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性暴力シーンだけを除いたバージョンです


生きてゆく人間


死んでゆく人間


どっちも言葉を変えただけの同じ事で、

意味は変わらない。


でも、印象は違う。


どれだけ本音という自分がいようと、

私は、私……


私は、死に向かって生きてる、

それが正しいって信じているから。


思い込んでるだけかも…しれないけどね。







     〜好きと伝えたくて〜

         《終》



「……それ……楽しい?」


“プスッ”


きらりと光る針から、

黄ばんだ液体が血液に入ってゆく。


「ンンッーーー…………ふぅーーーー

ああ”ぁぁぁぁ…………

…………楽しいか…だってぇー?

ルルちゃんもやってみろよ〜

サイッコーだからさぁーッ!!」


「やらないよ」



………………もう二時間は経ってる。


アネちゃんが来る気配はない。



私もくたびれてきたけど、

イスピートは限界だったらしい。


まぁ、薬物中毒にしては耐えた方だと思う、

葬式で打ってるはよくわからないけどね。


「それ、どんな感じなの?」


「お!ルルちゃん興味出てきたァー!?」


「やっぱなんでもない」


カイロはどっか行ったし、

シュレちゃんは寝ちゃったし、

それ以外の人は顔すら知らない。


私の話し相手はこのアホしかいない。


「スゥーーッッッ……アァァァァァ……

……駄目だわ、あんまり効かない……」


「もうやめて、今葬式前なんだよ?」


「だって全然始まんないじゃん」


「じゃあせめて部屋戻ってよ」


「めんどいって、

なんでわざわざ戻らなかんの?

丁度よく蝋燭もあるんだし」


「それはシャブを溶かすものじゃないのよ」


「シャブじゃないよ、ハッピーパーチーだよ」


「隠語変えただけじゃん」


「味が違うから」


「アンタ腕から入れてるじゃん」



やっぱり薬物は嫌いだ。


というか、

どっからそんなに薬物が出てくるのかな、


お金……とかの概念は今ないし……

ロシアから流れてるとか?


「イスピートは、

どっからそんなに薬を入手してるの?」


「そりゃ、自家栽培だよ」


「シャブは自家栽培できないでしょ、

大麻じゃないんだから」


「いや、ちょっとした材料があれば、

誰でも作れるよ、

教えてあげようか?」


……ちょっと気になる


「作りはしないけど、

でも、ちょっと教えて」


「いいよ」


暇潰しのつもりだけど、

ちょっと面白い話が聞けそう。


イスピートは、注射器を置いて、

打った場所をティッシュで抑えると、

改まって話し始めた。


「あの自家栽培してる庭園あるじゃん、

あの土って肥料に“人“使ってるから、

アルカリ性持ってるのね、

で、育ててる野菜の中で、

バナナあるじゃんね?」


「うん、あるね、なんなら今日食べたよ」


「バナナ皮の成分って、

アルカリ性と反応すると『メタン基』って言う物質を生成するの」


「ヘェ〜」


結構ちゃんと科学の話だ。


「それで、シャブの主な成分って、

“メタンフェタミン“って言う快楽物質なの、

そのメタンフェタミンは、

窒素原子とメタン基と結合してできるのね」


「ふーん」


「窒素原子は、

液体窒素に沢山含まれてるから…

丁度さ、

ドライアイス製造できる機械あるじゃん、

塩酸に溶かしたバナナの皮に、

ドライアイスを溶かした液体を混ぜて、

それでその混ぜた物を凍らせて固めるの」


「……うん」


「で、また溶かして、完全に混ざったら、

乾燥させて、再結晶化させたら完成」


「…うん、ブレイキングバット見た?」


「いいや?」


「じゃあ、アンタは凄いよ」


「まぁ、これだけは譲れないからね」


「なんの大義なんだか」


「ちなみに、大麻は植えるだけだよ」


「知ってるわ……あれ?

でも、どこに植えてるの?

考えてみたら見たことない」


「アネちゃんの部屋」


「なんで?」


「アネちゃんが一番吸うからだよ、

もう、僕より消費するからアネちゃんに管理してもらってるの」


「それは……知らなかった」


「まぁでも、

アネちゃん丁寧に育ててくれてるから、

僕が持つより質がいいんだよ」 

 

「……ヘェ…」




アネちゃんって大麻吸うんだ…


意外って訳じゃないけど、

ちょっとショックだな。


…アネちゃんは、

そうゆうのに頼らないと思ってた。


私も…やらなかったし。



「……ルルちゃんどうしたの?

体調悪い?」



「いや……別に」


分からない…アネちゃんは知らないうちに、

知らない所に行ってる。


私が置いてかれてる…って…思っちゃう、

イスピートでさえ知ってるアネちゃんを、

私は知らない。


今の姿も、声も、…性格も。


悲しさと寂しさかな、今持ってるのは。 


やっぱり…


 

怖いや、ちょっとだけ。


アネちゃんが私を、

まだ友達って思ってるって…


…わからないから。


アネちゃんは、

私の知ってるアネちゃん…

……じゃないかもしれないから。


……情けないとは……思うけど。


「私もう戻ろうかな」


「なんで?」


「…疲れちゃった」


「まぁ、せめて葬式はしようよ」


「…うーん」


「これってアネちゃん来ないから、

始まらないのかな?」


「わからない」


「……」


「……」


「ちょっと休んだら?生理じゃない?」


「私に生理は来ないよ、

子宮が死んでるからね」


「失礼しました」 


「それ以前の問題だけどな」


「……」


「……」


「……」


「…早くアネちゃん来ないかな」


「今日はもう無理じゃない?」


「呼びに行こうかな」


「それはやめといたら?」


「そうだね…やめといた方がいいか…

うん……ん、…ん?

あれ?


あ?ん?あれ?


アネちゃん…じゃない?」


「え?」




柿色の光は粉っぽい壁を凸凹にする、

床も同じくらいに、

掃除されてないっていうのが、

よく分かる汚さで、


氷の入ったグラスが光を反射して光る、

音も何もない反射だけど、


そして、その光は人を照らす、

指も同じ様に。


イスピートが指差した方角には、

髪を長く伸ばした、長身の女性……


ひどく痩せてて、あれだけ背が高くても、

Mサイズの服がブカブカで、


前見た時とは違うけど…

あの人がアネちゃんって言う事は、

何故かパッとわかった。


「……ア、アネちゃん?アネちゃんだよね?」


私の問いに答える様に、

アネちゃんは髪を退けながら、

私の方向を向いた。


そして、目が合う。


物凄いクマと、虚な目、

雰囲気はまるで違うけど…



「…え?ルル…ちゃん?」


アネちゃんだった。



綺麗に伸ばした髪を肩の後ろへやって、

前髪を左手で抑えると、

アネちゃんは、じっとわたしを見た。


でも、私は目を逸らした。


「そう…だよ…久しぶり」


なんで緊張してるんだわたしは…


“アネちゃんは私を、

友達って思ってるのかな?”


こんな疑問が、私を私じゃなくしてる。


「あ、マジで久しぶりだね、ルルちゃん………

良かったよ会えて、

調子はどう?」


「まぁまぁ良くなったよ、

こう…人前に出れるしね」


「それじゃあ…ルルちゃん…頑張ったんだね、」


アネちゃんの目が少し潤む。


「あ………」


……私の悩みは、杞憂だったみたい。


私のために泣いてくれてる人を、

友達じゃないなんて…


「へへっ…まぁね、

…でも、アネちゃんも大変だったでしょ」


自然と私の視線は、

アネちゃんの目と繋がっていた。


「…ルルちゃんと比べれる程じゃないよ」


「私は…そりゃ辛かったけど…」


「あ、………比べることじゃないよね、ごめん」


「え?あ、別にいいよ…気にしてない…うん」


「ごめん….ありがとう、あと…それに、

メメの葬式にわざわざ来てくれたことも…

ありがとう」


「……うん…メメちゃん…亡くなったんだね…

実感わかないね…身近な人が死ぬのって、

理解してるのに、

理解できてないみたいでさ。

さも、次の日、

朝起きたら挨拶してくれるみたいな…

やっぱり…実感はわかない」


「わかるよ、カナちゃんの時…

私はそうだった…でも…

……いいや、なんでもない」


「…大変だったね」


そう私が同情したら、

アネちゃんの顔が少し曇った。


不思議と疑心の混ざった表情をしてる。


「……ねぇ、ルルちゃん…

ちょっと無理してない?」


「なんで?」


「いや、ルルちゃんってこんな積極的なイメージがなかったから…あ、悪口じゃないよ。

ただ、あんまり自分から話しかけにくるようなイメージがなくてさ」


「………まぁ、時間が変えることあるよ」


「ごめん」


「いいって…昔は…

そりゃ喋れる事は、

あんまり好きじゃなかったよ」


「うん」


「でも、あの襲撃の後…アネちゃん、

あなたが言ってくれた言葉で、

わたし変わったの。

アネちゃんが、変えてくれたんだよ、

あと時間ね」


「生きてれば良いことある…だっけ」


「それ」


「………フッ」


ずっと虚だったアネちゃんの口元が緩んだ。


「ルルちゃん…私は…無責任なんだよ」


「………え?」


「私は…もう生きてる意味がない、

この葬式が終わり次第………」


アネちゃんの瞳孔は、黒く染まった。

いや、元々光なんて…なかったのかも。


囁き声で、私の耳に入ってきたのは、

アネちゃんの声であり、

アネちゃんじゃないみたいな、

矛盾した言葉だった。


「私は自殺するよ(小声)」


「………」


「みんなには言わないでね」


そんな…イタズラっぽく言われても、

全く笑えないし、意味がわからない………


あ、そうか、


メメちゃんが、死んだからか…


「………………アネちゃん………

なんで自殺するの?」


私の問いに、アネちゃんの目は、

私の目から遠く離れた蝋燭へ逃げた。


「どうでもいいのよ………もうなんでも。

どうでもいい…し、

生きてても良いことなんか起きないからね。

ルルちゃん…あの時の言葉は、そう………

私はルルちゃんに、

生きて欲しかったから………


それで出たただの定型文だよ、

そんなターニングポイントになるような言葉じゃないのよ、ただの、私の我儘だよ」


………全て投げ出そうとしている人間は、

無敵みたいになんでもいう。


私の大事な言葉を、

アネちゃんの都合でただの文字にされて、

流石に応える。


でも、仕方ないよ…妹が死んだんだ、

だから人間、

それが成り行きってものなんだろうね。


「………でも、わたしは、

…アネちゃんに死んで欲しくないな、

これは私の我儘。

でもね、アネちゃんだって、

私におんなじ事したんだよね、

だからさ、少し待ってよ…


私は………本当に…

死んで欲しくないの、

アネちゃんが好きだから…


生きる意味がなくても、

………見つければいいよ…

私も手伝うからさ、

今は、メメちゃんが死んで、

参っちゃってるだけだと思うからさ、

だから………」


アネちゃんの表情は変わらない、

多分心も。


「ルルちゃん…悪いけど…

メメの死は関係ない、

元々死ぬつもりだったのが、

メメのせいで伸びただけ」



…じゃあもう、わからないよ。


「………」


アネちゃんが少し微笑む。


「ルルちゃんには言っておきたかったの、

だって……私の親友だから…

私もルルちゃんが大好きだから…さ」


「………」


「………ごめんね」


「なんで?」


「だから…もう生きる意味なんて………」


ちょっともう、我慢できない。


「なんで今、わたしに言うのッ!?」


「…えっ…あ、ちょっと声…大きっ………」


アネちゃんが静かにしてとジェスチャーするけど、それに応えれるほど、

今は冷静になんてなれない。


「アネちゃんよく聞いてッ

親友だよ、アネちゃんは…

だけど…アネちゃんが今わたしに言ったのは………ただの呪いだから」


「………っ」


「死ぬって言ってッ…

わたしにどうして欲しいの!?」


「ルルちゃん聞いッ………」


「自殺の言い訳なんて聞きたくないッ!」


「…だから…私は…」


「私は何も出来ないよ、

何が正解かわからないし、

自殺されたらもう手遅れだしさッ…

だからさ…………」


「………………」


「わからないッ」


「………………」


「私はッ!あなたのお陰で生に希望を見出せて、それでこれまで生きてきた…

ずっと………私だって死にたかったよ

だけど、アネちゃんの言葉と存在が救いで、

私は生きたんだよっ!

アネちゃんが生きてるから、

生きてるんだよッ!」


「…ごめん」


「謝らないでよっ、

謝ったら、今までのもの…

呪いになっちゃうじゃん…」


「………ごめん」


「う…なんでなの…グスッ………ズズッ

私はアネちゃんが好きだからッ…グスッ

一緒に…生きていたくてっ」


「…最低だよね」


「申し訳ないと思うんだったら生きてよッ!

私は、ずっと………ずっっっっと死にたかった!死にたいって毎日思ってた!

だけどッだけどっ!」


「…………ルルちゃん」


「……グスッ」


「私は、生きないよ…申し訳ないけどね」


「…なんっ」


アネちゃんが私を遮って言葉を出す。


「ルルちゃんには…

そうだね………言葉の通り、

呪いをかけてた、…グスッ」


アネちゃんの目にも涙が映る。


「だからさ………」


「………うん」



手が悴んでて、

乾燥した関節から血が垂れた。


雪は降ってないのに、

霜焼けみたいに頬が熱くて、

涙が、暖かかった。


アネちゃんの目から垂れてるのが涙なら、

きっと私のは涙じゃない。


そう…思った。




「ルルちゃん、一緒に………死のうよ」




ずっとアネちゃんは…

わたしに呪いをかけてた、

絶対に解けない呪いを。


そして今、アネちゃんは、

呪いを解いた。


私がそれを…受け入れたから。











「アネちゃん?」


背後から声が聞こえた、

カイロの声だ。


「あ、カイロ、どこ行ってたの」


「あぁ、ルルちゃんもいたの、

普通にトイレだよ。

それより、アネちゃん来れたんだね、

てっきり来れないと思ってたよ、

部屋からずっと出てこないしさ」


「うん、ルルちゃんを探してたんだよ、

でも、どこにもいないから、

結構彷徨ってた」


「…え、なんでわたしを探してたの?」


「いや…それはさ…」


アネちゃんは、バツの悪そうな顔をした。


(さっきの話を、

しに行こうと思ってたの(小声))


アネちゃんは耳元でそう言った。


つまりは、一緒に死ぬかどうかを、

私に聞くために彷徨ってたらしい。


「…? よくわかんないけど…

…あ、そうそう…

二人とも喧嘩してたんだって?」


「………いや、別に喧嘩じゃないよ、

ちょっとした言い合いみたいなさ…」


「そうそう、本当…喧嘩ではないよ…

それに、

私がアネちゃんと喧嘩するわけないじゃん」


「ふーん…なんかイスピートがさ、

“ルルちゃんとアネちゃんがめっちゃ喧嘩してる!やばいよッ!”って言うもんだから、

珍しいなって思ったけど…

本当に喧嘩とかはしてないんだ」


あの薬中がチクったらしい、

まぁ、結構大きい声出したし、

他にも気づいた人はいたか…


カイロが少しキレ気味なのは、

私達の喧嘩を止めさせるために、

トイレを無理矢理、

中断させられてたからかな。


「あんなドラッグストアの言葉なんて信じちゃダメだよ、常に幻覚見てるんだから」


「さっきイスピートと喋ってたけど、

定期的に意味不明な事言うからねあの人」


「いや…シラフだった気がするけど…」


「シラフでも、アイツはおかしいから」


「そうだよ、元からなんか変だし」


「……めちゃくちゃ言うな君たち」


少しだけカイロが微笑む、

カイロが笑うのを見るのは凄く久しぶり。


「まぁいいよ、アネちゃんが来たんだ、

とりあえず、ちゃっちゃと葬式終わらそうか」


ちょっと忘れてたけど、

これ、メメちゃんの葬式なんだった。


「行こっか、ルルちゃん」


「あ、うん」


アネちゃんが私の右手に左手を重ねると、

そのまま手を繋いで、カイロに続く様にして、棺桶に向かった。


「ルルちゃん、手、冷たくない?」


「そう?アネちゃんはあったかいね」


「マジで冷たい、”死んでるみたい”だよ」


「………葬式ギャグ?」


「だとしたら不謹慎すぎるでしょ」


「確かに、でも、ここ寒すぎるからね、

どっかしら冷たくなっても仕方ない」


「多分、火葬の時あったかくなるよ」


「そっちの方が不謹慎だって」


「そのツッコミ待ってた」


「そういえば火葬ってここでやるの?」


「多分ね、焼却炉じゃ弔えないでしょ」


「サキちゃんは焼却炉で燃やしたって、

カイロ言ってたよ」


「あぁ…サキちゃんはあれだよ、

カナちゃんと一緒に弔うために、

焼却炉にしただけ」


「ふーん」


「いつもはこっちで、棺桶ごと燃やすんだよ」


「ヘェー」


「…ルルちゃんが聞いたんだから

飽きないでよ」


「ごめんって」



前を歩いていたカイロが、

棺桶の前で止まった。


そして、手に持った蝋燭で、中をのぞく。


「…」


元々暗いカイロが、

もっと暗くなった様に見えた。


「ねぇ、なんでアイツ覗いたの?(小声)」


「カイロが燃やす係だから、

遺体からどれくらい時間かかるか計算してるんでしょ(小声)」


「じゃあ、顔からして時間かかるんだね、

カイロめんどくさがりだし(小声)」


「多分そうだね(小声)」


私も見たい…って言ったら不謹慎だけど、

気になるな、メメちゃんの遺体。


「メメがどんな風になってるか気になる?」


アネちゃんは片方の手に持つ蝋燭で、

棺桶を指す。


「どうして?」


「ずっと目線が変わらないからだよ、

ルルちゃんの目線がね。

気になるの?」


その問いに直球で答えるのは、なんだか、

言いにくいし嫌だけど、

実際は気になる。


皆んな酷い遺体としか言わないから、

どんな感じかわからないし。


「…気にならないって言ったら、

嘘になるね」


「そっか、私も」


「アネちゃん“も”なの?」


「そうだよ、一瞬ちょっと見ただけ、

全体的にどうなってるかは見てない」


「ふーん」


「ねぇ」


「うん」


「ちょっと見てこようよ」


「うーん、良いのかな…」


「良いって」


「えー本当に?」


「大丈夫だって、本当に」


「…アネちゃんが言うなら」


カイロにやめとけって言われたけど、

アネちゃんが良いって言うなら良いか、

親族だし。


「カイロー、私達もちょっと見せてー」


「なんで?さっき見たでしょ」


「いや、ちょっとしか見てない」


「あっそ、じゃあお好きに」


「ありがと〜」


カイロはチラッと私を見たけど、

そのまま目を逸らした、

注意するのもめんどくさいんだろう。


私は目を逸らされても、

カイロの顔を見てた、

特に何も思ってないけど。


「……」



「ルルちゃん、ほら」


アネちゃんが手招きしてる。


「うん」


さっきまでは見たいって思ったけど、

目の前まで近づくと気持ちも変わるな…


やっぱりあんまり良く無い気がする、

死んだ人の死体に興味持つのって。


アネちゃんが片手に持ってた蝋燭を、

私に差し出した。


「ちょっと持ってて」


「…うん……」


「えっと…ここかな…」


「…ねぇ、アネちゃん」


アネちゃんが棺桶に手をかける、

私の方を見てはいない。


「やっぱり良くない気がするよ、やめとこ?」


アネちゃんは振り向かない、

でも、棺桶を開けようともしない。


「なんで?」


「なんでって、理由はないよ、

ちょっと嫌になったの」


「気にすることないよ、

もうメメは死んでるんだし、

死人に口無しってやつだよ」


アネちゃんは死ぬつもりだから、

死者に関心がないのかな、

自分の妹だとしても。


「ねぇ…アネちゃんって悲しくないの?」


「…ルルちゃんは悲しいの?」


「そりゃ悲しいよ、

知ってる人が死んだら悲しいでしょ」


「ルルちゃんってさ、

四年近く引きこもってたんだからメメの事なんてそんな知らないでしょ?」


「急に何?関係ある?」


「私はほぼ毎日一緒にいたけど、

全然悲しくない、

一番一緒にいた私が悲しくないから、

他の人が悲しむのは筋違い」


「シュレちゃんも?」


「まぁ、そうだね」


「シュレちゃんとアネちゃんは違うじゃん」


「何が?」


「死ぬ意思があるかどうか。

アネちゃんってもう未練ないから、

今好き勝手に言ってるだけでしょ」


「好き勝手って…別に、

私がどう思おうと別にいいでしょ」


「ねぇ、あのさ、」


「何?」


「やめた方がいいよそうゆうの」


「だって…」


「普通に気分悪いんだけど」


「…ごめん」


「…ほら、こっち来て、

アネちゃんも追い詰められてるんだよ、

だから、もう座ろうよ」


「うん」


アネちゃんが棺桶から手を離すと、

そのまま、席に歩いて行く、

手は繋がなかった。


「ルルちゃん」


「何?」


「あの中さ」


「言わないで」


「ルルちゃんの思う様なものは

入ってなかったよ」


「…そう」


振り向きはしないけど、

アネちゃんの声は少し震えてた。
















少しして、棺桶に火がついた。


私達に宗教はない、

だからお坊さんも牧師も来なくて、

灰になるのをジッとみんなで見てるだけ…


「…」


パブロさんは疲れた様で、

座って炎を見てる。


シュレは、ボロボロ泣きながら、

見ては目を逸らして、

また見てを繰り返してる。


カイロはめんどくさそうに、

燃える棺桶に薪を追加している。


イスピートは…アイツはいいや。


ドルクスは、ボーッと見てる、

表情は崩れないけど、

凄い切ない感じがする。


他の知らない人は、

各々がどうすればいいかわからなさそう。


知らない人の葬式って皆んな、

こんな感じだし、仕方ないとは思う。



…私は、黙って見てる。

アネちゃんの言う通り、

私は昔のメメちゃんしか知らない、

だから、泣きたくても泣けないし、

悲しくても、シュレみたいになれない。


それで、アネちゃんは…


泣いてた。










灰になる棺桶は、立派な形を崩して、

また別の形になる。()()()()()()


結局、どんな遺体かは見てないけど、

こうなってしまえば、皆んな一緒だ。


私達だって燃えればこうなる。


行き着く先は大体同じ。


だから、私も、死ぬ事に躊躇(ためら)いはない。


今より良くなるなら、

死んだ方がマシ。


アネちゃんと一緒に死ねるなら、

むしろプラスかも。


そう思った。











葬式が終わって、


灰まみれの地面を二人で歩く。



アネちゃんの要望でメメちゃんの遺灰は、

昔アネちゃん達が住んでた家に、

撒くことにした。


遺灰はアネちゃんの部屋にあった、

バケツに入れて持ち歩きながら、

アネちゃんと二人で、

岐阜県土岐市を観光してる。


…久しぶりに外に出たけど、

ここは思ってたより町みたいになってた。


景観はなんとなく変わってるけど、

大きく変わってない。


あ、あそこ、昔行ってたバローかな?

懐かしい…


「アネちゃんアネちゃん、あれ見て、

バローがあるよ」


「バロー?あぁ、あそこね、うん」


反応が薄い、あんまり思い出がないらしい。


まぁ、私もないけど、

景色だけは一丁前に綺麗だ。


「シュレちゃんも連れてきたらよかったのに」


「別に良いでしょ」


「来たがってたよ」


「今更だって」


「そっか…」


「それに…ほら、巻き込みたくないし」


「うん…」


シュレは弔いたかっただろうけど、

私達に付き合わせるわけにはいかない。


分かってる…分かってるけど、


やっぱり申し訳ない。


「ルルちゃん、ほらあれ、昔の私の家」


崩れた集合団地をアネちゃんが指差す、

あれじゃあ、

どこがアネちゃんの部屋かわからないな。


「そういえば、なんで家に撒くの?」


「なんとなく」


「良い思い出があるとか?」


「ない」


「自分の家なのに?」


「うん」


じゃあなんでここにしたんだ。


「昔ね、私さ、虐待受けてたじゃん?」


…あぁ、そんな…事があったのか…


「…そうなんだ、」


「ルルちゃんに言ったことなかったっけ?」


「え、そうだっけ、カナちゃん達となんか話してたのは知ってたけど、内容は知らないよ」


「…そっか」


「…なんかごめん」


「…いや…大丈夫、撒きに行こっか」


「オッケー」


アネちゃんは瓦礫(がれき)を掻き分けながら、

一直線にある場所を目指した。


「あ、ここらへん気をつけてね」


「うん、」


瓦礫と死体まみれで危ない…

でも、よく二人ともここから生き残ったな、

全然死んでてもおかしくないのに。


「ほらここだよ」


アネちゃんが指差したのは、

他より黄ばみと汚れが目立つ瓦礫だった。


「なんか汚いね」


「うん」


「…じゃあ、ここに撒くの?」


「そうだよ」


アネちゃんは持っていたバケツから、

真っ白な灰を一握り摘むと、

ゆっくり指を開いて、

灰を空へ流した。


風に乗った灰は、

すぐに空間に溶けて見えなくなって、

だから、凄く切ない感じがする。


「ルルちゃんも」


「分かった」


バケツに手を入れると、

片栗粉みたいだなって思った。


アネちゃんと同じ様に握って、

同じように手を離す。


私のは風に乗らなかったけど、

灰はすぐ、空へ還る。


「あぁ…」


少しだけ寝室の匂いがする、

多分灰の匂い。


「アネちゃん…」


「……」


「やっぱり、アネちゃんも悲しいんじゃん」


何も言わずに、

アネちゃんはまたバケツに突っ込む。


今度は振り撒くみたいに、

手を強く引き出した。


「…悲しいのかな…これって」


アネちゃんの顔は、

切ないを体現した様な表情だった。


「そんなの、

アネちゃんが決めれば良いんじゃない」


「………うん」


「少なくともわたしは、

悲しんでる様に見える」


「…じゃあ悲しい」


「じゃあって………

まぁでも良かった、悲しんでて」


人が悲しむの見て喜ぶ、

文字にすれば酷い奴だなって思う。


私もまた、バケツに手をやる。


“ヒュー”


手から溢れる灰を持ってゆく、

その流れに任せて、私も手を離した。


「正直、悲しいんだと思う、凄くね…

メメがいた時、自分が自分についてる嘘も、

本当に思ってる事も理解できてた。


でも、今は、

自分が悲しいのかもちゃんと分からない」


アネちゃんの手から、

今度はゆっくりと、灰が空へ飛んでいく。


「…そっか」


飛んだ灰を見ていると、

昔のメメちゃんを思い出した。


「メメが、“私の本音“だったのかもね」


「……よくわからないけど…きっとそうだよ」


「でも…メメはね、私が殺したの」


「…何言ってんの、

メメちゃんは事故で死んだんでしょ」


「私は…私の現実を知りたくなかった…

だから、電車の中で…」


アネちゃんの顔がまた変わる…

今度は真っ黒に。


「メメを締め殺した」


「………」


……私も、わかんなくなってきた、

自分の気持ちが…


なんか、アネちゃんが何を考えてるのか、

私は分からない…


嘘でも本当でも、

私は………


「そうなんだ………じゃあ、

さっきのは悲しみなんかじゃなかったね」


「………」


二人ともバケツ入れる手を失う。


「メメは………もう死にかけだった…

核の後遺症で身体がズタボロになって、

ルルちゃんは知らないと思うけど、

メメはあの時、頭しかなかった」


「なにそれ、

へんな妄想でも見てたんじゃない?」


「そうかもね………」


「…核の後遺症って、

私が会った時はそんなのなかったじゃん」


わたしは、空間の沈黙が怖くて、

バケツに手を入れた、何も考えず。


「………さぁ、科学的な話はわからないよ」


「でも…アネちゃんって、

大麻吸うんでしょ?」


こんな事言いながら灰を撒くと、

変に薬物に見える。


「なんで知ってるの?」


アネちゃんがこっちを見た、

久しぶり目があった気がした。


「イスピートが言ってたよ、

なんなら育ててるらしいじゃん」


「………アイツか…」


「きっとみんな幻覚だよ、

メメちゃんは事故で死んだ、それだけだよ」


そうであってほしい。


「そうなのかな………」


「私は見てないからわからないけど、

多分そうなんだよ」


「じゃあ、そうゆうことにしておく」


アネちゃんは灰を持つと、

また、最初みたいに指を一つずつ開いて、

風に放つ。


また、綺麗に風になった。


「………」


「………」


「ルルちゃん」


「うん」


「………ありがとう」


「…うん」


「………」


「………」


「…行こ」


「分かった」


バケツはもう…空になってた。















「アネちゃんあれ、湖があるよ」


「本当だ、すごいね」


岐阜県には元々海も湖もない、

ここは核爆弾が落ちた場所で、

巨大な穴に、

汚い水のたまった大きな水たまりだ。


「………ねぇ、水切りしてみようよ」


「いいね、やろ」


NO2ではこんなことできないから、

結構ワクワクする。


幸いここは石がたくさん落ちてる、

平べったいやつも。


「あ、結構良い奴みっけ」


「本当だ、めっちゃ平べったいね」


「アネちゃんは良いのあった?」


「うーん、平べったいのはあったけど、

ルルちゃんほどではないかな」


「ふーん、でも結構良い形だね、

やってみよっか」


「うん」


「まずは私から」


親指と人差し指、中指で石を持ち、

残りの指を内側で曲げる、

そして、低い姿勢になって、

手を背中の真ん中くらいまで下げる、

そして投げる時には………


「…ッッ」 


手が前に全部出きるまえに離すッ!


“ビュンッ”


“ポチャッ”


“チャッ”


“チャッ”


“チャッ”


“チャッ”


“チャッ”


“ポチャン”


「凄ッ!七回もいったよ!」


「思ったより行けた、へへっ」


「じゃあ、今度は私ね」


アネちゃんが石を構える、

構えは悪くない。


「………ッッ」


“ヒュンッ”


“ポチャン”


まさか一度も跳ねないとは…


「マジか」


「ちょっと遅すぎかも」


「どれくらいがいいの?」


「自分が思ってるより少し早めに出すと、

上手くいくよ」


「ヘェ〜…じゃあ今度はそうしてみる、

次はルルちゃんの番」


「よしっ十回目指すぞー」


今度の石は微妙だけど、

まぁ、いけるはず…


「……ッ」


“ビュン”


“ポチャッ”


“チャッ”


“チャッ”


“ポチャン”


「うわ…ダメだった」


「三回でも凄いよ」


「…うーん………そうかなー」


「私結構良い石見つけたからさ、

今度は二回は行ってほしい」


「コツは、“早めに“だよ」


「分かってるって」


「………頑張れー」


「………ッッ」


“ビュン”


“ポチャッ”


“チャッ”


“ポチャン”


「やった、二回行けた!」


「良かったね」


アネちゃんがやってる間、石探してたけど、

良いのが見つからない。


「もうあんまりいいのないね」


「………そうだね、平べったいのは………」


「無いな…」


「…あ、ねぇルルちゃん、これはどう」


アネちゃんの手には、

ミイラ化した誰かの首があった。


「え?これ?」


「これで一回でもいけたら凄く無い?」


「………いや、無理でしょ」


「一回やってみて、

ルルちゃん上手いからいけるって」


「……いけるかな…」


アネちゃんから首を受け取ると、

それは思ったより軽かった。


「じゃあ、やってみるね」


「頑張れッ」


人差し指と中指を窪んだ両目に入れ、

残りの指で包む様に持つ、


そして普通の水切りの要領でッ………


「………ッッッ」


投げるッ!


“ドボンッ“


首は一度も跳ねず、水飛沫をあげて沈んだ。


「あー無理だったかー」


「そりゃそうだよ」


「行けたら面白かったね」


「確かに、首がクルクル回ってね」


「そう、それを見たかった」


湖には、何か浮いてる、

葉っぱか死体か………

どちらでもいいけど、

濁りすぎて反射しても、

私達は映らなかった。



















「あ、公園だ」


「残ってるもんなんだね」


「…ちょっと遊ばない?」


「いいよ」


湖から少し離れたとこには、

灰に塗れた公園があった。


柵には、多分、焼け死んだ子供の死体が、

五体ぶら下がってる。


「ブランコ乗れるかな」


錆びたとかそうゆうレベルではない壊滅具合

だけど、多分座るくらいはできると思う。


「いけるんじゃない?」


「ルルちゃん座ってみてよ」


「うん」


ブランコってこんな小さかったっけ、

そんな事思いながら、鎖に手をかける、


“シャカ、カシャ”


「え、なんかジャラジャラ鳴らない」


“カシャ、カシャ”


「鎖もここまでいくと、こうなるんだね」


「人間みたいに灰にならないから、

仕方ないよ。

来世は()には産まれたくないね」


「同感」


“カシャカシャ…ガシャっ”


「あ」


“ガシャンッッッ!!”


私が少し強く握った瞬間、

鎖が砕けて地面に落ちちゃった。


「あーまだ座ってないのにぃッ」


「いや、

座ったら怪我してたからいいんじゃない?」


「アネちゃんが座れって言わなかった?」


「ルルちゃんは毒見役」


「ひどい」


「あれだよ、毒を避けるんじゃなくて、

見極めて持ってくる方だね」


「そんな係ないよ」


「ブランコダメそうだし、

あの、滑り台行こ」


「そうしよっか」


すぐそばの滑り台は真っ黒に焦げていて、

遠くから見たらほぼシルエットにしか見えない。


「今度はアネちゃんが先に行って」


「分かったー」


そう言って、滑り台の小さな階段に

足をかけた瞬間。


‘’ガシャッズボッ‘’


アネちゃんの足が抜けた。


「痛ッ」


「大丈夫?」


「めっちゃ痛い」


「うわ、痛そーッ…」


アネちゃんの足からは、

擦り傷と切り傷がたくさんついてて、

血が垂れてた。


「一人で足抜けれる?」


「…ダメそう、ちょっと手伝って」


アネちゃんに手を回して支えてあげると、

あまりに軽い身体が、私を押した。


「痛い痛い…」


アネちゃんは苦しみながら足をあげてる、

私はそんなアネちゃんを見ながら、

浮き出た骨が痛いって思ってた。


“ズボッ”


「あ、抜けたッた…

あぁ、あああぁぁぁぁッッッ!」


「え、ちょっとッアネ…うわぁァァァァッ!」


“ズテッ”


抜けた勢いで二人とも転んでしまった。

灰色のそらがよく見える。


「ぷっ…アハハハハハッ!」


「ふふっハハハハハッ!」


気づいたら、二人とも笑ってた。

今の状況が凄く、おかしかったから。










  






灰色の風が吹く、比喩抜きで。


「ルルちゃん、次、どこ行こうね」


「そうだなー…初心に戻ってバローとか?」


「バローは…やめようよ」


「じゃあさ、景色の良いところにしよ」


「そんなところあるかな」


「あれ、あそこ、」


「あれ?、あのデッカい電波塔の事?」


「そう」


「…いや、多分登れないよ」


「うーん…じゃあどうしよ」


「高台とかいいんじゃない?」


「陶史の森とか?」


「あ、いいと思う」


「じゃあ、行くか…」


「分かった」


「…アネちゃん、足大丈夫?」


「足は痛い」


「荷物持とうか?」


「…ちょっと、お願いしたい」


「良いよ、ほら、こっちに置いて」


「ありがとう」


“カシャ”


「よいっしょっと、ふぅー、

思ってたより重たいね」


「無理しなくて良いよ」


「大丈夫だって、高台近いしすぐだから」


「……ありがとう」


「あぁ、あとこれ、

渡し忘れてた」


「包帯?どこにあったの?」


「私のカバンには常に、

メディカルキットが入ってるからね」


「なんで」


「カイロが過保護なんだよ」


「あ、カイロがくれたやつって事なのね」


「そうそう」


「カイロは人に興味ないと思ってだけど、

こうゆう一面もあるんだね」


「アイツは、私の事を好きだからね」


「え!?マジで!?」


「昔っていうか、一年前くらいに告白された」


「カイロが?」


「うん」


「え、なんて答えたの?」


「正直…私は男自体が嫌いだからさ、

ほら、あんな事されたし」


「…うん、そうだったね」


「だから、カイロは友達としては見れるけど、

恋人…男しては見たくないって言った」


「そしたら?」


「次の日去勢してた」


「去勢!?チンコ切ったの?」


「そう」


「うわぁ…引くわ、

でも、本当に好かれてたんだね、

去勢したあとは?」


「申し訳ないけど、断った」


「…そりゃ仕方ないよね、

ルルちゃんの身に起こった事を考えれば」


「そうだよ、普通に恋人とか無理だし」


「男って本当さ、何考えてるかわからないね」


「なんか、これだけやればいける、

みたいな考えで来てる気がする」


「自分の努力を人質にしてるんだよね」


「そうそれ、そうゆうのが嫌い、

私は…ただ、ゆっくり生きてたいだけだから…それに…性欲とか向けられると…


性欲とか…が、私に…向けられる…


あ、…あぁ…


………ウッうえッ…うぷッ」


「アッ…ルルちゃん大丈夫?」


「うえぇぇぇぇ…う、オロロロロロッ」


「あぁ、ルルちゃんごめんね、

こうゆう話はしないほうが良かったね、

本当…ごめん」


「オエッおええぇ…オエッロロロ…」


「ごめん…ごめん…」


「う…うっうぅ…グスッ…うぅぅぅぅ、

アネ…ちゃんんッ……

ううぅぅぅぅぅ」


「大丈夫、大丈夫だからね、

ルルちゃん落ち着いて…

今は私しかいないから」


「あ、あ、あ、…ァァァァ……」


「…本当にごめんね、

あんな話掘り下げなければ良かったね、

ルルちゃん…ごめん」


「……うっ…」


「……」


「うぅ………」


頬をすぎる風は、私のゲロを乾かして、

涙は乾かしてくれなかった。



















「うおぉ…凄い綺麗な景色だ」


「うん、なんか灰が雪みたいで、

凄く綺麗に見える、あ、ルルちゃん見て」


「え、なに?」


(つばめ)の巣があるよ、ほら手すりの下」


「本当だ」


「…可愛いね」


(ひな)がいる」


「……」


「……」


「ねぇ、ルルちゃん」


「なに?」


「さっきの…落ち着いた?」


「…うん、ごめんね…」


「いや、私の方こそ…

聞かなくて良い事を…聞いたから」


「アネちゃん…私は大丈夫だよ。

むしろモヤモヤが消えた」


「………」


「私は心の底から死にたいって思ってたって

心と身体が証明してくれた」


「ルル…ちゃん…」


「…というか思ったけど、

私達、もう呼び捨てでもいいんじゃない?」


「…あぁ…確かにそうだね、

ちゃん付けはなんか距離感じるし」


「じゃあ、改めて、アネち…アネって呼ぶね」


「私も、ルルちゃ…ルルって言うね」


「………」


「………」


「なんか、なれない」


「…うん」


「…アネ」


「なーに?」


「試しに読んでみただけ」


「じゃあ私も、ルル」


「…へへっ…なんか、恥ずかしいね」


「そう?私はそんなに恥ずかしくないよ」


なんだか、変な気持ちになってくる、

恥ずかしいというかなんと言うか、

ドキドキする。


夕日と、灰色の景色をバックにアネち…

アネを見ると、美人な人だよなって。


あんなに綺麗な人を、私は知らない。


「なにルル、こっち見てさ」


「…いや、アネって美人だなって…」


「いや、嘘つかないでよ」


「嘘じゃないよ、今のアネが、

世界で一番美しいと思う」


アネの顔が、少し赤くなる、

なんか…胸が痛い…


「…変な事言わないでよ…ルルちゃ…ルルだって可愛い顔してるし」


「…ありがとう…」


「………」


「………」


「なんか…変な感じ」


「…」

 

“トンッ”


「あ、」


アネが、私の肩に頭を乗せた。


「…」



「…ッ」


重ねる様に私もアネちゃんの頭に、

頭を預けた。


足をぶら下げながら見る景色は、

寒くないのに鳥肌が立って、

もう一つの体温が暖かく感じる。


「…あったかい」


「うん」


「ねぇ…アネ」


「なーに?」


「もう、ここでいいんじゃない」


“バサっ”


燕の巣に、親が帰ってきた、

口に咥えた餌を、雛に与えるために。

雛たちが…生きる為に。


……………………………………………………………………




「……私達は、

…なんで産まれてきたんだろうね」


「…理由はないよ、多分」


「うん…でも私さ…小さい頃ずっと思ってた、

私の生きる理由ってなんなんだろうって」


「うん」


「毎日パパに犯されて、

毎日ママに殴られて、

…早く死にたかった」


「……」


「でも、NO2に来て…

友達ができて、

家族ができて、

それが生きる意味かなって思えた」


「……うん」


「でも…失った…」


「…アネ…」


「だから分かったんだ…

生きる意味は、

…外付けされるものなんだって、


…メメもいなくなった以上、


私の生きる意味は…

自由を求める事だと思う…


だから、ルル…


あなたが、何を思うか分からないけど、

早く解放させてあげたいって、

一緒に解放されたいって、

私は思ったの」


「……そう……だったんだ…アネ。


私は…うん…自分の生きる意味は、

考えた事がなかった…な


生きてくうちについてくるものだって…


でも、アネが言った通り、

生きる意味は外付けされてくもので、

内側にあるものじゃない…


結局、見つけられないまま、

死ぬ人だっているさ…


だから私は…解放とか…自由とかじゃなくて、…大事な人と、ゆっくり時間を過ごせれば良いなって…思った」


「…ルルは…優しいね」


「そうかな…」


「…ルル」


“カチャ”


「…持って」


「…分かった」


「…私がルルを、ルルは私を…お願い」


“カチャッガチッ”


あぁ、

最後の光景が、

こんなにも美しいのなら、

これまでの苦労も…


悪くなかったのかもしれない。


「…一緒に」


「…うん」














「さよなら」









“バンッ”











巣から燕が飛び出した。

雛はまだ、鳴いている。



         〜FIN〜



















「やっと終わったのか、

まぁ、思ってたより面白かったかもな、

でもさ、エログロがきちぃわ俺には」


「ふーん」


映画のエンドロールが流れて、

パパの声が聞こえた。


扉の向こうからだから少し…

音がこもって聞こえる。


「なぁ、ちょっとヤろうぜ?」


「え〜無理…普通に疲れた」


「スマホいじってるだけじゃん」


「うっさいな、

さっさといつもみたいにガキとやってこいよ」


ママの怒った声が聞こえる、

少しだけ……怖くなった。


「…はぁ……へいへい…そうしますよと」


……そして、足跡が聞こえる。


どれだけ人になすりつけても、

どれだけ逃げても…


私はここから逃げられない…


「…あーあ、

そろそろ()()()作ろうとおもってたのによぉ」


パパの愚痴がさっきよりも大きく聞こえた。


……映画の余韻も楽しめずに、

今からいじめられるんだ……


やっぱり…耐えられないな……


“ガチャガチャ”


あ、来た……


“ガチャリッ”


「よし、()()……ケツ向けろ」




やっぱり……生きる意味は、外付けされるものだ。


私は、パパのおもちゃ……それを見てみぬ振りは、

しちゃいけないんだ……


まぁ……どっちでも……


生きるべき人間

死ぬべき人間


それを決めるは、

神じゃない事を、私はわかっている


そして


それがいない事も

私は知っている。



逃げ道があるだけ、

私はこの世界が好きだけどね。





好きと伝えたくて 完





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