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19 迷子の少女と家探し

 家に帰ってきてすぐに寝たいところだがここはグッと我慢だと目に力を入れて冷蔵庫から果汁100%の白桃ジュースを持ってきてグラスに注いだ。


 洋館部分の椅子に座ってキョロキョロ家の中を見渡す麗ちゃんの前に置くと、恐る恐る手を伸ばし一口飲んで、飲めることがわかった途端一気に飲み干し幼い顔を綻ばせる。

 …お気に召してくれたようでなにより。


「おいしい!おかわりしてもいい?」

「…勿論。お菓子もあるよ」


 目を大きく見開いて食べたいと訴えるその様子が微笑ましくて口元が緩んだ。



 テーブルがお菓子で山積みになり一通り満喫した後。


「…麗ちゃんは何がやりたい?」


 問いかけると途端に俯き寂しそうにする。


「わたし、ぱぱとままにあいたい。あとおとうとにも」


 …それがこの子の望みか。もうこちらの人には戻れないとはいえこんな小さな子が地縛霊候補になる程家族への想いを募らせるとは。


「おとうとはね、まだままのおなかのなかにいるの。あうのすっごくたのしみなの」

「…じゃあ麗ちゃんはお姉さんなんだね」

「そうだよ!わたしおねいさんなの!」


 先ほどの悲しさをポッと忘れたように今度は無邪気な笑顔で胸を張った。


 …あちらの人にならずに家族と一緒にいられたら弟を抱きしめることも両親から抱きしめられることもできたのに。

 気を抜くと涙が溢れてしまいそうでグッと目元に力を込めた。


 数回瞬きをして潤んだ目を落ち着かせると一点をじっと凝視する麗ちゃんがいた。

 その先には金戸のエゾテンが。


「…どうしたの?」

「あのこはなでてもおこらない?」

「…怒らないよ。でも強く掴んだら痛くて泣いちゃうから優しくしてあげてね」

「オレは泣かねぇぞ!」


 麗ちゃんは流の大きな声に驚いたのだろう、両手で耳を塞ぎぎゅっと目を瞑る。


「ごめんね。おこらないで」


 せっかく心を開いてくれたのに怖がらせてどうするんだ。僕は流を思い切り睨みつけた。


「わ、悪ぃ。オレは声がデカいだけで怒ってねぇからそんな顔すんなよ」


 お、声が大きいことを認めた。


「もっとちいさいこえではなさないとおともだちからこわがられちゃうよ?」

「お、おう、そうだな。気をつける」


 小さな子供から注意されて反論できない押され気味の流が珍しい。いつも横暴な流でも子供相手には強く出れないようだ。


「…ふっ。…フフフ」


 その貴重な光景に笑いが込み上げてくる。ダメだ、堪えようとしたが収まらない。ツボに入ったかも。


 子供の前で怒鳴るのはいけないといつものように突っかかってこそこないが、目を細めて尻尾を振って不快だと主張してくる流。


「おにいちゃんだいじょうぶ?ぐあいわるいの?」

「…違うよ、大丈夫」

「コイツはちょっと変わってんだ。気にすんな」

「おともだちにわるぐちいったらだめなんだよ」

「…あはははっ」


 こちらを巻き込もうとして更に注意されているのが可笑しくて我慢できなかった笑い声が広い家の中に響く。

 …この家でこんなに笑ったのはいつぶりだろうか。大じいちゃんがいた時ですら年に数回しか笑ったことはないから、本当に久しぶりかも。



 麗ちゃんにお友達と仲良くする方法を説かれて流は長い体を丸めてしょんぼりしている姿は哀れで可笑しい。珍しすぎる光景に写真を撮りたいところだけど、麗ちゃんの姿も流の姿も映らないのが残念だ。



◇◇◇


 少しして。お説教が済みお腹が減ったのか、お菓子を食べる麗ちゃんはすっかりご機嫌に戻っていた。


「いつままたちにあえる?」

「…うーん。…お家が何処にあるかわかる?」

「まよっちゃってあのおうち(金木犀館)でやすんでたからわかんない。」


 案内してもらおうかとも考えたがこれでは無理そうだ。せめて家の近くまで割り出せたらいいのだが。


「…お家の近くには何があったかわかる?」

「うん!わかるよ。おっきいこうえんがあるの!」


 公園はこの街にいくつもある。これだけでは割り出せないのでもう少し話を聞ければわかるかな。


「…他にはなにかないかな?」

「うーんとね。おうちのまえにおはながみれるばしょがあってね、おみずがながれててそこでままと遊んだりしたよ!」


 花にプール?そんな場所はここにいくつもある。これだけの情報で絞り切るほうが大変だ。


「ふぁぁ…」


 迷子になって心細かったのが僕たちが話しかけたことで安心したのだろう。大きな欠伸をして目を擦って眠たそうにウトウトし始めた。

 早く探してあげたい気もするがもう時間も時間だし休ませてあげよう。


「…今日はもう寝ようか。明日になったら麗ちゃんのお家探してみよう」

「うん…」


 目を擦り覚束ない足取りで畳の部屋に移動して倒れるように寝落ちた。

 規則正しい寝息を聞いてから立ち上がる。



「このガキは攻撃してくる感じもねぇからオレらも寝ようぜ」

「…そうだね」


 流が足元でクワっと欠伸をした。底なしに近い体力が有り余る流でも今日は疲れたらしい。

 僕にも欠伸が移って口をふあっと開け、布団の準備をする為に寝室に向かう。



 明日はさっき麗ちゃんが話してくれたキーワードをもとに3Dマップで調べてみるか。いきなり現地に足を運ぶよりも検索をかけて麗ちゃんに確認してもらってから行ったほうが確実だしトラブルにもならないだろう。


 あとは麗ちゃんのご家族にどうやって家に行った理由を説明するか。今回の場合は最初から嘘を並べるより素直に説明するのが良いのだろうが信じてもらえなかった時の対応も考えておかないと。

 明日の予定を立てながらやや乱雑に布団を敷くと、流から適当すぎだと咎められた。



 外はもう明るい。朝日がすっかり高くまで登っていて寝られるだろうかと心配したが、布団に潜れば意外にもスッと意識が夢の中へ沈んでいった。

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