第3章(14)/13
7月24日
待ち合わせの場所は××駅だった。羽間出版の最寄り駅であり、まだつきあっていたころ、佐山翔子と初めてデートをした駅でもあった。待ち合わせ場所をここに指定したのは宮本だったが、最初に翔子の勤める出版社の元最寄り駅にしようと言ったところ、休日なのにいつも行っている駅になんて降りたくないと本人に断られたられて、そのなりゆきで××駅に決まったらしい。はじめてのデートの時と今日の待ち合わせが同じ駅になったのを知ったときはまさか宮元が仕組んだんじゃないかと疑ったが、そうではないと分かると、今度は逆に偶然の皮肉さを呪わずにはいられなかった。
何もこんな時じゃなくってもいいのに。
よっぽど場所を変えるように頼もうかと思ったけれど、やめた。どちらにしたって気まずいことこの上ない面会なのに、わざわざ手間をかけるような気が起こらなかったのだ。
宮元には何とか一緒に来てくれるようにと説得できた。もともとこちらが勝手に申しつけた面会で、後から断るのも悪いと思ったし、だからといって2人だけで会う気はさらさらなかったのだ。
けれど、なんといっても一番分からないのが翔子が何を考えているのか、ということだった。
翔子は宮元と今でも多少連絡を取り合っていたから、はじめのうちは、友達のよしみという意味で約束を取り付けてくれたのかと思った。そして実際、彼女の割り切った性格からしてもそれはごく自然なことのように思っていた。
けれど後々になって、今度は別の考えが頭をもたげるようになった。正直なことを言えば、前田は未練が全くないと言うわけではない。つまりそういうことだった。
だから、宮元を一緒に来るよう誘ってから、密かに後悔したりもした。もっとも、今日になってはそのはかない希望も、既に後の祭りだ。
駅の構内は休日なのに人ごみでごった返しになっていた。10分前に場所に着いたけれど、2人ともまだ来ていなかった。暇つぶしに本を読んだりする気にもなれず、前田は人ごみの中を待ち合わせをしている人たちの間に立って改札の向うを見ながら翔子たちを待つことにした。
ちょうどそのときだった。ポケットの携帯がなった。取り出してみると、宮元からの電話だった。
「わるいな。今日は行けそうもないわ」
「は?」
唐突で、言葉が出てこなかった。
「急の用が入ったんだ。待ち合わせは2人でしてくれ。いま佐山にもメール送ったから」
「ちょっと待てよ。何でこんな直前に言ってくるんだよ!」
「こうでもしないとおまえ、2人きりで会おうとなんてしないだろ。あのさ、前田ってそういう後手なところがあるからいけないんだよ」
「いや、っていうか俺達一度別れてるんだぞ」
「だからこうしてもういちど関係を取り直す機会を提供したんじゃないか」
そんなこと頼んだおぼえはないってのに。
「お前なあ…」
続きを言おうとした口が固まってしまった。
佐山翔子が改札の向うに姿を現した。




