第3章(4)/10
三つ折にされた手紙が手のひらに落ちる。
手紙を開いて文面を見た。やはり、見間違えでもなんでもない。そこには最初に見たときとなんら変わらないことが書いてあった。
7月17日午後10時、お前と同じ塾に通う岸田洋一と原西敬介を襲った。嘘だと思うのなら、明日の早朝ポストに2人の財布を入れておくから確かめろ。
7月20日の午後10時に現金10万円を持って市川中学高等学校の校舎裏に来い。来なければ同じ手口でお前の学校の知り合いを襲い、そいつらにお前が谷雅夫、竹田耕太、大西遼平、三上卓、村上龍と何をしていたかを全て話す。
まさかいまさらになってこんなことが起こるとは思ってもいなかった。もっとも、1月はじめにメンバーを解散したときもこんな事態、全く想像すらしていなかった。メンバーの名前が漏れていた。そして少なくとも一輝に関しては住所まで知られている。
けれど誰がこんな事をしたのかは、考えてみるまでもなかった。一輝たちの名前、住所、そして今までやってきていたことを知っていて、且つこれだけの事をやれる人間は、1人しかいない。
一輝は怒りを抑えながら机の上の携帯電話を握り取った。そのときちょうど居間の電話が鳴り出して母さんが出たが、構わずメニューを開き、電話帳を並べ、問題の人物の名前を押して・・・
「一輝、電話よ。学校の友達から」
通話ボタンにかけかけた指が止まった。
「誰?」
「岸田君」
岸田は一輝とは違う学校だ。その上、今は骨折して病院にいる。
一輝はふすまを開けて部屋を出て、怪訝そうな表情をしている母さんから受話器を受け取った。無言で、何かが変だと伝えている。
まさかとは思いながら受話器を耳元に当てた。不安感が胸の中で渦を巻いて広がり始めた。
「もしもし、岸田か?」
たっぷり5秒ぐらいが流れたかと思った。それくらいの間があった。「岸田?」
返ってきた声は、岸田でも、人ですらなかった。
「青島一輝だね」
キーキーと甲高い電子音がそう言った。ボイスチェンジャーを使っている。
「だれだ」
「君に手紙を送った、犯人さ。手紙はもう見ただろう?」
「どうして電話をかけてきた」
さりげなく横に視線を流すと、母さんがこちらを怪しげに見ていた。自分の心臓が大きく波打っているのが分かる。ここで話されたら、まずい。
「特に理由はないよ。暇だったからどうしてるかなって思って」
感情を感じさせない、平坦で抑揚のないしゃべり方だった。本当に人じゃないのではと錯覚してしまいそうだった。
「今忙しいからさ、後でまたかけてくれないか」
必死に平静を装った声を出した。
「いいじゃないか。ちょっと話さないか」
「後でもいいだろ」
「いやだね」
「何で今じゃなきゃいけないんだよ」
「言ったろ?暇なんだよ。君こそ何で忙しいんだい。教えてくれなきゃ、俺、切らないよ」
母さんはまだこっちを見ている。額を汗が流れ落ちて目に入った。考えようとしても、頭が凍ってしまったかのように働かない。間違いない。相手はこっちの様子を知っていて話をしようとしている。
「頼むよ。宿題残ってるんだ」
「なんだ、宿題だったら後でもできるだろ。ほんの5分くらいだよ。話してもいいだろ」
だめだ。どんなに言ってもこいつは引きついてくる。
「いい加減にしろよ。もう切るからな」
「切ったらまたかけるよ」平坦な口調の中に、一瞬だけ感情が混じった。「分かるよね。同じ人から何度も電話がかかってきたらさすがに君のお母さんだって怪しむと思うよ」
声にこもっているのは、嘲りでも、怒りでも、馬鹿にしたようなあきれでもなかった。これは―――
「なにをあせってるんだ?」




