第2章(21)/7
宿直室には今日も見張りの人間がいるはずだった。大きな音を立てれば、見つかって一巻のおしまいだ。
「ライト、もっと足元にも当ててくれ」大西が耳元でささやいた。「これじゃあ転んじまう」
「分かった」とうなずいたが、一輝は光の向きを少し下げただけだった。残念ですけれど、その御要望はかなえられませんね。
不服そうにもう少し、と言ってきたが、三上はそれを「声を出したら気づかれる」と返して黙らせた。大西も言い返そうとするが、大きい声がでてしまうのを恐れてかそのまま何も言わずに歩き続けた。
予定通りだ。
一輝たち5人の目的は今回の計画を失敗させて、大西にメンバーの解散を納得させることにある。だけどそのためには、失敗の原因をメンバー全員か、もしくは大西一人に置かなければならない。でなければ、責任者にメンバーを抜けてもらうだとかして、大西に解散を阻止する口実を与えてしまうからだ。
もちろん、一輝たちの思惑がうまくいったとしても大西は反対してくるかもしれない。それでも前者と後者では説得のし易さが違ってくるだろう。
本人もお察しの通り、大西には今から派手に転んでもらうことになっている。2階の階段を出てすぐ右側の廊下、机と椅子が積まれて並んでいるはずのところでだ。
実は大町中央小学校では明日、高校で言う文化祭の様なものをやる日になっていて、そのために教室中の机と椅子が廊下に積まれているのだ。そして大西だけがそのことを知らない。あとは廊下に出て、わざと机のある方向から光を遠ざけてやればいい。大西は机に激突し、宿直員が飛んできて一輝たちはすぐさま逃げ出すという寸法だ。
階段に足を踏み出す。音を立てないように1段1段慎重に歩き、2階に着く。もう少しだ。大西は3人のなかで右側を歩いてる、このままライトをまっすぐ当てて・・・
突然のことに一輝は自分の左足が痙攣を起こしたのかと思ったが、そうではなかった。携帯が電話の着信を知らせて振動していた。
頭の中で6人の間で取り決めた言葉が駆け巡った。
犯行中、携帯電話は互いの仲間以外の着信を遮断し、緊急の要件以外では通話連絡を厳禁とする・・・緊急の要件以外では――いったいどうしたっていうんだ、2回の廊下はすぐ目の前だぞ。
さりげないふうを装って、2人の様子を伺う。さすがに大西もバイブが鳴ったのに気づいていた。一輝は諦めてポケットから携帯電話を取り出した。
かけてきたのは非常用階段の下で待っていた竹田だった。
「青島」
声が上ずっている。同じ声を竹田が出したのを一度だけ聞いたことがある。一番最初に留守の住宅に忍び込んで、近所の人間が庭の手入れをしに家に入ってきた時だ。
「大変だ人に気づかれた。たぶん金網を乗り越えた時からだ、さっきまで二階の部屋の窓からこっちの様子を伺ってた。もしかしたら警察を呼ばれたかもしれない」
何てことだ。
「どうしたらいい」
「とにかく急いで出て来い。人に見られそうになったらすぐにこっちから連絡するから今のうちに早く」
「頼むから声を抑えてしゃべってくれ」
「悪い。でも急ぐんだ」
「だけど」計画はどうなる?
竹田は黙ったままだ。大西のいる前じゃ何も言えない。
「今から行く。人に見られた、逃げるぞ2人とも」




