第2章(13)/7
1月6日
一輝はその日久しぶりに学校に出かけていた。正月休みは8日まであるし、特に登校日だとか部活だとかがあるわけでもなかったが、お気に入りの服を着て、大きなボストンバックを無理やりかごに押し込み、近所の学校まで自転車を走らせていた。学校といっても小学校だ。
母さんには久しぶりに小学校の友達の家に泊まりに行くといってあり、嘘を信じさせるために、わざわざ目の前でその友達と電話で話をしたり、いろいろと荷物を用意してもらったりもした。
だが、今日はこの重い荷物も、本当だったらほとんど必要ないのだった。泊まってきたと見せかけるために公衆トイレがどこかで服を着替え、中の荷物を多少いじくり、いつも持ち歩いている財布の中のテレホンカードで家に電話をかけたりする必要はあるかもしれないが、それだけだ。もっと大事なものはほかにあった。
口笛を吹きながら、一輝は上機嫌だった。外はまだ寒いが、頬を切る冷たい風がそれだけに心地よかった。まるでこれからしようとしていることを冷たい北風までもが黒い賛美をしているようで、自尊心をくすぐられる思いだった。
4時を告げる時報が鳴り響いた。冬の日の入りは早い。辺りは既に暗くなりだしていた。とりあえず、時間をつぶす場所を見つける必要があった。勿論母さんに見られるようなことはあってはならないし、知っている人にも見つからないような場所で、且つ寒さをしのげて居心地もある程度よくなければならない。一応、めぼしい公園が学校から2キロほどいったところ見つけてにあった。そこに行く前に、今日一緒に『仕事』をする仲間と落ち合う約束になっている。
中高一貫の私立に通っている一輝は違うが、彼らのほうは今年、中学校の卒業式を迎えるはずだ。かれこれ半年は会っていないので、もしかしたら様相がすっかり変わっているかもしれなかった。派手な格好はできるだけ避けたほうがいいというのがグループ内の決めごとだったけれども、周りの空気に流されてそれを忘れている奴もいるかもしれない。1人がルールを破れば他の全員も分かったものではない。それに、人は予期せずに変わってしまうものだ。こういうことをしている連中ならば、なおさらだった。陰でくすぶっていた欲望がいつ表に向けて燃え上がるかなど分かってものじゃない。
一輝自身についても同じことが言えた。いつまでもこのようなことを続けているわけにもいかない。
逆行を受けて遠くに見える小学校の角を視界に入れながら、そろそろ潮時か、とつぶやいた。そのときはメンバーのみんなにも説得する必要があるだろう。はたして、これだけいろいろなことをしてきた後で、みんなはすんなりと解散を聞き入れてくれるだろうか。そのときになったら、こちらに同調する人を探す必要もあるだろうな、と思った。不安だったが、やるしかないのだ。
角を曲がって、一輝は自転車を小学校の脇に寄せた。校門から50メートルほど離れたところにあるコンビニの近くには、既にメンバーが集まっていた。




