第1章(15)/5
「本日、横須証券元役員で現在証券取引法違反の罪に問われている小暮、堀口、浅井、橋本、谷屋、青島の6人を殺人容疑で再逮捕しました」
間違いではなかった。あの6人が。今まさに、俺が調べている6人が殺人を犯していた。では一体、誰を殺したんだ?
再び画面が切り替わった。司会に女性キャスターがその答えを教えてくれた。
「今回新たに発覚した殺人事件で被害者とされているのは、東京都在住、事件当時38歳の田中正志さんです。田中さんは生前、今回再逮捕された6人が経営していた横須証券に勤務しており、職場間でのいざこざから事件が起こるに至ったものと思われます」
「本当に信じられないような事件ですね」もう一人の男性キャスターが口を開いた。「証券取引法の違反のみならず、自分の会社の社員を殺害するなんて前代未聞の話です」
全くその通りだった。テレビの前の多くの人が同じことを思ったに違いなかった。
番組は2ヶ月前に横須証券が起こした証券取引法違反の事件と、事件直後の日本経済への影響をイメージ映像を使って説明しだした。説明が終わると、キャスターの2人があの時社会全体に走った衝撃はすごい物でしたね、とか、株主の企業経営に対する不安も増大しました、とか言って話を引っ張った。
前田は殺人に関する情報を聞こうとじっと画面を睨んで待った。自分が取材していた6人だからというのではなく、純粋に、6人がどうして殺人を犯したのか、その動機が知りたかった。彼らが何を望み、何に駆り立てられたのか、その”何か”の正体をこの目で確かめてみたかった。普通の犯罪者にはない、”何か”を。
しかし、キャスター達は事件の詳細については何も語らずに次のニュースに移った。
「すごいことになったな」
宮元だった。いつの間にか前田の後ろに立ってパソコンの画面を眺めていた。
「やっぱりこの事件を追いかけてて正解だった」
宮元がとがめた。
「こういう派手さは、お前の書こうとしてたのとは違うんじゃないか?」
「そういう意味じゃない。俺達が思っていた以上に、この事件には奥があるんだ」
不謹慎にも、前田は胸の躍るのを感じていた。企業として起こした犯罪、そして殺人。本来別物であるはずの2つの事件が交わった先に、まさに自分が明かりを当てようとしている先に、誰も見たことのないような真実が眠っている。そんな気がしてならなかった。
吹き荒れる雨風が再び壁を叩きつけて轟いた。