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16 鈴の音と少女

「結局閉じ込められてロウソク落ちるくらいしか無かったね〜。もっとすごいの期待してたのに〜」

「体験出来たのには変わりないから充分じゃないか」


 2人のそんな会話を流しながら階段を一段ずつ降りていく。

 まだ、汗がじわりと手にこびり付いている。冷えたそれに体温を奪われていく。


「沖嗣。大丈夫か?」


 流の心配そうな様子に言葉では返事ができそうにないので頷いて返した。


「アレは厄介どころのレベルじゃあねぇ。こっちの奴ら(生者)をどうにかする(に危害を加えられる)力を持ってやがる。最近じゃあめっきり見なくなったがまだいたとはな」


 気持ちがザワザワと落ち着かなくて、安心するために流を指先で撫でると、流はいつもなら拒否するのに僕の心情を察してか大人しく撫でられている。そればかりか顔を擦り寄せてきた。


「次はどんなことしたいとかある〜?」

「まだ肝試しが終わってないのにもう次の予定か」


 小野寺ののんびりした口調と林のいつも通りの笑いに僕の強張った体は僅かながら解けてゆく。

 今日ばかりは常日頃賑やかなトップ2に内心で感謝をした。

 夏休みが明けたらお礼として高級なお菓子でもサークルに持って行こう。


「俺はもう行かないぞ…。こんなインチキサークルなんか退部してやる!」

「そんなこと言って〜。幽霊信じてるくせに〜」


 八雲の退部してやる!はこれで何度目だろう。

 最初はみんなで引き止めるのに色んな計画を立てて実行したが今では軽くあしらうのみ。本当に退部しないと分かっているから、イジりのネタにされている。


 …次は、か。


 何気なくごく自然な流れで次の約束をできる嬉しさを密かに噛み締める。


 遅ればせて、僕は小野寺が初めに言っていた次の提案をすることにした。


「…遊園地にしよう」

「ん?ああ、さっきのどこ行くかって話か」

「…そう。そしたら八雲も楽しめるでしょ」

「いいね〜。それなら東にある丹頂パーク行こうよ〜」

「ジェットコースターが最大って有名なあそこか。良いんじゃないか」


 2人は賛同してくれたが八雲はつまらなそうになんだ、と吐き捨てた。


「テーマパークなんて子供の行くとこだろ」


 さっきまでのビビりはどこへやら斜に構えた性格が顔を出す。

 まだ金木犀館の中だってこと忘れてるのかな?


「…丹頂パークのお化け屋敷に1人ずつ入って誰が最速で出てこれるか勝負するとかどう?」


 急に威張ってる八雲に少し意地悪をしようと提案してみる。

 あそこのお化け屋敷は迷路にもなっているからすぐに出てくることはできない最恐だと評判。

 さあ、どうする八雲。


「いいね〜」

「景品用意して行くか」

「俺は観覧車にでも乗って待ってる…」


 小さくなって小野寺にしがみつく姿が可笑しくて声を出して3人で笑った。



◇◇◇


 階段の踊り場を通り過ぎ、最後の一段を降り切る。各々が数を数えて降りたがみんな同じ段数だったから小野寺としてはご不満のようだった。


「今は3時半か。どうする?4時になるまでここで待つか?それともドアノブ回してみるか」

「一回まわしてみてダメだったら待つ〜」


 小野寺が錆びたドアノブに手を伸ばした。



リーン…リーン


 鈴が、鳴った。



「うわぁァァ」

「…僕のスマホだ。ちょっと待ってて」


 八雲の絶叫はスルーして土鈴の音はスマホだと誤魔化し、小走りですぐ近くの資料室に隠れる。


 土鈴をさっさと取り出しライトは流に咥えてもらう。土鈴を目の高さまで持ってきて左右に揺らすと仕事相手のいるであろう方位でまた鳴った。

 外、いや、これは…


「…この建物内にいるっぽい。…さっきの人かな」


 咥えさせたライトを空いている手に持ち懸念する。 多分流にはこれだけで伝わっただろう。

 …正直アレとは対峙したくない。


「いや、違ぇな。だがここにいるのは間違いない」


 その返答に安堵しつつ、僕は部屋を出た。

 室内でこの方位となるとこっちの廊下の突き当たりか。


 土鈴の力により流も力が増幅するようでどこにいるのか僕よりも詳細にわかるから、こうして意見を擦り合わせてなるべく早く会えるようにしている。これはさっさと神戸の勤めを終わらせたいが故だ。


 顔を出すと案の定突き当たりの廊下にさっきまではいなかったワンピース姿の小さな女の子がいた。歳は4、5歳くらいだろうか。両手で裾をギュッと握って不安気にしているのが見てとれる。


 林たちに不審がられていないかと反対を見るといなかった。

 話し声はするので、どうやら階段に座って談笑しているらしい。これは好都合。


 僕は女の子に向かって手招きをする。だが女の子は戸惑ってなかなかこっちへ来てくれない。もう一度手招いたが結果は同じ。

 …どうしようか。


 思案していると、流が声掛けをした。


「嬢ちゃん。オレたちがお前のやりたいこと叶えてやるよ。1人で心細かっただろうがもう大丈夫だ」


 叶えてやるとの物言いは横暴さが滲んでいるが全体的に安心させるような言葉。

 流ってこんなことも言えるエゾテンだったのか。

 少女は少し考えたそぶりをして、それからその小さな足でこちらへと歩んできてくれる。


「どうだ?オレのほうがガキの扱いに慣れてんだ。悔しいか?」

「…優しそうな声出してて気持ち悪かった」

「はぁ!?」


 小声でやり取りをしている間に目の前まで来ていた少女に資料室の奥を指差す。

 廊下に面した出入り口で話をしたら3人に聞かれてしまうから。


 壁際まで歩いてきたので次は警戒心を解いてもらえたらと考え、ひとまず自己紹介をする。


「…僕は沖嗣でこっちは流。君は?」

「うらら。うるわしいってかくの。ねえ、そのこがいってたのってほんとう?ほんとうにわたしのやりたいことかなえてくれるの?」

「…うん。本当だよ」


 やや舌ったらずな幼い口調で不安に瞳を揺らす少女に僕はしっかりと頷いた。


「ひとまず家に来い。そこでジュースでも飲みながら話聞かせてくれ」


 流が猫撫で声でそう言った。仕事相手を家に招くのを良しとしない流だが、さっきの人が来るのを危惧して早くここから離れた方が良いと考えているのだろう。


「うん」


 了承してくれたので僕は少女を連れて林たちの元へ戻った。

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