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27 鈴の音と猫

 相手を見た時、また珍しいあちらの人だなと思った。

 人、というのは間違いかもしれない。



「…君、僕の言ってることわかる?」


 土鈴の案内により辿り着いた先にいたあちらの者は手を舐めてその手で顔を手入れしている。

 こちらの話は聞いていなさそうなので、もう一度問いかけてみるか。


「…君のやりたいこととか、願いはなに?」


 返事はなし。その明るい茶の身体に映える赤いチョーカーのプレートが動く身体に連動して揺れるのみ。

 …困ったな。


「…流、僕の代わりに何がやりたいのか聞いて」

「相手は猫だぞ?話できるわけねぇだろ」

「…動物同士ならいけるんじゃないの?犬と猫が仲良くしてる動画とかあるじゃん」

「アレとコレは話が別だ。エゾテンはエゾテン同士でしか意思疎通はできねぇよ」

「…やってみて」

「オマエ話聞いてたか!?無理だっつってんだろ!」

「…やってみて」


 やらなければ神戸の勤めが終わらないよ、と言外に圧をかければ流は諦めたようにため息を吐いて肩から飛び降り、華麗な身のこなしで地面に着地した。


 そしてフンフンと鼻を鳴らして何とも言えない低音で鳴くと、茶トラの猫はニャーとひと声鳴いて流に近寄り頭を擦り付ける。

 相手の反応は良さげっぽい。


「…なんて言ってるの?」

「さぁな。だがオレらをどこかに連れていきたいらしい」

「…意思疎通できるんじゃん」

「なんとなくわかるだけだ。会話はできねぇよ」

「…動物が人間みたいな会話したら怖い。流みたいな動物とか嫌すぎでしょ」

「オレの協力なしじゃ今回は仕事終わらねぇんだからな。オレの機嫌損ねないほうがいいぜ?」

「…神戸の守り神が神戸の人間である僕を脅すの?ひどいね」

「はぁ!?オマエ調子こくのもいい加減にしろよ!」


 僕たちの言い合いが長くなるとわかったのか茶トラの猫が先ほどと同じような声色で鳴いた。尻尾が左右にゆらりと動く。


 それを見た流は少し顔を顰めてやめだやめだと僕たちの会話を強制的に終わらせた。


「早くついて来いってよ」

「…今行くよ」


 僕たちは先を歩く茶トラの猫の背を追っていく。

 毛並みが良く首輪もしているから、きっと誰かの飼い猫で大切に世話をされてたくさんの愛情をかけられていたに違いない。先ほどもどこか品のある佇まいであの場にいたし瞳からも知性を感じた。頭の良い猫なのかも。


 

「ニャー」

「…なんて?」

「疲れたから抱っこしろだとよ」


 爪を出しながら背をのけぞらせ思い切り伸びをしている姿からは疲れた様子は一切見当たらない。むしろ体力が有り余っている気がするけど、それがこの茶トラの望みならばと僕は手を広げてこちらへ招く。


 あちらの人だから重さはない。じんわりと暖かいような感覚がするのは茶トラの体温ではなく纏う雰囲気によるものだろう。

 流は何故か体温があるのだが、それはどうしてなのか本人もわからないらしい。こちらの人には視えないのにご飯やおやつは食べればなくなるのも同様。本当に謎の存在だよ。


「…どこに行けばいい?」

「ニャー」

「真っ直ぐ進んだ角の花屋を左だ」


 流を介してやりとりをする。まさかいつも肩に乗っかっているだけの流がこんな時に役に立つとは。毎年冬以外は暑いし重いから降りてほしいと思っていたけど、黙って乗せておいて良かった。



「あの子手を囲うようにして歩いているけどどうしたのかしらね?」

「なんだか変な子ね。近づかないほうがいいわ」


 すれ違いざまに言われた言葉にあからさまな反応をすることはない。


 でも、聞こえてはしまう。通りすがりの人にいちいち説明なんてしていたらキリがないしそもそも信じてくれないだろうから、ああ言ったのはスルーするのがお決まり。

 それでもどうやったって僕の耳にこびりついて離れてくれないこともある。こう言った時に自分は人と違うのだと、この仕事がある限りあの人たちと同じにはなれないのだと疎外感を感じて心底嫌になる。周囲からの目が苦しい。


「オマエはどう足掻いたって神戸のニンゲンで、仕事からは逃げられねぇ」

「…わかってる」

「そうかよ」

「…ねえ、その気にかけかたわかりづらい。…もう少し素直な言葉でもいいんじゃない?」

「素直にならなきゃいけねぇのはオマエのほうだろ」


 一見脅しのような言葉だけど流なりの励ましだと僕は知ってる。

 さっきの流の言葉を直訳するとああいう言葉は気にするな、だ。不器用で雑だけど僕の気持ちの機敏には聡い。あと悪口にも。


「ニャー」

「そこのT字路を左だ。その後は真っ直ぐ道なりに行くと到着らしいぜ」

「…わかった」


 流のおかげで低空飛行しかけた気持ちは平常心へと戻りかけているようだ。

 また言われたら気にするだろうけど、流なら何度でもフォローしてくれる、はず。

 そう考えると少しだけ安心して心が落ち着いた。

 …仕事が好きになれないのは変わらないけど。


 流の言うように僕も素直にお礼は言えない性格をしているから、帰ったら冷蔵庫に密かにしまっておいたサーロインステーキ肉でも焼いてあげるか。

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