18 腹黒い2人 2
大会の為に戦力が必要なんだと同期に乞われて入部したアーチェリー部。
高校時代は親の考えで弓道を習っていたこともあり早々に大会のレギュラーメンバーとなった。楽しいが先輩や同期から日々妬みと嫉妬の目線を向けられる一方で憧れや恋愛の熱い目線を投げかけられる。そんな日々が正直苦しかった。
そんな時に不思議っ子だと学年で有名になりつつあった沖嗣と会ったんだ。
「隣いいか?」
「…ドウゾ」
「…」
「…」
「俺は林陸だ。よろしく」
「…神戸沖嗣です」
挨拶と簡単な会話をして隣に座れば無気力そうで気怠げな最低限の返事だけ返してそれから突っ伏して寝始めた。
衝撃的だった。
緩いとはいえ1年からそんな堂々と寝るのかよっていう思いとこちらにあまり興味がないその様子が新鮮だった。いつもは1人で座っても近くに人が来るしアーチェリー部の奴らと座っても根掘り葉掘り聞かれて講義どころではなかったから。
沖嗣の横は息がしやすいと気づいたのはこの時。
以降、姿を目にしたら沖嗣に話しかけに行くようになって結構話が合うことに気づき、オカルトサークルに入っていると知って俺も入ることにした。
サークルには既に小野寺もいて快く歓迎してくれた。
いい意味で緩いオカルトサークルはすぐに伸び伸びと過ごせる居場所となり、その後入ってきた八雲は少しお坊ちゃんだが悪いやつじゃなくてからかって遊んだ。
実を言うと沖嗣に声をかけた時、俺には不思議っ子だと距離を置かれる奴の隣にいれば話しかけてくる奴がいなくなるだろうという打算があった。そして隣にいる心地よさのなか過ごす時間がもっと欲しくてオカルトサークルに入った時にはメンバーが俺と沖嗣のみではないことに少しばかり残念だと感じもしたのを覚えている。
沖嗣は俺を絵に描いたような好青年だと言うが実際の俺は自分の打算で動いていることも多い人間だ。
自分でも嫌な奴だなと感じることはある。でも性格はなかなか変わりはしないんだ、良くも悪くも。
ちなみに言うと今目の前にいるベルナにはこの性格がバレている。会って早々ベルナはのんびりした口調で、
「オカルトサークルのメンバー神戸だけじゃなくてごめんね〜」
「結構いい性格してるね〜。あ、大丈夫だよ〜神戸には言わないから〜。大学のアーチェリー有望株は好奇の目にさらされるから捻くれても仕方ないよね〜。ここではのんびり過ごして〜」
と言ってきた。
嫌味ではなさそうだがこちらを的確に見抜いてきたその言葉に脱帽するとともにここでは無理に自分を繕わなくても良さそうだと感じた。その瞬間、俺の背負っていた重荷がわかりやすく消えた。
ベルナールは一見ほんわかした雰囲気を纏って懐が大きそうに見えるがとにかく観察眼が鋭い。話しかけられても相手に気づかせずに距離を置ける手腕もある。おおらかに見せかけて結構人を選んでいるのが俺と似ていて、だから性格を見抜かれたのかもしれないな。
「いや〜、林がオカルトサークルに入った時の周りの悲鳴は凄かったよね〜。林が来てくれたせいでオカルトサークルの出入り口にゴミ撒かれたり言い掛かりつけられた時はどう復讐しようかワクワクしたな〜」
過去へ飛んでいた思考が現実に戻される。ベルナールも同じように一年の頃を思い返してこちらに振ってきた。
「それは申し訳なかったと思ってる。オカルトサークルに入るのを止めてきた奴らが何かすると予想して対策とっておけばよかった」
「やだな〜しんみりしたフリして〜。本当のところはそんな事考えてなかったくせに〜」
「ははっ。3割くらいは思ってたぞ?」
「残りの7割は〜?」
「ベルナの地味に効く復讐が秀逸で先輩方には悪いが向こうの自業自得だなと思った」
「ハイ出た腹黒〜」
ケラケラ手を叩いてベルナが笑った。
「神戸も八雲も純粋だよね〜。自分たちがこんな腹黒いってわかったら幻滅されるかも〜」
「意地が悪いわけじゃないから大丈夫だろ」
「そう〜?まあ、2人は心広そうだから問題ないか〜。言うつもりはないけど〜」
「ここまで自由にできるサークルって俺らみたいなのにとっては有難いよな」
「それな〜。同期の入部届やんわり断ってこの空気感を守ってる価値あるよ〜」
「お前そんなことしてるのか」
講師にバレれば怒られるだけでは済まなそうなことしてそんな平然とした顔していられるのか。
ベルナはこの事実を知ってしまった俺も同罪だとでも言うようにニコリとメガネの奥の海色の目を意味ありげに細めた。
「まあまあ、安心して〜。過去に同じようなことして1週間構内清掃に励んだ部活あるらしいけど廃部にはされてないから〜」
「それ安心できないだろ。罰受けてるじゃないか」
「あはは〜」
ここまでくると策士というよりサイコパスだろ。もう少し光属性だと思っていたのだが俺の見立ては甘かったようだ。
先ほどから俺の表情は苦笑いしかできないのかと言うくらいに苦笑ばかり。
「これからもオカルトサークルの活動頑張ろうね〜」
そう言って圧をかけてくるベルナール。
「そうだな。廃部の危機に陥らないように活動増やすか」
「いいね〜。じゃあ夏休みにもう一回くらい集まらないかって聞いてみよ〜」
そう言ってスマホをポチポチ操作して。えいっ、という掛け声のすぐ後に俺のスマホがチャットの新規着信を知らせるバイブスに震えた。
「毎回時間帯とか気にせずに送るよな。2人は今頃寝てるぞ?」
「思い立ったら吉日って言うじゃん〜」
「マイペース」
「褒めてくれたの〜?ありがとう〜」
「お前色々すごいよ」
そう言うとベルナールはコーラをぐいっと煽り、ヘラリといつもの笑いをした。
ボゥー、ボゥー
漁に出る船の汽笛が街に目覚めを促す。もう少しすれば人々は起床し活動を開始するだろう。
「そろそろ帰るか」
「そうだね〜」
「コーラの缶、ちゃんと持って帰れよ」
「自分の家の方が遠いから林が持って帰って〜」
「はいはい」
俺は2本の缶を手に取って椅子から立ち上がった。




