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序章:始まりの風

※この作品は東方projectの二次創作作品です。独自の解釈やオリジナル設定があります。苦手な方は読まないことをお勧めします。

 

 それが起こり始めたのは人里でも神社でも寺でも館でも森でも竹林でも花畑でも湖でも地底でもなく、妖怪の山であった。

 

 冬の寒空の中、一体の天狗が妖怪の山上空を飛んでいた。


 優雅に空の散歩をしている彼女、伝統の幻想ブン屋「射命丸文しゃめいまるあや」はそのかわいらしい顔を歪めていた。


「まったく、天魔てんま様もいきなりどうしたんでしょうか? 今まで何も仰られなかったのに……」


 文は自らの頭領に対して不満を吐いていた。


「やはり天魔様も頭の固い老害たちと同じだったということでしょうか?」


 上司に対してあまりにもひどい言葉を吐いているが、これには訳がある。


 それは文が作っている「文々。新聞ぶんぶんまるしんぶん」を含めた天狗の里で作っている全新聞の発行及びそれに関する活動をすべて休止するように頭領である天魔が直々に命を下したのであった。


 特に問題らしい問題も起きていないのにも関わらずである。


 もちろん、文や多くの天狗たちが天魔に抗議をしたが、しかし天魔は休止の一点張り。


 これは幸いと現在との人間との親しい関係をよく思っていない幹部たちが結託し、そのまま押し通して休止にしてしまった。


 文は何もすることがなくなったため、気晴らしでもするために空の散歩へと出ていた。


「やっぱり皆さん頭が固いんですよね~。本当にわかってない……んっ? あれは……」


 愚痴を漏らしていた文は山の麓のほうに見える一体の白狼天狗を目にとらえる。


 文はにやりと笑みを浮かべると風を吹かせながら白狼天狗へと向かっていった。


                  ■●■


 文が降りていった先にいたのはした哨戒天狗しょうかいてんぐ犬走椛いぬばしりもみじ」であった。


 巨木の枝に腰かけている椛は疲れているようで、自慢の純白の尾も力なく垂れている。


 近づいてくる文に気が付く様子は微塵もない。


 そんな椛の後ろに回り込みながら文は、悪人がするような嫌らしい笑みを浮かべていた。


 文は大きく息を吸い込むと椛に対して大声を放った。


「こら、そこの白狼天狗はくろうてんぐ! 警備が怠けるとは何事だ!」


「うひゃ?!」


 その声に耳と尻尾をピンッと立たせ、飛び上がった椛は……


「あっ」


 座っていた枝に座り損ね。


「うひゃぁぁぁぁぁぁっっ!?」


 そのまま、真っ逆さまに地面へと落ちていった。


 椛も翼はないとはいえ天狗なので飛べるはずなのだが突然の出来事のせいでそのことすら忘れている。


「きゃふんっ!」


 地面に叩き付けられた椛は情けない声を上げた。


 文はそんな椛を見下ろしながら、ゆったりと降りていく。


「痛たたた……。いったい何が?」


「あやややや、椛一体何をやっているんですか?」


 地面に突っ伏していた椛は顔を上げるとそこには笑みを浮かべる文の姿があった。


「文さっ、射命丸様」


 椛は文の顔を見て一瞬、目を見開かせたがすぐに平静を装いながら立ち上がる。


「一体どうさられたのですか? 私に何か用でしょうか」


 土汚れを手で払い落とし、文に問いかけた。


 文は呆れたように目を細めながら一息吐く。


「いつもながら堅苦しいですね~」


「業務中ですから」 


 当然といった風に胸を張る椛に文は鼻で笑った。


「ふっ、その割にはさっきは気を抜いていたようですけど?」


「ぎくっ」


 文の言葉に椛は尻尾をぴんと伸ばし、顔を青くする。


 顔に薄らと汗を垂らし、固まってしまう姿は見ているほうが可哀想に思ってしまうものだった。


 椛の様子に文はふっと顔を緩める。


「まあまあ、そう固くならず。真面目なあなたが怠けるなんて何か理由があったんでしょう? これも何かの縁です。私に話してくれませんか?」


 肩に手を回しながら、笑顔をのまま顔を近づける。


「いえ、そのっ」

  

 椛は絡みついてくる文に目をそらしながら、言葉を濁した。


「いいじゃないですか。私と椛の仲です、秘密は絶対漏らしませんから……」

 

 頬と頬を摺わせるように顔を近づけてくる文に椛は慌てる。


「わ、わかりましたから! 離れてください!?」


 椛の言葉に素直に従う文。


「いつもは真面目な白狼天狗犬走椛!! そんな彼女が仕事を怠けていた理由とは?!」


「もう、そんなからかわないでください!!」


 囃し立てる文にそれを怒鳴る椛の間には先ほどまでの固さはなくなっていた。


「あややや、すいません。つい癖で」


 全く謝る気のない謝罪の言葉を口にする文に椛は一つ息を吐いた後、喋り始めた。


「どうも最近、疲れが抜けなくて……。毎日、睡眠も食事にも気を使っているんですが何の効果もなく、そのせいで仕事や鍛錬も疎かになってきていて……」


 真剣にまじめを打ち明ける椛の姿に文はあごに手を当てて考え込んだ。


「疲れですか……。もしかしてあれじゃないですか? 少し前にあった異変。その時の疲れが抜けてないとか」


 文は一月前にあった異変の事を上げた。


 小名針妙丸が起こした異変、通称「輝針城異変」は普段は大人しかった妖怪が狂暴になったり、道具が強制的に付喪神になり暴れたりした。


 もちろん、少なからず妖怪の山も影響を受けた。


 天狗たちも暴れだした山の仲間や妖怪の山を襲いに来た付喪神たちの対処に追われた。


「そうかもしれません。そう言えば、あれ以降まともに休み取ってないかも……」


 天を仰ぎ、遠いところに目線を向ける椛に文はにんまりと笑みを浮かべた。


「なら、私に付き合ってくれません?」


「えっ?」


 文の言葉に椛は間抜けた声を上げる。


「いやですね。私、今滅茶クチャ暇なんですよ。ですから、今から椛が休みを取って私と人里にでも遊びに行きましょう。たまには羽休めしないと仕事と鍛錬ばかりでは息も詰まるでしょうし」


 捲し立てるように椛に言い放つ文。


「いえ、でも、いきなり休むのは……」


 躊躇ためらいの表情を浮かべる椛に文は続ける。


「そんな風に迷っていては好機チャンスを逃してしまいますよ?! 何でもやってみなければわかりません! 大丈夫ですお金なら私が持ちますから! さあ、さあ、さあ!!」


「は、はい」


 文の勢いに負かされたのか椛はつい頷いてしまった。


「頷きましたね! では私があなたの代わりに人事部に休暇届出してきますから、先に準備して待っててください! 待ち合わせは守矢神社で!」


「あっ、ちょっと!!」


 早口で言い残し、椛を置き去りにしていく文。


 その姿はまるで一陣の風のようであった。


                 ■◆■


 それからほんの一、二分のうちに文は天狗たちの詰所へとついていた。


 ここでは普段、鼻高天狗たちが事務作業に追われ大忙しのはずである。


 しかし、今日の詰所は静まり返っていた。


「不用心ですね。鍵も閉めずに、詰所を空にするなんて。私たちよりも、事務のほうを如何にかしたほうがいいじゃないでしょうか?」


 文はそんなことを漏らしながら、棚や机の上を探り始める。


 しばらくすると、一冊の和本を手に取った。


「やっと見つけました」


 本の表紙には「業務仕訳帖」と書かれている。


 文はその本を片手で開くと胸ポケットから万年筆を取り出す。


「これにこう書けば……」


 万年筆を使い、何かを書き加える。


「これで、んっ?」


 書き終わり、万年筆を胸ポケットにしまい込んだ文はある違和感を感じた。

 

 一枚、一枚丁寧に本をめくっていく。


 そして、目を見開いた。


「これは……!」


 文は再び、部屋を探り始めた。


 今度はかなりの太さがある巻物を手に取る。


 その題は「出欠」。


 巻物を一気に広げると文は事細かにそれを調べ始める。


 それから数十分後、調べ終えた文はふっと声を漏らした。


「そんなことが……。なんで……?」


 文が声を漏らすのも無理はなかった、そこに書かれた内容は天狗たちの全体の九割が休みを取っている事実であった。


 確かに新聞に関わる者たちは天魔の命で新聞製作を休止している。


 しかし、全く仕事がないわけではない、他の部署から仕事の手伝いや異変の復興作業など多岐にわたる。


 それに新聞と関わりのない人事や事務、食糧調達班などは普段道理働かなければならない。


 九割も休んでいたら、組織として機能しない。


 もし、新聞関係者全員が休んでいたとしても、せいぜい全体の三割程度だ。


 いくらなんでも九割は不自然を通り越して、異常である。


 文が言葉を失っていると詰所の戸が開いた。


「文、さん。待って、くだ、さいよ」


 そこには息を切らした椛がかろうじて立っていた。


 急いで追ってきたのだろう、髪は乱れ、その白い肌を赤らめ、汗を滴らせている。


 文はそんな椛に近づいていき、肩をつかんだ。


「椛」


「はい?」


 真剣な表情を浮かべる文に返事を返す椛。


「休みは無しです。ちょっとやることができました。すいませんが手伝ってくれませんか?」


 文の言葉に椛は真顔で言った。


「私の仕事は警備です。外からの敵を排除するのも仕事ですが周りの規則違反を取り締まるのも仕事の一部です。なので、もし規則を破るのならば文さんのことも止めなければいけません」


 椛は文の腕をつかむ。


「っ!」


  言葉に気を取られていた文は距離を取ろうとするがすでに遅く、しっかりと腕をつかまれ動くことはできなかった。


 一瞬にして固まった空気は再び口を開いた椛によって解かれた。


「……業務中ならですが」


「は?」


 目を点した文に椛は堂々と答える。


「今の私は休暇中なんですよね、文さん?」


「え、ええ」


 今だ困惑している文は椛の質問に答えた。


「なら、休暇中に友達の手伝いをするぐらい大丈夫ですよね?」


 椛のこの言葉に瞬時に意味を理解した文は椛に抱き付いた。


「ふふ、別にいいですよ文さん、そんな感謝しなくても……」


 椛がそこまで言ったところで、文が叫んだ。


「決まってるなら最初からそう言ってくださいっ!!」


「うきゃぁぁっぁっぁああああ!?」


 見事なサバ折りを決めた文は憮然とした態度で詰所を出ていく。


「さっさと行きますよ椛! 全くネタは鮮度が命だというのに……」


「うぅぅ。あっ、待ってくださいよぉ、文さん!」


 文句を垂れる文と、それを追いかける椛。


 これが異変の幕開けであった。




 

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