カムイとかおり
学級委員長の小田 かおりは、身を乗り出して、山上 カムイを睨みつけた。
カムイはそれを、不満そうな眼差しではね返す。
「旧校舎何にも変わってないじゃない! アンタ、ホントーーにインチキなのね!!」
「あぁ、そうかもな。 だいたい報酬無しじゃ、あんなもんだよ」
「あのね、この高校はバイトを禁じられてるのよ? 先生にインチキしてお金をもらってる人がいるって言ってもいいの?」
「どうぞ、ご勝手に。証拠が無きゃ何にもならないよ」
カムイはわざと大きなため息をつき、立ち上がる。
「ちょっと、逃げる気? アンタみたいなのがいるから、
ちゃんとした霊能力者が、疑われるの。 迷惑なのよ!!」
かおりは、カムイの前に立ちはだかり、不満をぶつけた。
「それこそが、自意識過剰のインチキだろ?」
見下し捨てセリフを吐きながら、カムイは教室を出てった。
その場に残されたかおりの全身の血が、怒りで駆け上った。
教室にいる皆の視線が自分を注目しているのを感じたが、感情を自制することはできなかった。
怒りに任せて教室を飛び出し、カムイを追いかける。
こんな怒りを感じたのは初めてかもしれないとかおりは思った。
旧校舎と呼ばれる古い建物には、幽霊が出るという噂があった。
霊感の強いかおりは、実際、それを何度も目撃していたのだ。
それをインチキだと言うのか……何度もかおりの頭の中で自答する。
許せない気持ちを地面に叩きつけるように走った。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
カムイの手を無理やり掴み、自分の方へと向かせる。
かおりはカムイの長身を見上げながら、目線がカムイの顔に止まった。
綺麗に整った顔、全体的にどことなく軟弱な印象なのに、
鋭く射抜くような眼がかおりの目とあう。
不本意ながら、かおりはドキッとした。
「しつこいなぁ。インチキの俺は用済みだろ?」
「訂正しなさいよ……さっきの言葉!!」
「は? 何を?」
「私が自意識過剰って言葉! 訂正しなさいよ!! あんたみたいなインチキと一緒にしないでよ!!!」
「くだらん。なんでそんなにこだわるんだよ」
以前、かおりは偶然見てしまったのだ。
親戚の結婚式に行ったホテルのラウンジで、カムイが綺麗な女性さんから紙袋をもらっている所を。
その後、委員長として理由を問い詰めると、
「お化け退治の報酬をもらっていただけだ」と、彼はあっさり答えた。
にわかに信じられない言い訳を立証する為にと、今回旧校舎のお祓いを頼んだのだが、結局何も変わらないままだったのだ。
「あたしは見たの!!あの旧校舎に!! だから……!!」
「はぁ? だから自意識過剰って言うんだよ。あそこには何にもいない」
「でも、私!!」
「その話は終わり。じゃあな」
カムイが一方的に話を切り上げ、背を向け去って行く。
プライドを砕かれたかおりの目からは、悔し涙がボロボロと零れた。
やっぱり誰もわかってはくれない……とかおりは思った。
孤独感が一気に襲い掛かり、声を押し殺し、かおりは隠れるように泣いた。
その存在に気がついたのは春の終わり、少し汗ばむ季節だった。
入学当時から聞いていた旧校舎のお化け騒動の為、かおりはあえて近づこうとはしなかった。
だが放課後友達との帰り道、ふと見上げた旧校舎の窓に見つけてしまったのだ。
5年前、交通事故で亡くした弟の姿を。
成仏してなかったのかと思うと、愕然とした。
悲しみより、彷徨っている弟の孤独の方が辛かった。
救いたい一心で色んな人に相談したが、周りの友達は自分を気味悪く思われ、避けるようになってしまった。
だからこそ、やっと信じてもらえる人ができたと、かおりは思った。
だがそれも全てを踏みにじられてしまったのだ。




