第3章(15)/13
「翔子…」気まずい。あまりにも気まずかった。なんて事してくれたんだ宮元!!
「あれ、宮元は?」
「いや、実は…」
図らずも、しどろもどろの声しかでてこなかった。なんていってもこんなシチュエーションは全く想定の範囲外で、当然2人だけで会話をする気構えなんて少しも用意していなかったのだ。土台不器用な俺に、いきなりこんな場面を攻略できるはずがない。
「遅刻?」
明らかに距離をとろうとしているようなしゃべり方だ。
「違うんだ。俺もついさっき聞かされたとこなんだけど、あいつ急に用事が入ったらしくて今日来れないって…」
「え!そんなこと聞いてないよ」
翔子の目に、明らかに疑いが込められている。まさか、俺と宮元が共謀してこんな場面を作ったのだと思ってるんじゃないだろうな。
冗談じゃなかった。だまされたのは俺のほうなんだ。
「今聞いたばっかなんだって。電話もまだつながって――」
差し出そうとした携帯電話はとっくに切られたあとだった。
「――ない」
「…そう。じゃあ仕方ないか」
翔子は諦め顔でうなずいた。
「宮元だからこんなことなんじゃないかってうすうす考えてたけど、まさか本当に実行してくるとはね。後であったらボコボコにしてやるわ」
翔子が口にすると冗談に聞こえなかった。付き合って分かったことだが、翔子は見かけとは裏腹にかなり気が強い。
「それで、これからどうするの?一応資料やら何やらはここにあるけれど」
「悪いな、手間かけさせちゃって」
「いいの別に。これ、会社の同僚が調べた物なんだけどもう使わないってことらしいから」
いまさら帰るわけにもいかない。
前田と翔子はとりあえず駅中の喫茶店で話をすることにした。
「これが田中正志の履歴書。生まれは山梨県の○○市。学歴は…まあ、普通の学生って所ね。23歳の時に横須証券に入社してる。んでもって28歳の時に東京に引っ越し。死亡したとされているのは今年だから、45歳まで22年間勤務していたってことになるわ」
「22年か。それで会社での地位は?」
「広報部の部長」
「とすると、上層部の、小暮や青島との接触は十分に考えられる」
「それで会社の不正を知って、口封じに殺された」
「と考えると自然だけど、果たしてそれだけで殺人までするかね。言わないように念を押しておけば済む話じゃないの?」
「それ以外にどんな理由が考えられるのよ」
「内部告発をしようとしたとか」
「内部告発?でも、そんなことしたら会社はもうお終いじゃない。自分の首を絞めるようなもんよ」
「そうか…。じゃあ、田中正志が特別正義感の強い人間だったとか」
翔子はふっと鼻で笑った。
「なんかおかしいこと言った?」
「22年も会社勤めをして、まだ正義感なんて持ってる人間なんているわけない」
「きついことをおっしゃいますな」
「だって普通に考えたらおかしいよ。正義感が全くないと言うわけじゃないけど、目先の危険を避けることと正義感のどっちをとるって言われたら、普通の人は前者だと思う。私も当然そうよ」
「まだ社会に出てから5年しかたってないのに?」
「6年よ。それにうちみたいな業界は人を腐敗させるのが早いの」
「確かにそうらしい。前より言うことが辛辣になってる」
丸めた資料が飛んできた。




