第52話 灰滅の王 共闘、灰滅竜との激突!
灰が降りしきる空の下。
焦げた風が吹きすさび、かつて神々が罪を焼いた断層《灰滅峡谷(アッシュ=クレーター)》は、再び脈動を始めていた。
大地を這う紅蓮の筋が、まるで“竜の血脈”のように光り始める。
その中心で、封じられし神話の竜が目を覚ます。
《灰滅竜グラウズ=ネメシス》
神を名乗る創造者が、最初に作り出した“原初の炎”。
だがそれは、あまりにも純粋だった。燃やすことしか知らぬ、創造の究極。
ゆえに、創造者はそれを恐れ、封じた。
己の過ちとして、世界の底に――。
「創造主に“捨てられた炎”……それが、あなたなのですね」
リュミナスの声が、灰に染まる風へと溶ける。
返答代わりに、竜が吠えた。
黒炎が奔流となって大地を薙ぎ、岩を液状に変えていく。
だが、閃光がそれを断ち切った。
「みんな、今!」
リュミナスの祈りの杖が、黎明の光を呼ぶ。
展開された魔導陣が聖なる輪となって仲間を包み込む。
「《防御聖陣・サンクトゥス・リング》展開――詠唱完了まで、三秒!」
「三秒あれば十分だ!」
タイガが前へ。
創造魔法で製作した銃と呼ぶにはあまりに無骨な大砲のような銃口に魔力を圧縮し、構えを取る。
瞳に炎を宿し、叫ぶ。
「創造魔法――《バレット・オブ・タイガー・エンジン》!!」
魔導銃から放たれた焔弾が、空を裂き竜の片目を撃ち抜いた。
灰と血が弾け、空気が歪む。
「なにその技名と威力!?」
「……創造魔導士の創造力、恐るべし」
サリヴァは呆れながらも、戦闘データを光筆で走らせる。
彼の《法典詠唱》が淡く輝き、解析魔法が味方の行動精度を上昇させる。
轟音が響く。
バルドがハンマー《ギアクラッシュ》を担ぎ、脚で大地を踏み砕いた。
「ヒャッハー! 開いた隙間、いただきッ!」
《魂装鍛造》――魂を燃やして力へと変える職人の究極技。
赤熱する鉄塊が音を裂き、竜の頬を貫く。金属と鱗が軋み、火花が雨のように降る。
「職人魂、フルチャージ完了ォォ!!」
その一撃に、大地が震えた。
紅のマントが舞う。
レオパルドが滑るように前へ出て、唇を吊り上げる。
「いい打撃音ねぇ♡」
彼女?のユニークスキル《霊宝器召喚》が発動に輝く。
指先で虚空を弾くと、そこに“形の記憶”が生まれる。
「召喚――《紅蓮舞踏・スカーレット・ステップ》!」
紅の対の魔剣がその両手に現れ、炎をまとって迸る。
二つの異なる炎を宿す刃がワルツのように宙を踊り、竜の翼を切り裂いていく。
火焔が散り、黒炎を紅が喰らう。
「熱いわねぇ! ふふっ だけど原初の炎もあたしの特別にアツい焔は気に入ってくれたかしらぁ♡」
天地を震わす竜の咆哮。
爆発的な衝撃波が襲いかかり、地平が裂けた。
「くっ……風の加護を――《シルフィード・シェル》!」
シェリルの弓弦が光り、風の精霊が唄う。
《星詠歌》による防御旋律が、仲間を包む。
風の障壁が灰炎を弾き返し、渦を巻く嵐となって拡散させた。
「うわぁっ、ギリギリセーフ!」
「ナイスだ、エルフの射手!」
「えへへ、かわいいって言ってもいいんだよ?」
「かぁいい姉! 今はそれどころじゃないにゃあ!」
リオナが尻尾を逆立て、爪を閃かせる。
「獣王流――《獣牙閃爪陣》!」
金色の残光が幾重にも走り、竜の脚部を断ち切る。
その衝撃が、続く仲間の動きを加速させた。
「接近戦モード、起動。解析完了、弱点座標ロック」
アークの義体が変形し、重装甲モードに展開。
両腕の刃が光り、機構が唸る。
金属の咆哮のような音とともに、アークは竜の顎を迎撃!
激突の瞬間、時間が止まったかのように見えた。
火花が散り、閃光が世界を塗りつぶす。
「おおおぉぉ……! アークが竜の一撃を止めた!」
「美しい……信念と機構が融合した究極の一撃……ますます惚れるゥゥ!!!」
バルドが顔を真っ赤にして吠える。
竜が口を開き、再び黒炎を吐こうとした。
「止めてみせます!」
リュミナスが祈りを捧げ、空に十字の紋を刻む。
《黎明の祈り・ルクス・オルビス》
降り注ぐ光が黒炎を呑み込み、闇を払った。
その光はまるで、夜明けが訪れる瞬間のようだった。
「すこ……まるで、神話の一幕だ……」
タイガが息を呑む。
だが、すぐに笑った。
「わかった。お前は悪じゃない。“焼くしか知らなかった”創造主の罪の代行者なんだな。なら……俺たちが書き換えてやるよ! 新しい物語に!」
その声は、竜の怒号をも超えて響いた。
銃を掲げ、魔力を奔流に変える。
「《創造魔法・バレットコード:パラダイムリビルド!》世界を書き換えるのは、神でも原初の創造者なんかじゃない! 俺たちだッ!!」
閃光弾が放たれ、黒炎と激突する。
光と闇の奔流が空を裂き、灰滅峡谷を飲み込んだ。
「魔導式連携、全ユニット出力上昇! 攻撃魔力+二十%、防御陣安定化!」
サリヴァの声が響き、陣形が一斉に共鳴。
仲間の魔力が調律され、まるで一つの生命のように動き始める。
「分析も最高だわ、サリヴァ! さすが理性担当!」
「褒め言葉として受け取っておく」
左右からリオナとガルムが跳び出した。
黄金と灰銀の残光が交差する。
「神獣王《双牙閃影乱舞》!!」
その連撃が竜の胸を裂き、輝く血が霧のように舞う。
紅蓮の中、レオパルドが舞う。
まるで炎の戦神のように――。
「幕が上がったわよ。これが真のクライマックス♡」
リュミナスが祈りを重ね、光が彼らを包む。
「黎明の光、われらに道を――!」
七つの光が交差し、中心にタイガの創造銃が閃く。
「異世界魂、最終進化ッ!!」
灰滅竜の咆哮と、創造の光がぶつかり合う。
白光が世界を包み、音も色も、すべてが消えた。
静寂。
灰の風がやがて止み、峡谷を白い靄が覆う。
焦げた地の上に、仲間たちが立ち尽くしていた。
リュミナスの光がゆらめく。
「……まだ終わっていません。かのモノの魂が、何かを伝えたがっている」
タイガは息を整え、ゆっくりと微笑む。
「なら、聴こうじゃないか“神に見捨てられた創造物”の、本当の声を」
そして、物語は“封印の真実”へと続いていく。




