第1章(5)/2
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5月13日
「社長!何か言ってください!」
「橋元さん、今回の事件について・・・」
「今回の事件の責任についてどうお考えですか!」
こいつらは本当に人に向かって質問をする気があるのか、と前田は疑問に思った。こう矢継ぎ早にまくし立てられちゃ、言いたいこともいえないだろう。言ったとしても聞き取れやしない。
「前田!何やってんだ!」同僚の宮元が叫んだ。「お前も撮れよ!」
撮ろうと思っても撮れないのだ。人だかりの先は、相変わらず目を開けていられないくらいのフラッシュであふれていた。それは6人の容疑者の移動とともに、少しずつパトカーの待つ道路へ向かって動いていった。
さがってさがって、という警官の声も聞こえた。今日の逮捕劇の予定がどうしてマスコミに知れ渡っているのか、あの警官はきっと訳が分からずにいるに違いない。それはまた前田にとっても同感だった。つい2時間前までは、自分がこんなところで横須証券の役員の逮捕の場面を取材するはめになるなんて、予想だにしてなかったのだ。
「今すぐ××駅に行ってくれ」
前田はパンツ一丁、ほとんど裸の格好で受話器を取っていた。ついさっきまでシャワーを浴びていたのに、電話の呼び出し音があまりにもしつこいので仕方なく出たのだ。受話器の向うで待っていたのは、なんと加持だった。
「どうしたんです」
羽間出版、編集長の返事はほとんど間を置かずに返ってきた。
「スクープだ。横須証券の取締役がこれから逮捕される」
「え」
あの横須証券が。そいつは間違いなく大スクープだ。
「本当ですか」
「いや、本当かはどうかよく分からない」
「どういうことです?」
「匿名で電話がかかってきたんだ。横須証券の社員だと名乗っていた。それ以外は何も言っていない」
「信憑性に欠けますね。ただの悪戯じゃないんですか」
「悪戯だったらもっと大手の出版社にかけるさ」加持は意気を高揚させて言った。
「大手だったら相手にもされないでしょう。ネタに困ってて、全く信用できないような悪戯でも喜んで信じてしまうような小さな出版社だから、電話をかけてみたんじゃないんですか?」
加持編集長はこの手の冗談が通じる人だったが、それでも士気をそがれたらしくウームと唸った。
「あたってなんぼだ。とりあえず行ってみろ。宮元の奴にも言っておいたから7:30には××駅についてるはずだ」
7:30。あと1時間もなかった。こうなったら行くしかないだろう。
「すぐに向かいます」
それから急いで服を着て、家を出た。コートを羽織るのも忘れて出てきたので、電車を降りてから後悔した。
宮元と合流してから、のんびり歩いたのがいけなかった。会社の前には既に大きな人だかりができていた。
「一言お願いします!」
聞いていて、まるで断末魔の叫びのように思えた。
小暮社長がパトカーに乗り込もうとしていた。無駄な抵抗のような気がしたが、前田はできる限り前の記者に体を押し付けて、頭の上に掲げたカメラのシャッターを切った。2枚、3枚と、社長の頭にフラッシュを浴びせる。洪水のようにシャッターの音が鳴り響き、どれが自分のものなのかも分からなかった。
「社長!」
最後の喚声を合図に、小暮社長を乗せたパトカーが発進した。パトカーは始め緩やかに、だんだんと速くなって遠ざかっていった。とどめの一枚を撮り終わると、シャッターの大合唱は次の獲物の所へと移ってゆく。




