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ライン  作者: Jan Ford
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第1章(10)/3

 ロイヤルマンション坂田までは5分もかからなった。近くに車を止め、念のために辺りに張り込みの車がないかと確認してからマンションの入り口に向かった。本来ここのパスワードは住居者しか知らないはずなのだが、青島が逃げ込んだ時に追いかけるため、羽鳥は前にもパスワードを調べてことがあり、昨日も今月分のパスワードを手に入れておいたので問題なく中に入ることができきた。今の時代、この程度の情報だったら誰だって造作なく手に入れることができる。

 マンション内に警官が張り込んでいるという可能性もあった。2ヶ月前とは髪型や服装を変えてきたとはいえ、見つかればアウトだ。腹を括っていくしかない。

 現実的な不安以外にも、羽鳥は胸の中になかなか収まらない胸騒ぎを感じていた。まるでこのマンションのどこかに青島真二の亡霊が潜んでいて、羽鳥が来ないかじっと待ち構えているかのような微かな恐怖を感じずにはいられなかった。エレベーターの閉塞感がよけいに恐怖を煽った。

 やはり、ここに来てはいけなかったのかもしれない。

 エレベーターが26階で止まり、扉が開いた。

 青島の部屋は、ここから左にいって突き当たりのところにある。部屋に近づいてゆくにつれて、不安感は大きくなっていった。いやな予感がした。何か違和感があった。

 そして、不安と違和感の根源が羽鳥の目の前に姿を現した。青島真二の部屋の扉に、堂々と貼り付けられている青い封筒。封筒の真ん中にワープロで文字が打たれている。


 羽鳥勇介様


 羽鳥は自分の目を疑った。突然のめまいが津波のように押し寄せてきた。夢を見てるのだ。ここがあまりにも青島のことを思い出させるから、青島への罪悪感をあらわにみせつけてくるから、だからこんな夢を見ているのだ。そうにちがいなかった。

 青い封筒は、やはり目の前にあった。全身から体温が引いてゆくのが分かった。青島真二もまたこの封筒を見て、今の自分と同じこの恐ろしい悪寒を感じていたのだろうか?いや、そんなはずはない。青島はそのときまだ、この手紙が何を意味しているか露とも知らなかったのだ。けれど俺は知っている。この手紙が俺にもたらすものとは・・・・・・復讐だ。

「どうかしました?」

 羽鳥は文字どおり弾かれたように後ろを振り返った。全ての汗腺から汗が吹き出た。

 そこにいたのは60歳くらいの男だった。ちょうどエレベーターから出てきたところらしく、羽鳥のいるところへと歩み寄ってくる。小柄で、羽鳥よりも一回り背が低かった。薄くなった髪から地肌が見える。

「ちょっと、友達を訪ねにきたんですけど」

 言ってから、とんでもないことをしてしまったことに気づいた。青島の友達と名乗る人間がここに来たのだと警察に知られたらおしまいだ。

「きてみたらまだ帰っていなくて、それでこんな封筒が貼られてる部屋を見つけたんです」

 それですか、と男は言った。男は羽鳥の隣に立つと苦笑いしながら手紙を取り外した。

「取っちゃうんですか」

 羽鳥は驚いて男の顔を見た。

「いいんですよ、いつものことだから」

「いつも・・・・?」

「私はここのマンションの管理人なんですけどね、実はこの手紙、よくおんなじものがこの扉に貼られているんですよ」

「ここに住んでる人が貼ってるんじゃないんですか?」

 管理人だという男は、怪訝そうに羽鳥の顔を覗き込んだ。

「この部屋にはだれも住んでいませんよ。それに、住んでる人が自分でやってるんだったら私だってこんなことはしません」男は困った顔をして指先で手紙をもてあそんだ。「1ヶ月くらい前ですかね。この部屋に住む人が引っ越してからみかけるようになったんです」

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