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ライン  作者: Jan Ford
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第2章(25)/8

「お前があの手紙を私によこしていたのか?」

「そういうことになるな」

「美穂ちゃんは無事か?」

 信じがたいことに、笑い声が返ってきた。

「そんなことをこんな場所で言われると困るな。まわりに人がいるんだろ。聞かれたらどうするんだ?」

「答えろ」

 怒りで受話器を持つ手が震えた。店員が不安そうにこちらを見ている。

「おいおい、俺の話を聞いてるのか?このことを他人に話したら彼女がどうなっても知らないぞ」

「ということは無事なんだな」

「どっちでもいいさ。なにも危ないのは倉田美穂に限った話じゃないんだぞ」真二の心境とは裏腹に、電話越しの男の声は陽気だった。「場所を変えよう。今から番号を言うから、とにかく人のいない場所で電話をかけろ」

 そう言うと男は電話番号を読み上げた。明らかに携帯電話のものだった。真二はそれを自分の携帯電話に打って登録した。

「お前は誰だ」

「そうあせるなよ」

 電話が切れた。

 真二は礼も言わずに受話器を店員に返して自分の席に戻り、すぐに登録したばかりの電話番号を呼び出した。が、返ってきたのは通話中を知らせる電話案内の声だった。

 呼び出しの中止ボタンを押して、その指で危うく携帯電話をへしおってしまいそうになるくらい、手に入った力がはいった。

 完全になめられている。

 何とか怒りを抑えて、相手がどんな人物なのかを考えようとした。声の感じは堅くもなく柔らかくもなかった。歳もそれほど離れていないような感じがする。

 そして、あの男は真二とのやり取りを楽しんでいた。まるで勝手知った友達と話しているような口ぶりだった。楽しむことだけが目的だとしたら、はたしてこの俺に、あの男と一人で対峙して全てを解決することができるだろうか。真二は底知れない絶望感が心に根を張っていくのを感じた。そしたら、俺の人生はどうなってしまうんだ?

 不安を振り払おうと、再び呼び出しのボタンを押した。今度は3秒ほどでつながった。思わず息を飲み込む。

「悪いな。上司から電話があって」

「会社勤めなのか」驚いて尋ねた。

「まあそんなところだ。それより取引の話をしよう。要求を呑んでくれれば倉田美穂は返すし、お前の身内にも何もしない」

「要求とは何だ」

「簡単なことだ。横須証券株式会社に俺達が自由に干渉できるようにしてもらいたい」

「は?]

 聞き間違いかと思った。男が横須証券株式会社をどうにかしろといっている。

「なにを言ってるんだ?」

「だから言葉どおりのことだよ。俺達がお前が専務を勤める会社に自由に干渉できるようにしてもらいたいんだ」

「意味が分からない。そんなことできるはずがない」

「できるさ。そのための算段は俺達がしてある。お前には、社長とかのお偉い連中にこのことを伝えてもらいたいんだ」

「どういうことだ」

「小暮久則をはじめ、役員連中にお前にしたのと同じかそれ以上の脅しをする。なんだったら横須証券の社員に手をかけてみたっていいぞ」

「ふざけるな」

 震える声でそう一言だけ搾り出した。憤怒で震えてるのか恐怖で震えてるのか分からなかった。

「ふざけてなんかない」

「そんなことをしてどうするつもりだ」

 小さく笑い声がした。余裕を持った、こちらを見下ろしてくる笑い声だ。頭が真っ白になった。視界が本当に歪んで見える。

「まだ言えない。そのときになれば全て分かる」

「どうしてこんなことを・・・」

「それも俺達がすることを見てれば分かる」

「本当に社長達に伝えなければならないのか」

「もちろんだ。あと、警察には何もしゃべるな。美穂ちゃんの誘拐とお前にやった手紙のことはいいが、今回のことを他言したらただじゃすまないぞ」

 いまさら警察に行けるわけがない。

「社長連中にこのことを伝えて、全員に脅迫が終わったら美穂ちゃんも返してやるつもりだ。言っとくが警察に行こうとしてもすぐに分かるぞ。電話で伝えるのも無駄だ。警護の人間の姿が見えればすぐに気づくからな」

 もはや何も言い返すことができなかった。言い返そうにも、頭の中が真っ白になってまともにものを考えることができなかった。

「そういうことだ。明日の1時、もう一度この番号に連絡して来い。じゃあな」

「待ってくれ。最後に一つだけ教えてくれ」最後の力を振り絞って尋ねた。「どうして、この俺なんだ?」

 電話口に沈黙が流れた。何のための沈黙なのか、男がどんな顔をして黙っているのか、真二はそのことを強く知りたいと願った。

「都合がいいから、とだけ言っておくよ」

 電話が切れた。あとには、無機質な電子音だけが残っていた。

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