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12 夏といえば

 セミが羽化し番を求め、自分の存在を主張する大合唱の7月。

 山に隣接した大学のオカルトサークルではある企画が進行されようとしていた。



「はい!注目〜」


 手をパンパンと2回打ったにこやかな小野寺に僕たちの視線が集中する。

 この小野寺の満面の笑みは大抵碌でもないことを発表する場合にのみ発動するからもう今から呆れそう。


「ここで問題〜」

「…早く本題いきなよ」


 なにを言うのかと身構えていたので今日は問題形式かよと思わずツッコんでしまった。


「え〜いいじゃんか〜。では気を取り直して問題〜。夏の暑さを忘れさせるものは〜?」

「エアコンだろ」

「…アイス」

「プール」


 問題を出されるとつい本気で答える僕たち。なんだかんだでこのサークルでの活動をみんな気に入っている証拠だと思っている。

 それぞれが真剣に答えたのに、しかし小野寺は笑みを深くして腕でバツを作った。


「ブッブ〜!残念でした〜。正解は肝試し〜」


 1人大興奮でパチパチ手を叩く小野寺に乗っかって林も拍手をし始めてしまったので、まずいと僕はすかさず拍手する林の手首を掴んで静止する。


「…やめときなよ。拍手イコール賛成ってことになる」

「神戸ってそういうとこは鋭いね〜」

「…全然嬉しくないけどアリガト」


 小野寺は2人賛成したのだから肝試し決定だと上機嫌でパソコン画面をスライドし、操作し始めた。

 肝試しのワードが出た時点から一言も話さなくなって角に体をフィットさせ、縮こまった八雲が可哀想だとの考えに至ることはないのかな。


 ややしてから。小野寺はあったあったと言ってパソコンで検索した動画と数枚の写真をテーブルに移して僕たちに説明を始める。


「深夜2時半に金木犀会館に行くと午前4時になるまで出られないんだって〜」

「金木犀会館ってここから坂一本降りた廃墟だったよな?あそこは歴史的建造物なのにその時間に入れるのか?」


 林は真面目っぽい質問を投げかけてるけど乗り気なのが隠しきれておらず、いつもより瞳が煌めいている。


「入る時だけは施錠されてなかったんだって〜。そして出ようとしたら鍵は施錠されてて出られない〜」


 ブルブル震える八雲を見て小野寺の加虐心に火がついたのかそろそろと近寄っていって、唐突に両手を広げて脅かした。


「う、うわぁぁぁ」

「…やめなよ小野寺。…八雲が泣きべそかいてる」


 勘弁してやれと止める。すると小野寺は満足げ、反して八雲は僕に泣きついてきた。

 背中をトントン叩いて離れるように促したが従う余裕はないようだ。


「おい、このアクセサリー野郎引っぺがせ!オレが潰れちまう」


 八雲と僕の間に体が挟まってもがく流は適当にあしらっておこう。


「ねえねえいつ行きたい〜?明日〜?それとも明後日〜?」

「明日は俺と沖嗣2限入ってるから無理だ。明後日はアーチェリーのほうに顔出さなきゃいけないからやっぱり夏休みが良いんじゃないか?」

「…林はなんでそんなノリノリなのさ」

「楽しそうだから?」


 押しの強い小野寺と林がタッグを組むと僕たち2人に拒否権はあってないようなもんだ。僕の内心としては神戸の勤め以外で心霊に自分から首を突っ込みたくないが、諦めよう。


 あと、僕からも一つ質問をすることにした。


「…で。その閉じ込められるって話しは本当なの?」

「もちろんだよ〜」


 小野寺が答えた。しかし僕が問うた相手は違う。

 話の流れとしては自然にオカルトサークルメンバーに聞いたように見せかけて。実際には流に確かめた。


「どうやら本当みたいだぜ。話の中からその匂いが微かだがしてきやがる」


 意図はうまく伝わったようだ。

 このエゾテンは話からも真偽をそのよく効く嗅覚で確かめることができる。便利道具の一種みたいだよね。


「他に質問はないね〜?じゃあ8月の1週目の土曜日に決定〜」

「その日なら俺も予定入ってないから行ける。沖嗣は?」

「…多分いける、はず」

「相変わらずの曖昧さだな」


 林に苦笑された。

 いつ鈴が鳴るのかわからないから約束事は微妙な返事をするのがお決まりとなっている。イメージダウンやトラブルに繋がらないようにあまり親しくない人とは約束をしないようにも気をつける。

 …これもぼっちとなった原因の一つ。


「お、おれは行かない。ぜぜ絶対に行かないからな!」


 怖すぎて舌が回らない八雲からの断固拒絶は可哀想の一言に尽きる。


「みんなで行きたかったけど仕方ないね〜」

「無理するもんでもないしな」


 オカルトサークルの良さはこの強制しない緩さだろう。都合が合わない、行きたくないなどには広い度量を見せる。

 しかし決して計画が頓挫することはない。


「それじゃあ〜決定で解散〜!」


 鶴の一声によりオカルトサークルの今日の活動は終了した。




◇◇◇


 いよいよ明日となった肝試しに向けて僕はバッグに小型の懐中電灯を雑に投げ入れた。


「非常食も入れとけ。本気で閉じ込められたらまずいぞ」


 カルパスの袋を咥えてとてとてバッグに近寄ってこちらを見上げてくる流。


「…非常食っていうかおやつじゃん。…遠足じゃないんだけど」

「ないよりあった方がいいだろ。あと水と雨具と金も必要だな」

「…重たくなるからそんな持たないよ」


 どうやら流は僕の小さい時を思い出して遠足気分が抜けないようだ。いるいらないを繰り返し、押し退けては近寄られてを繰り返す様はボール遊びをする飼い主と犬の図。

 これがペットだったらこの自己中さも大目に見れたかもしれない。


「沖嗣またよからぬこと考えやがったな?」

「…勘良すぎ」


 そうこうしているうちに時計はカチリと時刻を刻んだ。

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