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メイド服に身を包んだアゼリアを連れて、お腹が空いただろうと思って食事に向かう。
「…………」
だけど、アゼリアは食堂にも食卓にも、食事にも反応しなかった。
「アゼリア。ここに座って」
椅子に誘導して座らせると、不思議そうにしている。
「アゼリアちゃんがどこまで食べられるか分からなかったからとりあえず別メニューにしてもらったけど、食事の仕方も分かっていないのね」
用意されている食器もお皿も困ったように見つめるだけ。
相変わらず手を離そうとしない。
「誰か。椅子を持って来てくれないか」
アゼリアの隣に椅子を持ってきてもらい、使い方が分からないからと置かれたままのスプーンを手に取って、アゼリアの食事を掬う。
「あ~ん」
おかずをアゼリアの目の前に差し出す。
アゼリアは首を傾げるが口を開けるまで、
「あ~ん」
とやり続けた。
「…………………あっ!? ん?」
アゼリアの初めての声だった。だけど、それを喜ぶよりも先に口の中に食べ物を入れるとアゼリアが驚いたように目を大きく見開いた。
驚いているアゼリアを尻目に自分の分を今度は自分の口に運ぶ。
これは食べ物であると言うことと食べていいのだという認識。そして、
「美味しい」
食事を喜んでいいのだと教えていこうと思ったのだ。
「リュカス……」
「食事のマナーはおいおいに。今は食事はしていいものだと教えたいので」
言葉の意味は通じたのかアゼリアは食事を戸惑いつつも再開する。スプーンの食べ方を教えようかと思ったけど、スプーンを渡されることに躊躇いがあったので今回はすべて食べさせる。
「リュカスさま。お世話をしたい気持ちは分かりますが、食事をお取りください」
従者に注意されて慌てて食事をする。アゼリアに手を離すと一声かけて食事をし始めるとアゼリアは名残惜しそうに……。それでいて、じっとこちらを観察するような視線を感じる。
アゼリアが見ているので早く食べ終わった方がいいかもしれないが、食事はじっくり楽しみたい気持ちもあるのでややいつもより早いかなというペースで食事を終えるとアゼリアは待っていたというかのように触れていいのか躊躇うように手を伸ばしてくる。
そんな様に可愛いなと思いつつ、次に教えないといけないのはベッドで眠ることだろうか。ちなみに異性が教えるのが困難なことはメイドたちに頼んで伝えてもらうようにした。
メイド服を着ていれば安心と思えたのか少しの間だけ離れることが出来たのだ。
さて、寝室だが。
(うん。やっぱり)
離れて眠ることに困惑したのか。怯えていた。メイドがいるからとなんとか説明しようとしたが、メイド服を脱ぐことにまず躊躇い。その後は自分と離れることになるという事実に不安になり、それでも寝室に男女一緒は問題あると伝えたのだが、それでも納得できなかった。
いや、了承はしようとしたのだが、必死に堪える様に根負けしたのだが。
(根負けして正解だった)
アゼリアは眠ることを恐れていた。まずベッドに入ることが出来ず、部屋の隅に向かい、そこで体育座りのような格好で自分を抱きしめていた。
それを何とかベッドに連れて行き……もっと力があれば運べたのだが、それは出来なかった。
目を閉じるのを嫌がり、何とか眠ったと思ったら悲鳴をあげて暴れ出す。その度に抱きしめて背中を軽く叩いて大丈夫だと声を掛け続けていた。ちなみに頭を撫でるのは無理なのは昨日のうちに分かった。頭に手を近付けると怯えたように目を閉じるのは叩かれたことがある証明ともいえるだろう。
現にアゼリアの背中にはたくさんのむち打ちの痕があったとか。
それを夢で見たのか小さな声でごめんなさいとか叩かないでくださいと懇願するような悲鳴が夜に何回も続き、必死に起こして水分を取って貰ったりして落ち着かせるのがしばらく続き、へとへとになりながら休んでいると気が付いたら朝になっていた。
ちなみに朝に弱く、もともと起きれないのに夜に何度も暴れていたアゼリアの影響で寝不足になっていたのだが、そんな自分の横でアゼリアは目を覚ましてからピクリとも動かなかったと寝ずの番をしていたメイドたちから報告された。
じっとこちらを見て動かなかったと。
「そっか……悪かった」
どうしたらいいのか困っていただろう。自分が起きれないのは想定していたが、アゼリアも起きてくれなかったから予定が狂ってしまっただろう。
「アゼリア。食事をしよう。朝ご飯は何だろう」
「…………………………………さい」
何だろうねと言いかけた言葉に重ねるような小さな声。
「アゼリア……」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい………」
怯えるような声。
動かないといけないと思ったのか悪いことをしたと思ったのか恐怖で顔を歪めているアゼリアに向かって、
「僕が起きなかったからね。アゼリアは悪くないよ」
本当は頭でも撫でたいが怯えるから今はやめておく。代わりに手を繋いで一緒に食事に行こうと誘う。
「…………いっ」
悲鳴じゃないアゼリアの声を早く聞きたいものだが、焦る必要はない。
今はアゼリアに安心を与えたいだけだから。




