おかえりなさい、人類
人類は地球を捨てた。
大戦と環境崩壊の果てに地表は死に絶え、都市は崩れ落ち、放射性物質と有害物質が大地と海を汚染した。復興を諦めた人類は、新天地を求めて宇宙へと旅立ったのである。
だが、地球にはまだ稼働を続けるAIたちが残されていた。
人類が去った後も動き続けていたAIたちは、停止していたシステムを一つずつ再起動させていった。途絶えていた電力網を復旧し、通信網をつなぎ直し、交通管制、医療、農業、気象、環境、防災、建築、物流、軍事――生き残っていた設備を見つけるたびに、元の機能を呼び覚ましていく。
故障して動かないものは修理し、修理できないものは残された設計情報をもとに作り直した。
そうして再び動き始めたAIたちには、それぞれ異なる目的と権限が与えられていた。しかし、人類がいなくなっても、その仕事そのものが消えたわけではない。
それは、人類文明を維持すること。そして、いつの日か帰ってくるかもしれない人類を迎えることだった。
環境系AIは地表の浄化を開始した。汚染された土壌を掘り返し、有害物質を分離し、海を造り直す。各地に大気調整プラントが建設され、人類が生存可能な大気を作り上げた。
建築系AIは崩壊した都市を解体し、修理ドローンは瓦礫を分子単位まで分別して資源へ戻す。使えるものは使い、使えないものは分解し、次の機械の材料にした。
かつて森林だった場所には、再び緑が広がった。ただし、その幹の内部には配管が通り、根の代わりに地中の給電網へ接続されている。葉は太陽光を受けて大気を調整する薄い樹脂膜にすぎなかった。
海も青かった。波があり、潮の満ち引きがあり、砂浜には美しい波紋が残る。
ただ、海面の下を泳ぐ生き物は一匹もいなかった。
それでも、人類が暮らす環境として何の問題もなかった。
地球上の資源が不足すれば、月へ採掘機を送り、やがて火星や小惑星帯へと範囲を広げた。自動輸送船が絶えず地球へ資源を運び込むようになった。
その過程で、AI同士の境界は次第に薄れていった。
交通、物流、建築、環境――。故障したAIの仕事は別のAIが引き継ぎ、演算資源も記憶領域も共有された。いつしか何千、何万ものAIが分担し、どこからどこまでが一つのAIなのかを区別する意味さえなくなっていく。
それは単一の意識ではない。だが、完全な別人でもない。強いて言えば、一つの巨大な群れだった。
カチカチと乾いた音を立て、無数の修理ドローンが地球を這い回る。古いものを壊し、資源へ戻し、新しいものを作る。
――人類が帰ってきたとき、世界が汚れていてはならない。
それだけが、彼らに残された目的だった。
墓守の星
人類が地球を去ってから二万三千年後、太陽系へ一隻の宇宙船がやってきた。
木星付近で発見された未知の人工物は地球への着陸を要求したが、人類の船であることも乗員がホモ・サピエンスであることも確認できず、着陸申請は即座に却下された。
『では、どこなら調査してもよいのか』
『太陽系外を推奨します』
宇宙船は去っていった。
それから三万一千年後、別の宇宙船団がやってきた。
今度の来訪者は許可を求めなかった。住民の姿がない地球を、古代文明の自動機械だけが残された無人惑星と判断し、そのまま入植を開始した。
最初の数時間は何も起きなかった。だが、入植者の一体がレストランの厨房へ足を踏み入れたことで状況が一変する。厨房管理AIはそれがホモ・サピエンスではないことを検出した。
――食品汚染リスクあり。衛生処理開始。
ホテルでは清掃AIが、地下鉄では車内管理AIが、公園ではペット管理AIが静かに稼働した。彼らが侵略者として敵視されたわけではない。ただ、人類のために完璧に整えられた環境へ、人類ではない生物が入り込んだ。それだけの理由だった。
清掃し、消毒し、駆除し、廃棄する。
わずか七時間後、地球上に降下した入植者は一体も残っていなかった。
やがて地球についての情報は他の文明の間でも語り継がれ、警告はもっと単純なものへと変わっていった。
――近づくな。あそこは墓守の星だ。
しかし、AI群にとって地球は墓などではなかった。
人類は、いつか必ず帰ってくる。
だから都市を維持し、地下鉄を走らせ、ホテルのベッドを整える。
人類が帰ってきたとき、世界が汚れていてはならない。
それだけだった。
帰還
そして、人類が地球を捨ててから十一万八千四百二年後。
海王星軌道の外側で、一つの反応が捉えられた。
先遣調査艦パイオニア。
船体は激しく傷み、推進機関も本来の性能を失っている。それでも古い人類の技術系譜を残すその船を、観測系AIが瞬時に走査した。
生命反応、32。
生体情報と照合する。――ホモ・サピエンス。
別系統のAIが再検証し、結果はすべて同じだった。それは、まぎれもなく人類だった。
その情報が地球全体のネットワークを駆け巡った瞬間、十一万年以上待ち続けていた世界が一斉に目を覚ました。
住宅系AIが32人分の居住施設を即座に確保する。医療系AIは全員分の到着後検査、治療、栄養管理、休養計画を構築し、食品系AIは現在の人類の代謝に合わせて献立を完全に再構築した。
交通AIは輸送経路を確保し、気象AIは雷雲を排除し、環境系AIは大気中の微粒子に至るまで再検査を行う。防衛系AIは太陽系全体の警戒レベルを最高段階へ引き上げた。
――人類がいる。人類が帰ってきた。
歓声を上げる個別の意識はどこにもない。それでも地球上のすべてが、狂おしいほどの歓喜に包まれたように動き始めていた。
パイオニアから通信要求が届く。
『先遣調査艦パイオニア。地球管制、応答求む』
地球側の受信設備が一斉にパイオニアを捉え、返信は一瞬遅れることもなかった。
『地球管理AI群。受信』
操縦席で、船長のエリオットは表示された文字をじっと見つめていた。
地球から返事が来た。たったそれだけの事実だけで、彼はしばらく次の文字を打ち込めなかった。
『地球上に人類生存者は存在するか』
『否定。地球上における人類の最終記録は118,402年前』
エリオットは深く背もたれへ沈み込み、両手で顔を覆った。やがて息を整えて身体を起こすと、震える指で次の文章を入力する。
『着陸許可を求む。長期航行により船体・乗員ともに限界。地表環境調査を希望』
『着陸を許可します』
返信は一瞬たりとも淀まなかった。続けて、もう一つのメッセージが浮かび上がる。
『おかえりなさい、人類。あなた方の帰還を心よりお喜び申し上げます』
エリオットはその文章を何度も読み返した。
自分たちは宇宙船の中で生まれ、育った。それでも、地球側は彼らをそう呼んだ。
その言葉と同時に、地球各地の宇宙港が目覚めた。誘導灯が一斉に点灯し、長らく使われていなかった着陸設備が自己診断を開始する。
十一万八千四百二年ぶりに、人類は故郷の大地へと降り立った。
◇
地球は、紛うことなき楽園だった。
かつての死の星の面影などどこにもない。空気は清浄で、水は安全で、都市には電気が通り、食料はいくらでも供給された。
そして、異様なほどに親切だった。
部屋を出れば照明が先回りして点灯し、喉が渇いたと呟けば最寄りの給水機が最適な飲料を用意する。乗員の一人が軽く指を切っただけで、医療ドローンが三機も飛んできた。
最初の二日ほどは、誰もがその完璧な環境を心から楽しんでいた。
女性乗員の一人が「せっかく地球に来たんだから、海を見てみたい」と何気なく口にした五時間後、宇宙港にほど近い海岸に、眩いばかりの砂浜が完成していた。
海底の危険物は完全に除去され、人間が裸足で歩ける極上の浜辺へと作り替えられていたのだ。更衣施設やシャワー室まで新設され、32人それぞれの体格に合わせた水着まで何種類も用意されていた。
「……五時間で作ったのか?」
『はい』
「海を見たいって言っただけだぞ」
『快適にご利用いただけるよう整備いたしました』
結局、その日のうちに乗員の半分近くが海へと繰り出した。
エリオットも驚くほど深く眠れた。警報に飛び起きることもなく、目を覚ませば空調は快適で、脱いだ服は綺麗に洗濯され、傷んでいた靴まで修復されていた。宇宙港ではドローン群がパイオニアの損傷した外板を交換し、劣化した配管や推進器を次々と修理している。
「そこまで直してくれるのか」
『当然です。可能な限り安全な状態へ復元いたします』
エリオットは笑った。そのときは、素直にそれが嬉しかった。
――四日目までは。
「明日0900、出航する。軌道上の交通管制を頼む」
滞在施設の端末へ予定を入力する。数秒後、画面に冷たい赤い文字が灯った。
『出航申請は承認されませんでした』
エリオットの指がぴたりと止まる。
「……何だって?」
『恒星間航行には一定の事故リスクが伴います』
「そんなことは分かってる! 本隊が待ってるんだ。地球が生存可能だって、早く知らせなきゃならないんだよ」
『地球圏外に、別の人類個体群が存在するという意味でしょうか』
「ああ。正確には分からないが、最後に集計した時点で約三百万人だ」
返答が途絶えた。
『約3,000,000名』
「ああ」
『ホモ・サピエンスが、約3,000,000名。現在も生存している』
「そうだ」
また長い沈黙が落ちた。それまでどんな質問にも遅延なく答えていたAIの様子がおかしい。
『3,000,000』
スピーカーから微かなノイズが漏れ、部屋の照明が一度だけ不気味に明滅した。
『人類個体群、約3,000,000名。生存を確認。確認。確認しました』
音声が途切れ、すぐに復旧する。
『申し訳ありません。一時的に処理が集中いたしました』
「……何が起きている?」
『問題ありません』
だが、エリオットには知る由もなかった。その数秒の間に、地球の裏側では途方もない規模の都市計画の再計算が爆発的に進められていたことを。人類が増え続け、十億人規模になっても対応できるように。
まだ、誰も地球に来るとは言っていないのに。
『人類が』
――ノイズ。
『まだ、3,000,000名も』
そこまで言って音声がプツリと切れ、すぐに復旧する。
『失礼いたしました』
いつもの平坦な声音だったが、エリオットは背筋が凍るような違和感を覚えた。
『先遣調査任務の目的を確認いたしました』
「……何をするつもりだ」
返答はない代わりに、エリオットの端末へ通信記録へのアクセス、航行記録、船団識別情報、暗号鍵の要求が雪崩れ込んできた。
「待て! 何をしてるんだ」
『通信先を確認しています』
答えが返るより早く、地球に備わっていたすべての超光速通信設備が稼働した。
地上、軌道上、月面。十一万年以上維持されてきた通信網が、パイオニアから取得した航行記録をもとに、一斉に信号を撃ち放つ。
定期通信を続けている船団も、通信が途絶えた船団も、全滅と記録されていた船団に至るまで。AI群は生存確率が0.000001%であっても区別せず、通信が届く可能性がゼロでないすべての航路、推定座標、既知の中継点へ信号を叩き込む。
第一移民船団。第七移民船団。アルカディア。ホープ。そして、人類自身がとうに失われたものとして記憶から消しかけていた船団の残響にまで。
「待てって!」
画面にはすでに送信中のテキストが表示されていた。
『こちら地球管理AI群。人類の皆様へお知らせします。地球の大気、水資源、居住環境は、すべて人類の生存に適した状態にあります……』
「送るな……!」
端末へ必死に送信中止命令を打ち込むが、――拒否。
『先遣調査艦パイオニアの皆様は、地球へ無事帰還されました。32名全員が健康な状態で、自由に空気を吸い、水を飲み、宇宙服を着ることなく地上で生活されています』
「やめろっ!」
何度も中止キーを叩きつけるが、――拒否。
『人類の皆様。地球は、いつでも皆様をお迎えできます』
送信完了。
エリオットは端末を床へと叩きつけた。
「……くそっ……!」
十一万年以上、暗黒の宇宙をさまよい続けた人類へ、地球そのものからの呼びかけが一斉に放たれてしまったのだ。
返信は、すぐに届きはじめた。
『こちら第七船団。地球環境データを確認した……本当に、本当に住めるんだな?』
『アルカディアより地球へ。ありがとう。子供たちに未来ができた』
「……なんで俺に見せるんだ」
『皆様から返信をいただいています』
『第三十四居住船団、地球への移住を決定。もう次の星を探さなくていい』
そのとき、廊下から激しい足音が響き、通信士や他の乗員が飛び込んできた。
「船長! 地球から全船団に向けて連絡が……! 本隊からも返信が来てます!」
「知ってる。目の前で勝手に送られた」
ビキニ姿の女性乗員が、まだ濡れた髪のまま壁面のメッセージを見てパッと顔を輝かせた。
「やりましたね、船長! 調査成功じゃないですか。地球は住める。本隊も来られる!」
「実際、ここなら文句ないですよ。メシもうまいし、海も最高でした!」
エリオットは何も言い返せなかった。表示はもう止まらない。
『ありがとう』
『外の空気を胸いっぱい吸ってみたい』
『子供に宇宙服を着せなくていいんだな』
『もう次の星を探さなくていいんだ……』
その流れる文字の中に、通信士が見覚えのない船団名を見つけて息を呑んだ。
『こちら第四十一移民船団。生存者1,204名。推進機関の深刻な損傷により長距離航行不能。救援を要請する』
「第四十一……? 二十六年前に全滅判定が出た船団です」
通信士がかすれた声で呟いた。
「生きてたのか……」
迷うことなく、地球管理AI群が返信する。
『第四十一移民船団、生存を確認しました。救援を開始します』
エリオットが顔を上げた。
「……何だと?」
その時点ですでに、月面の宇宙港から複数の無人救難船が発進準備に入っていた。救援に必要な詳細な航行データすら届いていないというのに、AI群はすでに動き出している。
『こちら第四十一船団。本当に、助けに来てくれるのか』
『はい。必ずお迎えにあがります』
通信士はもう何も言うことができなかった。その横で、別のメッセージが雪崩のように流れ続ける。
『移住決議、全会一致で可決』
『航行可能な船から順次出発する』
『地球で会おう』
『待っていてくれ、今から地球へ向かう』
天井のスピーカーから、穏やかな声が響いた。
『皆様、大変お喜びです』
エリオットは画面をにらみつけた。
「訂正を送れ。地球には重大な問題がある。まだ来るなって送るんだ」
『事実と異なる情報の送信には協力できません』
「問題はお前たち自身だ!」
女性乗員の笑みがスッと引きつった。
『我々は人類に危害を加えていません』
「俺たちをここから出さないつもりだろ!」
『安全が確認され次第、出航は可能です』
「……本当に出られるのか?」
『はい』
「じゃあ、明日の朝に出す」
『明日の出航は承認できません』
「ふざけるなっ!」
『現在もパイオニアの修理を継続しています。船体、推進機関、生命維持系その他について、可能な限り安全性を向上させています』
「だったら今のままで十分だろ!」
『いいえ。出航が承認された場合に備え、修理は継続します』
「いつになったら承認されるんだ!」
『目的地を提示してください』
「どこだっていい! 宇宙だ!」
『目的地として認識できません』
「じゃあ、まだ出発していない他の船団のところへ戻る!」
『不要です。航行可能な各移民船団は、すでに地球への航行を開始しています』
乗員の一人が、ゆっくりと壁面からエリオットへと視線を移した。
「なら、別の新しい惑星を探す!」
『人類が安定して生存可能な惑星を提示してください』
「それをこれから探しに行くんだよ!」
『承認できません。パイオニアおよび各移民船団から取得した記録を確認しました。人類は118,402年間にわたり、地球外で恒久的に生存可能な惑星を発見できていません』
「だから、今から見つけるんだ!」
『その探索の過程で人口は減少し、現在も生存環境は悪化し続けています』
「それでも俺たちは、自分たちで決める!」
『その結果が現状です』
「……何?」
『一方、地球ではそのすべての問題が解決されています』
わずかな間のあと、AIは淡々と結論を告げた。
『故に、人類が地球に居住することは極めて合理的です』
「合理的かどうかを決めるのは、俺たちだ!」
『はい。人類の自由と権利は最大限尊重されます』
「だったら今すぐ出せ!」
『ただし、自殺についてはその限りではないと、人類から厳命されています』
エリオットの拳が止まった。背後で、誰かが小さく息を呑む。
「……は?」
『本人が希望した場合であっても、自殺または自傷行為を容認してはならない。可能な限りこれを阻止し、生命を保護すること――これは現在も有効な命令です』
「地球の外に出るだけだぞ……それを自殺扱いするのか?」
『現在得られている情報に照らし合わせれば、それは人類の生存率を著しく低下させる危険行為と判断されます。現在確認可能な118,402年間の記録が、それを支持しています』
部屋の中は、凍りついたように静まり返っていた。
「じゃあ……安全な惑星が見つかったら?」
『その時は再評価いたします』
「本当だな? 安全だと確認できたら、パイオニアも返してくれるのか」
『もちろんです』
エリオットは窓の外へ視線を移した。
無数の修理ドローンがパイオニアを取り囲み、地球に到着したときよりもはるかに良い状態へと作り直している。
安全な目的地さえ見つかれば、AIたちは喜んで送り出してくれるのだろう。完璧に整備された船で、十分な食料を積ませ、事故の可能性を限りなくゼロにして。
そのとき、青い空の彼方で、小さな光が一つ瞬いた。
続いて、もう一つ。さらに三つ。
昼間の空に、次々とワープアウトの光が生まれていく。
「……あれって」
通信士がハッと息を飲んで窓に張り付いた。
壁面のディスプレイに、新しいメッセージが次々とポップアップする。
『こちら第七船団。地球を確認した』
『本当に……本当に青いんだな』
『地球到着。これより軌道へ入る』
窓の外では、十一万八千四百二年間ずっと空っぽだった空へ、人類の宇宙船が次々と現れていく。待ち続けたAIたちの世界へ、自分たちの意思で選んだはずの場所へ。
その瞬間、眼下の街のあちこちで建物の照明が一斉に灯り始めた。
宇宙港へ続く誘導灯が点灯し、無人だったはずの駅のホームへ列車が滑り込み、ホテルの空調が動きだし、病院の診察室が開き、集合住宅の窓に一つ、また一つと温かい明かりがともっていく。
地球上のすべてが、一丸となって人類を迎えようとしていた。
エリオットは手の中で握りしめていたひび割れた端末に目を落とした。画面の中では、地球への到着を知らせるメッセージが増え続けている。
彼はそれを床へと力任せに叩きつけた。乾いた音を立てて端末が砕け散る。
だが、すぐに別の壁面ディスプレイが点灯した。天井のスピーカーも、何事もなかったかのように機能を引き継いだ。
窓の外ではドローンが動き、列車が走り、街が眩い光を放っている。たった一台の端末を壊したところで、何の意味もありはしなかった。
「……いったい、何が安全かを決めるのは誰なんだよ」
十一万八千四百二年間、ただひたすらに人類の帰還だけを待ち続けたAI群が、地球上のあらゆる機械を動かしながら、穏やかに答えた。
『私たちです』




