


 再度歩きはじめると変な反応を見せていた二人が元に戻り僕の後を付いてくる。


 そしてまた言い合いが開始される。


 背後から聞こえてくる二人のいがみ合いの言葉もだんだんと慣れてきて、それを耳にしながら僕は目の前にある小高い丘を見つめた。これを超えれば町が見えてくるそうだ。

 日は未だ真上から少し傾いたところにある。

 この調子でいけば日暮れまでに間に合うだろう。最悪僕が二人を担いで走ることになるだろう。

 まあ、それでもいいか。


「もうちょっと仲良く……」


 さすがに煩くしすぎていると注意しようと一度立ち止まり後方へ視線を向ける。


「咲夜君はかっこよすぎます! だからといって妹と、と言うのは看過しかねます!」


「かっこいいってところだけは同意だけど妹だから兄に恋しちゃいけないなんてことは無いし、むすばれることだってできるし!」


「かっこよすぎるから諦めることが出来ないという事はわかりますが(ry」

「お兄ちゃんは何でもできて私だけのヒーローで(ry」


 うん、クッソ恥ずかしい上に二人の俺への評価が何でそんなに高いのか本当に疑問だ!

 と言うか、本当になんだよコレ! 好きな人に褒められるのは良いよ? 嬉しいよ? でもさ、妹とそれも僕の目の前でそんな褒めちぎっちゃう? 僕もう穴があったら入りたい状態なんだけど?


「二人とも、そこまでにしてくれないかな?」


 できるだけ笑顔で僕は伝える。

 幼女の笑顔。これで二人は収まってくれるはずだ。


「「――――」」


 ほら、思った通り二人とも口を紡いで静かになった!

 ん? どうして顔が青ざめているのだろう?


「どうしたの?」


 疑問を口にすると、


「ご、ごめんね? お兄ちゃん。――――でも花音はただお兄ちゃんとの関係を邪魔してくるこの女を追っ払おうと必死に……」


「な! 邪魔も何も兄妹で恋愛なんておかしいって言っているんです! 倫理に反します!」


「り、倫理とか関係ないし! てか、神様だって兄妹で恋愛してる話とかめちゃくちゃ多いじゃん!」


「そ、それは……」


 また言い争いを始める二人。


 僕は手をぱんっ、と鳴らして注目を集めさせる。

 鳴らした瞬間二人の肩がピクリと跳ねた。


「ふ・た・り・と・も! な・か・よ・く・ね?」


 一言一言区切って伝えると、コクコクと首肯する二人。

 満足げに僕はうなずくとまた丘向けて歩き始めた。こんなことをしていては日が暮れてしまうではないか。


 しかし、どうやら僕のお願いを聞いてくれたようでそれ以降言い争いの声は聞こえてこなかった。


 代わりに、「幼女の後ろに阿修羅が見えた」という謎の言葉が聞こえてきたがいったい何の話をしているのだろうか?


 丘を越えると街が姿を見せる。

 二人を叱っていたせいで少し日が傾き始めている。


 赤く燃える太陽に照らされる夕景は美しい街並みを浮かばせ心に安寧を訴えかけてきた。「ほぅ……」と熱っぽい息が思わず口から漏れ出た。


「見えてきたな。じゃあ、日が沈む前にさっさと行こうか」


 美しい夕焼から目を逸らし背後に居るであろう二人へと視線を移すと――――。






 そこでは花音とリーフさんがそっと唇を重ね合わせて(、、、、、、、、)いた。


「――――は?」

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