第2章(12)/6
「青島さん。どこにいるんですか?」
返事がないのに驚いて、竹田の声があわてだした。
「駅の近くにいるんだ」
「なんだ、だったら急がないと。社長達も怒ってますよ」
「ああ、今から向かう」
「さすがにあと10分もしたら社長達も待っていてくれるかどうか・・・」
「ちょうどさっきおんなじことを社長に電話で言われた」
「なんだか」急いでいないように聞こえますよ、と言おうとしているのが分かる。「急いだほうがいいと思いますよ。走ればきっと間に合いますから」
じゃあ、時間がないからと言って電話をきろうとした時だった。
「あ、それと、宗谷さんが変な手紙を預かってたみたいですよ」通話を終える直前についでのように言われたことだったので、もう少しで聞き流しそうになった。瞬間、どうして自分がこんなことをしていなければならないのかを思い出した。会社のビルの前に朝早くから貼ってあった手紙、脅迫の文章が書かれていた手紙、そして実行された犯行予告。あの手紙のせいだ。電話が切られるという危ういところで、真二はどんな手紙だ?と叫んでいた。
「いや、別にどうってことはないんですけど……会社の入り口のところに青島さんあての手紙が貼り付けてあったんですよ。ほら、青島さんって朝はすっごくは早くから会社に来るじゃないですか。たぶんそれを見越してあんなところにはってあったんだと思いますよ。ただ、差出人の名前がないし、貼ってあった場所も場所ですから、とにかく怪しいし、青島さんがなかなか来ないってんで宗谷さんが預かったんだそうです」
「もしかして、封筒とかに入ってる?」
「はい、封筒です」
「色は?」
「へ」
「封筒の色は何色だった?」
「ああ・・・たぶん青だったと思いますけど・・・どうしたんですか?」
雷に打たれたかのように、固まってしまった。実際、真二は雷に打たれたかのような衝撃を感じた。目の前の景色が意識の中からはじき出され、視界が全てホワイトアウトしていくかのようだった。さっきまで見えていたはずの『ブルボン』の角も、そこにあった恐怖や圧迫感とともに嘘みたいに視界から消えていた。
「分かった。じゃあ、本当に急ぐから」
竹田は『本当に』の意味をどうとっただろうか、と思いながら、真二は電話を切って走り出していた。もし変に勘ぐりでもされて手紙の中身を意確認でもされたらと思いながらも、真二はとにかく走った。
交差点を1つ越え、ビルとビルの間の裏道を抜けると、横須証券株式会社のビルはすぐそこだった。




