新たな仲間と
目の前に現れた少女の登場により息をのんだ
恐らく彼女を見て敵かもしれない意識からではなくただ単に彼女の容姿を見て自然と体が固まった。
敵か味方かという思考を走らせる前にこの暗い森の中、彼女の辺りだけ光に照らされているかのような眩さがあった。
時が止まった世界の中で彼女の周りだけが動いているかのように。
「それにしてもそこそこ実力のある盗賊5人相手に一人で相手するなんて大したものね。あなたの名前を聞いておかないとね」
「俺の名前は秋篠春馬だ」
「私はメイラ。それにしてもあまり聞かない名前ね、秋篠春馬であってるかしら?」
「ああ俺のことはハルと呼んでもいいぞ。みんなからそう呼ばれていたからさ」
「じゃあハルって呼ばせてもらうわね、ハル」
そう言って彼女は俺の名を笑顔で呼んでくれた。
笑顔を見せた彼女もまたとても可愛らしくあり美しかった。
その時、暗い森の奥からなにやら大きな人影が現れた。
「ったくこんなところにいたかメイラ、いきなり走り出したかと思ったら・・・・・・っておいコイツ追っかけてた盗賊の頭じゃねーか!」
森の奥から現れたのは2メートルはあろう身長の黒人の大男であり、背中には彼と同じ身長くらいの高さの大剣を背負っている。
その大剣を平気で振るえそうな鍛え抜かれた筋肉はまさに戦士と言っても過言ではない体であり、優に俺の倍以上の体回りの大きさだ。
さすがにいきなりバカでかい大男が現れて俺は少しビビッてしまったがどうやらメイラの仲間のようでありホッと胸をなで下ろした。
「なんか盗賊の手下共の顔がとっても残念なことになっているの」
黒人の大男の後ろから女の子の声が聞こえてきた。
そして大男の腰の高さくらいしかない小さく白いショートヘアの髪型の女の子が大男の後ろから現れた。
瞳はエメラルドのような綺麗な緑色をしており透き通るような白い肌をしている。
顔は童顔気味でまだ子供なのだろうか?身長も150ぐらいそこそこだが大男の横に並んでいると小さい体の彼女は更に小さく見える。
そして彼女の背中に弓を背負っており、恐らく弓使いなのだろう。
「やっと来たのねメルデ、レーネ」
「ったくいつもいつも突っ走りやがって・・・・・・ん?メイラその男は一体誰だ?」
「紹介するわ、この人はこの盗賊を一人で倒した旅人よ。名前はハルっていうの」
「ほおそいつはすげぇな~!俺はそこのメイラの仲間でメルデっつうんだ」
「レーネなの。初めましてなの」
「俺は秋篠春馬、ハルと呼んでくれていい。よろしくな」
「しっかしレーネの言う通りこいつらひでぇ顔になってやがるな、ハルおめぇどうやってこいつらぶっ飛ばしたんだ?」
メルデは俺に質問しつつ吹っ飛ばした盗賊の子分どもをずるずる引きずりなが一か所に集めて回収し始めていた。
「俺は武器は使っていないよ、魔法についても使い方は分からないしただ単純に俺は素手でこいつらをぶん殴っただけだよ」
「素手でぶん殴っただけだとぉ?おいおいそれは何かの冗談か?」
メルデは目を大きくして驚いていたが何やら半信半疑な様子のようだ。
「素手だけで相手を倒すのがそんなに珍しいことなのか?」
格闘技をやっていた俺としては拳による打撃で相手を倒すことはなんら不思議ではないと思っていたのだが
「そりゃぁこの世界じゃ珍しいだろうよ。まぁ人相手なら多少殴って倒すなんてことはできなくもねぇけども魔物相手に素手で倒せるなんて聞いたことがねぇからよ」
「・・・・・・魔物?」
「おいおいまさか魔物を知らないのか?どこへ行っても魔物はいるもんなのに知らねぇってのはどっか頭つよく打っちまったか?」
「いや頭は打ってないけども俺さっきこの世界に来たばかりで元々別の世界にいた人間なんだけども」
「「「は?」」」
メイラ、メルデ、レーネ3人は声を揃えて何言ってんだという顔をした。
そりゃまぁいきなりそんな話をすれば頭大丈夫かといわれてもおかしくない話ではあるよな、当然信じちゃくれない。
「まぁ信じてはもらえないだろうけども俺は偶然と気まぐれの女神とか言ったかな、ちょっと胡散臭いその女神の力でこの世界に来たんだ」
「ちょっちょっと待って今なんて言ったの?」
「えっ胡散臭い女神?」
「それじゃなくてもっと前の言葉よ」
「偶然と気まぐれの女神?」
「そう、それよ何故あなたが女神カンティーニ様の別名の呼び名を知っているの?その名を知っているのは騎士の数少ない人間しか知られていないはずなのに」
メイラは俺があの胡散臭い女神の名前を口にした途端表情を変えやや粗い口調になって俺に言い寄ってきた。
「いや知ってるも何もあの女神が自分で言ってたことだしなぁ・・・・・・あと俺は気まぐれの空間っていう真っ白でなんもない空間に引っ張られて選択肢出されて半強制的にこの世界に飛ばされたぐらいだからなぁ」
その言葉にメイラは驚愕な事実を聞いたかのような表情となり口もすっかり空いている。
メルデとレーネはメイラの表情が珍しいのか不思議そうに首を傾げている。
「ねぇハルその言ってたことって本当にそうなの?」
メイラは嘘でないか俺に確認してきた。
「そん時は死にそうだったからぼんやりとした記憶でしかないけど嘘は言ってないぞ。それがどうした?」
「今の話が本当なら信じざる得ないことなのよ・・・・・・カンティーニ様の別名を知っている上、更に王族しか伝えられることのない気まぐれの空間と天命の選択肢、その全てを知っている者は王族以外にいないはずなのに知っているというのであればカンティーニ様に会ったとしか言いようがないのよ」
メイラはどこかの王族の人間ということか、そしたらメイラってお姫様なのだろうか・・・・・・いや王族っていろんな階級とかあったような気がするが、俺の知ってる知識なんてものは何世も王の名前を襲名してるぐらいの知識しかない。
けども王族の人間が盗賊を自ら出迎えて捉えることをするだろうか?
まぁ暴れん坊な殿様が下町の悪人を自ら成敗する時代劇があるからあり得そうな気がしないでもない。
―――――― ないか。
「とりあえず話で信じてくれたかメイラ?」
「これだけ知っていれば信じるしかないけどもはいそうですかと信じれる訳じゃないし・・・・・・ねぇハルもっとなにかカンティーニ様のことを知っているんじゃないの?」
「うーん他にあの女神についてねぇ・・・・・・今言った出来事の内容をほとんど言ったつもりだけどなぁ」
「おいおいメイラそろそろそこらでいいんじゃねーのか?ハルが言ってたことが本当だったらいいじゃねーか。俺は面倒なことは考えたくねぇしそろそろこの森からでねぇと日が暮れちまうぞ」
「そうだ日が暮れちまうぞぅ、レーネ早く帰りたいぞぅ」
俺は何か思い出すことはないか考えているとメルデがいつの間にか盗賊の全てを縄ひとつにまとめ上げ
ていた。
話を聞いているのが退屈だったのか状況を判断しての発言だったのかはわからないが確かに彼の言う通りそろそろこの森から抜け出した方がいいかもしれない。
先ほど真上にあった太陽はいつの間にか結構沈みかかっている。
「それもそうね、ハルも一緒に街へ行きましょう」
「そうだな」
当初の俺の目的は山の頂で見た街に到着することだったな。
とりあえず街についてから次にどう生活していくか考えることにしよう。
大体2時間程といったところか俺たちは山の頂で見た街に到着した。
先ほどいた森からこの街に着くまでメルデが捉えた5人の盗賊を引きずりながら歩いてきたのだが、その巨大な体あってか5人もの人間をいとも容易く引っ張ってこられるとは大したものである。
メイラにこの街について聞いたところこの街の名前はボーダントというそうだ。
貿易の中間地点にあたるらしく商人が多く住み着く街であり、物品の流通が多く様々な商品が手に入りやすい。
それ故に商人の運ぶ物品目当てに略奪にくる盗賊がここら辺多く俺が倒した盗賊も商人の商品略奪目当てで活動していた連中だそうだ。
まず初めにこの街の自警団の建物に向かい捉えた盗賊たちの身元を引き渡しに向かった。
受付で盗賊たちを引き渡すとこの盗賊達には報奨金が当てられていた為、子分一人頭につき金貨10枚、盗賊の頭については35枚という金額を貰った。
この世界の通貨レートについては詳しくわからないがどうやら金、銀、銅の3種類あり銅100枚で銀1枚、銀100枚で金1枚といった感じらしい。
日本でいう銅が1円に辺り、銀が100円、金が1万円といったところか。
メイラが窓口でお金を受け取ると計75枚のうち俺に50枚分けてくれた。
確かに俺が子分を全員倒したのだが頭についてはメイラが倒したのだからその分は返すと言ったのだがメイラ達は俺があの場で盗賊を倒してくれたからこうして手にできたのだからその報酬分も含めて受け取ってくれと言われたので素直に受け取ることにした。
「さってやること終わったことだし宿に戻るとすることにしようかねぇ~」
「しようかねぇ~」
メルデがそういうと真似するかのようにレーネも同じセリフを言い宿に向かう準備をしている。
この世界にきてさっそく臨時収入を得たことだ、まずは俺も今日寝る宿を探すとしよう。
そう考えていた時メイラが俺に話しかけてきた。
「ねぇハル?あなたはこれからどうするつもりなの?」
「んーまずは宿を探して寝るとこ確保するつもりだけども」
「いやそうじゃないわ。この世界に来てこれからハルはどのように生きていくつもりなのと聞いたの」
「あーそういうことか。そうだな、まだ特に考えてはいないさ」
「もしハルが嫌でなかったら私たちと一緒に行動してみない?」
「えっ?・・・・・・メイラはそれでいいのか?」
「私は歓迎するわ。あと・・・・・・そのカンティーニ様のこととかハルの住んでたとことか聞いてみたいこととかあるし」
この世界に来て一人で最初から生計を立てるのは容易でないと覚悟していたが誰かと共にしていけば確かにかなり楽なスタートが切れると思う。
なによりも俺を誘ってくれているのはとてもきれいな美女が自ら誘っているんだ、あの胡散臭い女神について聞きたいことが本音なのかもしれないが断る理由がない。
「そいつはわるくねぇな!俺もハルが素手で倒した力ってもんを知りたかったとこだ。あと男一人だった俺にとっちゃありがてぇ話だ」
「メルデ、男一人だとつらいの?」
「あぁたまに男にしかわからねぇつらい時もあるってもんだぜレーネ。よーく覚えておきな」
「レーネ覚えておく。ハルのことレーネも歓迎する」
どうやらメルドとレーネも歓迎してくれるようだ。
俺はこの世界に来て早々、俺を歓迎してくれる3人に感謝しつつ笑顔でこう言った。
「こりゃ一緒にくるしかないか。これから世話になるかもしれないけどもよろしくな」
こうして俺はメイラ、メルデ、レーネの仲間となった。
「ハル、早速宿に帰ってレーネ達のお姫様に会いにいくの」
レーネが俺の服の裾を引っ張り連れて行こうとしていた。
お姫様?
ということはまだ仲間がいるのか。
「レーネの言う通り早く宿に戻って姫様の安全を確認しないといけないわね」
俺たちはお姫様のいる宿へ向かって戻ることにした。
宿に向かう途中レーネは俺の服の裾を離さずグイグイと引っ張って道案内をしてくれるのだが小さな体というのにも関わらず結構いい力で引っ張ってくる。
見た目とは裏腹に腕力はあるんだな、人は確かに見かけに寄らないな・・・・・・。
ようやく宿へと到着し、一目散にレーネは俺を姫様のいる部屋まで案内して部屋の扉を開いた。
「お姫様、今帰ってきましたの」
「あっ!おかえりなさいー・・・・・・ってあれ?その人はだぁれ?」
俺は姫様と初対面を果たし訳なのだが、俺は姫様の姿を見て驚きを隠せなかった。
白く所々に水色のアクセントがついたワンピースを身に着けその上から青葉のように透き通る緑色のケープを羽織っている。
胸元には小さな琥珀のペンダントが光っている。
髪はメイラと同じく艶のある綺麗な金髪で肩よりやや長めで頭の左側をサイドテールにして髪を束ねている。
顔はレーネよりも幼く見え瞳はガーネットの原石ような美しい赤色の瞳であった。
そして何よりも彼女の容姿で俺が一番驚いたのは彼女の頭部に獣の耳が生えており、彼女の後ろには狐のような長く太い尻尾が生えていたのだった。