第3章(6)/10
「どういう意味だ」
「電話してみなよ。そうすれば分かる」
そういった途端だった。どこからか、海外のロックのメロディーが流れてきた。くぐもった音は、一輝の部屋から鳴っているものだと分かった。・・・携帯の着信音だ。
まさか、大西か?いや、そんなはずはない。たまたま大西の話をしていたところにこうも都合よく電話の鳴るはずがない。単なる思いこみだ。だいいち、大西は今電話の向うで話しているこの相手のはずだったのに。
「ちょっと待ってろ。電話を切るな」
一輝は受話器を床において立ち上がった。何がなんだかさっぱり分からない。頭が混乱している。あの電話の相手は大西じゃないのか?だったら誰がどうやってこんな事をできる。一輝たちがしてきたことを知っていて、かつ一輝の住所を知っている人間があのメンバー以外にいるのか?
いや、いた。一輝は自分の考えたことの意味に凍りついた。まさか、そんなことがあるだろうか。いいやありえない。
電話を取った。鳴り続く着信音。そして、非通知の着信番号が液晶に写っている。
通話ボタンを押した。
「もしもし」
「青島か。青島だな?」
「大西!」
大西だった。急いで居間に戻って受話器をもう片方の耳に当てるが、切れてない。
「どうして俺の番号を知ってるんだ」
メンバーの携帯の電話番号は、あの日解散を決めたときに、互いに全て消去することにしたのだ。一輝や谷たちの間につながりがあったと言う痕跡を残さないためだ。実際に分かれ間際、消したということを目で確認して。
「メモを取っておいたんだ、何かあったときのために」
両耳を受話器に当ててるが、片方の声が片方から漏れてくることはなかった。
「どういうことだ。何かあったのか」
間が空いた。言おうか言うまいか迷っている。今日はもう十分悪いことがおきた。まだ何かおきるっていうのか?冗談じゃない。
「実は、脅されてるんだ。相手は俺達、達でして来たことを全て知ってるって言っている。手紙がポストの中に入ってた。なあどうする。ばれてるんだ何もかも」
ああ、最悪だ。
「俺もだよ。脅されてる」
「なに?」
「俺もだ。同じ手紙をもらった」
「嘘だろ」
「本当だ。なあ、お前じゃないんだろうな」
この際はっきりと言っておくべきだ。
「お前があの手紙を送ってきたんじゃないのか。全てをばらすと手紙に書いて仲間に俺の友達を襲ったんじゃないのか」
「ふざけるな。そんなわけないだろ!そもそもあいつら・・・お前の言う仲間とはとっくのとうに別れたんだ。何で青島がそんなことを知ってるのか知らないけどな」
「村上に聞いたんだ」
「あいつか」ちっと舌打ちする。「余計なこと言いやがって」
「今はそんなことどうだっていいだろ。そうだ、竹田達には電話したのか」
「したさ。けど誰も出ない。みんな番号を変えていたんだ。三上が残っているから、4番目のお前にようやくつながったんだ。どうするつもりだ。青島も金を出すよう書かれているんだろ」
「残念ながらその通りだ。10万円。たいそう欲張りなことだ」
「青島のほうが高いな。俺は5万だ」
「安く見られたな」
「黙ってろ」
「それより実は、特別ゲストにつながってるんだ」
「誰だよ」
「手紙を送ってきた犯人」
大西は大げさに驚いてみせた。
「何だって?!」
「本当だ。今からちょっと話してみる」
携帯電話を顔から話して家の電話に口を近づけた。
「待たせたな」
「いや、いいよ。どうだい。面白いことになってるだろう」ボイスチェンジャーに戻っている。
「ホント、笑えるよ」怒りに歯をかみ締めながら、一輝は言った。「なあ、一つ頼まれてくれるか」
「なんなりと」
馬鹿にしたような含み笑いは機械を通した声でも伝わった。
「アーって言っていて欲しいんだ」できるだけ卑屈っぽく聞こえるように言った。
「ふざけてるのか」
「頼むよ。そしたら何でも要求どおりにする。別にどうってことないだろ」
「・・・まあ、いいよ」
アーと言う声が電話口から流れ出した。一輝は電話越しにあざ笑ってやりながら、すかさず携帯電話を取った。
「大西」
「なんだ」
もう、疑いようがなかった。手紙を送って、一輝達を脅迫しているのは大西じゃない。大西の言っていることは本当だ。
「聞こえるか。こいつだ」
そういって家の電話の受話器を携帯にあてた。
「何だこれは」
「ご本人の声だよ」
「なんだか間抜けそうだな。ずーっとアーって言ってるぞ」大西が怪訝そうに言った。「俺達はこんな奴に脅されてるのか」
「そうらしいな」




