第4章(8)/15
堂本と連絡を取るのはそれほど難しいことではなかった。
人事課にいる友人に話を通して、堂本がどんな奴なのか、資料を見せてもらった。
それを見ると堂本は田中よりも8歳年下で、そして田中の親父がそうであったように、堂本の父親もまた横須証券によって職を失っていたということが分かった。会社は違ったけれども時期が同じだった。その頃はちょうどバブル崩壊のあおりを受けて横須証券が系列会社をはき捨てるという経営転換に打って出ていて、経営破錠した会社がいくつもあったのだった。これらはみな田中から教えられて知ったことだった。
「その頃はまだ年もそれほどいってなくてよく覚えてはいないんですけど、両親が心中自殺をしたらしくて、俺だけが残されたんですね。その後は身寄りのもとに預けられたんですけど、それもやっぱりよく覚えていないんです。気づいたら孤児院で暮していて・・・。いろんなことがありました。世の中、両親がいないと、融通の利かないことが多いですからね。田中さんもそうだったんじゃないですか?」
「知ってるのか、俺のことを?」
「はい。羽鳥から聞いたんです」
「羽鳥が・・・そうか。もしかしてこの話に乗るときから羽鳥は俺のことを話していたのか」
「そうですけど、何か?」
「いや。なんでもないんだ」
ということは、羽鳥は俺と話を通してから横須証券を利用することを本気で計画しだしたのだろうか。それまでは予定段階でしかなかったのに?だとしたら、俺が絡んだせいで計画が始まってしまったのか?
堂本はそのせいで巻き込まれたのか?
「正直はじめは冗談かと思っていました。けど聞いているうちに、だんだんと現実味が見えてきまして。結局話に乗りました。どちらにしても一度あの人らに目をつけられたことには、参加しなかったらただじゃ済まないでしょうしね」
「それで本当に、良かったのか?無理やりでもいいから断ればよかったじゃないか」
「俺が自分で望んだことです。あの人たちの強引さにはちょっと嫌気がさしましたけど。大変でした3人で交代交代に・・・」
「3人?羽鳥以外にも誰かいるのか?」
「ええ。小宮山と大船っていう羽鳥の手助けをする男達です」
話に聞いたことすらない。そんな奴らがいたなんて。
「それで、しくじったってのは一体何なんだ?計画を変更しなきぃけないとか羽鳥は言ってたけど」
「ああ、いや、すいません。小暮社長が警察に羽鳥達がしたことを通報してしまったので」
「そうなのか」堂本は俺の知らされていないところで、別に行動していたということか。「けど、どうしてお前のせいになるんだ」
「小暮署長と電話口で交渉していたのは俺でしたから」
「羽鳥が電話をしてたんじゃないのか」
「はい。そういう風に指示をされていたので。田中さんのほうは違うんですか」
「こっちは羽鳥が電話をしたんだ。俺は手紙を青島専務に分かるよう壁にはっつけたりしただけで、あとはすべて羽鳥がコンタクトを取っていた」
「妙ですね。俺は他に二人にも同じような電話をしろといわれてたんですけど」
「どうして青島専務だけを・・・」
羽鳥が俺と堂本に指示していたことで、食い違いがあったのは青島専務への電話の件だけだった。だとしたら、これが俺たち二人に面識を取らせまいとした理由だとでもいうのだろうか。
田中はついに知ることはないが、そのとき堂本は羽鳥と青島専務との間にもともとの繋がりがあったあったのではないかということに思い至って、後の調べで二人が高校時代に面識があるということを突き止めていた。けれども田中は堂本の失踪まで、ほとんど堂本と話すこともなく、その事実は闇に葬られる形になった。
それから数ヶ月が過ぎた。
「どういうことだ」
田中は汗で滑る受話器をぐっと握りしめて電話口の向こうにいる羽鳥にすごんでみせた。
「なにがです?」
「ふざけるな。堂本が無断で会社を休んでからもう10日も過ぎてるんだぞ」
10日間、本当に気の遠くなるような10日間だった。そして今日、ようやく羽鳥からの連絡が来たのだった。「お前達がやったんだな、堂本を」
電話口からは何の声も流れてこない。田中がいよいよ大声で怒鳴ろうとした時に、羽鳥は口を開いた。
「ええ、そうですよ」
田中は背筋がぞっとするのを感じた。口調が、笑っている。
「なんでだ!どうしてあいつを――」
「そんなに怒らなくたってちゃんと説明しますよ。まあ、落ち着いて聞いてください。彼はね、われわれを裏切ろうとしたんです。警察に出頭して全てを暴露しようとしたんです。だから私達はそんなことが起こる前に彼を――」
「嘘だ。そんなこと信じられるか。どうしてあいつがそんなことをするんだ」
「私にだって分かんないんですよ。ほんと、何が不満だったというんでしょうかね。復讐も果たせて、金だって手に入るというのに」
羽鳥は何か楽しいことでもしゃべるかのように言った。
「堂本はお前らの都合で消されたんだ。邪魔者になったからだろう。利用価値がなくなったから、だから殺したんだろう!」
「田中さん。落ち着いて考えてください。私には、あなた達の協力が必要不可欠なんですよ?どうして好き好んでそんなことをしなきゃいけないんです。変な勘繰りは止めてください。大体そんなことを言ったらですね・・・」
時間が止まった。いや、実際には羽鳥は間を空けてなんかいないのかもしれない。それなのに、田中の頭のなかでは時間は止まっていた。
「あなたも殺されなきゃいけないんですよ。田中さん」




