表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライン  作者: Jan Ford
56/77

第3章(8)/11

     7月18日 


 とんでもないニュースが飛び込んできた。

 その日前田はいつもよりも遅刻して羽間出版本社についていた。

 前日は小学校の頃の友達との同窓会で夜中の2時頃まで飲んでいて、家に帰ったのは3時近くだったのだ。目が覚めた時にはもう9時過ぎで、朝のニュースは終わり、テレビには主婦にお徳情報を伝える番組くらいしかやっていない時間だ。電源の切れた携帯電話には宮元からの冷やかしのメールがたまっていた。

 あわてて着替えて電話もせずに家を飛び出して電車に乗った。会社に知らせるようなことをする必要はなかった。何しろ自分の時間は自分で考えて使えというのが会社のモットーなのだから、電話をして手間を取らせるくらいなら何も言わずに遅れたほうがいいというわけだ。一応会社なのだからそれくらいの社員管理はしたほうがいいのではないかとも思ったこともあったが、取材やら何やらで忙しくなるうちにそんなものは不要なのだと分かってきた。むしろ会社としては残業代をやる必要がなくなって都合がいいらしい。

 急いでいたから新聞も読まなかったし、駅中のコンビニにある新聞の大見出しを目にすることもなかった。

 だから、会社についてはじめて前田はそれを知った。

「一体、どうして」

「横須証券の社員の中に幹部のしていることを知っていた人間がいたんだ」

「だから、殺した?そこまですることか?」

「犯罪者のすることなんて分からないだろ」

 犯罪者。確かにそうだけれども、横須証券の役員だって人間だ。いくらなんでも殺人とは。家族をネタに脅すとかもっと他に手はあったんじゃないのか

 横須証券の役員6人が、非指定暴力団に社員の殺害を依頼していた。いや、少なくとも横須証券とつながりのあった暴力団が横須証券の社員を殺害していたというニュースは、どの新聞にも一面大見出しで飾られていた。

 ビルの内側の凶行。金銭欲と殺意。週刊誌はおどろおどろしい記事を載せてあおりたて、日本企業の裏側が露見しただのまくし立てた。金のためなら犯罪も、殺人でさえもいとわない。日本人の道徳観念の崩壊。

 殺害されていたと分かったのは少なくとも2人、名前は堂本弘雅と田中正志。堂本弘雅は広報部の部長で去年の4月から、田中正志は経理部の部長で、今年の3月から行方不明になっていた。堂本弘雅は所帯持ちで、田中正志のほうは独身だった。今月2日、田中正志の死体が富山県の山中で見つかり、所持品の免許証などから本人の確認が取れた。死体は土の下に埋められており腐乱もひどかったが、全身に強い打撲痕とその衝撃によると見られる頭蓋骨のひび等からそれが死因なのだと分かり、一度自動車か何かに轢かれて、それから山中に隠されたのだと推測された。

 そして死体の発見後に役員6人を事情聴取し、田中正志の殺害を6人が知っていたのかと追求すると、1人がそれを認めたのだった。その後の調査でさらに堂本弘雅が行方不明になっていることが判明し、その時期が横須証券の不正取引の始まった以降のものだと分かり、同日役員の一人が堂本の死体が福岡県の山中に埋まっているということを暴露したのだ。役員は埋められた場所について詳しいことは知らず、殺害や死体遺棄は暴力団員が行ったものだという見方が強かった。

 そして今日の朝、警察から田中正志の殺遺体の発見と堂本弘雅が殺害された可能性があるという発表がなされた。

 マスコミにとっては幸いにも事件そのもののおきたのがわずか2ヶ月前だったので、このような大々的な報道になったということだった。

 どうして殺人だったのか。動機についてはまだ何のも供述も得られていなかった。というよりも、役員6人は殺害についての自分達の関与には全面否定しているのだ。

「俺達とは根本的に考え方が違うんだよ。犯罪者だぞ。何を考えていたかなんて分かりはしないさ」

 宮元の口調にいつものような柔らかさはなかった。殺人の話をするときの宮元はいつもそうだった。なんで聞いてみたことがあったが、適当にぼかされて宮本は何も教えてくれなかった。

「そういうものか?」

「そうだよ」

 絶対だ、と言い切った。

「でないなら、前田には殺人者の考えが分かるのか?」

 そういう風にいわれたら、なんて答えたらいいか分からないじゃないか。

 けど、確かにいわれてみれば、人を殺す人間の考えなんて前田には分からなかった。金のために人を殺すなんてのはさすがにやろうとは思わない。

 だからこそ、金のために人を殺して見せた横須証券の役員の気持ちが分からないのだ。金のためだけとは言い切れないかもしれない。事が露見すれば、自分の社会的地位、その後の人生が全て崩壊するのだ。けれどもそれで人を殺すか。もっと他にも手はあっただろうに。

 それとも本当に、6人は殺人には関与していないのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ