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6 居酒屋

 到着した居酒屋は混んでいたがあまり待つことなくカウンターに座ることができたのは幸いだった。

 女性の要望のビールと枝豆、自分の分のジュースを頼むとすぐにテーブルに運ばれる。

 その際に訝しげに僕を盗み見ながら2人分の飲み物を持ってくる店員の視線が胸にチクリと刺さった気がしたが気のせいだろう。


「私と乾杯なんてしても気味悪いだろうからしないことにするね、いただきまーす!」


 こういう自虐には慣れていないのでオレンジジュースのグラスを女性に向かって持ち上げるのみに留め、ビールを煽る女性の横で僕も飲む。オレンジジュースは美味しいけど後味の渋さが舌にこびりついては苦味を残す。


「ふぅ〜。久しぶりのアルコールは最高ね!青年はお酒飲まないの?あ、まだ未成年だった?」

「…20歳は超えてます。でも二口飲むだけで動悸がするので飲まないことにしてます」

「体に合わないんだねぇ。それなら仕方ない。けどこんなに美味しいのが飲めないなんてなんて勿体無い!」


 グスグスと悲しみを表現する女性は既に酔いが回り始めている様子。…早すぎない?

 お酒が好きなようだから僕の手持ちでギリギリ払える値段の日本酒でもどうかと提案しようと考えていたが却下だ。泥酔したこの人を起こす自信ない。

 …本当は小ジョッキ一杯程度なら飲める。だけど仕事の最中には飲まないと決めているから飲めない事にして接している。そうしなければお酒を勧められて思考が鈍り相手に隙を見せてしまうから。


「というか、どうして私はジョッキ持ててるんだろ?」

「…その人の為に置かれたり飾られたりした物は触れる事ができるそうですよ」


 少しだけ逡巡してから素直に伝えるべきと判断して教えることにした。


「どうしてそんな事知ってるの?」


 やっぱり不思議に思われた。そりゃそうだよね、こんな情報知ってるなんて(神戸家)くらいのものだ。

 横から流の余計なこと言うなという圧を感じる。


 …大丈夫だよ、対策は考えてある。


「…オカルトサークルで聞いたんです」

「何そのサークル。今どき珍しいねぇ」

「…古き良き文化を残そうっていう感じで。…形だけでも入ってれば内申点がつくので、それ目的の人の集まりですよ」


 実際は一応真面目に活動してはいる。けれど神戸家の勤めへの知識を深める為に入った僕やオカルトに目がない小野寺と違って八雲は休憩場所として緩いこのサークルにしたと言っていた。

 そういえば林は何でオカルトサークルに在籍してるんだろう、理由を聞いたことないな。アーチェリー部と掛け持ちで入る程の魅力は無いだろうに。


「そのオカルトサークルとやらはなんの活動してるの?」


 興味津々と言った様子で尋ねられる。


「…怪奇現象や伝説の生き物とかとにかくオカルト関連の情報を集めて妖怪の仕業か幽霊の仕業か話し合ってます」


 幽霊に対してこの話はどうなんだろうと疑問が湧いた。


「思ったより本格的だね」

「…最近はフェイク画像ばかりで検証できないことが増えたのでUFOにも手を出し始めました」

「あー。ネットの技術の進歩はとんでもないものねぇ」


 納得だとうんうん頷いてくる。


「あれ?でも少年は視えるんだよね?なら歩いてても私みたいな人に会い放題なんじゃない?」

「…僕の霊感は不安定なんですよ。だから視えることの方が稀なんです」

「じゃあ声かけてもらえた私はラッキーだったんだ!」

「…そうかもしれません」


 …これは半分嘘で半分本当。

 流によれば僕の霊感は確実にあるがそこまで強くはないらしい。だから普段は視えない。

 けれど神戸の血統と土鈴が組み合わさることで僕を必要とする地縛霊候補は必ず視えるようになっているのだ。もっと簡単に言うと勤めの時に限り僕の霊感含めた第六感を土鈴が増幅させてくれている。だから仕事に支障が出ることはない。

 本来はもっと不可思議で複雑な仕組みで増幅させているそうだが、流の長ったらしい説明を聞くのが面倒でやめた。



◇◇◇


 居酒屋に滞在して約1時間。ジョッキ3杯で見事に酔い潰れた女性は机に崩れている。


「もっとのみなさいしょうねんよ〜」

「…はい」


 一応返事をしたが聞こえているのかは定かじゃない。

 この状態のまま閉店まで放置するわけにはいかないけど相手は幽霊。肩を貸して歩かせることはできない。

 どうしたものかと悩んでいると、不意に女性が確かな口調で語り始めた。


「彼と初めて出会ったのはこの居酒屋なの。」


 僕は視線だけを向けて続きを促す。


「私、そこそこいい企業に勤めてた。だけど毎日忙しくて大変でやりがいよりも疲れの方が圧倒的で苦しかったの。週末は毎回ここでやけ酒してた」


 女性は自分の左指に嵌められた指輪を見つめて愛し気に微笑んだ。


「そしたら彼がナンパしてきてね。最初は何だこの人って思ったんだけど次第に意気投合して同棲するまでに時間はかからなかったの。それからは帰ったら彼が待っててくれるって思えば仕事も苦じゃなくなった。本当に幸せな日々、夢みたいだった」


 嵌められた銀の指輪は居酒屋のライトに照らされて眩しいほどに光を放っている。それが更にこの女性と婚約者の幸せををイメージしやすくした。


 徐に立ち上がった女性は座っている僕を見下ろしてニコリと笑いかけて。


「青年、少し外歩かない?酔いを覚まして行きたいところがあるの」


 女性に頷いて僕も席を立ちあがった。

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