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24 家族との再会 2

 綺麗に整頓された家のリビング。日当たりの良さそうな窓辺には水色の丸いキッズデスクが置かれて、一輪挿しされた造花と愛らしいレースのリボンを付けたうさぎのぬいぐるみが並んでいる。


 壁にはここ数日神戸家にいた少女がピースをして楽しそうな笑顔で写り、花のフレームの額に収められたデジタル写真が飾られていた。



 母親が席についた途端堰を切ったように訴えかけてくる。


「麗は、他にどんなことを貴方に言っていましたか?何でもいいんです。呟いたことでも表情でも。…私たちのこと、恨んでいましたか?私が、目を離したから、、だからあの子は」

「まま、落ち着いて。恨んでいたら麗は会いに来てはくれなかったはずだ」


 …すんなり僕の怪しすぎる話しを受け入れてくれたのはこちらとしてはやりやすいけど、もう少し人を疑った方がいいんじゃないかな。いつか詐欺にあいそう。


 内心失礼で余計な心配をしつつ、僕は父親の言葉に頷き同意する。


「…家族との思い出をよく話してくれました。自分はお姉さんになるのだとも。…家族の話をする麗ちゃんの表情はすごく明るくて楽しそうでしたよ」


 チラリと見た麗ちゃんは母親の膝の上に座り、短い腕でいっぱいに抱きしめて母親の温もりを感じていた。


「おにいちゃん。ままになかないでって、わたしままのことだいすきだよっていって」

「…今はお母さんの膝の上にいます。泣かないで、大好きだよって言ってます」


 母親は口を手で押さえて嗚咽する。

 もう自分達には視えない、すぐそこにいる娘からそんな言葉を言われたら誰だって泣くだろうな。

 父親も涙を指で拭った。


「あの、金木犀館はヒサメノマチですよね?麗はどうしてそんなところにいたのでしょうか?」

「…家に帰ろうとして迷子になってしまったようです。…本当なら直ぐにでも帰してあげたいところだったのですが、家を探し出すのに時間がかかってしまいました」


 すみませんと謝れば、連れて来てくれて有難うございましたと頭を下げられた。

 人と接するのが苦手だから、こういう場合どうしたらいいのかわからない。


「うらちゃんはずっとここにいてくれるのでしょうか?」


 母親からの期待した言葉にグッと詰まる。娘が帰ってきたのだ、これからも一緒にいたいと願うのは当然だろう。その気持ちはよくわかる。僕もじいちゃんが帰って来たら何としてでもこの世に留めようとしただろう。

 …でも、それはできない。ずっと一緒にいるなんて不可能なんだよ。


「…まだ暫くはここにいられるかもしれません。けどいつかは幽霊となった麗ちゃんが天国へ行く日がくると思います」


 僕はキッパリと伝える。いつかの話だけど、覚悟はしておいてほしいと思ったから。


 あちらの人あの世と言えば伝わらないと考えて幽霊と天国と言い換えた。断言してしまうと何で詳しいんだと疑問を持たれそうであくまでも自分の考えだと濁す。

 

「そう、ですか…ずっとここに居ることはできないんですね」

「それが麗にとって良いことなら、私たちが止めることはしません。親ですから」

「…はい」


 両親は悲しみの表情を浮かべはしたが天国に行くことに反対はしなかった。しかし。


「わたしてんごくなんかいかないよ!ずっとぱぱとままとおとうとといっしょにいる!」

「それはできねぇんだよ。お前は願いが叶っただろ。一度地縛霊候補になった奴が後数十年もこの地に留まればまた地縛霊候補になる危険がある。そうしたらオレらがまた仕事するハメになっちまう。大体はそうなる前に迎えが来るが、そうなっちまったらこっちが苦労すんだよ」


 流がダメだと説明するが、5歳の少女は理解ができないと首を横に振り頬を大きく膨らませた。


「なんで?ひどいよ。わたしずっとみんなといっしょにいるもん!」


 母親にしがみついて泣きながらこちらを力一杯睨んでくる。その力は弱いが、僕たちへの悪意となって肌をピリピリと痺れさせてきたその時。


「ただいま」


 ガチャリとドアが開いた音がして、同時に声がリビングまで届く。足音がこちらに近づいてきて、リビングへと続くドアが開き姿を見せたのは僕とさほど変わらなさそうな年頃の青年だった。


「お客さん?こんばんは」

「…こんばんは」

「おかえりなさい。部活帰りで疲れてると思うけど、ここに座って神戸さんのお話を聞いてくれる?」


 親の指示に反抗することなく僕の向かい側に座る。 半袖のユニフォームにはhigh schoolと刺繍されていることから高校生だと分かる。


「あのね…」



 僕が話したことを両親が説明し始めた。


 最初は嘘だと言ってのけていたが、次第に詳しすぎるその内容に真剣に耳を傾けてくれた。

 こちらの人でいた時はまだ産まれていなかった弟が次にあったら高校生にまで成長していて麗ちゃんは信じられないといった顔で固まっていた。



 全て話終わると、青年は辺りを見回した。そして視えない姉を探して笑いかける。


「姉さん、俺、姉さんが会うの楽しみにしてくれてた弟の瑛太(えいた)だよ。サッカーが好きで野菜は嫌いで、あと勉強苦手だけど頑張ってるよ!姉さんが会いに来てくれてすっごい嬉しい。俺ずっと話したかったんだ。もしも会えたとしたら、姉さんが事故になんか遭わないで生きてたら何話そうかって色々考えて今まで生きて来たけど、今こうなると言いたいことと聞きたいことありすぎて頭ぐっちゃぐちゃだから、困るな!」


 泣きそうになりながらも明るく、歳下となってしまった姉が理解できるように言葉を選んで話すその強がった泣き笑いの表情は姉とそっくりだ。


「えっと、、つまり俺が言いたいのは、、姉さん!大好きだよってこと!大好きだよ!」


 大きな声で伝えてくれた弟である青年を見つめて麗ちゃんは姉らしさを感じさせる穏やかな微笑みで、テーブルによじ登って小さな手をいっぱいに伸ばし自分の弟の頭を撫でた。


「はじめまして。わたしのおとうと。」


 両親も弟も泣いている。両親は大好きだと言いかけては、嗚咽に遮られて途切れ途切れになりながら娘への想いを伝えて泣き崩れる。


 ただ1人、麗ちゃんだけが家族からの愛を受けて幸せだと笑っていた。

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