ケモミミお姫様と世界事情
平日、定期的に投稿ができない社会人故に本日2話目を投稿させて頂きました。お許しください!
「その人は誰ですか?」
俺の目の前に現れたお姫様にはなんと耳と尻尾が生えていた。
「しっしっぽぉーとみみぃー!?」
「おや貴方様は獣人種をご存じないのでしょうか?」
耳と尻尾が生えた彼女は首を傾げ訪ねてくるとメイラが俺の紹介を始めた。
「姫様この人の紹介をしましょう。彼の名はハル、カンティーニ様のご加護でこの世界にやってきた異世界の方です。本名はええーと・・・・・・」
「アルビノ・ハルマでしたか?」
「誰がアルビノだこの野郎、秋篠だアキシノ」
「あらごめんなさい、私は結構人の顔と名前を覚えるのが得意な方だと思ってたんですが」
メイラは申し訳なさそうに頭を下げて謝ってくれているから悪気はきっとないのだろうが、セリフの言い回し的にどうも悪意を感じざる得ない。
「まぁ、本当ですかメイラ?ハル様はカンティーニ様に会われたのですか」
「恐らく間違いはないと思います姫様、彼は王族間でしか知られることのない気まぐれの空間に天命の選択肢を知っておりました。更に言い伝えの内容とほぼ同じことを語られていたので彼の言っていることは嘘ではないと思います。」
「まぁカンティーニ様のご加護を受けたハル様はなんと素晴らしい方なのでしょう・・・・・・あっ申し上げるのを忘れてしまいました、私の名前はエリーゼ・メル・ド・ア・ヴァルコット、獣人族にして聖歌を受け継ぐ歌の巫女であります。よろしくお願い致しますハル様」
「俺のことは様はつけなくていいよ、ハルでいい」
「わかりましたハル、では私のこともエリーゼとでも呼んで下さい」
「わかった、こちらこそよろしくエリーゼ」
こうして俺はメアラと握手を交わした。
「よし!挨拶も終わったことだしそろそろ飯にしねぇか?今日はそこそこの収入も入ったし何よりハルが仲間になったんだ。ここはパァッと飲まねぇとなぁ!」
「ハル、仲良しさんの握手終わった。美味しいご飯食べよう、うんそうしよう」
「そうね、メルデとレーネの言う通りね。早速食事へと参りましょうか」
俺たちはレストランへと移動することとなった。
そういえばこの世界の料理とは一体どんなものか俺は知らないので少し気にしてしまったがいざテーブルに運ばれた料理を見ると肉も魚も前にいた世界と見た目はあまり変わらない様子なので多少の安心はできた。
ただどんな素材はわからないがいざ口にしてみると味も美味しくこの世界の食事も問題なさそうだ。
メルデは大量の酒と肉料理を頼み込み物凄い勢いで腹に収めていく。
隣に座るレーネはメルデと違い何種類もの魚料理を頼み手掴みで魚を頬張っている。
メイラとエリーゼの2人は野菜主体とした食事を食べていて、エリーゼに関しては野菜料理の他にデザート系の料理が多く並んでいる。
どうやら彼女は甘党みたいなようだ。
「んーこのケーキ美味しいわ」
「姫様、甘いものは食事の最後に食べてください。バランス良く食べないと体に宜しくありませんといつも言ってますでしょう」
「もうーメイラは心配症すぎます。あと姫様と呼ぶのはやめなさいといつも言っているでしょう」
「それはそうですが・・・・・・しかしですね」
「しかしもでもじゃありません!!ふーんだ」
エリーゼがメイラにお説教をされて拗ねてしまったようだ。
メイラには申し訳ないがエリーゼが拗ねている姿を見るととても可愛らしく俺的には親指を立ててグッジョブとしたいところだ。
「そういえばさっきからエリーゼのことをみんな姫様と呼んでるけどもどこかの国の王女様なのか?」
「ああ、ハルはこの世界の事情について何も知らないんでしたね。ならばハルにもまず知ってもらわねばなりませんね」
エリーゼがそういうと先ほど騒いでいた3人の表情が少し暗く俯いた表情に変わっていた。
「さて何から話をしましょうか・・・・・・そうですね、まずは私について話しましょう」
エリーゼの表情は先ほどの柔らかな表情から真っ直ぐ真剣な眼差しに変わっている。
これから話す話はどうやら軽い話ではなさそうだ。
「私は聖歌を受け継ぐ歌の巫女、聖なる力を有する”聖人”(サンクチュア)と呼ばれる特別な人物になります。具体的な能力としては歌を歌うことで魔法の障壁と他者に大きな力を与える能力を持っています。またもうひとつ歌を歌うことで傷を負った人を癒す力を持っています」
彼女はそのまま続けて淡々と話を進めていく。
「そして聖人である私ですがここから遥か西にあるベルトニア公国の”元”王女でありました」
「元王女?」
俺の疑問に彼女は反応し、はいそうですと答えた。
「今から6年前に遡ります。今まで平穏に過ごしてきたベルトニアである者たちが侵略してきました。彼らの名はローグバブリア・・・・・・彼らは国を持たず軍事戦略組織として活動する恐ろしい連中です。ローグバブリアの侵略の特徴は宣戦布告による武力侵略です。国でない彼らにとって国際条約という言葉を知らず数年でベルトニア公国含め近隣国10を超える国が滅亡してしまいました」
ローグバブリアという組織によってエリーゼの国が滅亡してしまったこと、ローグバブリアの侵略について語る彼女の言葉は次第に重く喋り続けるのが辛そうになっているがエリーゼは苦しみながらも続きの話を語り続けていく。
「ローグバブリアの侵略は数国したうちメイラ、メルデ、レーネの3人も滅亡に追い込まれた民であります」
彼らもまたローグバブリアの侵略に故郷を失った者たちだった。
3人は何も語らず静かにエリーゼの話に耳を傾けるだけであり座り続けている。
そもそも宣戦布告にしても軍事組織ひとつが短い期間の間に複数の国をいとも容易く滅亡することができるのだろうか?
圧倒的な武力を持っていたとしても他の国が黙っている訳はなさそうだし国の規模は分からないが大きいとなると長引きそうな気もする・・・・・・いやあまり浅はかな詮索はただ墓穴を掘るだけだろうしここは聞いてみるのが一番だろう。
「ひとつ聞きたいんだけどもそのローグバブリアってのはどんなやり方で攻めてくるんだ?」
「彼らの侵略方法はどの国の侵略でも一貫して同じやり方で攻めてきます。そしてその侵略方法はあまりに異常と言わざるを得ない方法によって防衛線を立てる余地がありませんでした」
「その方法ってのは魔法なのか?」
「魔法による攻撃も確かにありましたが、この世界には魔法に対する対策など数多くあるので最大の脅威ではありません。しかしローグバブリアは侵略対象と定めた国の中央に突如魔方陣を展開しワームビーストやデッドファングなどの魔物を操り魔方陣から召喚させ侵略を始めます。そもそも魔物を操れる時点で常軌を逸していると言ってしまえばわかって頂けますでしょうか?極めつけは上空に魔方陣を展開し大量の爆弾を投下されもはや土地獲得の為に侵略を行うためではなく殺戮のみを目的としか考えられないことを行ってきたのです」
国境を歩いて越えず神出鬼没に現れ、チートの如く魔物を国のど真ん中に放ち、おまけに上空から無差別空爆をするとか確かに手の打ちようがないな。
「私たちは窮地を追い込まれたもののこうして奇跡的に生き延びることはできましたが、国に住んでいた民のほとんどが犠牲になりました。本来ならば王たる私など生きることなど一切許されないことなのですが・・・・・・彼らの侵略は王都を一番先に破壊を始め国の中枢機関を完全に停止させてから国の全体に侵略を始めるのでどうしようもなかったというのが事実なのです」
なんという禍々しい攻め方なんだろうか、俺はこの話に最も相応しいと思われる台詞を思い出した。
いとも容易く行われるえげつない行為がまさにこれにも当てはまるんじゃないかって思うくらいに。
「さてそろそろ祖国の暗い話についてはここらへんで終わりにしましょうか。私はこうして奇跡的に生きています。今私の目の前にいる彼と彼女ら3人による救いによるおかげです。私たちは今生きていることを感謝しいつか奪われた故郷を取り戻す為に、そして必ずローグバブリアを打ち滅ぼすこの2つ目標の為に旅を続けているのです」
この先どれだけ危険があったとしてもエリーゼの目にはどんな困難にも立ち向かう決意の眼差しをしており、彼女の赤い瞳は更に赤く真紅に燃え盛るほどの目の色をしていた。
怒り、苦しみ、悲しみ、憎悪の全てを背中に背負い、いつか全てを奪ったローグバブリアを滅ぼす為に奮起して語る彼女を姿を見ると俺は拳を握り頷くことしかできない。
「最後に私を救い出してくれた3人ついても簡単に紹介しましょうかしら。まずはメイラね、彼女は私の隣国であるダルトナ国の王族直属騎士で閃煌剣術の最高位に位置する剣士でもあるの。王国間の交流で何度も彼女と顔を合わせたことがあったので私を救ってくれた時も全身全霊で守ってくれた騎士に恥じない人よ」
「次にメルデはメイラと同じ国に属する民で歩けども、彼は彼女とは真逆に奴隷や犯罪者を束ねる裏社会で暗躍していた組織のリーダーで一見メイラの目の敵とされそうな人物だけどもメルデの裏社会での活動は犯罪者の抑制や借金を返済することのできない人物のみを奴隷として活動してたみたいでね、一応は国の治安を守る必要悪な立場にいたのが彼なの。裏の有名人もあってかメイラと面識あったみたいだし今だから言えるけども賄賂を渡していたこともあるらしいわ。そのお蔭で私たちが逃げている時に彼を見つけ逃げる為の協定を結び、彼の裏社会で培われた情報力によって逃げ出すことができたといっても過言ではいわ」
「最後にレーネね。彼女は私の国から少し離れたコルウェイという土地のほとんどが水と森に覆われた国の出身者で弓術が得意な子なの。弓の技術は超が付くほどの腕前で100メートル先の的を射止めるほど正確な狙撃ができるの。私たちが逃走の際にこのコルウェイに辿りつき一度私が魔物に襲われることがあったのだけども彼女が弓で助けてくれたの。助けてくれたお礼をしようと彼女のとこへ行ったら彼女はローグバブリアの攻撃でかなり体がボロボロだったわ。私の歌の力で体の傷を癒してあげたら彼女は一緒についてくると言ってこうして今も私たちと一緒に行動してる訳なの」
メイラは剣術の最強の実力者で、メルデは裏世界で培われた類まれた知識力とそれを補う屈強な肉体、レーネは遠距離に関しては誰にも負けないような正確無比なスナイパースキル、彼らは生きてきた世界は違えどもその世界の頂点にいた人物がこうして一同なって行動していて、その中心で動くエリーゼの能力もチートに近い。
彼らの能力についての話を聞かされると異世界に来たばかりの俺は驚異的な身体能力程度で喜んでいたのが恥ずかしくらいに思えてきてしまった。
あれっもしかしてやっぱり格闘技って弱いの?って思ってしまう程に3人の実力がすごいと思ってしまう。
こんな時どんな顔すればいいのだろうか・・・・・・苦笑いしかでてこねぇ。
この重い雰囲気に限界が来たのかメルデがグラスに残っていた酒を一気飲みしてこう叫んだ
「だぁーもういいだろう姫様よぉ!!折角の酒がちっとも美味くねぇ!!俺たちゃ今はそいつらぶっ飛ばす為に世界を旅してる。そしていつかぶっ飛ばすために今は美味い酒を飲む!!とりあえず話はそれだけありゃいいだろう!!」
「うん、レーネも同じ。今は美味しい魚いっぱい食べる。そして悪いやつぶったおす」
「わかってんじゃねーかレーネ!!今は苦い過去話は面白かねえ!これからの為に酒を飲むんだよ」
メルデとレーネが声を荒げているところを静かにしろとメイラが2人を止めようとしていた。
その光景をみてエリーゼは先ほどの生き生きとして笑顔を取り戻し笑っている。
俺はそんな彼女を見て過去にどん底にまで落ちても尚、まだ希望の為に立ち上がる姿を見るとその屈強な心強さに全然勝てないなと思ってしまった。
俺がエリーゼの顔を見ているのを本人が気づいたところでひとつ質問を投げかけてきた。
「ところでハル、あなたの左腕に付けてるものってなんですの?」
「ああこれは腕時計だな。運動用の時計だから水に被っても平気だしこのパネルは太陽の光に当て続けると充電してくれてとりあえず半永久的に動いてくれるものだな」
エリーゼに腕時計の説明をすると時計に反応したのかメルデが驚いたように俺の時計に興味を示した。
「おっおいハル!本当にそいつは時計なのかよ」
「ああそうだけども」
「ちょっちょっと見せてくれねぇか?こっちの世界じゃ時計っつうもんはかなり貴重なもんでなしかもこんなに小さい時計なんて見たことねぇ!これが異世界の技術ってやつかよおい!」
なんか腕時計でかなり喜んで見てくれている。
さほど高い腕時計ではないのだがこれだけ興奮してみてもらうと時計がなんだかすごい物なんだと思ってしまう。
そこで俺はポケットにまだ何か向こうの世界にあった物がないか探ってみると何か手紙らしきものが入っていた。
「なんだこりゃ?」
そう言って俺はその手紙を見てみると”Dear 偶然と気まぐれの女神”書かれていた。
その手紙を見てメイラとエリーゼは興味深々にその手紙に食いついてきた。
早く開けて見せてよと催促され言われるがままに開けることにした。
”やぁ秋篠春馬
君に言い伝えるのを忘れていたので手紙を君のズボンのポケットに入れさせてもらった。
言い忘れていたことについてだが・・・・・・
君に渡した新たな力についてだ。
恐らく君はこの手紙を読む前に自信の身体能力が飛躍的に向上してこれが私の与えた力だと思って
いると思うが残念ながらそれは違う。
君のいた世界からこの世界に移ったことによる環境の差異によって得られた力だ。
よってその力は純粋に君の実力になる。
話は逸れたが私の与えた能力はこの手紙を読む時点ではたぶん使えない。
能力を解放したければボーダントという街に住むイヴァンという魔術師を探してみろ。
きっとその者が私の与えた力を解放してくれるだろう。
健闘を祈る。
”
「あの女神、かゆいところには手が届かないことをしてくれるな。なぁエリーゼ、イヴァンっていう魔術師を知らないか?」
「うーんこの街も最近来たばかりなので残念ながら情報がありませんね。こういう時はメルデを頼るのが一番でしょう」
「いや、今のところ俺もイヴァンっていうやつは知らねぇな。まぁ俺に任せろ、明日にでもなりゃ調べてきてやるからよ」
さすが情報収集家、彼がいるとかなり心強いな。
「あらハル、カンティーニ様からの手紙まだ一枚残っていますよ?」
メイラがもう一枚続きがあることに気づき俺は残りの一枚を読み上げた。
”PS
秋篠春馬
君のいた世界で君に関する記憶から記録まで全て抹消しておいた。
これで向こうの世界で思い残すことがないと思うぞ。
仮に万が一、元の世界に戻れたとしても全員赤の他人扱いされるから
”
「余計なお世話だこの駄女神野郎!!」
この後、手紙をくしゃくしゃに丸めて俺が暴れたのは言うまでもない。