第54話 “灰より生まれし幼竜、爆誕!”
――風が、止んだ。
灰滅竜グラウズ=ネメシスの巨体が、静かに崩れ落ちる。
黒い鱗が光の粒となって舞い、灰色の空へ吸い込まれていった。
その中心――胸の奥で、ひとつの光球が脈動している。
「……あれが、“創造の核”……」
タイガの声が震える。光に引き寄せられるように手を伸ばした。
――ドクン。
触れる直前で胸の紋章が、激しく共鳴する。
空間が反転し、白光が視界を塗りつぶす。
「っ、また精神リンク展開!? うわ、これもう完全に“ラスボスの心を救う回”じゃん!!」
「お兄にゃん、落ち着けぇ!」
リオナのツッコミも、光に呑まれていく。
「お兄にゃん、メタ発言してる場合じゃないにゃー!」
リオナが慌てて肩を掴むも、光の奔流は止まらない。
光の中、巨大な竜影が揺らめく。
その眼差しはもう、かつての滅びの色ではなかった。
『――汝、我を……赦すのか』
グラウズの声が、世界そのものを震わせる。
リュミナスが一歩前へ進む。
「赦しとは、神にのみ許された行いではありません。“生まれ変わりたい”と願う心こそ、すでに再創の祝福を受けている……」
聖なる光が、彼女の掌から溢れ、竜を包み込んだ。
『……あたたかい……この光、懐かしい……』
アークが静かに歩み出る。
「分析結果――魂核構造、再構築可能。しかし、滅びのコードを解除するには、媒介者の魂連結が必要。」
「媒介者……つまり、俺か!」
「タイガ=トラノモン。主ノ“想イ”、再生ノ鍵」
アークの瞳が淡く光り、まるで“祈る”ようにその名を告げた。
タイガが拳を握り、叫ぶ。
「だったらやるしかねぇ! 俺は――この世界で“誰かを救える”自分になりたいんだッ!!」
光が爆ぜ、竜の巨影がほどけていく。
輝く繭がふわりと開いた。
そこから――小さな何かが降りてくる。
タイガの腕の中に収まったそれは、黄金と灰の縞を持つ虎柄の幼竜。
小さな翼をぱたぱたと動かすたび、火花のような光が舞う。
「……んぅ……あったかいの……?」
小さな声が漏れる。
「しゃ、しゃべったぁぁ!?」
一同の視線が一点に集中。
リュミナスが目を見開き、厳かに呟く。
「……神々の記録に曰く――“炎は灰の中より、再び生命を灯す”と……。まさか、これがその伝承……」
「転生ドラゴン展開!? ちょっ、これ“魔王リボーン”系の神回構成だろ!? 視聴者絶対泣くやつじゃん!!」
タイガが興奮気味に叫ぶ。
「うわぁぁぁぁぁぁ! こ、こんなに! かぁいい生き物が! この世に存在していいのぉ!?」
シェリルが悲鳴のような声を上げ、秒速で距離ゼロに縮める。
「ふわふわっ! もちもちっ! ひゃぁぁっ、目がキラッキラなのっ! 完璧っ!」
「ひゃ、ひゃぅ!? ちょ、ちょっと、そんなとこ! くすぐったいのっ!」
幼竜――いや、“彼女”は小さく翼をばたつかせながら、頬を赤くして身をよじった。
「か、かわええのォ……この反応、神……!」
バルドが感動のあまりハンマーを落としそうになりながら、踏み止まり叫ぶ。
「こいつぁ武具にしたらもったいねぇ……存在そのものが芸術だァ!」
「誰もそんなこと言ってないにゃ!」
リオナの全力ツッコミが炸裂。
アークが近づき、冷静な声で解析を開始する。
「構造確認。核パターン一致率、九十九.八%。現出力二%以下。……再生体ハ安定」
「二%!? つまり……今は完全なる“もふもふ形態”ってことか!」
「言い方!」(サリヴァのツッコミがすかさず入る)
仔竜はタイガの腕の中で首を傾げた。
「……あたち、グラウズ……でも、もう“滅び”はいらないの。あたらしい炎……あたたかいの、灯したいの」
その瞳は、かつての暴威とは正反対の――限りなく優しい光を宿していた。
リュミナスがそっと頷く。
「……灰の果てに残ったものが、“希望”だなんて……やはり世界は、赦しを知っているのですね」
リュミナスの瞳が潤む。
「……貴女の罪が、光に変わる瞬間を……私は見たのですね」
その声には祈りにも似た静けさがあった。
タイガはそっと頭を撫で、笑った。
「よし、じゃあお前の名前は――フレアだ!」
「ふれあ……? フレア、なのっ?」
「そうだ。あったかくて、優しくて、みんなを照らす炎。お前にぴったりだ!」
「……フレア、がんばるの! タイにぃにと、いっしょに!」
「うおおおおっ!! しゃべり方まで破壊力フルMAX!! そしてにぃに呼びキター!!」
タイガ、悶絶。地面を転げ回る。
「まって、なにこれ、尊さで心臓止まる……!」
「お兄にゃん、しっかりしてにゃああ!!」
その時、フレアがちょこんとよろよろと立ち上がったタイガの肩に乗った。
その瞬間、タイガの全身に光が走る。
「な、なにこれ!? ステータス連動!? これは……魂共鳴発動だ!!」
「冷静に実況すんな!」(豹団総ツッコミ)
フレアがタイガの肩に飛び乗ると、光の環が二人を包む。
アークが神妙な声で補足する。
「確認。主=フレア間、共鳴安定。以後、魔力干渉ノ出力増幅、可能。――彼女八主ノ“伴星”」
「つまり……もふもふするほど強くなるってことね♡」
レオパルドが笑いながらウィンク。
「そんなシステム聞いたことないにゃ!」
みんなの笑い声が、灰の峡谷に広がった。
フレアは小さな翼をぱたぱたさせて、にこっと微笑む。
「タイにぃに、みんな、ありがとなの!」
その瞬間、空の灰雲が割れ、黎明の光が差し込んだ。
世界が――小さな炎の再誕を祝福するように。
リュミナスが空を見上げ、祈るように手を組む。
「灰の果てに生まれし炎が、世界を再び照らす……これこそ、赦しと希望の神話……夜明けは必ずきます」
タイガは空を見上げ、拳を掲げた。
「これが、“異世界創造モード:第二章・リボーン編”の幕開けだッ!!」
「第二章とかっタイトルとか叫ぶなーっ!!」
笑いと光の中、灰滅竜は――“黎明の幼竜”フレアとして再び世界を照らす。
そして、物語は新たな道へと進み始めた。




