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怪鳥と決意

 脳の奥底まで響き、お腹にズシンと深くのしかかってくる怪鳥の雄たけびに一瞬怯んでしまう。が、しかし今はそんな場合ではない。


 男としてリーフさんを守る。

 兄として花音を守る。


 僕の背には向ける感情こそ違うが、大好きな女性が二人もいるんだ。

 怯えて尻込みしている暇など一秒たりとも無い!


「花音、お前のステータスはリーフさんいわくなかなか優秀らしいから僕があの化け物の気を引いている間に彼女を連れて逃げてくれないか?」


 怪鳥からは目を逸らさずに背に隠れる花音へ囁く。


「え? なんで? この女を囮にして逃げればいいじゃん」


 しかし返ってきたのはあまりにもそっけなく淡々と感情のこもらない声で、全身に怖気が立った。

 ヤバい……。それは花音の行動がすべてあまりにも自己中心的過ぎていることに対して表した一言。出会ったばかりの女性を躊躇いもなく囮にして逃げようと伝えた狂気は異常な物だと感じた。


「――――ッ! ……さっきも話したと思うが彼女は僕たちの命を救ってくれて……『大好きな妹と姿は違えど再開させてくれた』僕にとってとても恩のある人だ。そんな人を守るのは当たり前だよ、花音」


 言っていて「あぁ、僕は卑怯ものだなぁ」と自己嫌悪に陥ってしまう。

 彼女のためとはいえ僕に向けてくれている恋愛感情を刺激して操るなど最低な行為だ。それに……。


「お、お兄ちゃん……!」


 花音は僕の「大好き」と言う言葉の意味を履き違えていることだろう。


 ――――案の定背後から息を飲む音が聞こえ、それと共に感涙の声が聞こえてきた。

 泣いているんだったらさっさと立ち上がってリーフさんを連れて逃げてほしい。と思ってしまった自分に再度嫌悪感を抱いてしまう。


「わかった?」


「うん! でも、お兄ちゃんと比べたらやっぱりこのリーフなる女を囮にしたい! お兄ちゃんと一緒にいることが花音の中で一番優先順位の高いことだし!」


 にっこり笑った後、花音はその女の子らしいしなやかな綺麗な腕をリーフさんへと伸ばしてその襟首を掴んで引きずり始める。

 有言実行。

 今まさに花音はそれを行おうとしていた。


 リーフさんも花音の狂気にようやく気が付いたようでじたばたと暴れ掴まれた腕を離させようと努力を行うが……しかし花音のステータスは女神でさえ見たことないと言う高さと言うこともありその抵抗すべてが焼け石に水である。


「ま、まて……って、今はッ!」


 止めようとしたところで怪鳥が物凄い速さで走ってきた。

 強靭な足から発揮される馬力はだてではないと言うことなのだろう。

 地面が強靭な脚力に抉れ、茶色の土が露出した。


 ぐんぐんと迫ってくる怪鳥から逃げるように僕は二人の腕をつかむと同時に全速力で逃げ始める。

 無我夢中で……。


 そしてその結果……。


「お兄ちゃん速い! 花音もう無理!」


「――――」


 息を荒げ膝に手をついて玉のような汗をぬぐっている花音と、半ば死にかけているリーフさんの姿がそこにはあった。

 怪鳥はその姿がギリギリ視認できると言う位置で、こちらを睨み再度駆けだしているが、この分だと到達までは時間がだいぶかかることだろう。


 と言うか、僕は無我夢中だったとはいえこのスピードはおかしいだろ。

 これがステータスの力と言うやつなのだろうか?


 って、そうじゃなくって!


「リーフさん! リーフさん! 起きてください!」


 未だにクタッとなった状態のリーフさんの肩を揺すって呼びかけていると数度ののちに目を覚まし幾度か瞬きを繰り返すとその瞳に僕の姿を映した。


「ん、んー? ハッ! ここは!?」


「現在進行形で追われてますよ。と言うかなぜ気絶してたんですか」


 苦笑を零して尋ねると、


「いえ、急に何か大きな力が体に加わって……前に引っ張られたような感覚を最後に意識が……」


 それって……。

 もしかしなくても僕が引っ張って走ったからだよなぁ。確かにこのスピードで人を引っ張ればされた側は相当な負担がかかるはずだ。

 ステータスのいい花音はギリギリ耐えれたのだろうが……おそらくリーフさんは平均的なステータスなのだろう。故に耐えきれず気を失っていた、と。


 申し訳ないことをしてしまった。

 だが、しなければあの怪鳥の餌食になっていたかもしれないのだし……。

 難しいところだ。


「お兄ちゃん。まだ意識もはっきりしてないようだし早く囮にして逃げようよ」


 そんなふざけたことをまだ述べる花音に軽くチョップをかまし、軽く睨んで一言。


「恩をあだで返すような子は僕は嫌いだよ?」


 その言葉を聞き、花音はうーっと唸った後、しかしコクリと首を縦に振ってくれた。

 嬉しく思い頭を撫でてやると、口元が緩んで薄く弧を描き嬉しそうにしたのが可愛い。


「さ、囮は僕がやるから二人は離れてて」


 言って怪鳥に向き直るとかなりの距離があったはずだと言うのにかなり近づいてこられていて再度その足の速さに脱帽する。

 だが、僕の方が早いと言うこととそしてステータスの能力がやはり顕著に表れていると言うこと。この観点と僕のゲーム脳を併せ持ってすればこの怪鳥の気を引き二人から離すと言うことは容易に思える。


 もしかしたら倒せるかもしれないとまで思うが、さすがにそれは力を過信しすぎていると思われるのでやはり気を引くだけにとどめておくとしよう。


「鬼さんこっちら! 手の成る方へ!」


 手をパンパンッ! と叩いて陽気に歌ってみせると怪鳥は挑発に乗って突っ込んでくる。先程とは違い嘴ではなく足でけりに来ているところを見ると先ほどのスピードを見て獲物から敵に怪鳥の中の僕の評価が上がったのかもしれない。


 蹴りをさっと避けるとさっきまで居た地面にそれが突き刺さり大地を抉る。

 あんなもの受ければひとたまりもないだろう。

 いや、ステータス的に見れば大丈夫なのかもしれないが、それでもステータスで体の頑丈さが本当に上がっているかわからない以上その実験を行うことはしてはならない。ミスったら死ぬ。


 考えつつもしっかりと怪鳥から距離を取り、しかし声を上げて注意を引き続ける。


 怪鳥の奥を見て見ると花音とリーフさんの二人が必死に走って戦線離脱している所だった。

 リーフさんがちらちらとこちらの様子を伺いながら花音に手を引かれ連れて行かれていると言う構図だ。って、あ! なんか言い争いしてる! こんな時まで……。

 仲良くしてくれないものか……。


『キエェェェェェェ!!』


 雄たけびを上げられたことで僕の意識が二人から怪鳥に向けられる。


 こっちは気の引き合いをするほど仲がいいと言うのに……。

 まあ、こんな怪鳥とお互いの気を引き合っても何もうれしくは無いのだがな。


 と、怪鳥が突然膝を曲げ姿勢を低くし始めた。

 羽を折りたたみ体に密着させると……くちばしの隙間から紅の炎をちらちらと見え隠れさせて……って、炎!?


 思わず二度見してしまったその時……。


 ガバッ! と口が大きく開かれ、そこから灼熱の炎が光線状に収縮され一直線に発射された。

 ブレス攻撃!?


 不意を突かれた僕はもちろんその攻撃を避けれるはずもなく……。

 全身を温かな空気(、、、、、)に包まれた。


「――――。あちっ」


 ちょっとだけ熱かった。

 ストーブに近づきすぎたくらいかな?

 とにかく炎で火だるまにされたにしてはありえない暖かさである。


 どういうことか思考が追い付かない。

 見るからに――――と言うか実際僕の後方の草が焼け焦げ真っ黒になっているところを見ると見た目だけの張ったりブレスではなかったと言うことがわかる。

 いや、むしろ地面を注視してみればぷすぷすと小さく音が聞こえていたのでかなりの高温ブレスだったようだ。


 それが直撃したと言うのにもかかわらず痛み一つ起きないと言うことはこれは鎧のおかげか、それともステータス欄にあった『特殊防御』と言うところが高かったからなのだろうか……。


 それは定かではないがここで鎧を外して検証し、死んでしまっては元も子もないのでとにかくラッキー程度に考えて行こう。


 おそらく今のブレスが切り札であったのであろう怪鳥は悠然と焼け焦げた大地に立ちすくむ僕の姿を捉えるとけたたましく吠えたのち、一歩、また一歩と後ずさっていく。


 幼女に恐怖を覚える怪鳥など、はたから見ていたらよほど滑稽な姿であろう。

 まあ、当事者のその幼女から言わしてもらえば後ずさっていようが相手は巨大な鳥。怖すぎて漏らすかと思うほどだ!

 だが、幼女が草原で失禁とかしゃれにならん。


「――――はぁ」


 最後に翼をはためかせ大空に飛び立った怪鳥の姿が見えなくなるまで見送れば詰まっていた息を吐き捨て、力が抜けた体は支えを失いストンとその場に腰を下ろす。


 未だに笑っている膝、緊張と恐怖で湧き出た汗。


 何が異世界だ、何がチートだ。そんなものはごめんだ、この恐怖はモンスターの前に出れば絶対味わうこととなるだろう。


 動物園は動物と人間の間に越えられない柵がある故、僕たちは恐怖を抱くこともなく楽しんで檻に閉じ込められた生き物を眺めることが出来る。

 外にいても現代兵器の前にはアリも同然だ。


 しかし、今回のようなケースは違う。

 未知の生物。僕たちを食おうと襲ってきた絶対的敵対心。命を懸けた戦い。

 このすべてが僕には恐怖でしかなく、そしてそんなものは二度と味わいたくない。


 笑っている膝に手を触れゆっくりと立ち上がると同時に離れていたところから花音が手を振ってこっちへ駆けてきているのが見えた。怪鳥の退場を見送ったのだろう。


「おーい、おにーちゃーん!」


 元気よく声を上げて走ってくる花音。

 その後ろをひぃひぃと息を荒くしながら付いてきているのはリーフさんだ。


 ツインテールをぴょこぴょことかわいらしく揺らしながら近づいてきて最後に僕に強く抱きついてくる。

 僕の腰に手を回して猫のように頬ずりをしてくる花音の頭を優しく撫でてやるとふにゃっと表情をだらしなく蕩けさせた。

 遅れてやってきたリーフさんに先ほどの花音の言動について謝罪し、一生懸命走ってくれたことに労いの言葉をかけるとこちらもやさしく微笑んで「いいですよ」と言ってくれた。


 本当にいいのだろうか。

 花音はあなたを……見捨てようと、見殺しにしようとしたのに……。


+++


 一難去ったところで僕たちは一息入れ休憩を取った。

 僕は分けの判らないままでの怖い化け物との戦闘。二人は全力疾走でかなり疲れている様子だったからだ。


 直ぐそばに小さくて平らな岩が三つほど並んでいるのを見つけたのでそこに腰掛ける。

 伸びをするとポキポキと気持ちの良い音が聞こえた。

 伸びをする幼女とはこれいかに……。


「ふぅ……。あ、そうだリーフさん。今のうちにステータス教えてもらえると助かるんですが……」


 息を吐いて脱力すると、ふとそう言えばまだ聞いていなかったなぁと思ったので尋ねてみる。

 するとリーフさんはそうでしたねと苦笑を浮かべてから口頭で伝えてくれる。


 口頭なのはここが草原で地面に文字を書けないからだろう。森に戻ればいいだけの話だったがあんな視界の悪いところで休憩を取るなどあの化け物を見た後では考えられない。

 そんなことをするのはよほど自分の腕に自信のあるやつか、ただの馬鹿しかいないだろう。


「えーっとですね……」


 そうしてリーフさんから教えられたのはこうだ。


名前・リーフ。年齢・「って、言えるわけ無いでしょ?」

LV1


 装備品、無し

     無し

     無し

     無し


 攻撃力・5

 防御力・3

 素早さ・6

 特殊攻撃・10

 特殊防御・9


 うん、絶対に僕の後ろから出ないようにしてもらおう!


「これは……うーん」


「ひっく! 雑魚ジャン! お兄ちゃんの足手まといだから消えて!」


 言葉に言い詰まる僕の代わりに花音がすべて言ってくれた。いや、低いと言うところしか賛成していないし賛成しないし絶対に僕の目の前からいなくならせはしないけどさ。


『……絶対に消えないでくださいね?』


 口ぱくで伝えるとリーフさんはわかってくれたようで、しかし花音の言われたことが本当の事だったようで悲しそうな笑顔を見せた。

 胸の奥がズキリと痛む。好きな人のこんな顔は見たくない。


 だから……。


『大好きですから……』


 ゆっくりと口を動かしてリーフさんに伝える。

 すると彼女は目を見開き瞳を潤めて今度はうれし泣きの笑みを見せてくれた。

 リーフさんは頬を染め、軽く目を腫らし、胸に手を当てて、ゆっくりと息を吸いこむと僕を見据え、


「私もです」


 好色に表情を彩り桜色の唇をゆっくりと動かした。


 風が草原を駆ける。

 草を揺らしサラサラと涼やかな音を奏でたのが耳に入った。


 流れる青髪を右手で抑え、それでいて僕のことをまっすぐに見ている。


 ああ、やっぱり女神だ。


 彼女の一喜一憂するその姿。

 真摯に僕を見てくれるその姿勢。

 自分が囮にされそうになったにもかかわらず、その人を責めなかった優しさ。


 僕は思う。


 この女神(ひと)を好きになってよかった、と……。


「――――ッ!」


 見つめ合っていたことに気が付き慌てて目を逸らす。

 自分が今伝えたことがどれだけ木端ずかしいことか今更ながらにわかり頬が火照っていくのがわかる。今の僕はゆでだこのように真っ赤であろうことは鏡を見ずとも明らかだ。


 心臓が跳ねた。

 まだ、ドクドクと言っている。


 ちらと横目でリーフさんを見ると彼女もまた頬を真っ赤に染めていた。

 それは彼女も僕と同じ気持ちであると言うことの表れでもあり――――って、マズイ! 何を僕はラブコメチックなことをしているんだ! ダメだ! こんなところでリーフさんと見つめ合って互いに頬を赤らめて逸らすなどと言う青春イベントを起こしてはいけない!

 絶対に――――花音(いもうと)の前では起こしてはいけない!


 どうして僕はそれを考えていなかったんだ!

 ――――いや、これはわかっている。

 怪鳥と言う恐怖からの解放。

 慣れない環境での最初の一息。

 好きな女性がそばにいると言う高揚感。


 これらが僕の思考の邪魔をして判断力を鈍らせているのだ。


 一度深く深呼吸をする。


 そして勇気を出して花音の方へ視線をやり……激情に染まったその表情を見て怪鳥以上の恐怖が全身を駆け巡り頭の中を警鐘が鳴り響く。

 あ、ヤッバー。


「……と、……合いやがって……ッ!」


 ぼそりと花音の声が聞こえる。

 小さいながらも強大な怒気が押し殺されているのは目に見えて明らか。


「あ、か、花音これはだな」


「お兄ちゃんと……見つめ合いやがって……ッ!」


 なだめようとする僕の声は、しかし虚しくも花音には届かない。

 視線だけで人を殺せてしまいそうな程の物でリーフさんから目を逸らそうとしない。


 対するリーフさんは怯えた小鹿のようにフルフルと震え、すっかり顔を青くさせてしまっている。


 うん、そうなるよねー。僕も怖いもん。めっちゃ怖いもん。漏らしそうなくらい怖い。――――幼女が失禁って、ってこれさっきもやったな……ッじゃない! 何現実逃避しているんだ僕!


「花音落ち着いて、落ち着いて……な?」


「お兄、ちゃん? ――――今の、どういうこと?」


 先ほどまでの時は無いが、しかし拒否を許さぬ圧倒的な圧力がその言葉にはあった。


 な、何とかして言い訳を……あ、そうだ!


「花音。僕は引き籠りのオタクだった。それは知っているよね?」


「幼女姿で言われると違和感が半端じゃないけど……うん、知ってる」


「じゃあ、オタクが女性に免疫が無い、と言うことは?」


「うん、テレビで犯罪者予備軍って言ってた」


 そのテレビ局破壊したいなぁ。

 ま、そんなことは置いといて……。


「つまりは女性に免疫のない僕は目があっただけで照れてしまうんだ。今僕がリーフさんと目が合って頬を赤らめたのはそう言うことなんだよ」


 大好きな妹に嘘をつくのは大変心苦しいが、こうしないともっと辛い苦しみの上に安らかな眠りを僕とリーフさんは花音によって与えられることだろう。


「――――うん、わかった」


「ありがとう。僕は花音が大好きだからな」


 兄妹として。

 

 そう思うも、しかし心の内に仕舞い込む。

 また騙す。大事な妹に嘘をつくことでなんになるんだ。問題を先延ばしにしているだけではないのか? それに……と思いリーフさんを見ると彼女も心底悔しそうな表情で座っていた。

 彼女にもわからないんだ。僕との関係を花音に認めさせる方法が……。


 好きな女にあんな顔をさせてどうするんだッ!

 ――――でも、そう思うも明確な解決策が思い浮かぶわけではない。


 自分のふがいなさに唇を噛む。


「私もお兄ちゃんが大好きだから! 好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで……大っ好きだから!」


 狂ったような笑みを浮かべて花音は言った。

 その笑顔は狂気に隠れてわずかに無邪気さが見られる。


 花音は自覚していないのだろう。自分が異常だと言うことを。

 花音からしてみれば普通の恋愛をしている気分なのかもしれない、だけどそれは歪んでいて、間違っていて、そして絶対に実らせてはいけない恋の蕾だ。ま、むしりとろうと手を伸ばせば毒針で殺されるんだがな。


 そんな物思いにふけりながら僕は花音の頭を優しく撫でた。


 ――――草原を風が駆け抜ける。

 僕の白髪がさらさらと揺れた。

 それと同時に僕は未だ胸中を埋め尽くす疑問を解決させていこうと再度リーフさんとの問答を開始した。


+++


 尋ねたのはやはり気になるステータスについての事だ。

 攻撃力、防御力、素早さ。ここまではわかるが残りの二つ、特殊攻撃と特殊防御は僕のやっていたゲームには存在しなかった項目だ。

 ま、特殊攻撃の数値がゲーム時代の《魔力》って言う項目の物と同じであったり、特殊防御が《魔法耐性》と言う相手から受ける魔法攻撃のダメージをどれだけ減らせるかと言う項目と同じだったことからおそらくそれと同じだろうが……。


 そんな気持ちで尋ねるとやはり特殊攻撃は自信が行うことの出来る魔法の攻撃力を表しており、特殊防御は魔法攻撃を受ける際に威力が弱くなって伝わると言うものらしい。


 他にもレベルアップなんかについて尋ねれば、モンスター(さっきの化け物のような生き物の事らしい)を倒すことで経験値が入り、一定量を超えるとレベルアップ。まんまゲームである。


 あ、それとそんなステータスの話をしているとやはりと言うかなんというか花音がリーフさんを馬鹿にし始めた。


「お兄ちゃんの足引っ張らないでよ?」


 僕としてはいくらでも引っ張って頼って欲しいんだがな。

 か弱い女性を助けたいと言うのは男性の性と言うやつだ。


「べ、別にステータス自体は普通ですし! 平均的なLV1ですもん! ――――そ、れ、に! 私は妹さんより特殊攻撃が上ですよ?」


 にやっと笑って胸を張り花音に告げるリーフさん。

 いや、それよりも「もん」って……なんすかそれ、可愛いっすね。


「まぁまぁ。危なくなったら僕が肉壁になって二人を守るからさ、仲良くしてよ」


 いがみ合う二人をなだめるとその視線が僕に集まり、それから大人しくなってくれた。

 ん? いきなりどうしたんだろう。


「いくら中身が勇敢でカッコいい咲夜君でも、幼子に壁になられる女神の図など想像もしたくありません……」


「幼女に守られている図って……虐待もいいとこだね……」


 あ、僕幼女なんだった。

 そりゃ幼女前に立たせてその間にしっぽ巻いて逃げている図なんて最低にもほどがあるだろう。


「――――。だからとにかく仲良くしてくれたらそれでいいから。ね?」


 言うとはーいと花音の間延びした返事と、わかりました! と元気の良いリーフさんの返事が返ってきたのを耳にし、満足げに頷いておく。

 頼むからこのまま仲良くして行ってほしいものだ。


「と、そう言えば今、咲夜君は肉壁になるって言ってましたけどレベルアップしておかないとそれはちょっと無理があるかもしれません」


 思い出したように告げてくるリーフさん。いったいどういうことだ?


「と言うと?」


「咲夜君のステータスは確かに高いです。おそらくこの世界において一番高レベルの人間と同等かそれ以上の力があります。ですがこの世界には人間では太刀打ちできない強大なモンスターも多く存在しその場合レベルを上げていない咲夜君では……死んでしまうかもしれません」


 つまりはレベルを上げてステータスを上昇させておかなくては完全なチートの体になって二人を守ることはできない、と言うことか。


「ですがリーフさんも知っていると思いますが僕は争いが苦手ですし、たぶんこのまま街にでも言って適当にゆっくり生きていくと思いますよ?」


 リーフさんの意見ももっともなのだが、しかし僕は好んで戦闘をするつもりはない。

 さっきは確かに肉壁などと言ったが、二人がピンチに陥ればの話であって、僕は二人を危険にさらすような場所で生きていくつもりはない。

 街の中で平和ボケした日本人らしくのんびりと過ごす。これ常識。


「はい、知ってます。でも、街も絶対に安全とは言い切れません。何せここは咲夜君や妹さん……いえ、花音ちゃんと呼ばせてもらいます。花音ちゃんからすれば『異世界』ですから」


 真剣をその表情に張り付け僕たちを見てくるリーフさん。

 その声に乗った迫力に、そして重みに思わず息を飲んだ。


 にしても異世界の一言で何でもありの世界を認められるんだから、便利な物だよなぁ。今度から使おうっと。


 じゃなくって街でも安全ではないとはやはりそれほどまでの強大な力を持った……それこそ怪鳥の前に見たあのドラゴンなんてのがそれなのかもしれない。


「……でも、生き物を殺すのは……。うん、あまり気が進みません」


 別に可哀想とか、偽善で言っているのではない。ただその生物の命にピリオドを打つと言う行為が酷く嫌いなのだ。おぞましいくそれでいて怖い。


「それは……それは咲夜くんの美点です。ですが同時に欠点でもあります。生き物を殺したくない、それはとても良いことですが同時に自分の身に危険が及んだとき、躊躇い対処できずに死んでしまっては意味がありません」


「――――」


 わからない。なんと返していいのかわからない。

 リーフさんの言っていることは酷く正論で、しかしそれ故に答えに詰まる。


 それを見かねたリーフさんは一つ溜め息をつくと、「それでしたら」と言葉を続ける。


「選んでください。他の生き物を殺して花音ちゃんを守るか、花音ちゃんを危険にさらしながら無意味な非殺生を掲げ続けるかを」


 ここで自分の名前を出さず花音の名前を出す辺りやはり僕のことをずっと見ていたと言うのがわかる。

 リーフさんはきちんと理解している。僕がリーフさんのことを好きだと言うことも、しかしそれでも花音の身をを優先するくらい家族愛が強い人間だと言うことを……。

 見透かされていることに悔しい気持ちを覚え、そしてそれが思い人であることにさらに屈辱を感じた。


 リーフさんは僕なんかのことを好きだといってくれた。だと言うのに僕は恋愛感情と言う面では彼女が好きだが、単純な愛と言う観点で言えば今だ花音が上で、そしてこれからも花音が誰かと結婚するまでそれは変わらないだろう。


 最低だ。


「卑怯ですね」


 口からそんな言葉が漏れる。

 違う、これはただの八つ当たりだ。

 くそッ僕は何処まで最低なんだッ!


「なんとでも罵ってくれて構いません。えーっと、我々の業界ではむしろご褒美です! でしたっけ?」


 舌を出してはにかむリーフさん。

 さっきも思ったけどこの人は僕を見続けすぎてネットスラングを少なからず知っているようだ。その内『そんな装備で大丈夫か?』とか言ってきそうで怖いなぁ。


 しかし、リーフさんがおどけてくれたお陰で暗い思考になり始めていたのが何とか抑えられた。

 そうだ今はそんなことをしている暇はない。


「……花音を守るために生き物を殺す。殺したくはないし、戦いのために備えておくなんて物騒なフラグは立てたくないけど……でも、それもこれも花音のためです」


 そしてリーフさん(あなた)のためです。

 口には出さないけど、僕は心のなかで決意する。


 この二人を危険な目に遭わせないために、そしてもし遭ってしまったときのために僕はレベルをあげると言うことを。


「お兄ちゃんが強くなるなら花音も並べるように頑張るね! お兄ちゃんに釣り合えるよう頑張るから!」


 と、僕の横で今まで静かに見ていた花音が声をあげ、握りこぶしを作り笑顔で伝えてくる。

 ――――まあ、ずっと僕と行動し続けるのも無理があるし自分の身を守れるに越したことはない……のかなぁ?


 ま、花音のレベル上げをするにしてもリーフさんのレベル上げをするにしてもとにかくは……


「僕が強くなって安全マージンを取れるようになってからだな。それまでは二人は僕の背に隠れるようにしてね?」


 言うと二人は苦笑を浮かべる。

 幼女ボディの僕の後ろにかくれている姿でも想像したのだろう。


 僕も思い浮かべて、思わず苦笑を漏らしたのは言うまでもないことだ。

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