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ソロアウト  作者: 空乃下
4/9

灯鼠衣はそこにいた

 総じて現代遊戯とは、チュートリアルがあって然るべきである。このフルダイブゲームもその限りではない、と思っていたい時期が俺にもありました。ええ、放り出されましたとも、何の説明もなく森のど真ん中に。

 てか、再現度がすげぇよ。

 雨上がりなのかは知らないけど、ぬかるむ土が靴にまとわりつき重いし、つま先から熱が奪われ寒くてかなわない。

 そればかりか、リアルタイムに合わせているのか真夜中である。月明かりで、影のようにそそり立つ木々が辛うじて見えるだけ。木の根らしきものに躓くこと数回。

 初期装備なのか、俺の服は現実世界と同じ学生服だ。はじめこそ泥が跳ねないように気を付けていたが、今では膝まで泥まみれである。

 俺は木に背を預け、一呼吸おく。この森に群生する木々は、日本ではお目にかかれない巨木ばかりである。大人10人お手手をつないで、やっと囲めるぐらいに太く高い。

 手のひらでざらりと撫でるその木肌の感触は、現実世界と区別がまったくつかない。

 鬼姫様に睡眠薬を盛られて、海外に置き去りにされてと言われても信じてしまいそうだ。

「このゲームって、サバイバルゲームだったのか」

 おかしい。このてのゲームといえば、魔法を駆使して魔物と戦い大冒険が基本だろ。いや、ある意味大冒険だけども。せめて目的地を示してください。ぬるま湯上等の現代日本人では死んでしまします。

 俺が本気で泣きそうになっていると、木々の間から光が差し込んで見えた。

「は、はは……っ」

 意図せず笑いが漏れ、歩調が早くなる。そして、唐突に開けた場所に出る。

 城。海と見間違いそうな泉が月明かりを返し、幻想的なプリズム光を振りまいている。その泉の中央に、純白の城が聳え立っていた。

「すげー、城だ」

 日本人らしく淡泊に呟く。

 しばし、城に見とれた後、俺はテンション高めで駆け出した。

 城へと延びる橋を渡り、城門らしき場所に到達するまで、さらに一時間かかることも、同時刻に発生した事件も、俺は知らずにいた。


挿絵(By みてみん)


 体を引きずるようにして、橋を渡り終えたおれは、城門までたどり着いた。

 やったよ俺。たぶん去年の中間テストぐらい頑張ったぞ。

「あの、そんな装備で頭おかしんですか」

 いつからそこにいたのだろうか。

 橋に腰をかけて釣りに興じる、少女に声をかけられた。

 闇夜に解けるような黒のローブ。少女が着るそれは、小柄な体にはあまりに大きい。フードを目深にかぶる少女の姿は、ローブに食われているような印象をうけた。

 疲労困憊で視野が狭くなっていたようだ。正直橋を渡っているときは、無心で足を動かしていたからな。こんにも小さく黒い少女を見逃しても仕方ない。

「しかし、酷い恰好ですね。魔物にでも襲われてんですか?」

 なんだ、魔物いるのかよ。超こわい。

 俺は動揺を隠し、努めてイケメンフェイスで肩をすくめる。

「いいや、適当に森の中歩いてたら、道に迷ってただけだよ」

「そうですか。やっぱりあたまがおかしいんですね」

「なんでそうなるんだよ!」

 不可抗力じゃん。仕方ないじゃん!

「だって、そうじゃないですか……」

 少女は泉に垂らしていた釣り糸を巻き取り、釣り竿を肩に担ぎ立ち上がる。

「……このゲームで、軽率に森へ入るなんて、死ににいくようなものですから」

 少女は言って、フードを払い素顔をさらす。

「はぁ、どうしようもない初心者のようですね。作戦開始まで日もありますし、私が色々教えてあげましょう」

 少女の射殺すような視線が俺に向けられてる。

 あれ? この少女、どこかで見たような……。

「……っ、あの、名前をきいてもいいかな?」 

「ん? 灯鼠 衣ですけど」

 間違いない。

 流し見た資料に記された名前と一致する。

 この少女こそが、今回護衛対象の衣である。

 

 

 

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