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偶然の点  作者: saho
3/4

 黒塗りの高級車に乗せられて連れて行かれたのは、高級マンション。

(すっすごい・・・億ションってこんな感じなのかな)

オートロックも初めてだが、明るく広々としたエントランスに見蕩れてしまった。

 行き先階がひとつしかないエレベーターは、鍵と暗証番号で動き出した。

揺れを感じないエレベーターを降り、キョロキョロと見渡したフロアには、部屋はひとつだけだった。

(信じられない・・・)

ようやく到着した部屋の玄関を開け、靴を脱ぎ、まっすぐ突き当たりの部屋に通される。

そこはとても広く明るかったが、ひどく殺風景なリビングだった。


 ソファーに座るよう促され、コーヒーが目の前に出される。

ひと通りいきわたると、エリートの横にずっといた男が話し出した。

「さて、まずは初対面ですし、自己紹介といきましょうか。私はみなみ。彼の秘書をしています。

 今後は度々ご連絡することもあるでしょうから、よろしくお願いいたします。そして彼は、神津武明

 (こうづたけあき)。神津産業の社長です」

「・・・・・・やっぱり」

「何がだ」

 車に乗ってから一度も口を開かなかった彼・神津が尋ねてきた。

「う~ん、エリートだろうなって思っていたから。だから、やっぱり社長なんだって思って・・・・・・あぁ!

 ご、ごめんなさい!社長さんなのに馴れ馴れしい言葉遣いで。あの、お、俺、違った、私は宮前晃

 (みやまえあきら)、20歳です」

「「「え?」」」

目の前の二人とキッチンから合わせたような声。

「・・・・・・本当です」

この童顔のせいで、いつもこんな反応だ。

分かってはいても凹みそうだ。


「大人なら問題はない」

ゆったりと構えたままの神津を見つめる。

いつもなら、信じてもらえないか、「子供にやらせる仕事はない」とすげもなく断られるかだ。

そう言われたのは初めてだった。

思わず笑顔が浮かぶ。本人も忘れていた、久しぶりの笑顔だった。


 後日、雇用契約書を取り交わすことにして、彼らは帰っていった。

今、この広いマンションに1人きりだ。

与えられた部屋に入り、とりあえず、僅かながらの荷物を片付ける。

「・・・俺、本当に住み込んでいいんだよな・・・」

あまりの幸運に、不安が持ち上がってくる。夢じゃないかと。


 中卒者への求人の無さは、社会に出ると決めたときから分かっていた。だから、それは我慢できた。

しかし、首になり、住むところを失ってからの苦労は想像を超えていた。

街中にいても誰とも話をすることもない孤独。

朝起きたときから、夜どこで寝ようかと考え続ける毎日。

人目を避けて眠りについても寒くて怖くて、よくは眠れなかった。

中卒で断られ、卒業証書で成人だと証明しても見た目で断られ、上手くいっても、最後は住所不定で

断られる日々。

だから、今はこの仕事に縋るしかない。


「ぐだぐだ考えても仕方がない。試用期間3ヶ月って南さんが言ってたし、やるだけやってみよう。」

今なら住所もできたんだし、万が一のことを考えても3ヶ月の間に仕事は見つかるだろう。

そう気持ちを切り替えることにして立ち上がり、キッチンへと向かった。

(今夜の夕飯は何にしょうかな~)

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