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ライン  作者: Jan Ford
20/77

第1章(16)/5

     6


 7月11日


 横須証券の役員6人が殺人容疑で再逮捕されてから3日がたった。各出版者やテレビ局は皆一様にこの話題を取り上げてはトップページやワイドショーを割いて解説を行った。ただ、解説といっても単に出演者が事件の動機やいきさつについて、それぞれの考えを述べて意見の交換を行うだけという趣旨のものがほとんどで、後は被害者の田中正志という人物の素行や会社での評価を調査したり、犯罪の専門家に話を伺うというのがちらほら見られるくらいで、事件の詳細は世間の人々にほとんど明かされていなかった。こうした状況について、事件に関心を持っている人たちは少なからず違和感を感じていた。殺人事件が起きてその犯人たちは既に捕まっているというのに、詳しいことは少しも報道されていない。明らかに今まで起きた事件とは何かが違うというところを感じていた。そして、いくらかの人たちはそこに警察の意図が働いていることに気がついた。この事件にはまだ続きがある。だから警察は何もしゃべれないでいるのだと想像した。

 その考えは実際当たっていた。しかし、彼らが最終的に事件の真実について『全て』を知るのはそれからしばらくの月日がたってのことになる。


 台風は過ぎ、夏の猛暑が再び姿を現した。前田はちょうど駅のホームから出てきたところだった。焼きつくような日光の明るさに目を細めながら、ビジネスバックを開いて1枚の地図を取り出した。目的の場所はここから20分ほどの場所にある。時間ならば問題なかった。わざわざ余裕を持って30分前につくように家を出たのだ。厄介なのはこの暑さだけだった。こんな日差しの中を1時間近くうろつこうものなら、まず確実に脱水症状にかかってしまう。早めに行って屋内で待っているか、近くのコンビニで時間をつぶすしかなかった。

 埼玉県中部に位置する○○市は、見たところとても田舎な場所だった。都会の様子から比べると駅前の通りは何もないも同然で、人々から見捨てられたように静まり返っている様子に、前田は自分がつまはじきにされているような寂しさを感じた。土曜だからとはいえ駅から出てくる人は全然いないし、四方を見回しても高い建物はほとんど見当たらなかった。

 ここに、青島真二が通っていた吉祥寺中学校がある。前田は通りを一人歩きだした。

 資料を受け取ってから、前田は次の日さっそく吉祥寺中学校で青島の担任をしていたという教師にアポイントをとった。そして、そのうちの一人の笹山という人にOKを出してもらい、今日学校で会ってくれるよう約束を取り交わしたのだった。もっとも青島の担任をしたあとの2人は定年で辞めてしまっていて、笹山が残っていたのはラッキーだった。笹山も既に高齢で、30年近く前のことをどの程度覚えているかという不安はあったが、そこは本人が覚えてるというのだから信じるしかなかった。

 吉祥寺中学校に着いたときには前田はこれ以上は無理というくらいに汗をかきつくして熱中症寸前の状態になっていた。コンビニで休もうというもくろみは失敗だった。入ろうにも、どこを探したって店の一つも見つからなかったのだ。

 青島真二はこんな田舎の町で暮らし、少年時代をすごしてきたのだ。当時は今よりもっと建物も少なくて、住宅地のあったところには自然があふれていたかもしれない。そんな環境の中で育ってきた男が東京に出て証券会社に勤めた時に何を思ったのだろうか。

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