第58話【後半】 灰翼の都セレスティア奪還作戦
◆空中制圧班
タイガ/フレア/レオパルド/バルド/サリヴァ/リオナ
《アステリア・ドライブ》の甲板上、風を裂く紅い閃光。
「行くぞ、フレア!」
「りょーかいっ、にぃにっ!」
黄金と灰の縞を持つ幼竜――《黎明の幼竜》フレアが飛翔する。
翼が広がるたび、灰雲が裂け、炎の流星が尾を引く。
「出たな、灰翼種! この空、通行止めだッ!!」
タイガが叫び、魔導銃を構える。
「“実況せずに戦う俺なんて、パンのないサンドイッチ!”」
サリヴァが苦笑しつつ魔導書を展開する。
「《法典詠唱コーデクス・アーキタイプ》――“重力係数、零へ”」
空間が歪み、灰獣群が一斉に浮き上がる。
その瞬間、バルドが跳び込む!
「おおおっしゃァ!! 《鍛冶戦闘融合術》、第二形態ッ!!」
飛翔槌が赤熱し、空中で打ち下ろし、かち上げされるたびに灰獣が爆光を浴び弾け飛ぶ。
続いてレオパルドが軽やかに前へ出る。
豹柄のメッシュが彩る金色の髪が舞い、唇に艶やかな笑み。
「ふふっ……あらあら、空の子たち――そんなに暴れちゃ、あたし怒っちゃうわよ♡」
足元に展開されるのは、黄金の魔法陣。
円環が幾重にも重なり、天上の楽譜のように輝きを放つ。
「《霊宝器召喚》――顕現なさいっ、《神秘の天之麻迦古弓・レプリカ》!」
ぱぁん、と空気が弾けた。
魔陣の中心から光が咲き、長大な弓が現れる――まるで天界の樹を削り出したかのような神々しさ。
弦は光の糸、矢筒には星屑が揺れる。
「さぁ、今宵の主役も――このアタシよぉ!」
レオパルドが矢をつがえ、息を吸い込む。
弦が張り詰め、黄金の音が空を震わせた。
「《天穿の煌矢》――いっくわよっ♡」
放たれた矢が閃光と化し、空を裂く。
光の尾を引きながら飛翔し、灰獣......グレイハウンド・レイスの群れを一瞬で貫いた。
――星が弾ける。
灰が光に変わり、夜空に散る。
「うふふっ やぁねぇ、まだ本気出してないのに……これじゃアタシ、惚れられちゃうじゃない♡」
レオパルドが弓をくるりと回して肩に担ぎ、ウィンク。
その仕草に、仲間たちは思わず苦笑した。
――けれど、誰もが知っていた。
彼女?のその笑みの下にあるのは、Aランク冒険者としての矜持と、“仲間を絶対に守る覚悟”だと。
リオナが灰銀の髪をなびかせ、タイガ謹製の創造銃――銃王ルガ=ヴォルガ(命名もちろんタイガ)を構える。
耳の根元の刻印が微かに輝き、灰銀の祈りが発動し、銃に吸い込まれていく。
「――“万物を喰らい、闇夜を切り裂く我が銃王”――その名は《滅曉の牙》にゃ!」
弾が放たれ、天の灰獣の頭部を正確に射貫いていく。
「......お兄にゃん......威力は最高にゃ。だけど決めセリフはめっちゃ恥ずかしいにゃ~」
そして――。
フレアが再び空を裂く。
「にぃにっ、やるのぉっ!!」
「行くぜ、フレア! 《ドーン・ブレス・リミットブレイク》!!」
黄金と紅の混じる光線が走り、灰翼の群れが一瞬で焼き払われた!
爆風を浴びながら、タイガが叫ぶ。
「――これが、俺たちTIGA GATEの“黎明モード”だッ!!」
◆セレスティア中央区
かつて“光の聖堂”と呼ばれた場所。
今は瓦礫と灰に沈み、聖なる象徴だった尖塔は、まるで祈りそのものを焼き払われたかのように折れていた。
空の中央。
そこに“心臓”がある。
脈打つ灰の球体――《灰瘴核》。
それはまるで、死した神の鼓動。
街全体が、その拍動に合わせて震えていた。
光と闇の境界で、声が響いた。
『……目覚めよ、我が記録……“灰の記憶”を継ぐ者たちよ……』
冷たく、どこか悲しげで、それでも抗えないほど深い――“何ものかの声”。
リュミナスが息を呑み、両手を胸に当てた。
灰色の光が、彼女の銀の瞳を照らす。
「……この声、波形が一致。グラウズ=ネメシスの記憶波……!」
タイガが顔を上げる。
「おいおい……まさか、お前……」
隣で、フレアの小さな体が震えていた。
虎柄の幼竜の瞳に、金と灰の光が同時に灯る。
「……あたち、しってるの……この声、“まえのあたち”の……なきごえ、なの……」
その瞬間、あたりの空気が変わった。
灰瘴核が低く唸り、崩れた聖堂がまるで呼応するように軋む。
リュミナスが前へ一歩。
揺らぐ炎の光が、彼女の髪を淡く照らした。
「なら……今度こそ、私たちが“救う”のです。あなたの記憶が、痛みのまま終わらないように――」
その言葉が届いたかのように、灰瘴核の表面がひび割れた。
中から流れ出す、紅灰の光。
次の瞬間、空が裂けた。
崩壊した聖堂の天井を突き破り、巨大な影が姿を現す。
それはかつての《灰滅竜グラウズ=ネメシス》を模した――だが、違う。
冷たい機構音。
肉ではなく鋼。
魂ではなく、創造者の狂気が流れる。
半壊した灰竜型自動防衛兵器――《リヴァイア・ネメシス》。
その目が開いた。
深淵を思わせる虚無の光が、街全体を照らす。
「――警戒、最大レベルへ!」
サリヴァが叫ぶ。
タイガが一歩前に出た。
拳を握り、口角を上げる。
「はい出たァ! ここからバトルアニメAパート終盤っ!次は新技と覚醒イベント、間違いなしッ!」
灰の風が爆ぜる。
シェリルが金色の弓を構え、ガルムの背中の刻印が赤熱する。
アークの機装が駆動音を響かせ、リュミナスが祈りの詠唱を開始。
空が紅と灰に染まり――
フレアの胸が、赤く輝いた。
「……にぃに……あたち、もう……にげないの……!」
その小さな声が震えた瞬間、胸元の紋章が、まるで心臓の鼓動に呼応するように明滅する。
光が迸り、フレアの身体から虎紋のような炎が奔る。
幼い竜の姿に、かつての“神話の記憶”が重なる。
タイガが笑う。
目の奥に宿るのは、恐れではなく誇り。
「おう、そう来なくっちゃ……なぁ、相棒!」
轟音が響き、灰瘴核の光が爆ぜた。
フレアの咆哮が夜空を貫く。
――灰の記憶が、再び“黎明”に目覚める。




