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8 遅めの夕食

 家に帰ってから夜ご飯の支度をさっとして、焼き肉を始める。

 すっかり深夜となった中で食べる夕食は夜食とはまた違う特別感があって美味しい。


 流は座卓テーブルに乗り上げて足のついた古いブランド品のお皿に載せられたお肉にむしゃぶりついている。床で食べるように言えば、「ペットじゃねえっつってんだろ!」と激怒するから言ってはいけない。


 肉ばかりでは栄養が偏るだろうと思いピーマンととうもろこしをお皿に取ってやった。


「さっきから野菜ばっかじゃねえか!お前ばっか肉食いやがって。オレにもよそえ!」

「…ちゃんとよそってるでしょ」

「嘘つけ!」

「…あっ」


 僕の取り皿に入れた肉を目掛けて突っ込んできた流に食べられた。

 もぐもぐと咀嚼して、ジロリと意味ありげに視線を寄越してくる。


「おい沖嗣。お前肉2種類使ってんな?」

「…バレたか」


 実は流にはスーパーで売ってたちょっと型落ちの格安を、自分には普通の肉をこっそり取り分けていた。


「オレには安くても肉さえ与えとけば黙ってるだろうっていう魂胆か!?あぁ?」

「…流がおやつ食べまくってご飯だって人間と同じもの食べるから食費高いんだよ」

「ドッグフードでも食っとけって言いたいのかよ!オレは神戸の守り神だぞ!?」

「…それだって自称でしょ」

「守ってやってるだろうが!」


 心当たりが全くないので自然と首が傾がる。


「…例えば?」

「遅刻しないように起こしてやってるしお前の健康管理のために毎食献立考えてやってるだろ!」

「…守るってそういうんじゃないと思う」


 やいのやいのと騒ぎ立てるから、こっちもつい声を荒げてしまう。

 …僕、そういうキャラじゃないのに。


 今回の肉の件だけは僕が悪いかもしれないとは自覚しているが流が原因となりこのアイデアに辿り着いたのだから謝りたくはない。さすが肉食動物というか、献立は殆ど肉料理を提案してくるから財布の中は常にスカスカしていて寂しい。

 今物価高いんだよ。


「このままじゃ埒が明かねえ。…仕方ねぇな、ここはオレが退いてやるよ。オレは年上だからな」


 フンと鼻を鳴らしてドヤってきた。

 些細な小競り合いとなると自分の方が大人だからとこんな風に言ってくる。謝らなくて良いのは嬉しいがいつまでも子供扱いされていると思うと複雑。


「その代わりあの肉よこせ。それで勘弁してやる」


 ちょこんとした鼻先で指し示したのは1番大きい肉。


「…僕より体小さいんだからあんな大きいの胃に入らないんじゃない?」

「黙ってよこせ」


 これ以上小競り合いを長引かせたくはないので渋々肉を箸で皿に乗せた。


「…」

「その膨れツラ、お前がガキの頃を思い出すぜ。あん時は抱っこしてもらえないからって駄々こねてよ」

「…いつの話してんの」

「お前の親がこの家にいた時だから二つの頃だな」

「…そんな昔の話引っ張り出さなくてもいいじゃん。それに、僕はもう大人だよ」

「まだまだガキだろうよ。大人っつうのはな、オレみたいな奴を言うんだよ」

「…こんな大人がいてたまるか」


 食い意地張ってて五月蝿くて周りのこと気にしないで姿見えないからって好き勝手言いたい放題な自己中な大人ヤバいでしょ。


「あ、おいまた悪態吐いただろ!」

「…別に」


 目敏い流に野菜を口に含んで美味しいよと言って誤魔化した。


「ったく。あのジジイにしてこのひ孫ありといった性格してるぜ。なんでこうも代々性格が似てんだか」


 流は心底困ると首を振った。最近は大じいちゃんの話しをしていなかったから長話を覚悟して顔を覗き込む。慕っている曽祖父と似ていると言われて嫌な気がする人はいない。


「…大じいちゃんはもっと溌剌として厳格な人だったろ。似てないよ」


 一歩引いて謙遜すれば、必ず流は話題を切り上げることなく続けてくれると知っててあえてそう言った。

 数少ない家族の話は誰だって聞きたいでしょ?


「いいや!ジジイの若年を知らないからそう思い込んでるんだよ。彼奴は必ず日本刀を持って仕事に行くような物騒で血気盛んな問題児だったぜ」

「…なんだ、大人しくて地味な僕とは正反対じゃん」


 大じいちゃんと似てるって言う言葉に内心舞い上がっていた心は急降下しているのを感じる。


 適当なこと言わないでよ、紛らわしい。


「お前に大胆さを加えてオレへの悪態を酒で濃厚にしたらジジイの出来上がりってな」

「…褒めてんの?それとも貶してんの?」


 微妙で絶妙すぎて素直に聞き返したのににんまり笑うだけで答えてはくれない。

 毎回思うがエゾテンの笑顔はちょっと不気味。



 この役目の説明は大体大じいちゃんが教えてくれた。祖父は早くに亡くなっているから、役目を教えられる人は曽祖父しかいなかった。


 役目に誇りを持つ大じいちゃんもとい先先代はとても厳しく、経験の為ならばまだ小6の僕に土鈴のみ持たせて一件仕事を終えるまで帰って来るなと放り出すことも厭わない人だった。

 一方でとても懐の広い穏やかな人でもあったから僕は大じいちゃんとこの古民家で暮らす生活に居心地良さを感じていた。


 大じいちゃんは自分がいなくなれば人間は僕1人となってしまうことを心配していたようで、酒に酔うと流にしきりに話しかけていたのを知ってる。


 …あの世で元気にしているだろうか。

 

 思い返していて食べるスピードがゆっくりになったことを察知したのだろう。いつの間にか流が僕の取り皿に顔を近づけて匂いを嗅いでいた。


「手ぇ止まってんぞ。腹一杯ならオレが代わりに、」

「…あげない。…考え事してただけ」

「けっ、そうかよ」


 手でお皿をガードすると残念そうに自分の席へ戻り、食べ終わった自分のお皿をぺろぺろと舐める姿は哀愁漂ってちょっとだけ可愛さを感じそうになる。


 また狙われてはいけないと、僕は過去を思い返していた思考を現在に戻して箸を動かし食事を再開した。

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