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「リュカス。そろそろ国に帰るから」
「父上? まだ外交は終わっていなかったのでは?」
確か、予定ではあと数か所…………。
「アゼリアちゃんを連れて外交をし続けれないだろう」
「それは確かに……」
アゼリアに向けられる差別の視線。この旅館では表向きそんな視線を向けられなかったが、すれ違う客が向ける視線の酷さが不愉快だった。
「もともと、お前を見せつけて、国に有利な条件を取って来いという命令だったしな。お前がアゼリアちゃんと一緒にいるのなら無理に付き合わなくてもいい」
「それで、あちこち連れて行かれたんですね……」
なんか、あちこちで拝まれているなと思っていたらそう言うわけだったのか。魔力を使うように何度か言われていたし、魔力使う前と使った後で反応が違った人たちも多かったし。
「それでお前にしてもらいたいことがある」
「父上……」
してもらいたいこととは何だろうかと首を傾げ、内容を聞いてすぐに了承する。
全属性が使える自分ならたやすいことだが、緻密なコントロールが必要でかなり負担がかかる。
国を超える関所。その手前でそっと肩に掛かる白い髪に触れる。
「アゼリア。じっとしててね」
告げるとともに自分の白い髪が虹色に光、つないだ手を通してアゼリアに魔力を流すと、流された魔力によってアゼリアの姿が黒髪から淡い水色の髪色に変化する。
「……っ⁉」
アゼリアは驚いたように目を大きく見開いて、自分の髪を確かめている。そんなアゼリアの髪はぼさぼさだったのを今では綺麗に整えてある。本当は鋏で切り揃えてあげたいほど長い髪だが、ハサミは怖いだろうと思われたので今回はやめておいた。
「驚かせてごめん。少しだけこのままでね」
驚くよなこのゲーミング状態の髪。魔力を使うと髪が虹色に光って目立つんだよね。
まあ、でも。
「これはこれは、ミュシラン侯爵ですか」
父と母の淡い髪色を見て舌打ちをしていたが、ゲーミングした髪の毛に気付いて、揉み手をするように先ほどまでの失礼な態度から一転する。
ちなみに関所の役員の髪の毛はみんなどきつい原色で見ているこちらが疲れてしまう。それなのに父と母には一言二言で終わらせるのにこちらには長々と話をしようとしているので精神的にきつい。
解放された時はげっそりとしてしまうかと思った。
心配そうにこちらを窺っているアザリアの優しさに癒されながら、
「もう大丈夫だろう」
父の声にやっと魔力を流すのを止める。
ゲーミングしていた髪の毛は元の白い髪に戻り、淡い水色に染まっていたアゼリアの髪の毛がほっとするような黒髪に戻る。
「うん。やっぱ、アゼリアは黒髪が似合うな……」
ほとんど無意識にアゼリアの髪を一房触れてすっと空かすように指を動かす。
魔力を使いすぎて辛い、眠い……。
昨日、魘されているアゼリアに付きっきりだったのもあって睡魔が……。
「すみません。父上、母上。しばらく眠らせてください……」
告げるのもやっとで目を閉じて眠ってしまう。アゼリアにも伝えないといけなかったと思ったけど、そんな気力もなく、馬車の中で眠ってしまう。
どれくらい時間が過ぎただろうか。
「………さま」
柔らかい鈴を転がした様な可憐な声。
「リュカスさま。起きて……」
その声に誘われるように目を開けるとこちらを心配そうに見ているアゼリアの姿。
「あら、起きたわね」
「アゼリアちゃんが、起きないお前を心配して涙目になっていたからな」
「父上……。母上……」
「貴重な経験を逃したな。最初の頃は掠れて声を出すのに怯えたように必死に呼んでいたぞ」
それは聞きたかった。
まあ、でも。
「最初に僕の名前を呼んでくれたんだ………」
それが嬉しかった。
長い馬車の旅。それからたびたびアゼリアが拙い言葉で話してくれるのを喜びながら帰路に着いたのだった。




