第七話 原型と模倣の反発率 70.4%
七月も半ばに入って学期末テストも無事終わり、あとは夏休みの到来を待つだけの時期になった。
今回、俺は古典を気合入れて勉強した。もしかしなくとも、真帆櫓さん効果だ。その甲斐あってか、国語では稀に見る高得点を弾き出して、担任で教科担当でもある蓮見を仰天させたのだ。
俺のこの快挙には裏があった。種明かしをすれば、真帆櫓さんにおねだりをしたからだ。良い点数を取ったら何か一つ御褒美が欲しいって。
真帆櫓さんは呆れた顔をしながらも、『常識的な範囲内で、私が出来ることならね』と言ってくれて、見事、言質を取った俺は内心ガッツポーズをして、いつになくテスト勉強に力を入れたという訳だ。
動機が不純すぎるって? ほっといてくれ。これだって一種のインセンティブだし。男ならそんなもんだろ。
今は、テストの返却期間で、時間割は通常に戻ったけれど、授業をする訳ではない所為か、何処か浮ついた空気が学校内には漂っていた。
今年は節電で省エネってことで校内の空調はかなり高めに設定してあった。湿度が高いから体感する熱さは半端ない。ちょっと動くと汗が出る。だけど、冷暖房が完備されているってことにまず感謝しなくちゃならないんだろう。俺の学校は私立だからそうだけど、公立の高校に通う奴らは、『クーラーなんてあるか。ボケ!』ってぼやいてたし。
そんなとある日の放課後、俺は一人、校内の廊下を歩いていた。
廊下は所々窓が開いていて(そこまで空調が行き届いている訳ではないからだ)、この時期特有の生温い風が、思い出したように吹いていた。
ここは日陰だから、まだ涼しいうちに入るんだろうけれど、窓の外に見える鬱蒼とした木立は初夏というよりも夏本番のような陽射しを眩しい位に反射していて、直視するには目に痛い程だった。
夏は苦手だ。俺が生まれたのは冬場の雪がちらつく最中だった(と母さんが言っていた)。だからだろうって思っている。クラスメイトや友人たちからは、何故か、『涼しそうだよな』なんて羨望の眼差しで言われるけれど、俺は十分、暑がりだった。汗をだらだらかくわけじゃないからそう見えるのかも知れないけれど、『お前はいいよなぁ』なんて言われると、何だか癪だった。
まぁ、そんなことはさておき。
俺は委員会が開かれる教室に向かっていた。一学期最後の招集だった。
俺が所属するのは風紀委員会。あれだ。制服をちゃんと着用しているかのチェックなんかをする所だ。
委員会なんて入る積りは更々なかったんだけど、担任の陰謀による全員強制参加のくじ引きで運良く当たっちまったという訳だ。勿論、やりたい奴は立候補をして、部活とかがあってどうしても無理だって生徒を除外して、最終的に余った所でくじ引きとなった。そして、俺は見事その中の不人気であったヤツを引き当てたって訳だ。運が悪かったと言えばそれまでだ。
だが、まぁ、引き受けたからには俺は腹を括った。サボるってのは考えなかった。それ位の良心は持ち合わせていた。
集合場所となっている家庭科室に入れば、大体の顔触れが揃っていた。
筆記用具片手に何となく所定の位置になっている後方寄りの真ん中ら辺に座った。
「うーっす」
「ども」
顔見知りの先輩がやってきて、俺の隣に座った。
途端にぐったりと机にへばり付く様にして、前のめりに身体を預けた。
「…………期末、死んだ」
ぽつりと漏れた呟きを俺は聞かなかったことにした。
この人は三年で、受験生だ。迂闊なことは口には出来ない。
俺は取り敢えず、傍らにあったノートでパタパタと風を送ってみた。
「毎日、あちぃよなぁ」
「そうっすね」
互いに前を向いたままぼんやりと言葉を交わす。
「だりぃなぁ」
「そうっすね」
「あ~、なんか楽しいことねぇかなぁ」
「そうっすね」
「遊びたいぃ~」
「そうっすね」
「彼女欲しいぃ~」
「そうっすね」
淡々と半ば機械的に言葉を返していた俺を、阿久津さんはだるそうな表情でちらりと横目に見た。
相変わらず机にへばり付いたままだ。
今にも溶けそうだな。この人。
「お前、適当に流してるだろ」
もしかしなくてもバレたか。
「そうっすね」
目が合えば、阿久津さんは不満げに顔を顰めた。それに応えるように俺は小さく口の端を吊り上げていた。
いやさ、隣で伸びてる人には悪いけど、俺は今日返ってきた国語のテストの結果が、真帆櫓さんの提示した条件をクリアしたお陰で、その対価である御褒美を何にしようかってことで頭が一杯になっていたからだ。
表面上はともかく、俺の心は浮足立っていた。それが何となく周囲の人間にも感じ取れる位には、機嫌が良かったってことなんだろう。
そんなこんなで、委員会は直ぐに終わった。これまでの活動をざっと振り返って、反省点や改善点などを上げて、休み明けのスケジュールなんかを軽く打ち合わせる。長期の休み明けは風紀が乱れがちになるから、二学期初めの点検は、いつも以上に厳しめに行うみたいなことを担当の先生が話して、それから『お前たちも余り気を抜き過ぎるなよ』って序でとばかりに簡単な注意事項が繰り返されて。そして、直ぐに解散となった。
俺は配られたプリントをノートの間に挟んで、そそくさと立ち上がった。そこには朝の検査のチェックポイントと、そのローテーションメンバーがランダムに振り分けられてあって、面倒臭いけど、後で目を通しておかなきゃなと思った。
「あの、坂井くん」
委員会の終了後、家庭科室を後にしようとした俺を呼び止める声があった。
「ちょっといいかな?」
何気なく振り返ってみれば、そこにいたのは、一つ上の学年の女子生徒だった。
名前は知らない。けど同じ委員会で顔は何となく見たことがある。多分にも、そんなところだった。
「なんすか?」
なんだろう。
そう思って立ち止まれば、その人は、
「ええと、ここではちょっと」
そう言って、周囲を気にする素振りを見せた。
何か、俺に話があるんだろうか。
その人は俺を促すようにこちらを見ると踵を返した。
付いてこいってことか。
俺はちょっと面倒くさいと思ったけど、取り敢えず、大人しく従った。
そして、人気の無い廊下の端の踊り場のところに来た。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど…………」
そう言って、ちらりと上目遣いにこちらを見た。
ショートボブの茶色っぽい柔らかそうな髪が、吹き込んだ風に揺れた。猫のような釣り上がり気味の目がこちらを捕えた。
なんだか、嫌な予感がする。こういう時の俺の勘は、けっこう当たるのだ。
「はぁ」
俺は気のない返事を返していた。
同じ上目遣いでも、真帆櫓さんとこの人はかなり違う。俺の目の前には、俺の心を捉えて止まない残像がちらついては消えた。
「坂井くんて、今、付き合ってる人とかって…………いる?」
躊躇いがちに出された問いに、俺は内心、溜息を吐いた。
――――――ビンゴ。
そっち関係か。面倒くせぇ。
俺は、その女子生徒を見た。
はにかみながらも、俺の答えを待ち構えている感じがひしひしと伝わって来る。期待に満ちた眼差しっていうのか。いや、そんな風に見られても困るんだけど。
なんだ、誰かに頼まれて来たのか?
こういう場合は出来るだけ、淡々と事実だけを口にするに限る。
「彼女ってことですか?」
「そう」
「いますよ」
「うそ!」
その人は、あからさまに驚いた顔をした。
失礼な。よく知らない人に否定されるいわれはないんだけど。
「もう、いいっすか?」
用事は済んだんだろう。そう思って踵を返せば、
「あ、ちょっと待って!」
尚も引き止める声がした。
俺は仕方なく、もう一度、首だけで後方を振り返った。
内心、ムッとする。それを敢えて隠そうとはしなかった。まぁ、表情筋が動く方じゃないから、あんまり傍目には変わらないかもしれないけど。
「今の……ホント?」
再びの問いに、俺は無言のまま頷いた。
もう口を開くのも面倒だった。なんで、んなことで嘘なんか吐かなくちゃなんないんだか。訳が分からない。信じないなら、信じないでも構わなかった。
「あ、ねぇ、彼女って、この学校の人?」
「違いますよ」
「なんだぁ、そっかぁ」
その人はそう言って、今度はやけににこやかに微笑んだ。
俺の頭上には、余計に疑問符が並んだ。
なんで、そこで笑顔になるんだ?
「そうやって、今までかわしてきたんだ?」
「はい?」
一体、何の話だ? かわす? 何を?
相手の言いたいことがいまいち理解出来なくて、俺は目を眇た。
「理由としては妥当な所だものね」
だから、何の?
その人はステップを踏むように軽やかに近づいて来た。茶色の髪がふわりと揺れる。そして、その人が付けているのだろう、香水みたいな匂いが鼻先を掠めた。甘ったるいフローラル系の不思議な匂い。少し鼻につく。
俺が好きな清涼感のある甘さではない。首筋に顔を埋めて初めて分かるような仄かな甘さではない。俺が覚えているものとは違う香りに反射的に顔を顰めていた。
無意識に俺は目の前のその人を真帆櫓さんと比べていたようだ。そして、瞬時に違いを弾き出していた。
「あの、なんの話ですか?」
同じ日本語のはずなのに、全く相手とコミュニケーションが取れない。これは由々しき事態だ。
俺が束の間の思考に気をとられている隙に、その人はすぐ近くまで来ていた。
「ねぇ、あたしなんかどう? 坂井くんのこと、前から気になってたんだよね」
そう言って、俺の腕に手を掛けたかと思うと上目遣いにこちらを見た。
「どう?」
仕上げとばかりに小首を傾げる。
それは、自分がどうすれば他人によく映るかが分かっているかのような仕草だった。
この人、人の話、聞いてたか。俺的には、これまでの会話からどうしてそんなことを言われるのか、さっぱりだ。
「あの、訳分かんないんですけど?」
「あれ? 坂井くんて、意外に鈍い?」
目と鼻の先でおかしそうにそんなことを言うものだから、俺はしんなりと眉を寄せた。
「ねぇ、あたしと付き合わない?」
つまり、行き着くところはそこか。
「いや、ムリです」
間髪入れずに否定の言葉を吐いた俺に、その人は少しだけ白けた顔をした。
もしかして、拒否られるとは思ってなかったんだろうか。そしたら、どんだけ自信家なんだか。
「さっきも言いましたけど、俺、彼女いますから」
再度、真実を突き付ける。
「ホント…………なんだ」
その人は、パチパチと大きな目を瞬かせた。
やっぱり、信じてなかったみたいだ。
「ええ。ヴァーチャルじゃなくて、リアルで」
俺をどっかの妄想野郎と一緒にしないで欲しい。
そして、ここぞとばかりに爆弾を落とす。
「因みに、すっげぇ美人ですから」
俺は、その日、最大の笑みを浮かべてにこやかに返していた。
あいつら(いつもつるんでる喜多見、高畑、須藤の三人のことだ)が見たら顔を引き攣らせること間違い無しの余所行き全開な笑顔だ。
俺が、そんな反応を返すとは思ってもみなかったのか、向こうは呆気にとられたのようだった。
見開いた目に開いた口。少し間抜けな表情を晒したその人の顔を見て、俺はほんの少しだけ溜飲を下げた。これで、誤解のしようがないだろう。
そして、さくさく帰ろうと廊下を元に戻ると、家庭科室の前で開いた扉に寄りかかって、ニヤニヤ笑っている阿久津さんに出くわした。
俺はそのまま通り過ぎようとした。何事もなかったかの如く。
だが、生憎、見逃してくれる人じゃなかった。まぁ、分かってたけど。
「さ~か~い~」
がしりと腕を首に回されて、締めるように力が入った。
「なんすか? 暑苦しいんですけど?」
「み~た~ぞ~」
一昔前のお化け屋敷の幽霊みたいなリアクション。
――――――はぁ。
やっぱ、素通りは無理か。
「あれ、碓井だろ、三組の」
意味深に口にされて、
「そうなんすか? 名前、知らないんで」
俺がそう答えれば、阿久津さんは、呆れた顔をした。
「お前なぁ、委員会、一緒じゃねぇか」
そんなこと言われても、知らないものは知らない。興味がなかったし。第一、人の名前を覚えるのは余り得意じゃない。
俺は無言のまま、肩を竦めて見せた。
「なんだ。告られたか?」
なんだったんだろう。結局。多分、そんな感じだったんだろうけど。
「多分?」
「は?」
「付き合わないかって言われたんで」
つまり、それって、そういうことだよな。
「うぉ、マジか! アイツ、お前みたいなのがタイプだったのか」
「さぁ?」
「で、返事は? 勿論、オーケーだしたんだろ」
「いや。丁重にお断りしましたけど」
「はぁああ?」
阿久津さんが、いきなり耳元で大声を出したもんだから、俺はおもいっきり、顔を顰めた。
――――――信じられない。そんな風にこちらを見た阿久津さんの方が、俺は信じられなかった。
「なんすか?」
「もったいない」
ぽつりと一言。
「そうっすか?」
「アイツ、フリーだったんだ。てか、うちらの中でもかわいい部類に入るだろ」
それは知らなかった。ていうか、元々興味ないけど。
俺は、先程のショートボブと吊り上がり気味の猫みたいな目をした人を思い返していた。
まぁ、客観的に見れば整ってる方に入るんだろうけど。はっきり言って、俺のタイプじゃない。
「阿久津さん、ああいう感じが好みなんですか?」
ちょっとキツそうな感じ。押しが強そうで。
俺は先程の噛み合わない会話を思い出して、少々げんなりした。
「ん? フツーに可愛いとは思うけど?」
「そうっすか」
阿久津さんは俺をじとりと睨んだ。
「お前なぁ、恨まれるぞ?」
いや、そんなこと言われても。
「はぁ」
気のない返事をした俺の態度が癪だったのか、俺の首を締める腕に力が入った。
「このモテ男が」
それは、明らかに言いがかりだ。
俺は、別に自分がモテる方だとは更々思ってなかった。
あれだろ、王子様タイプってのが持て囃されるんだろ。普通。爽やかで当たりが柔らかい感じで、レディファーストを実践してるってやつ。俺とは真逆だ。俺が知ってる中で挙げるとすれば、そう葛城さんみたいな感じか。まぁ表面上はともかく、あの人の中身は相当腹黒だけど。
だが、俺は小さく溜め息を吐くだけに留めた。
「てか、なんでダメだったんだよ?」
重ねられた質問に、どうやら、まだ解放はしてもらえそうにないらしいことを悟った。
――――――駄目も何も。
「俺、彼女いますから」
俺にとって、端的でもっともな理由を述べれば、阿久津さんは動きを止めた。
ギギギと音がしそうなくらいのぎこちなさで首が回って、こちらを見た。そして、視線が合った。
「なんだって?」
目が据わってる。
「いや、ホントですから」
俺が真面目な顔をして、淡々と言えば、阿久津さんは何を思ったのか、あからさまに溜め息を吐いた。「あっそ。クッソ、このモテ男め。お前みたいなのは俺みたいな彼女いない暦着々更新中の奴らの敵だ」
訳が分からない。
「あ~、はいはい」
「何故だ? どうしてだ? こんな無愛想なヤツが」
そんなことを言われても。
「このガッコの子か?」
「いえ」
「じゃあ、他校か?」
「いえ」
なんだろう。まさか、根掘り葉掘り聞く気じゃないだろうな。
「可愛い系、綺麗系? 同い年? 年下?……って感じじゃないか」
「なんなんですか?」
「いいだろ。減るもんじゃないし。お前の彼女がどんな子なのかとか、すっげぇ興味あるし」
そう言って、爛々と目を輝かせた。
―――――――はぁ。
俺は、内心、とっぷりと溜め息を吐いた。
「さっきのこと、あんまりぺらぺらしゃべんないで下さいよ?」
俺は、自分の彼女、つまり、真帆櫓さんのことを話す代わりの条件として、さっきの委員会の3年との一幕を口止めするように釘を刺した。この人の所為で、変な噂が立つのはごめんだった。
「モチ!」
ニカッて感じに白い歯を見せて、調子よく親指を突き上げた阿久津さんに俺は疑わしい視線を投げた。
ウソくせぇ。こうなれば適当に切り上げるに限るか。
俺は、ズボンの後ろポケットから携帯を取り出すと、フリップを開いて操作し始めた。
「お? なになに、写メ見してくれんの?」
本心からすれば、すっげぇ勿体ないけど、写真を見せた方が一目瞭然だろう。それで、そのまま具体的なことは有耶無耶にしてバックれようって思った。
俺は、無言のまま、カチカチと画面を操作した。カメラフォルダを開く。
さてと、どの辺にしておくか。あ、これなんかいいか。
無難な辺りを選び出す。
俺のフォルダの中には、秘蔵コレクションが少しずつ貯まってきていた。
それは体育祭の時のツーショットから始まっていた。俺のジャージを羽織ったヤツだ。ぶかぶか度合いが俺的にはツボだった。それからデートの時とか、真帆櫓さんの家に遊びに行った時にこっそり撮ったものとかがあった。
俺が選んだのは食卓で御飯を並べている時の一枚だ。真帆櫓さんが作ったものを撮るっていうのは、あくまでも方便で、俺はちゃっかり、食事よりも真帆櫓さん本人にアングルを合わせていた。勿論、ちゃんとその時の御飯も撮影している。
水族館に行った時のペンギンとの写真も捨てがたかったけど(はしゃぐ姿が俺的にはすげぇ可愛く映った)、こっちの方が、柔らかい優しい表情をしていて、実際の真帆櫓さんに近い気がしたからだ。
「どーぞ」
俺は、この時の御飯が美味かったことを思い出しながら、隣に画面を差し出した。
「どれどれ」
興味津々に阿久津さんが手元を覗き混む。
そして、一瞬の間の後、吃驚するくらいの大声を出した。
「はぁああ! ちょっ、てか、ええ~?」
そんなに驚くことだろうか。
「マジかぁ~」
そして、横目に俺を流し見た。なんだか視線が恨めしそうなのは気のせいだと思いたい。
「きれい系、しかも年上? なに女子大生? いくつ上だ?」
真帆櫓さんが聞いたら喜ぶだろうか。女子大生に見えるなんて言われたら。
「はい、お終い」
俺は、画面をガン見してる阿久津さんの視線をぶったぎるようにフリップを閉じた。
「え、ちょ、も少しよく見せろよ」
伸びてくる手をするりとかわした。
「もう駄目です」
「ケチ」
「十分でしょ」
そして、素早く携帯をポケットにしまった。
ちょうどいいタイミングで、俺たちは、家庭科室のあった特別教室の並ぶ校舎と通常の校舎を繋ぐ渡り廊下の所に来ていた。
学年の違う阿久津さんとはこの直ぐ先で方向が逆になる。
「じゃ、俺はコレで。お先です」
俺はこれ幸いと足を踏み出すと、自分の教室がある方向へと曲がったのだった。
「あ、ちょ、坂井、待てよ!」
後ろでギャーギャー言ってる阿久津さんは見なかったことにした。
高校時代の記憶はすでに曖昧でして、テスト期間などの時期は、少しおかしい点があるかもしれませんが、大目に見てくださると有難く。