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長編を希望されたら書きたい願望で出来てしまった。
「君。僕と一緒に来る?」
手入れを一切されていない長い黒髪。食べていないのか痩せ細って倒れそうな身体。着ている服も誰かのお古を渡されていたのか服としての機能をほとんどなしていない。
良心と、自分の思い通りに動かせるほどの権力と文句を言ってくる輩を黙らせれる資金があれば、助けたくなる姿。
それに何よりも、彼女の黒髪はこの世界で珍しい黒髪。髪で隠れている目は茶色。
前世では当たり前の様に見慣れた代物。
「………?」
差し出された手に戸惑っているような視線にどう警戒心を解けばいいのか分からないけど、ただ彼女が動くのを待っていた。
カウンセラーとかその手のことに詳しい資格とか知識があればもっと簡単に出来たのかもしれないが、あいにく普通の学生で、大学の時に病気が見つかってあっという間に亡くなったのでその手のことは学んでない。
余命宣告されて思ったことは、書き続けていた小説を投稿して評価を得たかったなという感じで、人間関係も微々たるものだったので、はっきり言えばコミュ症だった。
そんな感じだったので、彼女が動くのを待つしかできずに歯痒い気持ちがあったのだが、そんな彼女が警戒心を弱めて……完全には消えないだろうけど、手を取ってくれたことが嬉しかった。
「リュカス。良かったわね」
実は傍で様子を窺っていた両親と護衛や侍女たちが喜んでくれた時に彼女は驚いて怯えてしまったので、みんなごめんなさいとジェスチャーで伝えてくる。
「父上。母上。この子を連れて帰ります。僕のお嫁さんです」
前世の知識。子供が虐待されているからと連れて帰ったら誘拐だと騒がれて連れ戻されるというのが漫画とか小説のパターンだったので、侯爵家というコネと、虐待親を黙らせれるほどの資金。あと、何か問題が起きたら守れない状況にならないために自分のお嫁さんということを明記しておく。
黒髪は闇属性だから冷遇していいというこの国の考え方は両親の外交の仕事に付いてくることになったから学んだけど、ここまでとは思わなかったが、何らかの不利益が来たら彼女が【闇属性】だからという理由で中世の魔女狩りのような目に合わないために明確なこちらの保護対象だと言っておかないといけないからの手っ取り早い手段だったけど、彼女が拒むなら円満に解除できる方も考えとかないとな。
相手の意思を尊重しないと相手のことを思うなら。
貴族籍を持っていても家計は火の車だったその家はあっさり手放した。
用意された書類には彼女の名前らしきものが記入されている。
「アゼリア・バルセローゼ嬢。か……」
名前があったのは幸いなんだろうか。
名前をつけないで道具扱いというのもあり得たから。
「……あえて、名前を付けたかもしれませんよ」
父の秘書が口を挟む。
「あえて?」
「はい。――名前を付けて相手を支配することも、奴隷化することも、呪いを掛けることも出来ますから。逆に名前が無いと支配できずに自由を与えてしまう恐れがあったのでしょう」
「…………つまり、恥ずべき行為と言うことか」
名前とは、親が最初に与える愛情だと思っていた。だけど、この子に与えられたのは愛ではなく、隷属のための記号にすぎない。
「アゼリア」
じっと手を掴んで離さない少女――アゼリアの名を呼ぶが、アゼリアは不思議そうに首を傾げるだけ。
「…………」
「自分のものだと言うことが認識できていないのでしょう」
「自分の名前を悪いものだと捉えていないだけよかったと思うべきでしょうね……」
秘書の言葉に母が続く。
「リュカス」
「はい」
父に呼ばれて返事をする。
「お前はこの子を妻にすると宣言した。妻にする以上この子にたくさんの愛情を与えてやるのがお前の義務だ」
「分かっています」
「大事にしてあげなさい。もちろん」
優しい眼差しでアゼリアを見つめる父。
「私も義理の娘を十分にかわいがるつもりだがな」
「あら、わたくしは混ぜてくださらないの?」
どこか揶揄うような母の口調に、
「おや、君は関わらないつもりだったのかな。てっきり、リュカスが我儘を言わない分この子の我儘を聞いてあげるのかと思っていたよ」
「あら、それはいいわね。リュカスが全く我儘言ってくれなかったからわたくし寂しくて、寂しくて……」
何処か演技めいた感じで目元をハンカチで拭う。
「………もっと、我儘言うように精進します……」
人生二回目で、我儘言う年齢でもないので正直言っていなかったから寂しかったようだ。
「ふふっ。でも、アゼリアちゃんで初めて我儘を言ってくれたから許すわ」
「我儘を言いにくかった環境に身を置いてしまった私たちも悪いのだがな」
父は淡い赤髪。母は水色に近い髪。
色が濃い方が魔力属性は高いと言われる世界で、両親の色は侯爵家でありながら淡い色で色々辛い環境だった。そんな中産まれた自分が色を持たない白で魔力無しと冷遇されてもおかしくなかったのだが、物心つく前から魔力を操れて、魔力を使う時だけ髪が虹色に光ることで全属性だと判断された。
そんな自分を淡い髪質の両親から奪おうとする親戚は多かったが、自分が両親の元から離れることが無かった。
気苦労も多いだろう。そんな両親に自分の要望を言うのは恐れ多かったかもしれない。
「いえ、僕は父上も母上も好きなので、不満はありません」
微笑んで告げると、
「聞き分けがいいのはいいのだが……」
「そこではもっと文句を言って欲しいわ」
と困ったように告げられてしまった。




