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【長編】物語は始まらない  作者: 高月水都


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「アゼリア。まずお風呂に入って綺麗になろうね」

「…………」

 目を合わせて話し掛ける。


 アゼリアを連れ出して、当初はアゼリアの家で泊まるつもりだったが、アゼリアの環境に腹を立てた両親が、領内の旅館に使いを出して部屋を用意してもらった。


 侯爵家。しかも、自分という全属性持ちの者が一晩泊まるというのは貴族的にも名誉あることなのだが、父が断ったことで社交界に後々響くだろう。


 アゼリアを冷遇していた時点で好感度もないから気にならないが、そんな扱いをした我が家に響かないか心配になって尋ねると、

「もともとあの家は好きではなかったから気にするな」

「そうね。わたくし達の髪を見て意味深な笑い方をしていましたからね」

 侯爵家という肩書が無かったら門前払いをしていた家だと分かったので、逆にちょうどいい薬だと判断した。


 そんな話をして、辿り着いた旅館は、もともと高級志向の店で客の入りが少なかったからと助けられたとか。


 他の客を追い出さなかったことに安堵して、アゼリアの酷い状態を何とかしないといけないと思ったのでお風呂の用意を頼んで、アゼリアをお風呂に連れて行ってもらうようにメイドに命じる。


「さあ、アゼリアさまこちらです」

 メイドがアゼリアを案内しようとした途端。


「……っ!!」

 怯えた顔をして、必死に掴んでくる。離れたくない、離れるのが怖いと身体で訴えてくる。


「リュカスさま……」

 これでは、身体を綺麗に出来ませんとメイドがどうしようかと途方に暮れているので、

「目隠しを用意してくれ。流石に女性の身体を見るわけにはいかないが、不安になっているアゼリアを任せることはできないからな」

 安心させるようにアゼリアの手を取って、一緒に浴室まで歩きだす。浴室で目隠しをしてもらい、さすがに目隠ししている状態で歩くのは怖いので他の者たちに誘導してもらう。


 出来る限り音は拾わないように気を付けていたが、目が見えない状態だと音で情報を集めようとするようで、僅かな水音で変な妄想しそうになって辛かった。


「リュカスさま。繋いでいる手を洗いたいので」

「分かった。――アゼリア。手を交換しようか」

 その時になって、アゼリアは自分の名前がアゼリアだと認識できて来たようで、おずおずとこちらの言葉に反応して動いてくれるようになっていた。


 かなり時間が掛かったようで、目隠しされてお風呂に入っているわけではないのに湯気だけでのぼせそうになり、浴室から出るとすぐに水分を差し出された。


「しまった!!」

 まだ目隠しをしている状態で水分をもらうと頭の回転がやっと回ったみたいで、大事なことに気付いた。


「アゼリアの服を」

「できましたぁぁぁ!!」

 用意ししていないと言いかけた言葉が切れる。


「持ってきてよかったです。予備のメイド服!! 若様。アゼリアちゃんにこの服を着るように告げてください!!」

 母付きのメイドであるメロウの声に押されるままに、アゼリアに着るようにと伝えるとアゼリアはすんなり納得して、着替え出す。


 着替え終わったから目隠しを外していいと言われたので外すとそこにはメイド服に身を包んだアゼリアの姿。


「アゼリア。うん。似合うよ」

 でも、なんでメイド服。


「規制品の服をすぐに用意できませんでしたが、予備のメイド服があったのでアゼリアちゃんのサイズに目測でリメイクしました。若様の服は男性用ですし、今までの環境化だと貴族の服は重く感じるでしょうから動き易さと軽量化されているメイド服。それに」

 メロウは一度言葉を区切る。


 アゼリアは自分の着ている服の感触を確かめて、その後自分の周りにいるメイドたちを見る。


「若様の傍にはたくさんのメイドがいます。同じ格好をするだけで、若様の傍にいていいのだとまずは認識してもらいましょう」

「………メロウ」

 説明を聞いて名前を呼ぶ。


「よくやった。後でボーナスを進呈する」

「あっ、それなら、お屋敷の裁縫室を自由に出入りできる権利下さい」

 趣味が裁縫なメロウの言葉に、

「………最新のミシンの方が欲しくないか」

 ボーナスで買えると告げると、

「それは心惹かれますが、ミシンの置き場がないので、個室をもらえるほど出世してから買います」

 メイドは基本二人から三人部屋。役職が上がれば一人部屋をもらえるので同室のメイドの迷惑になるからと固辞されて、

「分かった。後で母上に進言しておく」

 と告げる。


 ちなみにその間もアゼリアはこちらの腕を掴んで離すことなく、じっと話を聞いていた。





メイド少女爆誕。

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