第1章(17)/5
吉祥寺中学校の校舎は想像していたよりもずっと大きく、ボロボロだった。最初はコンクリートの壁につたでも這っているかと思ったが、近づいてよく見てみるとそれはびっしりと張り巡らされたひび割れだった。校庭では野球部が活動をしていた。校舎の中に入って待つのは人目にさらされるようでいやだったので、前田は校門の前に木立を見つけてその日陰で時間をつぶすことにした。質問内容を何度も確認しながらじっと時間が経つのを待って、それからようやく学校に入った。
校舎の中は期待していたほど涼しくなかった。靴を脱いで上がろうとすると、奥から初老の男が歩み寄って挨拶をしてきた。どうやらずっとここで待ってくれていたらしい。時間つぶしなんかしなければよかった。
「今日はどうもよろしくお願いします」
「こちらこそお世話になります」
笹山の声には60台とは思えないような張りがあった。体格もどちらかといえば大柄なほうで、実際の年齢より10歳は若く見えた。
前田は笹山に案内してもらって、応接間の椅子に腰を下ろした。応接間は、廊下もそうだが掃除が行き届いていて外見よりもずっときれいだった。
前田は簡単に挨拶を交わしてからすぐさま本題にはいった。
「今日は笹山さんが一度担任になられたことのある、青島真二という人物についてのお話を伺いたいと思います。先日も電話口で説明させてもらいましたが、私は先程起きた横須証券株式会社の事件について調べていて、今回の取材もその件に関連するものです。よろしいですか?」
笹山は返事の代わりに楽しそうに笑みを浮かべた。
「こんなことで出版社のインタビューに受けることになるなんて、夢にも思いませんでしたよ。やっぱり教職っていうのはいろんなことがあっておもしろいですね」
前田はなんと返していいか分からず、笑ってごまかすことにした。犯罪を犯した自分の生徒についてインタビューされるのが、果たしておもしろいことの類に入るのだろうか。
前田は始めに青島真二が学生時代どんな性格だったのかと尋ねた。
「性格は、そうですね。個性が強いというか、華やかで、クラスの中でも目立ってる子のうちの一人でした。世話好きで、友達の間で起きた揉め事の仲裁に買って出ていました。目立ちたがりやな所もあったんでしょう。今はめっきり見かけなくなりましたが、似たような子は、当時私の受け持ったクラスでは大体クラスに1人か2人ぐらいいたものです。ただ、傷つき易いというか、悪口なんかを言われるとずっと引きずってしまうような繊細なところもあって、別に深刻にというわけじゃないけれども、相談に乗ったことがありました」
「深刻じゃないとは、どういう風に相談を受けるんですか?」
「普通に普段話している時にそういうことがポロッと口に出るんですよ。それでちょっと話をするという程度です」
ずいぶん詳しく覚えてるな、と前田は思った。
前田は、おぼろげな印象でも分かればそれでいいと思ってこのインタビューに臨んだつもりだった。笹山にとって青島真二の担任を受け持ったのは30年近く前のことだ。当然、笹山のほうはある程度青島信二のことを話せると思ったから今回の申し出に応じてくれたのだろうが、それにしてもここまではっきりと1人の生徒のことを覚えているなんて少し不自然じゃないだろうか。もしかしたらでまかせを言っているのではという考えが頭に浮かんだ。




