裏切り狸
「助けるかと思いました」
お願い妖精の声が届かなくなり、しばらくして衣先生は呟いた。
誰を助けるのかと言えば、あの妖精の事だろう。
「お兄さんは、お人好しですから」
お人好しという評価は、俺の何をもってして下されたのだろうか。身に覚えがないので、俺は返す言葉が遅れてしまう。いつの間にか町の喧騒から外れた、物寂しい公園までやって来ていた。そのため、気まずい沈黙が続いてしまう。
いけない、何か言わなけらば小学生相手にコミュ障を患わしたように見えてしまう。
「いや、たかがゲームだしな」
そう、現実ならば死にかけた女の子(妖精)がいれば、助けたかもしれない。それが『普通』というものだろう。
「たかが……ゲーム……ですか」
衣先生の声が少し震えたような気がした。
相変わらず背中を追いかけたまま歩く俺には、彼女の表情を見ることはかなわない。
「おい、衣先生。どうかしたか?」
「いえ、だた。お兄さんの職業を今決めただけです」
そう言って振り向いた衣先生の目は、俺が見たことがある眼だ。鬼姫様から渡された写真の少女。俺を見つめるその冷たい眼差しはまさしく、その写真通りの灯鼠衣であった。
「お兄さんは、『錬金術師』になってもらいます」