21 迷子の少女と家探し 3
夏休みも折り返し地点となった今日。日差しはジリジリと肌を焦がそうと躍起になるが北の冷たい風がそれを和らげ防ぐ。絶賛観光シーズンのこの街は普段よりも賑わいを見せていた。
「まだ見つからねぇのかよ。あのガキいつまでも置いてはおけねぇぞ」
「…わかってる。でも全然見つからないんだよ」
「これだからお前はまだまだ半人前なんだよ」
「…うるさい。…そんなこと言う暇あるんだったらスマホ貸すから流も調べてよ」
「なんでオレがやんなきゃならねぇんだ。ただでさえ子守押し付けられてんのによ」
麗ちゃんが遊び疲れて寝ているのを良いことに僕たちは気を遣うことなくギャーギャー言い合う。
僕だって早く麗ちゃんを家族に合わせてあげたいと思っている。それは勤めだからでもあり僕個人としての願いでもある。
麗ちゃんの家があるのはヒサメノマチの外、「市」であるとわかってから早2日。
僕の頭は過労によりパンク寸前だった。
目星をつけた場所は悉くハズレていくのだ。この街しか知らない僕はそれっぽい場所を調べて見せても首を横に振られ、その度に寂しさを滲ませる少女の姿は胸が締め付けられた。
「…花と水があるらしいから植物園だと思ってたけど、そうじゃないのかな」
「さぁな。そもそもその記憶すら正しいかわからねぇぞ」
「…記憶が曖昧だって疑ってるの?」
「死んだ時の衝撃なんかで思い出が混ざっちまうのなんかよくあんだろ。別に珍しいことじゃねぇ」
「…流の力で突き止めてよ」
「そんな力ねぇよ。あと丸投げしようとすんじゃねぇ。当主なんだからしっかりしろよ」
「…守り神パワーも使えないね」
「んだと!?」
尻尾を膨らませてバシンと床に叩きつけ怒りをあらわにしている流をスルーしてカフェラテを一口飲む。 スティックタイプだからあまり期待してはいなかったがそこそこ美味しい。今度箱買いしようかな。
「…林たちに聞いてみるか」
「やめとけ。アイツらに突き止められるような知能はねぇよ」
「…流にだってないじゃん」
「はぁ!?んなこと言うならお前の飯とおやつ食っちまうぞ?」
「…食事のことしか考えられないのどうにかしたら?」
さっさとスマホのロックを解除してアプリを開く。 オカルトサークル☆(4)と書かれたグループチャットに文章を打ち込んでいった。
沖嗣: ヒサメノマチの外の町で、花と水がある場所ってどこだと思う?親戚が昔行ったけど思い出せないんだって
神戸の勤めは話していないため麗ちゃんのことは正直に書くことができず親戚とした。
1分も経たずに返信を知らせる音が鳴る。
陸: 植物園か博物館だな。この街の外じゃその2箇所以外で植物は見ることができない
ベルナ: 他には何かヒントになる特徴ないの?
沖嗣: 近くにパン屋さんがあるらしい。壁も看板も透明の
ベルナ: それ多分カキツバタ市じゃないかな。たしか近くに個人経営の有名なベーカリー屋さんあったはず
そう書かれた文章とともに写真が2枚送られてきた。
麗ちゃんの言ったとおりどんな理屈なのかわからないが一見すると壁なんてないのではと思う建物。宙に浮いた文字と丸見えの中の様子からパン屋なのがわかる。
カキツバタ市と検索をかけてみるといくつかヒットしたからそのうち一つを開いてみる。
どうやらカキツバタ市はここからバスを乗り継いで2時間かかる場所にあるそうで、夕方になってしまうけど今から行くこともできる距離だった。
「おにいちゃんとながれくんなにやってるの?」
起きたら僕たちが見当たらず探しに来た麗ちゃんにスマホを突き出して先ほど送られてきたパン屋を見せた。
「…ここってお家の近く?」
写真を見た瞬間目を潤ませる。
この家に来てから一度も泣くことのなかった少女はずっと不安を押し込めて気丈に振舞っていたのだろう。
…遅くなってごめんね。
「ここのよこをまがるとわたしのおうちがあるの」
嗚咽しながら指で足湯を指し右へと動かす。次にベーカリー!と看板のついたパン屋さんを指差して泣き笑いを浮かべた。
「ここでおつかいしたの。かえったらままもぱぱもすごいねってあたまをなでてくれた」
「…今から準備してお家行く?」
「ううん。ないたってわかったらままもぱぱもしんぱいしちゃうからあしたいく」
「…心配はするかもしれないけど会えて嬉しいって言ってくれるんじゃないかな」
「やっぱりいく」
そう言った麗ちゃんはゴシゴシと涙を拭って母親のお腹の中にいる弟になんて声をかけてあげようかと口に出して考えている。
喜怒哀楽がコロコロ変わる子供っぽさに微笑んで僕は支度を始めた。
一歩小路にでると道路を挟んだ反対の歩道のツアー客が歩いていた。観光客の多い時期、移動に時間がかかるかも。
「…麗ちゃん忘れ物ない?」
「ないよ!」
「おい沖嗣。アイツらに礼言ったのか?」
「…あ、まだ」
「ったく!ちゃんとしろよ。せっかくできた少ねぇ友だろ」
「…少ないは余計」
「本当のことだろうが」
しっかり戸締りをしてから僕はスマホのキーボードを指でタップして送信マークを押した。
いつものように肩に乗った流がスキップをする麗ちゃんに転ばないように注意しろと言う。
沖嗣: 小野寺の言ってたとこだった。協力してくれてありがと




