レグマーニ学園
今後の方針に決着が付き俺たち一向はボーダントの街を後にすることになった。
身支度を終えカスタル地方へ役2日ほどの移動となった。
カスタル地方へと向かう馬車の定期便に乗り込み一行は静かに馬車の中で揺られる旅となった。
移動中は俺の元いた世界について話を全員に聞かせたりしていたがレーネは途中で聞き飽きたのか話の途中で寝息をたて馬車の中での大半を寝て過ごしていた。
夜に迎えると馬車は進めることができないので途中でテントを広げ暗い間はキャンプで一夜を過ごす。
その間は魔物とやらが襲ってくる可能性があるので見張りを交代で行うのだが俺たちは馬車の乗車客として乗車しているので見張りは馬車の運航を行っている商人の傭兵が執り行っている。
今のところ魔物を見たことがないので一体どういう生き物なのか分からないが人を襲う野犬みたいなものだと思っておこう。
メイラとエリーゼは一度テントで休むと言って休息をとっている。
焚火の周りで暖を取る俺とメルデとレーネの3人は静かに燃える炎を見つめていたが、突然メルデから「お前の空手とカポエラってやつだったか?そいつを実際にみてみてぇ」と言われ戦いの申し込みをされたので黒肌の巨漢メルデを相手にスパーリングを行うことになった。
2メートルを超え更に鍛え抜かれた逞しい筋肉男を目の前にするとその体の大きさにビビる、つか倒せる気がしねぇ。
身長差が30センチ以上違えば当然腕や足のリーチに不利が生じる。
そこで相手の間合いを取りつつ錯乱させる為に左右にステップを踏み踊るように足技で相手に打撃を狙うカポエラ独特のファイティングスタイルで臨むことにした。
まず先手はメルデで突進して俺を羽交い締めにして動きを止めようとしたのだろう、俺はすぐさま突進を横にステップを踏み避けつつ体を捻りを入れた上段蹴りで胸元を狙った。
巨大なその体に似合わずすぐさま蹴りに反応して受けの構えを取るメルデ、ここまで俊敏に反応できることに俺は少々驚いてしまった。
だが驚くのもつかの間、勝負はあっさりと決まってしまった。
上段蹴りを腕2本で受け止めたメルデの体は宙を舞い吹き飛ばしてしまった。
体重150キロ近くはあるであろうと俺は予想してしていたのだが力加減を誤ってしまった。
いや結構加減をしたつもりなのだがこの世界に移動したことにより肉体が強化された体は予想以上に強力すぎる、いやこれは強化され過ぎだ・・・・・・。
慌ててメルデを助けに行こうと思ったその瞬間、宙に舞うメルデは体を小さく丸めアクロバティックにバク宙しながら見事に着地を決めていたのだ。
巨体にも関わらずしなやかに動く姿は人間とは思えない身体能力を見せつけ更に驚かされてしまった。
「痛ってぇ~!!なんつう脚力してんだよおめぇはよぉ!!生身の人間でここまでぶっ飛ばされたのは初めてだぜおい」
手加減をしていたとはいえ人を吹き飛ばす程の威力だ。
通常なら唯では済まないのだがメルデは全く怪我もなくピンピンしている・・・・・・なんて化物だよ、あっ俺も一応化物の部類だよな。
とりあえずメルデに体に心配はないか尋ねると「驚いたが体は全然平気だ」と言うので安心した。
一応手加減はしたんだと説明を入れて詫びを入れると・・・・・・
「おいおい本気かよ、あれで本気じゃねぇって・・・・・・今後おめぇと殴り会いしたくねぇよ。素手だけでこんだけ破壊力ありゃ武器なしで魔物もぶちのめせるなおい」
「すごい、ハル化物」
吹き飛ばされて戦いたくないと言われつつも楽しそうに笑うメルデに拍手を後ろから送るレーネがいた。
しかしこの戦いを楽しんでいる姿を見るともうすげぇよと言うしかない。
一つ今のメルデの言葉に気になっていたことがあったので聞いてみた。
「なぁメルデ、俺はまだ魔物っていう生き物を見たことがないんだけども素手じゃ倒せないもんなのか?」
俺のいた世界じゃ熊を稽古の相手として勝ってしまう武術の達人もいるくらいだ。
それなら極める人間がこの世界に1人や2人いてもおかしくはないと思う。
「いや魔物ってのはそんな弱いもんじゃねぇからな。確かに剣術家はある程度体術を会得して身体能力を高めるんだが通常の人間が放つ拳の威力なんて内臓を破壊できる威力はねぇんだ。だから剣や魔法で一撃で仕留める武器が必要っつう話な訳だが、おめぇみたいに素手の力で魔物の体を引きちぎる化物じみた破壊力がある奴じゃねぇと武器として使えねぇな。つかまず剛腕のドワーフですらこんな力でねぇよ」
やはりこの破壊力はチート級か、それにしても今度はドワーフと言葉が出てきたということはこの世界はエリーゼの尻尾と頭の上に耳があるケモミミ種族の他に様々な種族がいると考えられる。
俺が読んできたファンタジー小説なんかにはエルフ族だの竜族だの登場していたのでそれを考えると俺って本当にファンタジーな異世界に飛ばされたんだなとつくづく思ってしまう。
とりあえずメルデにドワーフ族について質問してみたがおおよそ俺の知っている剛腕で鍛冶が得意としているドワーフ族の特徴に酷似しているようだ。
そして予想していた通りにエルフ族や竜族など世界には他の種族がいることが分かった。
この世界の種族についてメルデに尋ねているといつの間にか夜が明けていた。
メルデからは「俺のいた国は田舎に近い所だったから世界にいる種族は全て見たことがねぇから詳しくはこれから学園で調べりゃいい」と一言告げられ馬車を出発する準備に取り掛かっていた。
確かに俺の性格は何でも知りたいと本を貪るほどの博学な性格でなく自身で見たものから初めて知識を吸収することのほうが多い。
俺自身が言うのもあれだが勉強が苦手な訳ではなく、知識に対して貪欲故に勉強する姿勢自体が面倒と思っている。
けれども必要とあらばしぶしぶ本や目に見たことを見て学習し身に付ける才能は割と高かったりする。
おかげで学生時代は試験前日の夜に初めて試験勉強で教科書を読み、赤点を回避できるだけの才能はあったりする。
そんなことを思い出ししつつも馬車の乗っかりゆったりした長い旅も間もなく終わりを迎えカスタル地方に入りレグマーニ学院があるモントレモーラという街へと到着した。
モントレモーラの街の外観は中世ヨーロッパと思えるようなレンガ造りの家々が並び、路上には多くの人々が見える。
特に特徴的だったのが人々の服装が青基調の服装に白のローブを羽織っているスタイルが目立つ。
どうやらあれがレグマーニ学院の制服らしい。
とても爽やかさがある制服なことで。
早速ながら入学の手続きを済ませる為、俺とメイラとエリーゼはレグマーニ学院の事務室へ行くことに、メルデとレーネはこの街の近辺にこれから住む拠点を探しに不動産を探すこととなった。
街をきょろきょろと見ながら歩きレグマーニ学院の事務所まで到着した。
中へ入ると結構フロントが広く様々な資料やパンフレットなどが見受けられる
受付奥では事務職員だろう、10人近くの人たちがせっせと仕事に勤しんで事務作業をこなしている。
カウンターに向かい俺たちは事務職員に事前に記述済みの入学願書を提出し審査待ちをすることになった。
レグマーニ学院の入学は比較的容易なものらしく大抵は授業料を払える者であれば入学することが可能だとか、ただし卒業に関しては研究論文を完成させ高い学生成績を残した者だけが卒業できるらしい。
入学は容易だが卒業は勉強で成績を残した者しかできない辺りアメリカンスタイルな学園だ。
暫く待つと先ほど事務処理していた職員に呼び出され審査結果を報告を聞いてみると何やら1次審査を通過したということらしい。
あれ?
1次審査通過?
授業料払えば入学できるのではなかったのだろうか?
それとも入学条件が変わってしまったのだろうか、ともあれエリーゼは事務職員に次の審査について質問をすると驚いたことにこの学園の校長と面接を受けてくれとのことだった。
企業面接受けに来たんじゃないんだけどもな・・・・・・しかし今まで校長と直接面接なんてことは通常ではなかったことであったらしく事務職員も困りながらも俺たちを校長室まで案内することとなった。
俺たちは案内されレグマーニ学院の校長室まで来ていた。
しかしいきなり学園のトップと面接だなんて緊張するな・・・・・・メイラを見ると彼女は王族だった余裕からなのか対して緊張している様子が見られない。
つか俺の服装ってランニング用のウポーツウェアのままなのだが大丈夫なのかなぁ・・・・・・
校長室の扉をノックすると部屋の奥から「どうぞお入りください」と声が聞こえたので挨拶をして部屋の扉を開けた。
部屋の奥には椅子に腰を掛けたメガネをかけた老人がいた。
この人がどうやらレグマーニ学院の校長のようだ。
「この度は本学園の入学希望をして頂き誠に有難うございます。私が本学園の校長を務めておりますリヴォル・オルファンで御座います。秋篠春馬殿とメイラ・ルチェ・メルフェーレ殿、さぁこちらの椅子にお座りください」
一礼して椅子に座ると早速、リヴォル校長から今回の面接に関し直接面接という理由について聞くことになった。
「通常の手続きと異なり、いきなりの私との面接をお願いして大変失礼でありました秋篠殿にメイラ殿、貴殿の入学に関しましては学園校長である私がこの場をもって入学許可を致しましょう。まずは入学おめでとうございますとお伝えいたしましょう」
なにやらあっさりと入学許可が降りてしまった。
入学許可を校長が直々に言うだけ為に俺らを呼んだのか?
いや普通に考えればそれだけの為に呼ぶ訳はないだろう。
「さて次に貴殿をここまで招いた理由についてですが、まずメイラ・ルチェ・メルフェーレ殿、貴殿は本学院での調査によりますと閃煌剣術の中で最高位の地位に立たれる人物とお聞きしますがお間違えないで御座いませんでしょうか?」
「如何にも私は閃煌剣術士であり閃煌剣術の最高位の称号を授けられましたメイラ・ルチェ・メルフェーレその者であります」
メイラはリヴォル校長の前に閃煌剣術を証明する紋章が刻まれた剣を見せた。
メガネに手をかざし確かに間違いないと確認するとリヴォル校長はメイラにひとつ質問を投げかけた。
「閃煌剣術の紋章しかと拝見させて頂きました。ひとつお聞きしたいのですがなぜ閃煌剣術の最高位でおられるメイラ殿が本学院を希望されたので御座いましょうか?貴殿の実力で御座いますならば我が学園で剣術を学ばずとも十分であると同時に我が学園の教師でメイラ殿に対し剣術指南できる者はおりません。これを踏まえ本学園に入学するということに疑問がありました故に、まずひとつ理由をお聞かせ願えませんでしょうか」
早速、メイラの入学理由について疑問されてしまった。
しかもこの学校の校長である人物からだ。
まぁこの手の質問はされるだろうと予想していたことだったので予めこの質問の対策はバッチリである。
打ち合わせ通りエリーゼはメイラの入学理由を言おうとした時だった。
リヴォル校長から驚きの言葉を聞くこととなった。
「いや、無粋な質問をしてしまい申し訳ございませんでした。恐らくでしょうがメイラ殿が入学される理由は隣に座られております秋篠春馬殿の護衛で御座いませんかね?そして護衛理由が秋篠春馬殿の体内に宿す女神の大秘宝とされるひとつ天の祈珠を守るという使命であるからで御座いますでしょうか?」
そんな馬鹿な・・・・・・天の祈珠について何一つ口に出していないというのに何故気づいているのいるんだ。
突然のことにメイラもエリーゼも困惑を隠しきれない。
誰にも知られないように天の祈珠について隠し通すつもりがあっさりと存在がばれ、しかもこれから入学する学園の校長である者に知られているという事態。
予想外すぎた。
既に天の祈珠の存在を知る者がいるという対策など想定していなかっただけにこれはマズい。
緊張を隠せない俺たち3人を見てリヴォル校長は再びメガネに手をかざし不気味な笑みをこぼした。
「その御様子をお見受けしますとどうやら本当のようでございますな」
リヴォル校長の口元がにやりと歯が見えた瞬間・・・・・・
メイラの目にも留まらぬ速さで剣を引き抜きリヴォル校長の首元に剣を突き付けていた。
「リヴォル校長、何故貴方が天の祈種についてご存知なのでしょうか?今この場で知っている理由をお聞かせ願います。もしお答えにならなければ・・・・・・分かっておりますでしょうね?」
既にメイラから夥しい殺気を周囲に放ちリヴォル校長をいつでも首を落とせる状態であった。
「・・・・・・お見事な抜刀で御座います。しかしながらこの間合いを持ってしてもメイラ殿の剣は私の首を切り落とすことができませんがね」
切り落とせないだと・・・・・・すでに剣の切っ先は喉元に向けて突き付けているのにも関わらずリヴォル校長は冷静にいる。
「ではお答え致しましょう。何故に天の祈珠の存在を私が知っているのかという理由で御座いますが私もですね秋篠春馬殿と同様に女神の大秘宝を宿す人間であるからであります」
耳を疑ってしまった。
女神の大秘宝を持っている・・・・・・だと。
またもや驚愕の事実に耳にした俺ら3人は当然再び驚きを隠さずにはいられなかった。
「驚きになられましたかね?ご心配になさらないでくだされ、私もまた女神カンティーニ様のご加護を授かりし者であります。私が宿す大秘宝は”契りの遵奉珠”と呼ばれる物でしてね、私がこの大秘宝に誓いの宣言を告げることにより定められた地域に結界が発動されます。この結界内にいる限り私は何人の攻撃を受けることは一切御座いません。また結界内のみ存在するものに対し、私の意思によって恩寵を分け与えることができます。恩寵を受けたものは私同様に一切の攻撃を受けることは御座いません」
リヴォル校長は喉元に突き付けられた剣を振り払い、静かに椅子から立ち上がった。
「私が”契りの遵奉珠”に誓いを立てた地域とはこのレグマーニ学院全て・・・・・・私がこの学園に存在する限りこの学園は絶対の安全をお約束致しましょう。そして同じ女神の大秘宝を宿す者を互いに守り抜くのも我が使命であります。秋篠春馬殿、我がレグマーニ学院に御在学の間、校長である私がお守り致しましょうぞ」
ニカっと歯を見せ笑顔で答えるリヴォル校長。
「・・・・・・っえ、っあ・・・・・・もっ申し訳ございません!!閃煌剣術士メイラ一生の不覚で御座いました」
剣を突き付けていたメイラは慌てて剣を収め俺とエリーゼも一緒に校長に謝った。
俺と同じく女神の大秘宝を宿すリヴォル校長、予想外を更に超える予想外の出来事に事態の全てを全て把握するのに少々時間を要したのは言うまでもない。
女神の大秘宝”契りの遵奉珠”の宿主、レグマーニ学院の校長であるリヴォル校長より入学許可の宣言と共に俺らのレグマーニ学院の学園生活が始まるのであった。