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創造魔法で異世界クラフト無双!~猫耳と聖女と鋼鉄の宴~  作者: Ciga-R


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第57話 黎明の姫騎士とスタンピードの夜


 ロスウェル・ギルド本部の片隅。


 静かな灯の中、ミルフェ=ド=ラクリームは鏡の前に立っていた。


 白い調理服の上に、領都貴族の姫騎士の正装、蒼の外套を羽織る。


 鏡に映る瞳――淡い空色が、決意の光を宿す。


 机の上には一通の封書。


 封蝋には、焼け焦げた《ラクリーム家》の紋章。


 セルジュ=ラトーナから託されたそれには、父の筆跡で短く書かれていた。


『――我が娘へ。

 この手紙を読む頃、セレスティアは炎に包まれているだろう。だが、恐れるな。街も城も、人が築いたものなら、また立て直せる。けれど、お前の心だけは……決して壊すな。民の涙を見て、甘き菓子を作りたくなるその心を、忘れるな。――それこそが、真の“騎士の誇り”だ。剣が届かぬ場所を癒やすのが、お前の戦いだ』


 手紙を握るミルフェの指先が震える。


 涙が頬を伝い、床に一滴、落ちる。


「……お父様……」


 唇を噛み、両手を胸に当てる。


 その時――背後のドアが静かに開いた。


 夜のとばりを落としたような黒髪が、淡い灯りを吸い込んでいく。


 そこに現れたのは、静寂をまとう聖女リュミナスと、銀灰の獣人拳闘士《鉄拳のガルム》


「……戻ったか、リュミナス、ガルム」


 ミーネが立ち上がる。


「セレスティアの騎士や冒険者たちが、命を賭けて救い、セルジュが連れて来た子供たちは?」


「孤児院への避難は完了したわ。……でも、放っておけない子が多かったの」


「皆、泣き止むまで、ずっと一緒にいたんだ。……悔しいが拳じゃ何もできねぇ時もある」


 ガルムが大きな腕を組み、苦く笑う。

 その手にはまだ、幼子の手を握っていた感触が残っていた。


 冷たく、軽く、けれど確かに“生きていた”。


「……そして聞いたの。セレスティアが、灰に沈んだって」


 リュミナスの声が静かに震える。


 ミルフェは頷き、涙をぬぐった。


「……セレスティアが……灰に沈んでも、まだ終わっていません。あの街で私のスイーツを食べてくれた人たちが、私を“甘さで笑顔にしてくれた”あの人たちが……まだ、生きてるかもしれない。だから――どうか、私に、“故郷を救う”機会をください」


 その声は、細くとも確かに響いた。


 その言葉に、リュミナスが微笑み、手を差し伸べる。


「あなたの祈りは、もう光になっているわ。それは甘くて、あたたかくて……人を癒やす力。――なら、一緒に行きましょう、ミルフェ。あなたの灯を、今度は私が守る」


 ミルフェは堪えきれずに涙をこぼした。


 けれど、それは悲しみの涙ではなかった。



◆出発前ブリーフィング ― ギルド司令室


 作戦卓に、地図が広げられる。


 赤く光る魔導マーカーが、東方セレスティア方面を指し示していた。


「報告によると、魔物の波はこの一日で一気に肥大化。中心は“灰瘴海”直上。……瘴気の源が目覚めてる可能性がある」


 ミーネの声は冷静だった。


「ギルマスは?」


「南門防衛に残る。都市防衛を優先するそうだ」


 そこにテンションMAXなタイガが割り込む。


「――さて諸君、今回のクエストは「セレスティア奪還作戦」灰滅系群生体VS人類代表決戦! サブタイトルはミルフェの郷土と、笑顔と甘みを取り戻せ!の回」


 バルドが呆れ顔で肩をすくめる。


「毎回思うんだが、何の実況だそれは!」


「魂のクラフト系実況だッ! ここで心折れたら、鍛冶も戦術も止まるだろ!」


「……理屈は通ってるけど熱量と言ってることがおかしい」


 すかさず、サリヴァのツッコミが入る。


 副ギルマスのミーネが額を押さえ、冷静に指示を出す。


「報告。セレスティア方面、スタンピード規模はBランク百体相当。上空には灰瘴核からの飛翔種が確認。灰竜因子反応あり」


「ほら出た、“灰竜因子”! フラグビンビンじゃねぇか!」


 タイガは作戦資料をパタンと閉じ、仲間を見渡す。


「つまりだ――俺たち、アニメでいうと三章突入+オープニング差し替えタイミングだぞ! ここで燃えなきゃ、どこで燃えるんだッ!!」


 皆が苦笑しながらも、妙に士気が上がる。


 リオナが特製創造ポーションを詰め、シェリルが弓を磨き、アークは黙々と支援物質を仕分けている。


 フレアはタイガの肩に乗り、金色の瞳をきらきらさせていた。


「にぃに、アニメって、なーに……?」


「いい質問だ、フレア。アニメってのはな、“希望のリテイク装置”だ。人間が一度ミスった運命を、次の話数でやり直せるんだよ! そしてここ大事! 夢と希望のパンドラボックスなんだよォ!!」


「……わかんないけど、かっこいいの!」


「だろッ!!」


 ミーネがせき払いをして場を戻す。


「バルド、空挺魔導機アステリア・ドライブは?」


「整備完了ッ! あとは風を掴むだけだぜェ!」


「アーク、航行支援を任せる」


「了解。ルート解析完了。気流安定、残リ三十秒」


 リオナが手を上げる。


「補給は? 非常食って、あの焼き立てクロワッサン入り?」


「もちろん♪ ミルフェ&メラニー特製、《戦うための糖分補給セット甘味詰合せVer》よ♡」


 レオパルドがそこだけ軽い口調でこたえる。


「もぅ、想像しただけでお腹が空いてきたにゃ」


 笑いが漏れる。だが緊張は消えない。


 フレアが翼を伸ばし、タイガの肩に乗る。


「にぃに……こわいけど、いっしょに行くの……」


「おう。フレアはもう仲間だ。お前の炎、盛大に貸してくれよ」


「……うんっ!」


 炎がほのかに灯る。


 その光に、皆の表情が照らされる。



◆黎明出撃 ― 空へ


 黎明の空。


 都市の高塔から浮上する銀翼の空挺魔導機アステリア・ドライブ


 甲板にはタイガたちTIGER GATEと《金の豹団》が勢揃いしていた。


 風を切り、陽が昇る。


「目標、セレスティア上空! 出撃!」


 ミーネの号令とともに機体が爆音とともに加速――


 灰色の雲を突き抜け、朝の光が差し込む。


 遠く、地平線の向こう。


 黒い波――魔獣の群れが都市を覆い尽くしていた。


 その中央には、巨大な瘴気の塔。


 空にまで届くほどの影が、ゆっくりと蠢いていた。


「……なんだ、ありゃ……!?」


「瘴気核だ。……まだ生きてる灰の残滓だな」


「にぃに、くるよ……!」


 翼を広げた幼竜の周囲で、魔力が渦巻く。


 空中に、灰色のワイバーン群が現れた。


「迎撃だッ!! 全員、戦闘配置!!」


 タイガが吠える。


 シェリルが弓を構え、サリヴァが詠唱を開始。


 リュミナスが両手を掲げ、聖光の陣を展開する。


「フレア、スイッチオンだッ!」


「りょーかいっ、にぃにっ!!」


 幼竜が跳び上がる。


 黄金の炎が翼から噴き出し、旋回――。


 空を裂くように、紅い流星が走る。


「《ドーン・ブレス》!!!」


 灼熱の光線が空を焼き、灰ワイバーンを一掃!


 爆風が渦を巻き、青空が顔を出す。


「やったぁぁぁ!! フレア、すっごーいっ!!」


「ふふっ、灰滅竜の生まれ変わり、か。さすがだな」


「にぃに! もう一回やるのっ!!」


「いけぇぇぇっ!! BGMフルテンション突入ターンだッ!!!」


 ――空に、炎が花火のように咲いた。


 黎明の光が、その翼を照らす。


 その光が、滅びかけた都の祈りを再び照らすその時まで。


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