第1章(19)/5
前田は開きかけた口をつぐんだ。
「あのときは、そりゃ大した騒ぎでしたよ。誰も羽鳥があんな事件を起こすなんて思っていませんでしたからね」
「何かあったんですか?」
「喧嘩です。確か15人もけが人が出て、私達教師も保護者からのクレームを処理したり警察の相手をしたりで」
喧嘩、とつぶやいた。
「羽鳥がどうしてあんなことをしたか、それは結局分からずじまいでした。彼はその後学校を辞めてしまって」
「その羽鳥という友達について、もう少し詳しく教えてくれませんか?」
間違いない。羽鳥こそ、青島真二とコンタクトのあったという暴力団員なのだ。笹山は相手の様子を見て怪しげに眉をひそめたが、前田はそのことには気づかなかった。
「とにかくいろんなことを満遍なくこなして、問題のない良い生徒でした。青島とは3年間同じクラスだったらしく、仲が良くて、当時は3クラスしかありませんでしたからクラス替えをしてもある程度一緒のクラスの子がかたまるんです。かなり昔のことだからはっきりとは覚えていませんが、なんというか、独立心の強い子でした。あの喧嘩の原因も一つはそんなところにあったんだと思います。けど、それ以上のことは良く覚えていません。保護観察が入ってすぐ、彼はどこかに引っ越ししまいましたから」
「それは、喧嘩を起こしたからもうここに入られないという理由で?」
「さあ、それはよく分かりません。おとうさんの仕事の都合だったのかもしれません。転勤と事件があいまって、だったら引っ越そうということにしたのかもしれませんね。青島のことが記憶に残っていたのも、この事件があった後、何度か青島に事情を聞いたり羽鳥のことについて二人で話し合ったりしたからなんですよ」
どうりで青島について詳しくしゃべれるわけだ、と納得がいった。
2人はそれから30分近く話し続けた。青島真二のことだけでなく、当時の学校の雰囲気や近所の様子についても教えてもらったりもしたので、話題はなかなか尽きずメモは6ページ近くが黒く埋まった。さすがにもうこれ以上聞くことはないだろうと思ったところで前田は話を切り上げると、笹山が校門前まで見送ってくれるということだった。
「今日は貴重な時間を割いてお付き合いいただき、本当にありがとうございました。これはほんのお礼ですが・・」
いりませんといって笹山は断ったが、前田は半ば無理やり封筒を手渡した。
校舎の外はあいも変わらず強い日差しであふれていて、そんな中でも校庭では野球部員の掛け声が響き渡っていた。
別れ間際、どうせなら聞いておこうと前田は口を開いた。
「つかぬ事を伺いますが、羽鳥のことについて聞いた時に『あなたも』とおっしゃられましたが、あれはどういう・・・」
笹山は思い出すようにああ、ともらした。「いや、実は前にいらっしゃった警察の方も羽鳥のことについて詳しく聞かれていったんです。あなたも、青島のことより羽鳥のことに関心を持っているように見えて、なにか気になることがあるのかと鎌をかけてみたんですよ」
笹山はそう言って苦笑いした。
「そうですか」
前田は何も言えなくなった。
先回りされていた。校門を出てから小さくつぶやいた。照り付けてくる日光がじりじりと肌に熱い。
前田も苦笑いを浮かべるしかなかった。




