31 いつものメンバー
ヒサメノマチの電車より何倍も速い市の電車に驚き、小野寺おすすめとのファミリーレストランで三人の支援を受けつつ料理を注文して食べた後、予定通りヒルガオ市内を観光する事になった。
カキツバタ市同様、どこを見ても真っ白な建物や透明な建物に市を覆う人工物の天井。植物どころか石ころすらこの市では見る事ができないだろう。
「しっかし、神戸が料理の注文方法すらわからないなんてな。以外通り越して引くわ」
「…ボタン押したら人がホログラムで出てきて口頭で注文するなんて誰がわかるのさ」
「いや、あれが普通だろ。注文、調理、配膳。全て機械がやるのが世界の常識だぜ?ヒサメノマチが遅れてるんだよ」
「…それ、ヒサメノマチで生まれ育った僕に言う?」
八雲は無意識で口走っているのだろうが僕にしてみると小馬鹿にされた感じがしてむすっとしてしまう。
不穏な雰囲気を感じ取ったのかすかさず林が大型の四角い建物を指差して明らかな感じで話題を変えてきた。
「あの建物はヒルガオ市で有名なスキー場と虫取り体験場を兼ね備えた総合施設なんだ。夏と冬の気分を同時に味わえる、を売りにしている」
「この市では海も虫も見ないで一生を終える人多いからその人達にとっては貴重な自然体験場所だよ〜」
「…その為の虫はどこから取ってくるの?…人工雪って溶けないように管理するの大変だって聞いたことあるけど、ここでは違うの?」
さっきの不機嫌をスッと忘れて僕はシンプルな疑問を投げかけると林たちは呆れることなく教えてくれる。
「虫は市では貴重な歴史的生物として価値が高いんだ。昆虫だけじゃなく自然や生物もだな。だから観賞用に売ったりこうして自然を体験する為にも育てる専門施設がある」
「人工雪は最初は作るのが大変だったらしいけど今は建物の天井から降らせて積もらせることが可能なんだよ〜。実際に雪が降って積もるみたいに〜。温度管理もAIがやってくれるからバッチリ〜」
「…へぇ」
「この市とやらではそこまで技術が進歩してんのか、すげぇな」
僕と流からは驚きの声が上がり、総合施設をまじまじと見上げた。窓がないその建物は目のないサイコロみたい。
そう思っていたら壁がボコボコ変形して人の顔を型取り、広告が流れ出した。
「…動くの…」
「大型施設は全部あんな感じで動くぞ。うちのカンパニーが買収したショッピングモールはもっと精巧な動きをするけどな」
「お坊ちゃんがドヤ顔してる〜」
鼻高々にふんぞり返った八雲に苦笑しつつもう一度見上げると次はニュースが流れていた。
アナウンサーと机が立体になり、プロジェクションの画質も相まって本当に巨人がそこにいるかのようだ。
…本当に先進的で画期的な技術だと思う。…だからこそ、僕は惨めな気持ちを拭えない。
「…ヒサメノマチとは全然違うね」
「だろ?…いだっ」
未来の技術を誇らし気にした八雲の横腹へ小野寺の肘が突き刺さり悶え倒れてゆく。
「自分はあの街の雰囲気好きだな〜。浪漫を全て詰め込んだ宝石箱みたいな魅力があるし、何よりオカルトを追うにはあの街が最適だもん〜!」
「本当にベルナはオカルト第一だな」
小野寺は無理やり雰囲気をいい方向へと持っていこうとして、それに林がいつもの調子で笑う。
「俺もヒサメノマチを気に入ってる。最初は物珍しさから興味を惹かれる物が多かったが実際に住んでみると見えてくる景色がある」
「…例えば?」
「そう言われると悩むが…。そうだな、大学から帰ってくる時に見つける虫の種類で季節を感じたり潮風に生きてる実感を得たり、かな」
「…ロマンチストっぽい事言うね」
「ね〜、意外な一面〜」
「ギャップ萌えだろ?」
「恥ずかし気もなくそういうの言えちゃうとこが残念〜」
「はははっ」
友人たちの談笑は続いてゆく。地元愛のある人なら友人からヒサメノマチが好きだと言われれば嬉しく思うのだろう。けれどやっぱり僕の心境はただ複雑に思うばかり。
皆んなは外から来たからこの街の不便さも目新しく感じて愛せるのだろうと思う。
いつかは、大学を卒業したらヒサメノマチから出ていくから今の不便さや取り残されたこの街を楽しいと満喫できるのだ。
…対して僕はあの街にいて良かったと思えたことがない。嫌いなわけじゃないけれど、神戸の勤めにより産まれた時から縛り付けられた街に好感を持てなくて。
そしてこれからも生涯ヒサメノマチで時代に取り残されて古臭い風景の中で生きていかなければいけないと考えるとまだ好きになることができないでいる。
…勤めがなければヒサメノマチの風景は違って見えて、皆みたいな普通で自由な大学生になれたのかな。
…そう言えば流はどう思っているのだろう、あの街のこと。
「神戸〜、次はあっちのショッピングモール見に行ってみよう〜!」
「ついこの間俺のとこのカンパニーが買い取ったモールだぜ。一度取り壊して最新式の技術を駆使して再建、その後…」
「八雲の蘊蓄は長そうだから歩きながら話そう。ここで聞いてたら日が沈むかもしれないからな」
「神戸行こう〜。せっかく4人で遊ぶ貴重な時間なんだから1分1秒も無駄にしたら駄目だよ〜!」
俯いて考えていた顔を上げると白い建物と四足歩行のロボットを背景にした友人たちが僕が歩き出すのを待っていた。
慌てて頷き、そちらへと向かう。流の重たさを肩に感じながら。
「…うん、今行くよ」




